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さあ、最期の時間です③

「コレ?」


首を傾げる皆の前で、異空間収納バッグから取り出したのは二輪の花だ。


それは、毒々しい程の赤色に、放射状に付いた花弁が特徴の有毒性な花で、別名に『死人花』や『地獄花』等がある。

不吉や死をイメージさせるこの花の名前は……


「【彼岸花】。彼方と私が生まれ変わる前の世界ではそう呼ばれていました」


シモーネ達にはお似合いの花だと思った。


「その花をどうするの?」

金糸雀が首を傾げる。


私はニッコリと笑いながらシモーネ入りの瓶の蓋を開け、その中に一輪の彼岸花を落とした。次いで同じ様にもう一つの神①~④入りの瓶の中にも一輪の彼岸花を落とす。


瓶の中に落ちた彼岸花は、たちまちに霧散し、赤い霧となってシモーネ達を覆う。

すると、虚ろ気な表情を浮かべていたシモーネ達がスッと瞳を閉じた。


「どうなったの……かしら?」

彼等(かれら)は夢を見始めました」

金糸雀の呟きに答えたのはセイレーヌだった。


「夢?」

「ええ。彼達に相応しい夢……を」

そう言ったセイレーヌは痛まし気な表情を浮かべた。


何も知らない人から見れば、傷付けられている同胞を思っての表情とも捉えられるが……私には、このセイレーヌの表情の意味がきちんと分かっていた。決して、奴らに向けての感情ではない事を……。



先程、霧散した事からも分かる様に、あの彼岸花は普通の生花ではない。

彼方の今までの凄惨な過去と私の死に際の記憶を集結させた『記憶の欠片』である。

セイレーヌにお願いし、記憶の欠片を彼岸花に模造してもらったのだ。


因みに、彼岸花を選んだのは私の一存だ。


彼方と私の生い立ちをシモーネ達に追体験させるのだが、彼方の方はしっかりと身体的な痛みと精神的な苦痛を再現してもらってある。

和泉(わたし)の方は、死に際の恨みつらみを倍増させておいた。

それをエンドレスでループする事になる。

追体験が終わる頃には、自分が神なのか、彼方なのか、和泉なのか分からなくなっているはずだ。



******


シモーネは、ある少女として生を受けていた。

内面に自らの記憶を残したままで。



その少女の日常は平凡で退屈な日々だった。

決まった時間に起き、学校と言う場所へ向かう。勉強をしたり、友達と話したりと、毎日が同じ事の繰り返しだ。

変えようにも変わらない退屈な日常に、飽き飽きしたシモーネが別の行動を試みても、強制的に軌道修正され、また平凡な日常に戻らされた。


そんな平凡な日常は突然、呆気なくも壊れ去る。


鳴り止まない電話の呼び出し音に、家の外に詰め掛ける沢山の知らない記者達。

怒声、罵声が常に浴びせかけられた。

耳を塞いでも聞こえてくる日々……心の休まる時がなかった。

親友は真っ先に少女から距離を取り、悪口を言う様になった。

唯一の肉親である父と母は、少女を省みる事なく、簡単に娘を捨てて自分達だけそれぞれ逃げた。


残された少女は親戚をたらい回しにされ、理不尽な暴力や怒声、罵声、強姦未遂、嘲りを受け続けた。

死にたいと思っているのに、怖くて死ねない少女。



……くだらない。

どうして自分はこんなつまらない物を見せられているのだ……と、シモーネは思った。こんな少女なんてどうでも良い。嫌ならどこにだって逃げ出せば良いだけだろうに、と。


そう思った所で、次にシモーネは平凡なデパート店員の女性として生を受けた。


少女の時と同様につまらない日常。

そもそも刺激がない。

客に媚を売り、商品を買わせる。そんな面白くもない人生。唯一の楽しみはお酒と良く分からないゲーム。

出てくるのは男だけ。何がそんなに面白いのか。

まあ、酒は良い。旨いからな。


こんな退屈で平凡な女の日常も急に終わる事になる。

早く逃げれば良いものを、仕事を優先して命を失った馬鹿な女。


まだ初めの少女の時の方が面白味があったものを……。

シモーネは嘲りを込めた顔で笑った。


すると……

『返して』と、女の声が聞こた。


はあ?意味が分からん。


『返して』


だから何を……


『返して。返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して………………』


機械的に繰り返されされる女の声に、シモーネはゾクッと背筋を凍らせた。


何なのだ……これは。

冷や汗が頬を伝う。


『私はまだ死にたくなかった』

『まだまだやりたい事が沢山あった』

『本当は結婚したかったし、子供も欲しかった』

『一人が気楽なんて嘘』

『私は幸せになりたかった』

『生きていれば別の幸せがあったかもしれない』


『なのに………』


止まらない恨みつらみに、シモーネの顔は強張り、動けなくなる。


『……お前のせいだ』


知らん!俺には関係ない!!

シモーネは心の中で叫ぶ。


『お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいで私は死んだ。お前のせいだ。お前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだ』


うるさい!……うるさい!!


シモーネは座り込み、両手で耳を塞ぎ、瞼を閉じた。


その間にも聞こえ続ける冷たい女の声。


『ねえ。どうして私だったの?どうして私が巻き込まれたの?ねえ。どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうしどうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうしどうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうし……』


プッリっと途切れた女の声。


途端に辺りはシーンと静まり返った。


終わったのか……?


シモーネはそっと瞼を開き、耳元から手を退けた。


……ギクリ。

瞳を見開き身体を強張らせたシモーネの視線の先には、白いワンピースを着た女の足元が見えた。履き物を履いていない女の素足は生気が感じられない程に白く……そして不気味だった。



バクン!バクン!バクン!バクン!


心臓が今までに感じた事がない程に大きく脈打っている。


……嫌な予感しかしない。顔面を蒼白にして震えるシモーネの顔を覗き込む様に、徐々に女が屈んで来るのが、ゆっくりと見えている。なのにも関わらず、シモーネには何故か視線を逸らす事も、手で顔を覆う事も出来なかった。


そして……………


「………っ!!!」

シモーネは声にならない叫び声を上げた。

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