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戻って

「ただいまー」

学院内の私の部屋に戻って来ると……

「主!!」

「シャルロッテ!!」

「お嬢様……!」

サイと金糸雀、マリアンナが私の元に駆け寄って来た。



「無事にお戻りになられて良かった……!」

「マリアンナ……心配かけてごめんなさい。私は大丈夫よ」

涙目のマリアンナにギュッと抱き締められた私は、同じ様にマリアンナを抱き締め返した。


そんな包容中の私達の周りを、何故かサイと金糸雀が真面目な顔をしながらグルグルと回っている。


ええと……これは何かの儀式?

それともバター?……二人はバターになるの?


そんなバカな事を私が思ってしまう位にグルグルと回り続ける二人は、ひとしきり私の周りを回った後に


「……大丈夫そうね」

「ああ。大丈夫だな」

そう安堵の溜息を吐いた。


その後すぐに金糸雀は『聖女達に知らせてくるわ』そう言い残して、パタパタと飛んで行った。


……因みに部屋の扉は、落ち着いたマリアンナが私から離れて開けてくれていた。



「サイ達にも心配かけてごめんなさい」

私は目の前に残っていたサイに頭を下げた。


「いや、心配はしたが……主のせいではないのだから謝らなくて良いぞ」

サイは黒曜石の様な深い黒色の瞳で、私を覗き込む様に見た後にフルフルと首を横に振った。


「……久し振りだな。女神、セイレーヌ」

そして、私の後ろに立っていたセイレーヌに視線を合わせた。


「ええ……。久し振りね、魔王サイオン。こうして顔を合わせるのは、あの子が亡くなる前……以来ね」

「……ああ」

ぎこちない挨拶を交わした二人は、気まずそうに互いに目を反らしてしまう。



シーーン。

二人の間に重い沈黙が流れる。


……沈黙が痛い。痛いよー!



何か……話題を振ろう。

話題……話題……話題……話題……話題……話題…………。


この二人相手に何を話せば良いの?!


えーと、えーと……。

確か、入社前の研修で会話に困った時のキーワードを習ったはずだ。


それを思い出……!思い出すんだ!!



……あっ、……そうだ!

【きどにたてかけし衣食住】だ!!


【き】は季節。【ど】は道楽。【に】はニュース。【た】は旅。【て】は天気。【か】は家族や家庭。【け】は健康。【し】は仕事。【衣食住】はそのまま衣服や食べ物、住居の話だ。


よし!順番に話題を振ってみよう。


「ええと……春は暖かくて良いね!」

「ああ。そうだな。」


…………終わっちゃった。


ええと……次は【道楽】?!

「セイレーヌ様は趣味とかありますか?」

「特には無いかしら」


無いのかーい!!

私の私生活を覗き見てたのは道楽にならないの!?


次!【ニュース】だ!

ニュース……は、パス!!これと言って思い付かない。


【旅】……も、二人の話題にはならないだろうから、パス!


そうすると……次は、【天気】だ!困った時の天気頼みである!


「今日は暖かいし天気も良いしで最高の日だよね!」

「……ああ」

「そうね」


………!!

私はガックリと項垂れた。。


会話が続かないのだ……。

私が『はい』と『いいえ』の一言で済む話題の振り方をしてしまっているのも原因なのだけどね……。


…………【家族】と【健康】。

『カーミラさん』を知らない私が二人の想い出に踏み込むのは違う気がするし、そもそもこんなデリケートな話を切り出すのは至難の技だ。


あれ?……そう言えば、ここには二人の【家族】のクラウンがいるではないか。

助けを求める様にクラウンを見ると……。


奴はまるで無機物な鏡の様にひっそりとそこにいた。

私の視線をものともせず……というより、私と視線を合わせてなるものか……という強い意思を感じた。


こいつ…………。

ジロリと睨み付けると、クラウンの身体がビクッと揺れた。


……後でお仕置き追加してやる。




……さて……と。これからどうしようか…………。


【仕事】と言えば、今後の事だろうか?

しかし、それを話すのは、皆が揃っている時の方が効率が良い。


では、残った【衣食住】か…………。

ふむ……。

片手を顎に置き思案の体制に入った時……。


トントン。

部屋の扉がノックされた。


「はい」

扉の近くに立っていたマリアンナが扉を開けると、そこには金糸雀を先頭に彼方やクリス様、お兄様がいた。


「呼んで来たわよー」

金糸雀さん偉い!!


気まずかった!!今まで凄く辛かったよー!!



戻って来た金糸雀が私の頭に留まるのと同時に……。

「ぐぇ……っ!」

彼方が私に突っ込んで来た。

それはもうラグビーのタックルの如………だ。


「…良かった!」

正面から抱き付いて来た彼方の肩が僅かに揺れている。

時折聞こえる、鼻をすする音…………。

彼方にもかなり心配を掛けてしまったらしい。


「ごめんね。……ただいま」

私はそう言いながら、ギュッとしがみ付いたまま離れない、彼方の背中をゆっくりと何度も擦った。

彼方は鼻をすすりながら、ブンブンと首を縦に大きく振っている。



「……クリス様やお兄様にもご心配をおかけしました」

「いや、無事ならそれで構わない」

「うん。そうだね。ていうか、そもそも悪いのはシャルロッテじゃないし?」

彼方の頭を撫でながら視線をクリス様やお兄様へと向けると、笑顔のお兄様はその笑っていない瞳をセイレーヌに向けた。


「それで?女神付きで帰って来たって事は、また何か厄介事に捲き込まれたんでしょ?」


()()』って……お兄様。

ま、まあそうですけど。……早くもズバリと確信に触れられると……怖いって。


「取り敢えず……座って話しませんか?」

疲れたし、甘いお菓子が食べたい気分だ。


そうして、女神を含めた全員に着席を勧め、お茶やお菓子が全員に行き届いたのを確認してから話を切り出した。

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