スイートポテト➁
私の頭の上に……女の子? 飛んでる?
……え?しかも……この顔……私?
『ご主人様?』
キョトンと首を傾げる女の子は……まさか。
「……ロッテ①?」
『はい!ご主人様』
元気よく頷くロッテ➀……だと……!?
私そっくりな顔……蜂蜜色のふわふわな髪で丸い瞳は赤みがかっている。
オレンジのワンピースに、白いフリフリのエプロン……。
背中には白く小さな羽が生えている。
……可愛い。可愛いよ!?
自分の容姿を褒めている様で気が引けるけど、可愛いのだ。
「どうしてそうなったの?」
意味が分からない。
【オーブンのロッテ①とスイートポテトを作ったら女の子になった】
事実はそうだけど、私が言いたいのはそうじゃない。
え?何?スイートポテトを作ったら女の子が出来るの?
だったらロッテ➁ともスイートポテトを作ったら…………?
『ええと……付喪神……というモノらしいです』
「付喪神?」
【付喪神】って長い年月を経た道具に神が……宿るんだっけ?
「ロッテ①は、まだ作られてから三~四年位しか経ってないよね。それなのになれるの?」
『はい。経験値が貯まったので進化しました』
経験値で進化……。ゲームかここは!
……って、ベースは乙女ゲームの世界だった。
「……いつ進化したの?」
『《《こう》》なったのは今ですが……経験値が貯まったので《《最近は》》何でも出来る状態ではありました』
意味深な笑みを浮かべるロッテ➀……。
……うん。大体理解した。
チートマックスになったロッテ①が……まあ、何らかの形でロッテ➁を脅したのだろう。『姉』と『妹』呼びの理由はこれだ。主従関係とも言えるかもしれない。
……ロッテ①は一番怒らせてはいけないタイプなのだろう。……気を付けよう。
「それで……どうして今、進化をしたの?」
『ご主人様がきちんと私に向き合ってくれたのが……嬉しかったのです』
「ロッテ➀……」
『ご主人の譲れない思いは分かりました。だから、私は三番目の中での一番を目指します!』
たくましいな!
…………こんな風に思ってくれる相手がいる私は……幸せだ。
私こそ何が返せるんだろう?
「ねえ……進化した事だし、名前変える?」
『嫌です』
……即答だった。
『変えるならコピーのあの子の方です。【ロッテ】は私が一番初めに付けてもらった……私の名前です!!』
……正論である。はい。ぐうの音も出ません。
すみませんでした。
ロッテ①とかロッテ➁が分かり辛くて混乱するとかは……私の都合ですよね。
目の前の小さなロッテが頬を膨らませながら怒っている。
「ごめん、ごめん」
私はその頬を指で撫でた。
すると、くすぐったそうにロッテ➀が身を捩らせた。
……良いか。
ストンと急に私の中で腑に落ちた。
今までの流れとか……今後とか……突っ込み所もあるけど……
これで良いか。そう思った。
『ご主人様。これ……食べても良いですか?』
小さなロッテ➀が指差したのはスイートポテトだ。
そうだ!
ロッテ➀が進化した事で忘れてしまっていた、焼きたてのスイートポテト!!
冷たく冷やして食べるのも美味しいが、出来たてのも美味しいのだ。
……あれ?そういえば、イモサツマを使って焼酎も造れたりする?
『……ご主人様?』
「あ、ごめん。って……ロッテ➀食べれるの?」
……ついつい、お酒の事を考えてしまった。
『はい!……というかこんな気持ちになったのは初めてなのですが……《《食べたい》》と思います』
「そっか!じゃあ、一緒に試食しようか!」
『はーい!』
付喪神が食事をするのか?とか分からないけど……ロッテ➀が食べたいというならそれで良い。
「いただきまーす」
『まーす』
ロッテが食べやすい大きさにカットしたスイートポテトを渡し、私はその残り半分を口の中に入れた。
「んー!!」
思わずカッと瞳を見開いた。
イモサツマのしっとりとした濃厚な甘みが口の中いっぱいに広がった。
パサパサしたりしていないから、口の中の水分が持って行かれる事もないし……これならどんどん食べられそうだ。
目の前のロッテ①は、シマリスの様に頬をパンパンに膨らませながらニコニコと嬉しそうに頬張っている。
「美味しい?」
『……おいひいれしゅ!』
頬張りすぎてきちんと話せないロッテ①が可愛い。
私は笑いながら、ロッテの頬に付いている食べかすを取ってあげた。
「あの……お嬢様」
視線を上げると、ノブさんがモジモジしながらこちらを見ていた。
あー……。ノブさんの存在は忘れてないよ!?
……すみません。これまたロッテ①に全てを持って行かれて忘れてました……。
「はい、どうぞ?」
罪悪感から一番大きなスイートポテトをノブさんに渡してみた。
「ありがとうございます!」
そんな私の気持ちに気付いていないノブさんは、嬉しそうにスイートポテトを食べ始めた。
「これ、うまいですね!」
モゴモゴと口元を手で覆いながらノブさんが言う。
「はい。イモサツマがとても良い仕事をしてくれてますよね!」
チラッとスイートポテトの載っているお皿を見ると、ロッテ➀がそっと小さな両手を伸ばしている所だった。
『えへへっ……』
コッソリ盗ろうとしていた所を私に見つかってしまったロッテ①は恥ずかしそうに、頬を染めながら笑った。
「ちゃんとあげるのに」
私は苦笑いを浮かべながら、残っている中で一番大きなスイートポテトをカットせずにそのままロッテ①にあげた。
『ありがとうございます!!』
ロッテ➀は直ぐに、自分の身体位ありそうなスイートポテトを両手に抱えながら食べ始めた。
確かに、これは何個でも食べたくなる。
多めに作ったけど、あっという間になくなりそうだ……。
「あー!お姉ちゃま達、なにか食べてるー!!」
「良いなぁー!」
厨房のドアの隙間からキラキラ光る小さな瞳がこちらを見ていた。
私の双子の弟妹キースとエリナだ。
……見つかってしまった。これでこのスイートポテトは無くなるだろう。
まあ、また作れば良いのだ。
「いらっしゃい」
私は笑いながら二人を手招きした。
「なにを作ったの?」
「おいしそう!これなに?」
元気いっぱいの双子がいっぺんに尋ねてくる。
「これはね、【スイートポテト】と言うのよ。イモサツマを作ったお菓子よ」
「へー!食べてもいい?」
「いい?」
「勿論よ。喉に詰まったりしたら大変だから、ゆっくり食べなさいね」
「「はーい」」
ピョンピョンと跳ねる双子の頭を撫でながら私は大きく頷いた。
……言葉遣いが違う?
いえいえ、これが標準装備です。
双子達には尊敬される姉でいたいのです!!
「ねえ、お姉ちゃま。お姉ちゃまにそっくりなこの女の子はだあれ?」
おしゃまなエリナがロッテ①を指差した。
……どうしよう。ロッテ①の事を聞かれた時の対応を考えていなかった。
「ええと……それは……ね?」
しどろもどろになる私を余所に、賢いキースがボソッと呟いた。
「……ロッテ?」
「え?」
「だって、ロッテの魔力の流れ方と同じなんだもん」
「キースは……魔力の流れが見えるの?」
「うん。お兄様に教えてもらったから」
……三歳なのに!?と思わない事もないが……私達兄妹の弟妹だ。
「そ、そう」
「うん。それで、ロッテだよね?」
『そうですよ。よろしくお願いします』
ロッテ①はキースの頬にキスをした。
「あー!エリナにもー!」
『はい。よろしくお願いします』
同じ様にエリナにもキスをしてくれた。
「ごめんね。ありがとう」
『いえいえ、ご主人様の大切なご弟妹ですから』
私の視線の高さに戻って来たロッテ①にそっとお礼を言うと、微笑み返された。
「そういえば、このロッテ①の本体はどうなるの?」
『今まで通りに使えますよ』
「そうなの?」
『はい。私が中に戻る事も出来ますし、仮に私がこの場にいなくても使えます。繋がってますから』
「へえー!凄いね!」
『だから……付いて行きますよ?』
「…………どこに?」
『勿論、学院へです!』
「そ、そっか……」
……うん! 益々賑やかな学院生活になりそうだ!!(現実逃避中)
「お姉ちゃま、ロッテー。早くしないと無くなっちゃうよ?」
え?……もう!?
スイートポテトの方を見れば、双子やノブさんの他に料理人のスケさんやカクさん、数人の侍女の皆が《《ギラギラ》》とした眼差しをスイートポテトに向けていた。
鷹だ……!!獲物を狙う鷹の目をしている!!
……まあ、また作れば良いのだ(涙)
諸々を諦めた私は皆にスイートポテトを配った。
嬉しそうな顔をしてくれているから……良いか。
そう思いながら。
***
後日……。
「ねえ、ロッテ➁。名前変えない?」
試しに尋ねてみた所……
『イイデスヨ』
即答だった。
「え?……本当に良いの?」
『ハイ。【ロッテ】ハ、オリジナルノ名前デスシ、ゴ主人様ガ新シク考エテクレルナラソレデ良イデス』
……拍子抜けしてしまった。
だが、変えても良いというなら、この際変えてしまおう。
……という事で、付喪神に進化したオリジナル【ロッテ】と、そのコピーで元ロッテ➁は【シャーリー】となった。
元ロッテ➁も私の愛称から取ったという事で喜んでくれた。
良かった。良かった。
ロッテが付喪神になった事に関しては『ズルイ!!私モ絶対二ナル!!』
との事だった……。頑張れ!
さて、これでこの問題は終了かな!?
それならばお酒造りの再開だ!!