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第5話 カフェ 4U

やっとカフェ登場です。

「おはよ、(ずみ)

「おはよ。よく眠れたか?」

「うん、ぐっすりだよ」

「隈出来てるぞ」

「嘘っ!」

「嘘だからな」

「もう……!」


桜がふくれっ面になると、(ずみ)が頬を突ついて萎ませた。


「それで、連れて行きたい場所ってどこ?」

「俺の職場」

「バーって言ってなかった?

昼間から開いてるの?」

「昼はカフェ、夜はバーなんだよ」

「へー」


車で連れて来られた目的地は海沿いに立つ三階建ての立派な一軒の洋館だった。

店の前の花壇には色とりどりの花が咲き乱れている。


「『4U……カフェ 生き辛さ』?」


店の名前も風変わりならば、店の戸口につけられた看板に書かれた内容も独特だった。


『開店時間:午前中〜閉店時間:夜』

『どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません』

『ことに、生き辛いお方や差別偏見をお持ちのお方は、大歓迎いたします』

『当店は問題の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください』

『問題はずいぶん多いでしょうがどうか一々笑って下さい』


「これ、宮沢賢治の『注文の多い料理店』の冒頭のパロディだね」

「ああ、オーナーの趣味らしい」


ドアを開けるとドアベルがカランカランと涼やかな音色を奏でた。

間接照明でほの明るく照らされたお洒落な店内は客で混み合っていた。

カウンターでは長く艶やかなアッシュブラウンの髪をシニョンにしている美しい女性がグラスを磨いている。

真っ赤なルージュと泣きぼくろが色っぽい。


「いらっしゃいませ……あら、(ずみ)

(ずみ)の彼女?可愛らしい子ね」

「違うっつの。電話で話した奴だ」

「そう、その子が。

私はアルコール依存性の桃花。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします。桜です」


いきなりヘビーな肩書き付きの自己紹介だ。

戸惑いながらも挨拶を返す。


「それじゃあ、早速。

桜ちゃん、アクセサリー作りと編み物、トンボ玉作りとお菓子作り、どれが良い?」

「え?」

「やりたい奴選べって事」

「じゃあ……トンボ玉作りを」


そう答えると店の奥の部屋に連れて行かれた。

机に向かって数十人が作業している。

ガスバーナーを使っているせいか、部屋の温度が高い。


冬夜(とうや)ー!この子お願いねー」

「はいよー。あ、昨日の。

双極性障害の冬夜(とうや)ですー。よろしくねー」

「桜です、よろしくお願いします」

「桜ちゃんかー。名前も可愛いんだねー」

「えっと、その、ありがとうございます」


わらわらと人が寄って来た。

昨日会った紫苑(しおん)が嬉しそうに微笑みかけてきた。

若干プリンになっているが、風船ガムのような鮮やかなピンクの髪のショートヘアで、眉までピンク色だ。

両耳からターコイズとシルバーの大振りのピアスがぶら下がっており、アイスブルーのカラーコンタクトレンズを入れた目とビジュアル系メイクのせいでどこか日本人離れして見える。


「不安障害と不眠症の紫苑(しおん)だよ。よろしく」

「発達障害と適応障害の菜種です。よろしくお願いします」

「統合失調感情障害の花純(かすみ)。」


奇妙な自己紹介に桜はすっかり困惑しきっていた。


「あのさ、(ずみ)。ここでは病名名乗るのが普通なの?」

「ああ」

「じゃあ改めて。統合失調症の桜です」

「お、仲間だ。俺も統合。名前は(さかき)。よろしくな」

「トゥレット症候群の(なつめ)だ。時々叫ぶけど気にせず笑ってくれ」


そう言って(なつめ)は首をビクッと振った。


「トゥレット症候群?

初めて聞くんですけど、どんな病気なんですか?」

「音声チックと運動チックが一年以上持続する病気さ。

五、六歳で発症して、半数は十八までに治るんだけど、俺は大人になっても治らなくてさ」

「そうそう、うるさいって住民からクレームが来てアパート何軒も追い出されたんだよな」

「そ、今はここの寮で暮らしてる」


その他にも鬱病、パニック障害、パーソナリティ障害、てんかん、高次脳機能障害、アスペルガー症候群、サヴァン症候群、自閉症などなど。

次から次へと始まる病名付き自己紹介。

ふと気になって、桜は隣に立つ(ずみ)を見上げた。


「ところで(ずみ)は?(ずみ)も何かの病気なの?」

(ずみ)はステータス無しなんだよねー」

「そうそう。元不登校の引き篭もりじゃ弱いもんねー」

「え。そうだったの?」

「昔の話だ。それより早くトンボ玉の作り方教えてやってくれ」

「はーい。それじゃあ桜ちゃん、ここ座ってー」


椅子に座った冬夜(とうや)が何故か自分の膝の上を叩いた。


「阿呆」


冬夜(とうや)(ずみ)にスパンと頭を叩かれた。


「痛てて……軽い冗談だってー」

「完全にセクハラだっただろうが」

冬夜(とうや)に変な事されそうになったら引っ叩いて良いからね」


紫苑(しおん)が良い笑顔で言い切った。

冬夜(とうや)は見た目がチャラければ、言動もチャラかった。

明るい金髪にシルバーのペンダント。

左耳にはピアスがなんと八個も開いている。

桜にとって、普通に暮らしていたらまず関わらないタイプの人種だ。

ここまで読んで頂きありがとうございました。


カフェ4Uでは精神疾患が重ければ重い程尊敬される変な職場です。


東京都内には発達障害バーというものがあるそうですね。

そこから着想を得て精神疾患カフェ&バー4Uは生まれました。

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