ライス島➀
船に乗ってから一日。
予定通りの日程でライス島に到着した。
思ったよりも快適で全然苦にならなかったから、また機会を見てお忍びで来ても良いなーって簡単に思ってた。そう。船を降りるまでは……。
「っ……!!?」
歓喜の叫び声を上げそうになった口元をとっさに私は押さえた。
偉い。良くやった!!
「領主様のお孫様ご一行様。ようこそお越し下さいましたマイ~!」
私達を出迎えてくれたのは、ライス島のライス村の村長のウルチさん。この島の最年長だそうだ。
その他にもお出迎えとして島の皆さんが集まってくれたのだが……。
何だここは!!天国か?!
こんな場所があるなんで……!
毎日通う!いや、いっそのこと永住する!!
ピンと長く伸びた耳に、つぶらな丸い瞳。
ひくひくと動く小さなお鼻、モフモフの身体……。
まるでピーター〇ビットの世界に入り込んだかの様な…………モフモフ天国がここにあったのだ。
ライス島はウサギ獣人の島らしい。
そう。モ・フ・モ・フ・だ。
モフモフ……モフモフ……モフモフ。
大事な事なので何回も繰り返してますよー。
ああ……『モフモフ』。
良い響きだ……。癒やされる……。
モフモフは正義!!モフモフ万歳!!
モフモフは永遠に不滅だ!!
「シャル。落ち着きなよ」
お兄様にポンと両肩を押さえられた。
……はっ?!
私は今まで何を……。
「ほら。ちゃんと挨拶しないと」
苦笑いを浮かべたお兄様にそっと耳打ちされた私は、令嬢スマイルを浮かべながら挨拶をした。
「皆さん、初めまして。私はシャルロッテ・アヴィと申します。ここの島に来られて……幸せです!是非、皆さんをモフモ……コホン。仲良くして頂けたら嬉しいです」
島のみんなが一瞬キョトンとしたが、笑顔で誤魔化す。
令嬢スマイルは万能です!!
ほあ……危ない、危ない。
思わず本音が出るところだった。
初対面で『モフモフさせて下さい』なんて言ったら引かれてしまうではないか。
「ライス島は皆さんを歓迎するマイ~。何も無い所ですが、ゆっくりしていって下さいマイ~」
さっきから村長さんの語尾が気になっていたが……マイ~』って……もしかして『米』?
か、可愛すぎるだろうー!!
ライス島に来たマイ~!!
なんちゃって。えへっ。
「シャルロッテ。にやけすぎ」
村長のウルチさんに案内されながら歩いていると、隣を歩いていたお兄様が私を覗き込む様に見ていた。
サイラスは、村長さんと話しながら先頭を歩いている。
「へっ?!」
「シャルロッテはホントにモフモフが好きだよね」
苦笑いを通り越した呆れ顔のお兄様が私の頬をつつく。
「リカルド。君も何か言ったら?ほっといたらシャルロッテはウサギ獣人と浮気するかもよ?」
……浮気?!
私はリカルド様一筋です!!
「シャルロッテは大丈夫だよ」
そう言って微笑むリカルド様。
何やら背後に黒いものを感じるが……うん。それは気のせいだろう……私は気付かなかった!!
「勿論です!」
私はギュッとリカルド様の腕にしがみ付いた。
「僕はシャルロッテの……獣人でも当たり前の様に受け入れてくれる所が好きだから」
「ふーん?随分と心が広いね」
「いや。僕の心は広くない」
リカルド様はフッとお兄様から視線を外すと……
「シャルロッテがモフモフ好きなのは理解しているよ。だから子供相手なら許してあげるけど、成人の男には触らないで欲しいな。良い?」
私の瞳を見つめながらニッコリと微笑んだ。
「ありがとうございます!」
私はリカルド様の肩口に頬を擦り寄せた。
やった~! 子ウサギさんに触れる!!
「リカルドから黒いものがだだ漏れしてるけど良いの?」
……分かっています。
敢えて気付かないフリをしているのだから、そっとしておいて欲しい。
愛するリカルド様の為ならば、『他のモフモフは触りません!!』って言うのが一番なのだけど……。
……多分、無理だもん。
というか絶対無理!!無意識に触ってしまうだろう。
モフモフは心の癒しです!!
「……僕の尻尾触る?」
「はい!喜んで!!」
でもね。
私はリカルド様のモフモフが一番好きなんだ。
私は、腕に絡んで来たリカルド様の尻尾を至福の気持ちで撫でた。
婚約者だからいやらしくないよ?!




