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ライス島➁

どこを見てもモフモフ……。

ここは天国か!!!


……おっと、一旦落ち着け。私。


ライス島にある唯一の村の『ライス村』は、船着き場から歩いて三十分位の場所にあった。


島はどこもかしこも、のどかな田園風景が広がっていて、温暖な気候のこの島では一年中『米』の栽培が出来るのだそうだ。

現に一月だというのに稲穂が黄色くなっている。これはもう少しで収穫が出来るだろう。

海に囲まれた場所でありながら塩害も無く……寧ろ、潮風は米造りになくてはならないのだそうだ。


この整った条件下で造られたお米はどんなに人気がある事かと思えば……サイラスが難色を示していた様に、島の外の人達には不評だそうで、専らライス島のウサギ獣人達の主食用と、家畜の餌に当てられて終わりらしい。


……何て勿体の無い!!


早速ではあるが、ウルチさんに米の備蓄を見せて欲しいとお願いすると……

『全然OKマイ~!幾らでも持ってってマイ~!』と両手で大きな丸印をくれた。


案内された倉庫の中はとても広く清潔に管理をされていた。ネズミなんて勿論いない。


「凄い……!」

うず高く積まれた米俵の量に圧巻された私は感嘆の声を上げた。


「私達の主食にもなる物ですし、領主様が綺麗な状態を保持する為の魔石をくれたのですマイ~」

そう教えてくれたのは、ウルチさんのお孫さんのコマチさんだ。


オレンジ色のワンピースが可愛い。

この愛らしい見た目からは分かりにくいが、シャルロッテより年上の十八歳だそうだ。

何かと忙しいウルチさんに代わって案内を引き受けてくれたのだ。

サイラスはウルチさんの所に。お兄様とリカルド様が私と一緒にいる。


因みに、コマチさんに聞いて分かったが、ウルチさんに限らずここのウサギ獣人さん達は語尾に『マイ~』が付く。そういう種族なのだとか。


更に因みに、コマチさんには産まれたばかりの妹がいるそうで、名前は『ヒカリ』ちゃんと言うそうだが……。

『ウルチ』米……秋田『コマチ』さん、コシ『ヒカリ』ちゃん……。

……うん。イイネ!! 凄くイイ!!


「試食してみますかマイ~?」

「お願いします!」

コマチさんの提案に食い気味で答えると、私の迫力に驚いたのかコマチさんが一瞬だけキョトンとした。


っ……可愛い!!

身悶えそうになる理性をどうにか保ってると、誰かが私の左肩に触れた。


「すみません。妹は米が楽しみで仕方がない様なのです」

そう言って私の左横に並んだのはお兄様だ。


私の肩に乗っている手はお兄様のものだった。

……つまりは『落ち着け』と、いう意味だ。

はい。すみません……。


「あ、お気になさらずにマイ~。そんなに米に興味を持ってもらえるだなんて思わなくて驚いただけなのですマイ~」

コマチさんは、はにかんだ。


そして、コマチさんはどこからか筒状の棒の様な物を取り出すと、米俵の一つにそれをブスリと差し込んだ。

コマチさんが持っていたのは恐らく『米刺し』と呼ばれる道具に近いものだろう。


日本では主にお米の点検の時に使われる物で、筒状の上部分は開いていて、それを引き抜くと特殊な形状をしたその中にお米の粒が入って戻ってくるのだ。

先の尖ったやたらと細長いスプーンの様な物とでも思ってもらえたら良いだろう。


「これがうちの島の米ですマイ~」

コマチさんが引き抜いた米刺しを、私達が良く見える様に向けてくれる。


「これが米ですか」

「一つ一つがこんなに小さな粒なのですね」

お兄様とリカルド様はまじまじとお米に見入っている。勿論、私もだが……。


ライス島のお米は、タイ米の様な細長い粒ではなく、和泉が馴染みのある日本のお米の様な形の粒だった。

サイラスが『粒が茶色』と言っていたのは……これが玄米の状態だからだろう。

ここでは玄米のままで食しているのだ。


玄米は栄養が豊富で美味しいのだが、一皮剥けば綺麗な白米になる……!!

茶碗いっぱいのご飯を想像すると、はしたないが涎が出そうになった。


後は……サイラスが言っていたのは『芯が残っている』だったか?

島の皆さんは玄米の美味しい炊き方が分からないのだろう。


どんな風に炊いているのかを尋ねようと顔を上げると……

「どうぞ、食べて見て下さいマイ~」

コマチさんがニッコリと笑った。


………へ?

キョトンである。

私は今、鳩が豆鉄砲をくらったかの様な表情をしているに違いない。


「……このままですか?」

「はい。美味しいですマイ~」

「……本当に?」

「本当ですマイ~」

コマチさんは笑顔のままで、ズイッと私達の前に横にした米刺しを近付けて来る。

その笑顔に嘘は感じられない。


……という事はマジですか……。


「栄養満点で食感が良いのですマイ~」


まさかの生米!!


色々と突っ込みたい所はあるが……。

現地の食べ方を食べない内に否定する事は出来ないし、私達貴族が一番やってはいけない行為だ。


「いただきます……」

私は米刺しから三粒ほど取って、それを口の中に入れた。

私の様子を見ていたお兄様とリカルド様も戸惑いながら、私の行動に習って玄米の粒を口に入れた。


もしかしたらこれが新しく美味しい食べ方なのかもしれない……!!



……ガリ…ガリッ。


……はい。普通に生米の味でした。

期待を込めて食してみたが、そのまんまの生米です。

芯はバリバリ残ってます。

というか芯しかない……?!


この食感が好きなコマチさん達には悪いが、私には無理だ……。

炊きたてのご飯が食べたい。


「……これは食感が良いですね」

若干疲れた様な笑顔で感想を言うお兄様。


無難な感想である。

寧ろ……それしか言えないよね。

私も笑顔を作って大きく頷いた。


しかし、リカルド様は少し違う様だ。

「この食感は新しいですね!!」

含みのない笑顔をニコニコと浮かべている。


「はい。噛んでると甘味を感じますマイ~」

「あ、本当ですね!」

瞳を丸くするリカルド様。


……胸がモヤモヤする。

獣人達にしか分かり合えない壁というものを感じた気がする。


ズルい……羨ましい……。

私の方がリカルド様の事を分かっているのに……!

ドス黒い感情がジワジワと高まって行くのが分かる。


……そう。これは紛れもなく『()()』である。

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