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さあ、最期の時間です➄

「逃がさないよ?」

彼方をそっと離した私は、床に置いていた瓶を持ち上げた。


シモーネは瓶を見つめたまま、ガタガタと震え出した。また瓶に閉じ込められると気付いたからだろう。

未だに立ち上がる事が出来ないほどに弱った足腰を叱咤ながら必死で逃げようとしてはいるが、それでも思うように身体は動かず、近くにいた神➁を盾にしようとする。

盾にされた神➁もまた逃げようとするが……シモーネと同じ様に身体が動かないのかその場から動けずにいる。そんな神➁はせめてもの抵抗とばかりに、その手にはしっかりとシモーネの服を握っている。


「は、離せ!!」

「離したら自分だけ逃げるつもりだろう!?」

「俺達はあんたの言う事を聞いただけだろう!巻き込むなよ!」

「そうだ!責任を取れ!」

「お、俺は死にたくないー!!」

「う、うるさい、うるさい!」


自分が助かる事ばかりを考えている、シモーネや神達は勝手に言い争いを始めた。


……滑稽な。

私は瞳を細めながら、その様子をただ黙って見ていた。

同情の余地は全く無い。まあ、するつもりもないけどね。

……もう良いだろう。視界に入れるのもそろそろ限界だ。うんざりなのだ。


「『シモーネ』」

私はシモーネの名前を呼びながら瓶を掲げた。


「や、止めろぉおーー!!!」

絶望に満ちたシモーネの叫び声は、あっという間に瓶の中に吸い込まれた。


瓶の中に閉じ込められたシモーネは、内側からバンバンと瓶を叩き続けている。

勿論、そんな事をしても壊れるわけはない。抵抗するだけ無駄だ。


彼方と私の恨み……そしてお前が今まで軽んじていた者達全ての恨みを永遠に思い知れ。


瓶に魔力を込めようとして掲げた手をリカルド様に掴まれた。


「……リカルド様?」

「君だけにそんな事はさせないよ」

首を傾げる私の手に自分の指を絡めながらリカルド様が微笑んだ。


「こんなの一人で負う必要ないよ」

「そうだよ!これは私の復讐でもあるんだから!和泉さんだけに絶対負わせたりしないんだから!」

お兄様は笑いながらリカルド様の手に自分の手を重ね、ごしごしと涙を拭った彼方もまた自らの手をその上に重ねた。


「そうだ。皆一緒だぞ」

「私の同族のせいで……本当にごめんなさい」

クリス様とセイレーヌ。ミラ、金糸雀、サイ。そして、子供の姿になっていたクラウンも次々に手を重ねて行く……


「あれ?クラウンいたっけ?」

「いたよ!!ずっと!!」

首を傾げる私に、涙声のクラウンが叫ぶ。


「ふふっ。冗談だよ。……冗談じゃないけど」

「だったら良いけど……って良くないわ!冗談じゃないのかよ!?」


ははは。

クラウンをからかったら少し気が紛れた。

……いつの間にか私は、自分の復讐心に飲み込まれかけていたらしい。

一番忘れてはいけない事を忘れかけていたのだ。

私は一人ではない……信頼出来る仲間がいる。その事を……。


「では。セイレーヌの力を借ります」

ゆっくりと瞳を閉じて、自分の魔力と借りているセイレーヌの力を同調させていく。


セイレーヌの力はこの時の為に温存させておいた。流石にチート持ちの私だけの力ではこの先の行為は難しかったからだ。


セイレーヌの力に同調し始めると、みんなの魔力がそれぞれの色となり頭の中で鮮明に感じ取る事が出来た。そんな、みんなの魔力を少しずつ合わせて、八色の虹色に魔力を練り上げてから、瓶の中に向かって一気に魔力を解き放つ。

魔力を解き放ったと同時に辺りは目映い光に包まれ…………



光が消えた後に残されていたのは、手の平サイズの『砂時計』が一つ。


砂時計の内部には赤色のサラサラとした砂が入っており、時間が経つと自動で上下がひっくり返る。


上部に溜まっていた砂の粒はどんどん下に落ちて行き……後少しで砂が落ち切るという所で、残りの砂と一緒に一匹の小さな蟻が下に溜まる砂の上にポンと落ちた。


小さな蟻が落ちた砂の中央がみるみる内に下へ窪んで行く。

砂の中央が窪んで底が見えそうになった時。牙の鋭い黒い虫の様な生物が大きな口を開けて獲物を待ち構えているのが見えた。

蟻は逃れようともがくが……抵抗も虚しくサラサラとした砂にまみれながらどんどん落ちて行く。

そうして遂に……………。


その一連の流れを私は表情を変える事なく見ていた。


これで終わりではない。

この狭い世界で最弱な存在に成り果てた蟻……シモーネは、圧倒的な強者である蟻地獄によって叫び声を上げる事も出来ないままに()()()()()()()のだ。


そして、魔力を練って砂時計の中に一輪の花を作って入れた。


「彼岸花……だったかしら? 何か意味があるの?」

金糸雀が首を傾げる。


「うん。この花の花言葉の中には《転生》というものがあるの」

私が瞳を細めるのと同時に、砂時計がひっくり返った。

サラサラと砂がゆっくり落ちて行き、また最後の方に蟻が落ちて来た。


(シモーネ)はこれからずっと、()()()()()()()()という転生を繰り返す。


因みに、彼岸花には毒があるから、今のシモーネのサイズならば彼岸花を食べて服毒自殺する事だって可能だ。まあ、気が付けば……だが。


ただ、そうして自ら死を選んでも状況は何も変わらない。……楽に死ねると思うな。

何度だって今までの記憶を全て残したままに生まれ変わる。

死が救いになんて絶対にさせない。……生きる事も死ぬ事も未来永劫許さない。


「さようなら」

私はニッコリと笑った。


これが私の選択した復讐が…………


「お前達!!し、シモーネ様を元に戻せ!」

「こいつがどうなっても良いのか!!」

「「「そ、そうだぞ!」」」

……こいつらもつくづく救えない奴らだ。

さっきまで仲間割れしていたくせに……。


すっかり腑抜けになっていたはずの神➀~➃が、悪い顔でクラウンを羽交い締めにしている。

クラウンは子供の姿をしているから、人質にでも取ったつもりなのだろう。



シモーネとは違って神➀~神➃はある程度、精神的にも肉体的にも痛め付けた後は、セイレーヌに任せて放置しようかと思っていたのだが……。

あんな酷い目に合わせたのに何も変わらない。



はあ……。

私は大きな溜め息を吐いた後にクラウンを見た。

子供の姿だと思って油断したな。


「クラウン」

呼び掛けると、大きく頷いたクラウンは擬態を解いて道化の鏡の姿に戻った。


「な……!?子供が……鏡に?!まさかコイツは……!!」

狼狽え出す神➀。


残念ながらこんな事態は想定済みだ。

私は、シモーネも神達も誰一人として信用なんてしていなかったのだから。



「クラウン。やっちゃって」

「イエッサー!」

私の合図を受けたクラウンがユラッと鏡の部分を黒く染めると、神➀~➃は叫び声を上げる暇もなく、あっという間に鏡の中へ飲み込まれて消えて行った。


行き先は無限回路。

先の見えない真っ暗な空間で、仲間割れでもしながら永遠にさ迷うが良い。



……さて。

今度こそ終わり……かな。


後はアーロンを起こすだけ。

なのだが……ちょっと疲れてしまった。


「……セイレーヌ。ごめん、アーロンを起こすのは少し後でも良いかな?」

「ええ、勿論よ。疲れたでしょう……。シモーネ達もいなくなった今ならアーロンは大丈夫」

セイレーヌは労るような微笑みを浮かべながら私を抱き締めた後、表情を消して砂時計を手に取った。


「この砂時計は私が預かるわ。決して誰にも触れられない場所に封印する。……それでも良いかしら?」


私はセイレーヌに対して異論はないが……。

彼方やお兄様達を振り返ると、みんなは大きく頷き返してくれた。


宇宙空間にでも放り出そうと思ったが、セイレーヌが封印してしっかり管理してくれるならその方が安心だ。


「よろしくお願いします」

深く頭を下げた。



終わった……。

安心して気が抜けそうにもなるが……どんなに理不尽でも、復讐し返される可能性がある事は心に留めておかなくてはいけない。

私達は……私はそういう選択をした。復讐のループに足を踏み入れてしまったのだ。

この事は誰にも告げるつもりはない。特に彼方には……。




「よーし!一件落着だー!!」

私はニッコリと()()()笑った。


()()何も気付いていない……。

()()いつも通りに明るくて……突拍子も無い事をする……()()()()()()……なのだから!


「一度学院に戻ってから、みんなでアヴィ邸に帰ろう!」


明日から冬休みだから、久し振りにゆっくり出来る。


彼方とこれからの事をたくさん話そう。

アーロンを起こした後はどうするか。

元の世界に帰るのか?

このままこの世界で生きるのか?


考える事はいくらでもある。


だけど、十六歳になった私は取り敢えず……念願のお酒をみんなで楽しく飲む事にするのだっ!!

ラスボスを倒した感がすごいですが……本編はまだ続きます^_^;


◇2月10に『お酒のために乙女ゲー設定をぶち壊した結果、悪役令嬢がチート令嬢になりました』が、カドカワBOOKS様より発売になりました!

コミカライズの連載予定もありますので、今後ともよろしくお願い致します!

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