番外編3 冬の花火
「なあなあ、花火やろうぜ」
今回の言い出しっぺも冬夜だった。
紫苑が首を傾げる。
「花火?今、冬でしょ?売ってなくない?」
「ふっふっふっ。こんなこともあろうかと、夏の間に買い溜めしておいたのだ!」
ジャジャーン!と効果音を口で言いながら冬夜が大量の花火セットをロッカーから取り出した。
「良いですね!花火なんて子供の頃以来だから楽しみです」
「お、さっすが桜ちゃん。わかってる〜!」
「花火って使用期限無いの?」
「湿気らなければオッケーらしい。
乾燥剤と一緒に保管しといたから大丈夫だよ」
「いいな、楽しそう」
「いつやる?」
「今夜」
「場所はどうしますか?」
菜種が尋ねる。
「4U裏手の空き地。
海に面してるから火事にもならないだろ?」
夜になっていつものメンバーが4U裏手の空き地に集合した。
冬夜が用意したキャンドルに火を点けて、バケツに水を汲んで準備万端。
花火セットから手持ち花火を一本取り出した桜がキャンドルに手持ち花火を近付けると花純に待ったをかけられた。
「待って、桜さん。
花火の先端の『花びら紙』は丁寧に千切ってから火を点けるのよ」
「これ、導火線じゃないんですか?」
桜は驚いた。
「昔の花火は今と比べて火薬部分が丈夫じゃなかったの。
だからねじって花びら紙をつけることで火薬を安定させていたって訳。
今は火薬が丈夫になったから無くてもいいのだけれど、寂しいからってことでついてるのよ」
「でも、今までこのまんま火ぃ点けてたけどなんともなかったぜ?」
棗が言う。
「火薬が長時間熱されて破裂する危険があるそうよ。
安全の為に外した方がいいわ」
「え、何それ怖い」
「あ、マジだ。
花火セットの注意書きにも花びら紙は丁寧に千切ってから火を点けるようにって書いてある」
「ね?」
花びら紙を丁寧に千切ってからキャンドルに手持ち花火を近付けた。
すぐに火が点いて、青い火花が飛び出した。
白銀の雪が蒼く輝く。
「うわあ……雪と海に花火が反射してとっても綺麗ですね!」
桜が感嘆の声を上げる。
「な?冬の花火も乙なもんだろ?」
冬夜がにっこり笑った。
深紅の手持ち花火をやっていた棗がぼそりと呟いた。
「これはストロンチウムだな」
「ストロンチウム?」
「炎色反応さ。あんたのはガリウムの色だ」
「あー、炎色反応。高校の化学で習いましたねえ」
「紫苑のは黄色だからナトリウム、桷のは黄緑色だからバリウムだな」
「棗、風情台無し。
突然の理系アピールいらないから」
「そんなんだから彼女いない歴イコール年齢なんだぞ」
冬夜がニヤリと笑った。
何を思ったのか、冬夜が噴出花火二本に同時に火を点けた。
かと思うと……
「いやっほーい!」
冬夜が噴出花火を両手に持って走り出した。
冬夜の走った後に火花の軌跡が描かれる。
桷が呆れ顔で溜息を吐いた。
「阿呆」
「あ、危ないですよ!冬夜さん!」
「だいじょぶ、だいじょぶ……っとうおわっ!?」
冬夜が雪に足を取られて滑ってこけた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「へ、へーき、へーき。
うわ、全身雪まみれだよ」
「いい歳して馬鹿やってるからだよ」
「自業自得だな」
「ふふっ。男の子は多少ヤンチャな方が可愛くて良いんじゃないかしら」
「桃花、可愛い言うな。
男が可愛いって言われてもちっとも嬉しくないぞ」
「可愛い可愛い」
紫苑がニヤニヤ笑って茶化した。
「うるせーよ、紫苑。
はあーあ、桜ちゃんに格好悪い所見られちゃうし最悪」
「別に格好悪くなんてないですよ。
ただ、危ないので花火の使用法は守ってくださいね」
榊が苦笑しながら冬夜を引っ張り起こした。
「特に冬夜くん、今日は君ダッフルコートだろう?
火花が引火したら大惨事だ。
くれぐれも噴出花火を両手持ちして走るなんて危ない真似はしてはいけないよ」
「ういーす」
手持ち花火、ネズミ花火、噴出花火。
一通りの花火を終えると今度はクライマックス、打ち上げ花火だ。
男性陣が並んで打ち上げ花火に連続で火を点けていく。
ドォン、ドォンと連続で打ち上がる色とりどりの光の華。
海の水面に反射して、白銀の雪に色が映え。
得も言われぬ美しさだ。
花火の燃えさしを水につけようとした時だった。
冬夜が困り顔で頭を抱えた。
「あ、やべー。バケツの水凍らさった」
「『凍らさった』ってなんですか?
『凍った』とどう意味が違うんですか?」
菜種が問うた。
「あ、菜種さん道外出身でしたっけ?」
「はい、東京です」
「おおー、都会っ子だ」
「北海道弁の『〇〇さる』とか、『〇〇らさる』っていうのは一種の自発表現なんです。
『そのつもりはないけど』とか、『自分が悪くないけど』という意味合いが『さ』に含まれているんです」
「つまり、標準語に直すと『凍らせるつもりはなかったけど凍ってしまった』ね」
「便利な表現だよ。リモコンのチャンネルが押ささったとか、ボールペンが書かさんないとか」
「とりあえず自分は悪くないけどっていう」
「道民はそんなに自分が悪くないけどって主張したいんですか?」
「うーん……あんまり深く考えた事なかったな」
「まあ、癖?みたいな」
最後の〆は線香花火だ。
花火セットに入っていた線香花火はポシャポシャと小さな火花を散らしてすぐに終わってしまった。
ポトリと火の玉が落ちるのも早い。
「すぐ落ちちゃいますねー」
桜が悲しそうに眉を下げていると花純がアドバイスしてくれた。
「風向きを考えてまず、風が当たらないようにするのよ。
なるべく動かない。
それから線香花火を持つ時は斜め四十五度の角度で持つの。
そうすれば長持ちしやすいわ」
「やってみます!」
言われた通りにやってみると確かに長持ちした。
「なんか、最後地味だったね」
「でも、楽しかったですよ」
「線香花火が最後っていうのが余韻があって良いんじゃないかな」
「チッチッチッ!皆の衆、待たれい!」
「何キャラだよ、冬夜」
鞄をガサゴソ漁ると冬夜が高級感のあるパッケージに包まれた花火を取り出した。
「テッテレテッテテーテーテ〜!国産線香花火〜!」
冬夜がドラえもん風に言う。
「国産線香花火?」
「そ。最近は大抵中国産。
国産線香花火は一味違うんだぜ」
「でも、お高いんでしょう?」
「確かに値段は張るけど、その価値は十分あるよ」
「線香花火の燃え方には段階ごとに名前がついてるのよ。
蕾、牡丹、松葉、柳、散り菊よ。
中国産だと中々味わえないから貴重な経験ね」
「風流ですねえ」
「誰が一番長く消さずにいられるか競争しようぜ」
棗が言い出した。
キャンドルで国産線香花火に火を点ける。
まず、直径五ミリ程の震える火の玉が出来た。
暫くすると火花が飛び出し始めた。
火花がより多く飛び散り、激しく煌めく。
確かに松の葉のようだ。
やがて火花が静かになり、火の玉が燃え尽きた。
「優勝は桜ちゃんかあ。おめでとう〜」
「ありがとうございます」
「優勝賞品として俺から祝福のキスを……あ痛!」
冬夜が桷にポカリと殴られた。
「阿呆。そりゃ罰ゲームだろうが」
「どういう意味だよ、桷!」
「そのままの意味だ」
冬夜と桷はギャーギャーと喧嘩している。
「まだ線香花火残ってるね」
「やっぱ国産は違うなあ」
「残りもやっちゃいましょう」
菜種が悪戯っぽく笑う。
冬の花火はキラキラキラキラと輝いていた。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
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今回のエピソードは学生時代に友人達と冬に花火をしたのを思い出しながら書きました。
冬の花火は雪に花火の光が映えてとても綺麗ですよ。




