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さあ、最期の時間です➁

「……っ?」

シモーネは、ジリジリと自らの身体が焼かれている様な暑さの中で目を覚ました。


「どこだ……ここは」

辺りを見渡しても一面の砂のしか見えない。


シモーネは先程まで、仲間達と楽しく酒を飲んでいたはずだった。

ずっと狙っていたお気に入りの女を傍らに置いて。


今日こそは・・・あの若く美しいシャルロッテを自分のモノにするつもりだった。

(うぶ)なシャルロッテには、幾度となく情事を交わされて来たが……それさえもシモーネからすれば他愛もない駆け引きに過ぎなかった。焦らされただけ、手に入れた時の満足感は大きい。

駆け引きに飽きたのなら強引に抱いてしまえば良い。それだけの話だ。

シャルロッテを手に入れた暁には、朝から晩まで……飽きるまで欲望のままに抱いてやろうと思っていた。

だと言うのに、その肝心のシャルロッテはどこに行ったのだ?

……それに、一緒にいたはずの他の仲間(ヤツら)はどこに行った?


むせ返る様な暑さに顔をしかめたシモーネが立ち上がると、視線の遥か先の方に豊かに生い茂る木々の姿が見えた。


……あそこに行けば水でもあるかもしれんな。

カラカラに乾いた喉をゴクリと唾で上下に揺らしたシモーネは、そこに向かうべく歩みを速めた。


暑さのせいだけでなく、深酒をした後は無性に喉が渇く。

逸る気持ちとは裏腹に、砂に足を取られ思う様に進む事が出来ず……体力だけがどんどん削られて行く。

小一時間は軽く歩いたはずなのに、視線の先にある豊かな木々達は、最初に見た時と同じ距離感のままそこに在る。


くそっ……。

シモーネはギリッと奥歯を噛み締めた。


何かがおかしいという事には比較的すぐに気付いた。しかし、歩みを止める事は出来なかった。歩みを止めたが最後……あっという間に体内中の水分がカラカラに蒸発してしまいそうな不安が付きまとっていたからだ。だから、辛くても体力が無くなっても歩き続けなければならなかった。


……どの位歩いたか。

気付けば、今までどれだけ歩いても近付けなかった青々とした木々が目前に迫っていた。

シモーネは倒れそうになる身体を叱咤し、最後の力を振り絞り、足がもつれそうになるのにも構わずに走り出す。


……み、水!水はどこだ!

求めていた場所に辿り着いたシモーネは、豊かに生い茂る木々の間を微かに聞こえる水音を頼りに走り続けた。

そして、小さな茂みをガサッと掻き分けると…………。


小さな湖位の大きさの水溜まりを見つけた。

傍らには飛沫が光に反射しキラキラと輝いている滝もあった。


待ちわびた光景にいても立ってもいられなくなったシモーネは、後先考えずに水の中へ飛び込んだ。

乾いたスポンジが水を吸うように、シモーネの身体の隅々にもじんわりと水が染み込んでいく……。


全身を存分に水に浸らせたシモーネは、次に喉の渇きを癒すべく、滝の方へ向かってジャブジャブと水の中を歩いた。

湖の水も綺麗だが、滝から流れている水は更に澄んでいて、どうしてもそれを飲みたいと思ったのだ。

両手で滝の水を(すく)い、口に運んだ瞬間…………


「ぐっ……!?」

酷い苦みと臭みを感じたシモーネは水を吐き出し、救った手に残った水を捨てた。

今まで綺麗だったはずの水が泥水の様に黒く濁っていたからだ。

「な、何なんだ!……この状況は……!!」

混乱したシモーネが呆然と滝を見上げていると、流れ落ちる黒い滝は濁流となり、あっという間にシモーネを巻き込んだ。



「……っ!……ぶはっ!!」

濁流に飲まれ、一瞬だけ気を失っていたシモーネが意識を取り戻すと、また新たな状況下に置かれていた。


「こ、ここは……どこだ?」

シモーネは荒れ狂るう海のど真ん中に、その身一つで放り出されていたのだ。


薄暗い黒い海では高い波が何度も押し寄せ、その度にシモーネの身体も上下を繰り返しながらゴボゴボと何度も水を飲んだ。シモーネはこのまま沈んでしまわない様に必死に手足を動かし続ける。

あんなに望んでいた水だが、こんな塩辛い水が飲みたかったわけではない。


しかも、神の力を使っての脱出を何度も試みているのにも関わらず、何故か力が発動しないのだ。

こうして意味も分からずにシモーヌは翻弄され続け……力尽き、気を失えばまた違う場所に居る。


ある時は……マグマの押し寄せる火山の中。

ある時は……槍の降り注ぐ戦場の中。

またある時は……真っ暗で何もない空間の中。


シモーネは自らの神の力を使う事も出来ずに、一方的な絶望と……迫り来る死の恐怖を味わい続けた。




『まだまだ終わらないよ?』

クスクスと笑う声は、幸か不幸かシモーネには届いてはいない。


******


シャルロッテは、両手に乗る位の大きさの蓋付きの瓶の中を見つめながら口元を綻ばせていた。


「流石は僕の妹(シャルロッテ)。容赦がないね」

隣から楽しそうな声がした。


八ヶ月振りに見るお兄様の満面に笑みだ。

楽しくて、楽しくて仕方無いと言った黒い微笑みを浮かべている。

私もこんな顔して笑っているんだろうな……と思うと自分の事ながら軽く引きそうになるが、苦笑いを浮かべた私はまた瓶の中へと視線を戻した。


瓶の中ではシモーネが竜巻に巻き込まれながら、グルグルと高速回転をしている所だった。

シモーネの入った瓶の隣にある同じ大きさの瓶の中では、神➀~➃が同じく洗濯物の如く、水中で高速回転している。


これらの瓶を彼方やクリス様、サイ、金糸雀、リカルド様、ミラ、セイレーヌと一緒に眺めている。


シモーネの神殿へ連れて行かれた私は、お酒と睡眠薬、ロッテのアドバイスを借りてシモーネ達を潰した。その後に、用意をしていた二つの蓋付きの瓶に神達を吸い込んだのだ。

私はその瓶を持って、セイレーヌの神殿で待っていたお兄様達と合流をした。


これを作ったのは、ミラと私とセイレーヌだ。

イメージにしたのは、西遊記に出てくる金角と銀角の持っていた()()()()()だが、名前を呼ばれて返事をしたら吸い込まれるという従来の仕様ではなく、使用者が瓶の中に閉じ込めたい者の名前を呼ぶだけで簡単に捕らえる事が出来る。


そして、シモーネ達を溶かしてお酒にするつもりなんてない(絶対に嫌だ!)ので、これまた仕様を変えて、閉じ込めた者の魔術で瓶の中に異空間を作り出す事を可能にした。

これにより、今までシモーネ達にしていた事が簡単に出来たのだ。術者の使い様によっては、瓶の中は現実にも、仮想空間にもなる。

私は、きちんと()()空間にして痛みを味合わせているけどね!


ミラ(チート)×(チート)×セイレーヌ(神)


私達の能力を合わせて作ったこの魔道具は、国宝級の物に仕上がってしまった。

それも二つも。

因みにこの魔道具はクリス様やお兄様の意向により、今回使い終わった後は王城の奥深くにある宝物庫に封印される予定だ。

むむっ……。解せぬ……。


まあ、作りたいと思ったらいつでも作れるし!良いか!!

……って、ごめんなさい。調子に乗りました! 

謝りますから!瞳を細めないで!!

お兄様に平謝りしていると、


「主よ。そろそろ死にそうだぞ?」

サイがモフモフの前足で瓶を指した。


瓶を覗くと、シモーネや神➀~➃が口から泡を吹きながらグッタリしていた。


……まずい、まずい。

これ位で死なれたら困る。


「彼方。よろしくー」

「うん。分かった!」

彼方に声を掛けると、既に何度も繰り返して()()を掴んだ彼方が、シモーネ達を【回復】させた。

聖女である彼方が術を使うと、キラキラした虹色の粒子が彼女の周りを取り囲み、一気に幻想的な空間となる。精霊でもいそうなメルヘンさがある。


「彼方も随分とシャルロッテに毒されたわよね……」

「うむ。主は良くも悪くも影響力があるからな」

苦笑いを浮かべながら金糸雀が言うと、サイがウンウンと頷いた。


「金糸雀とサイが…………酷い!」

「だって、本当の事じゃない?」

プウッと頬を膨らませると、金糸雀が首を傾げた。


……うん。否定は出来ません。


金糸雀が言っているのは、彼方の【回復】の事である。


今回の復讐は精神的にも肉体的にもドン底に疲弊させ、神の力を削り取る事を目的としている。

その為に、瓶の中の現実空間で水攻め、火攻め等々……様々な苦痛をシモーネ達に与えているのだが、神であってもある程度の傷や衝撃を与えれば死んでしまうのだ。


そこで、『聖女』の出番である。


私自身、ポーションを作れるし、若干の回復も出来る。

しかし、今回は私では駄目なのだ。チートを搭載している私では、何事も極端になってしまう……。

つまり、私が回復しようとすると、相手を()()()()させてしまうのだ。

それも肉体、精神共にだ。肉体はともかく……精神まで回復されたら意味が無い。


死ぬか死なないかのギリギリのラインで、責め苦を与え続けなければ気がすまない。

『もう殺してくれ』と懇願させるほどに……だ。


最初は加減が掴めずに、ほぼ全回復させてしまっていた彼方だが、《コツ》を掴んでからは、ある程度のダメージを残した上で責め苦を堪えられるラインでの回復が出来ている。

うん。今回もバッチリだ。


他者を傷付けられない優しい彼方を変えてしまった自覚はあるが……これは決して私が強要した事ではない。


だから、彼方が楽しそうにニコニコと笑いながら瓶を覗いているのは……私のせいでは……

……いや、これは私のせいだな。

この復讐を終えた後に、状態異常回復のポーションを作って彼方に飲ませようと心に決めた。



「シャルロッテ、次はどうする?」

私の手をギュッと握ったリカルド様が微笑む。

リカルド様も若干黒い笑顔になっているが……気にしない。気にしない!


「そうですねー……。あ、そろそろコレに行きますか」

私はリカルド様の手を握り返しながら、ニッコリ笑いながら皆を見渡した。

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