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箱庭➃

……あの、ヘタレ魔王にそんな過去があったなんて知らなかった。

実は、逃げられたと思っている元奥さんや子供達は……既にこの世にいなかったりして……?


チラッと物言いたげな視線をセイレーヌに向けると……セイレーヌは黙って微笑んだ。


絶対、何か知ってるよあれ!! 目が笑ってないもん!

うわぁ……女神怖い。女神超怖い……。


……もしも、魔王サイオンと金糸雀、クラウンの三人しか魔族が残っていないのなら、私的には嬉しい事だけど……良いのかな?

魔王サイオンから子供達へと力を継承されなければ、新たな魔王は誕生しないのだ。

サイオン達の力を浄化なり、何なりして消してしまえないのだろうか?そうすれば全て問題解決だ。

浄化といえば『聖女』なので、後で彼方にも相談してみよう。


それよりも…………。

私は深く溜め息を吐いてから、セイレーヌに向き合った。


「魔王達の事情は分かりましたが……セイレーヌ様が自ら、出て来た理由は何ですか?……私に何をさせたいのですか?」

いくらチート持ちだからといっても私に出来る事には限りがある。

それなのに、女神がわざわざ私を巻き込む理由とは……?



「……お願い。アーロンを助けて!」

女神は私の両手をグッと握り締めながら、懇願の表情を浮かべた。


……………ええと。

『嫌です!』とは……言えない雰囲気だ。お兄様なら敢えてそうするかもしれないが、私はそこまで非道ではない。しかもセイレーヌの瞳は、涙が今にも溢れそうな程に潤んでいるのだ。


「取り敢えず……返事は話を聞いてからでも良いですか?」

私は眉間にシワを寄せた困り顔でセイレーヌを見た。


「ええ。分かったわ」

セイレーヌは私の手を握ったまま一度、大きく頷いてから瞳を伏せた。


「アーロンはもう神としての力を殆ど使い果たしてしまっているの。……神の力は無限ではない。それは、神以外の種族からしたら、無限にも思える程の莫大な力だけど……有限なのよ」


アーロンの妹のカーミラは、星を創るのに匹敵するという種族間を超えての出産を二度した。

神力を使い切ってしまったところを狙われて殺されたのだ。

アーロンは男神なので出産はしていないが、星を二つ創っている。

それは、和泉の世界とシャルロッテの世界の二つだ。


「そう。でもね、アーロンはそれでもまだ少し余裕があったの。それだけ彼は莫大な力の持ち主だったから。だけど……あなたを転生させ、聖女を異世界から召喚する際に、また力使ってしまったの」


……私も?

それは初耳だ。

私の転生は、セイレーヌによるものだと勝手に思っていた。


「……私はセイレーヌ様の『贈り人』ですよね?」

「ええ。女神の加護を付けたのは確かに私だわ。それは、私達の事情に巻き込まれて、元の肉体を失ってしまった和泉さんへの償いの為にね」


『私達の事情に巻き込まれた』?

『償い』?


「和泉さんが亡くなるきっかけになった……あの事件は、本当は起こるはずの無い出来事だったの」


「……えっ?」

話が急展開過ぎて頭がちっとも付いてこない。

セイレーヌは今……何と言った?

『起こるはずのない出来事』って……どういう事?


「……ごめんなさい。和泉さんは、アーロンを貶めようとした他の神達によって殺されてしまったの」

「ちょ……ちょっと待って下さい!……え?……え?」

私は思わず頭を抱えた。


それって……つまり…………?


「私は巻き込まれただけ……?」

「ええ……。本当に申し訳なかったと思っているわ。それは聖女である彼方さんにも……」

「彼方も……?」

「……あの事件は、彼方さんのお兄さんが起こしたものだと言われているけど本当は違う。彼方さんのお兄さんなんて……そんな人物は最初から存在していなかったの」

「…………は?」

「彼方さんのお兄さんだと名乗る人物は、他の神達によって作られた傀儡(くぐつ)だったのよ」


そもそも彼方は一人っ子だった。

アーロンの存在を妬む一部の神々が、アーロンへの嫌がらせの為に……『地球を滅ぼしてやりたい』という気持ちで、()()()()傀儡の置き場を彼方の家に選んだ。


神達は人々の記憶を捏造し、傀儡を彼方の兄だと思い込ませた。

そして、きっかけを見計らってあの事件を起こさせたのだという……。

事件をきっかけに模倣犯によるテロ行為を地球のあちらこちらで起こさせ、第三次世界大戦へと発展させる事で、地球を崩壊させるつもりだったが、あの事件の少し後にアーロンに気付かれてしまい、計画は白紙になった。


それじゃあ……何?

その神達のせいで、たまたまそこに働いていた私が死んで……本当に何の関係もなかった彼方や彼方の両親の人生がメチャクチャにされたって事?!


お兄さんが傀儡だったのなら、彼方は完全な被害者ではないか!!

何もしてないのに虐げられ続けた彼方は……一体……。


「アーロンが気付いた時には……和泉さんは既に亡くなってしまっていたし、彼方さんの周りは壊れてしまっていた。せめて……もう一度、ここで人生をやり直してもらう為に……償いの為に二人を呼んだの。幸いな事に、ここはあなた達の好きなゲームの世界に酷似していたから、後は、肉体をなくした和泉さんを『シャルロッテ』に転生させ、時期を見て『聖女』を召喚させれば良かった」


……私が転生した事や、彼方の召喚も何らかの意思があっての事かもしれないとは思っていた。


悪役令嬢(シャルロッテ)として転生した私には大変な事だらけだった。

幾多の困難や危機を乗り越えて今に至っているのだが……なんだかんだでこの世界は私に甘かった。

チートな能力がまさにそれだ。この力があったからこそ、乗り越えられた。


だけど……何なんだこれは。

私に甘い世界の理由が、全て前世の事件での償いのせい?

私達の気持ちも知らないで…………。


……神だか何だか知らないけど、こんなの酷過ぎる!! 私達は玩具じゃない!!


脳天を突き抜けた怒りが、私の視界を真っ赤に染め上げた。


ギリッと噛み締めた唇からは血の味がした。

身体中は沸騰しているかの様に熱い。

怒りが……悔しさや苦しみ……悲しさ……がぐちゃぐちゃに混じり合っている。


「……それで、神……アーロン……様は今どこに?」

深呼吸をしながらゆっくりと言葉を絞り出す様にしてセイレーヌに問い掛ける。


こうでもしないと……口汚い言葉が次から次へと溢れ出してしまいそうなのだ。

……たくさんの恨み言を吐いて、心が真っ黒にそまってしまいそうなのだ。


「アーロンは、クラウンにお願いして秘密の別空間で眠らせているわ」

「……力は……回復しない……のでしょう?」

「……ええ。でも、今のアーロンは脆い。攻撃されたら確実に死ぬわ。だから、眠らせて隠したの……」



私は更に数度の深呼吸を繰り返した。

少しでも心を鎮める為に…………。


暫くそうしていると、ほんの少しだけ冷静になった。


クラウンがセイレーヌと行動していたのは、アーロンを守る為か……。

クラウンの力で別空間にアーロンを隠すだけでなく、クラウンがアーロンに擬態し、神の不在を悟らせないのが目的だろう。

弱っているアーロンは、彼の失脚を望む者達からしたら好機としか思えないからだ。




ああ……やっと、平和な日常を得る為の行動に終わりが見えた気がする。


『私と彼方の人生をメチャクチャにした神達を潰して、アーロンを目覚めさせる』

うん。目的が明確で良いね。



「神の力は莫大だけど無限ではない。それは皆一緒。……この認識で良いですか?」

「ええ。そうよ」

「私の中にある、セイレーヌ様の加護はどこまで使えますか?」

「私と同等の力が使える様にする事も可能よ」

「……では、最後に。アーロン様を狙う神達の弱点はありますか?」

私は、瞳を細めてニッコリと笑った。


「…………っ!?」

すると、目の前のセイレーヌが怯えた様に瞳を丸くしながら身体を強張らせた。


……失礼だな。お兄様の真似をしただけなのに。


セイレーヌは、終始引きつったような表情をしながらも私の質問に答えてくれた。



「では、引き受けます」

「……え?」

「やりますよ」


頭の中で『()りますよ』と変換されるのは些末な事だ。


「本当に……引き受けてくれるの?」

「はい。勿論です。……私、悪役令嬢(シャルロッテ)なので」


……絶対に後悔させてやる。

地球やこの世界に、二度と介入なんてする気が起きない様にする為に徹底的に。


さて。

()る事が決まったら……先ずは彼方達の元に帰らないとね。

彼方に話すのは心苦しいが……今の私の役目だ。

しっかり伝えなければ…………。



「クラウン?()()()()()?」

私はクラウンに有無を言わせぬ圧力をかけた後。


セイレーヌ達と一緒に、元の場所に戻る為にクラウンの鏡の中に入って行った。

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