告白
「おぉ、いいね。似合ってるじゃん」
いつも通り下駄箱で待っていた京子が、開口一番そう言ってくれた。
切ったばかりで、髪が肩までしかないことにまだ違和感があるが、褒められると素直にうれしい。
「ありがと。ショートにするの久しぶりだったからちょっと不安だったけど、京子がそう言うなら大丈夫だ」
「めぐみは元がいいから何でも似合うよ。でも、ショートにしちゃったから、私がセットしてあげることも少なくなると思うと、ちょっとだけ寂しいかな」
「そうなの?なら明日からは髪とかさずにこようかな」
「いや、それは乙女としてどうなのよ」
私と京子はいつも通り、職員室でカギを取り、音楽室へと向かった。
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その日の放課後、部活を終えて京子と帰る途中、廊下でサックスの佐々木に声をかけられた。
「高木、ちょっといいか?」
私と京子は、立ち止まって振り返った。
「どうしたの?」
高木というのは私の苗字だ。男子には基本的に高木と呼ばれている。
「ちょっと話があるんだけど。できれば2人で」
佐々木が私に用があるなんて、何だろう?それも2人で?
そう思ったけれど、特に断る理由もないので、私は京子に先に帰ってもらうように言って、佐々木について行った。
「話って何?」
佐々木に連れられて、サックスがパート練習を行う教室に入ると、さっそく私は話を促した。教室はすでに誰もいなくなっていたので、私と佐々木の2人だけだ。
「高木、髪切ったんだな」
え?話ってそんなこと?そう思ったけれど、何となくうなずきながら相槌をうつ。
「宮崎先生も、昨日髪切ってたよな」
「そうそう!長いのも良かったけど、短いのもめちゃくちゃ似合ってるよね!」
先生の話になり、私は少し興奮気味に言った。
「もしかしてさ、高木が髪切ったのって、宮崎先生が切ったから?高木って、宮崎先生が来てからずっと、先生の髪形まねしてるじゃん?」
そう言われて、私は少し驚いた。気づかれていたのか。まぁでも、佐々木も先生のこと好きみたいだし、私とは部活で毎日会うわけだから、別に気づかれてもおかしくはないか。
「まぁそうだけど。それがどうかしたの?」
「高木が先生の髪形を真似するのってさ、もしかして、俺のことが好きだから?」
「はぁ!?」
急に話が変な方向にワープした。なんだ。何を言っているんだこいつは。
「いや、だからさ。俺が宮崎先生にアピールしてたからさ。それで、俺のタイプに近づくために先生の真似し始めたのかなって。朝練も、俺が行くようになってから毎朝来るようになったし」
私は、あまりにも的外れな妄想に言葉を失った。なんて都合のいい解釈をするんだろう、こいつは。単純に気持ち悪いし、私の憧れがそんな風に解釈されたことに苛立ちを覚える。私のこの気持ちは先生だけのものなのに。
「だからさ。もしそうなら、俺も高木のこと、ちょっといいなって思ってたし。付き合ってもいいかな、なんて・・・」
少し顔赤らめながら佐々木がまた妄言を吐いた。しかも、ちょっと上から目線なのが、より私の神経を逆撫でする。
「違うから」
私は震える声で小さく呟いた。
「え?何?」
「お前のことなんか好きじゃないから、付き合ってもらわなくて結構です‼」
吐き捨てるように私はそう言うと、唖然とした表情の佐々木をよそに、教室を出る。
最後に佐々木を思いっきり睨みつけてから、私は力いっぱいに扉を閉めた。