裏山探索
未発掘のダンジョンを発見しようと、一人で裏山に向かおうとしたのに・・・・・・
何故かお兄様が憑いて・・・・・・
じゃなくて、付いて来た。
しかも、恋人繋ぎと言われる手の繋ぎ方で、私の左手は完全にお兄様によりホールドされてます(汗)
『あ!あそこにUFOが!!』
なんて言って逃げる事は出来ません・・・・・・・。
「・・・・・・お兄様?手を繋ぐ必要ありますか?私はもう小さな子供じゃなのですよ?」
細やかな抵抗を仕掛けてみるものの・・・・・・
「僕と手を繋ぐのは嫌なの?」
繋いでいる手に唇を寄せられて、しかもコテンと首を傾げながら言われたら・・・・・・
「・・・・・・嫌じゃないです。」
断れる訳ないじゃないかぁぁぁ!
私の心はリカルド様の物なのに・・・・・・
惚れてまうやろー!?
「じゃあ、良いよね?」
いえ、全然良くありません!
そんなに甘い顔で微笑まないでー!!
真っ赤な顔でぷーっと両頬を膨らませてる私を見て、お兄様はクスクス笑っている。
「ごめん、ごめん。何かいつもよりシャルが可愛くてつい」
・・・・・・って、わざとか!
お兄様あざといなー!?
はぁー・・・・・・。
まだ何もしてないのに疲れた・・・・・・。既に疲れた。
まあ・・・・・・もしかしたらお兄様なりに心配してくれてるのかもしれない。
倒れたばかりだしね。そう思っておこう。
「お兄様、あっちに行きたいです!」
行きたい方向を指しながらお兄様の手を引く。
これ以上振り回される前に、さっさと目的の場所に連れて行ってしまおう。
私はそう考えた。
***
確か、この辺りだと思ったんだけどな・・・・・・。
ゲームでの記憶を頼りに裏山を進み続ける。
立ち止まって、周りをキョロキョロしていると・・・・・・
「・・・・・・シャル!こっち!」
急にお兄様にグッと強く手を引かれ、そのまま茂みの中へと押し込まれた。
「お兄様・・・・・・どうしたのですか?」
「しーっ・・・・・・!」
口元を私よりも少し大きな手塞がれる。
お兄様は自分の唇の前で指を一本立てている。
『静かしろ』って言う事だよね?
空気を読んだ私はコクコクと首を縦に振り、お兄様の指示に従う事にした。
そして・・・・・・
それから数十秒も経たない内にソレはゆっくりと現れた。
・・・・・・あれは!?
猫位の大きさで、猿の様な顔。筋ばった細い手足を持った魔物だった。
四足歩行で私達のいる茂みの前を通り、去って行った。
あれから何分経っただろうか。
「もう大丈夫かな?」
そう言ったお兄様が私を解放した。
未知の生物に遭遇した恐怖や無事に逃れられた安心感から、無意識に強張っていた全身の力が抜け・・・・・・暫くは動けなそうだ。
私は腰が抜けてしまっているのに、お兄様は平然と立ち上がる。
辺りをキョロキョロと見回している事から、まだ警戒は続けている様だ。
「アレは一体・・・・・・?」
「あれは猿飢。単体では弱いんだけど、群れで行動するタイプの魔物だから少し厄介なんだ」
あ、そうだ!猿飢か!
ゲームの中でやたら弱いくせに、死にそうになると仲間をこれでもかって位に大量に呼ぶ魔物だった。
私達だけで猿飢を相手にするのは危険でしかない。
気付かれなくて良かった・・・・・・。
私はブルッと身震いしながら自分の両腕を摩った。
「何でここに魔物が居るんだろう・・・・・・」
お兄様は眉間にシワを寄せて思案していたが・・・・・・
「邸に帰ろう。ここに長居するのは良くない」
お兄様はそう言って、動けないままの私を横抱きに持ち上げた。
「お、お兄様・・・・・・!?私、重いから!・・・・・・歩けましゅ!歩きましゅ!!」
突然のお姫様抱っこに、動揺しまくり、咬みまくりの私・・・・・・。
ルーカスのお姫様抱っこだよ!?
ゲームで彼方がされてたアレだよ!?
スチルで見たあのシーンが目の前で再現されてたら、興奮せずにはいられないでしょ!?
「シャルは重くないから大丈夫。これでも鍛えてるんだよ?」
ニコリと笑うお兄様。
「・・・・・・で、でも!」
邸まではそこそこ距離があるのに、15歳の少年が3歳しか違わない妹を抱え続けるのはキツイんじゃ・・・・・・。
「シャル、お願いだから黙って運ばれて?僕も魔物に出会って動揺してるし・・・・・・シャルをこうして抱き締めてるだけで安心するんだ」
そう言って私の額にキスを落とすお兄様は・・・・・・
王・子・様でした!!
もー!!
さっきから何なの!?
私をどうしたいの!!
私が妹じゃなかったら、普通に恋愛フラグだよね?これ。
「・・・・・・お兄様、宜しくお願い致します」
お兄様に逆らい切れなかった私は、真っ赤になった顔を俯かせた。
イケメン怖い、イケメン怖い・・・・・・。
邸に着く前に、恥ずか死ぬのではないだろうか。
せっかく生まれ変わったのに、短い人生だったな・・・・・・。私。
って、こんな事で死んでたまるか。
心を落ち着ける為に、何度も深呼吸を繰り返す。
「お兄様は猿飢を知っていましたが、他にも魔物を見た事があるのですか?」
恥ずか死ぬ前に話題を変えてみる。
うん。私は賢明な判断をした!!偉い!
「僕は冒険者ギルドに登録してるから、依頼を受けて何度か魔物を討伐した事があるんだよ。」
お兄様は歩くスピードを緩めず答える。
冒険者ギルドとな。
いつの間に・・・・・・。全然知らなかった。
将来は騎士にもなれる様にと、幼い頃から訓練をしていたのは知っていたが・・・・・・まさかギルドに登録をして魔物の討伐までしていたとは。
「お父様は知っているのですか?」
「勿論。父様とはパーティーを組んでいるから、何度か一緒に討伐依頼を受けてるよ」
なんと!
お父様まで!
あー、そう言えば・・・・・・お父様とお兄様が揃って領地の視察に行くとかで何度も邸を空ける事があった様な。
あれがそうだったのかもしれない。
「着いたよ」
考え事をしている間に、もう邸に到着してしまった。
私というお荷物があったはずなのに・・・・・・お兄様凄い。
鍛えているというのは伊達じゃないのだろう。
邸の扉の前で私をそっと下ろしてくれる。
「僕は父様に報告してくるよ。多分、ギルドから調査が入ると思う」
私の髪をくしゃっと撫でてから邸の扉に手を掛け・・・・・・
ふと、振り返って私をジッと見る。
「一人で裏山に戻ったりしたら怒るからね?」
と、私に釘を刺す事を忘れない。
流石はお兄様・・・・・・。
私が素直に頷くのを見届けてから、漸くお兄様は邸の中へと入って行った。




