番外編1 ミュンヘンクリスマス市
ご要望にお応えして番外編です!
もうすぐクリスマス。
カフェ4Uでもクリスマスの飾り付けを店内に施している最中だった。
壁にフワフワのモールを取り付ける冬夜の脚立を支えていると、降りてきた冬夜がにっこり笑った。
「ねえねえ、桜ちゃん。
クリスマスイブにミュンヘンクリスマス市に行こうよ」
ミュンヘンクリスマス市とは大通公園で毎年催されるクリスマス時期のイベントだ。
札幌市の姉妹都市であるドイツのミュンヘンの名物が食べられたり様々なグッズを購入出来る札幌の冬の一大イベントだ。
「良いですね。ここ数年行ってなかったんです」
ミュンヘンクリスマス市には大学生の頃付き合っていた彼氏と行ったきり行っていない。
久しぶりに行くのも良いかもしれない。
「ねえ、桷。桷も一緒にミュンヘンクリスマス市行かない?」
「行く」
隣でクリスマスツリーの飾り付けをしていた桷が食い気味に返答した。
「紫苑さんも行きませんか?」
「行く行く!楽しそう!」
その場に居たいつものメンバーに声を掛けると皆二つ返事でオーケーしてくれた。
冬夜が溜息を吐いた。
「桜ちゃんって……いや、なんでもないや」
「どうかしましたか?」
「ううん、いいんだ。気にしないで」
冬夜は残念そうに肩を落としている。
紫苑がケラケラと声を上げて笑った。
「まあ、良いんじゃない?
ホワイトイルミネーションに行ったカップルは別れるってジンクスあるし」
菜種がくすりと笑う。
「皆で行ったらきっと楽しいですよ。
今年はイルミネーションのラインナップが入れ替えられたってニュースで言ってました」
「そのニュースなら僕も見たよ。
ライラックをかたどったイルミネーションが今年の目玉らしいね」
榊が言う。
「ライラックは札幌を象徴する木ですからねー」
「でも、なんでもかんでもライラック色にするのはどうかと思うわ。
配色ミスで残念な事になってる施設やマークの多い事多い事」
桃花が苦笑いする。
「どうせなら札駅で降りて駅前通りを歩いて行きましょうよ。
あそこのイルミネーションも綺麗だから」
花純の提案に皆頷いた。
白いLEDライトの巻かれた木々に彩られた駅前通りを歩く。
冬の北海道は寒い為、地下歩行空間を歩く人が多いのでメインストリートの割に意外と人通りはまばらだ。
辿り着いた大通公園は人でごった返していた。
テレビ塔がある一丁目はハートをイメージした大きなクリスマスツリーが飾られており、大通公園二丁目の入口には小さなスノーマンのイルミネーションが飾られている。
インスタに上げるためか、観光客の記念撮影か。
写真を撮る人々で人だかりが出来ていた。
人波に流され、桜は皆からはぐれそうになった。
冬夜がすぐに気付いてくれて手を差し出してきた。
「手、繋ご?はぐれちゃうから」
「はい」
繋いだ冬夜の手は暖かかった。
「思ったより寒いですね。
手袋持って来れば良かったです」
桜が呟くと冬夜が桜の手を上着のポケットに繋いだ手ごとねじ込んだ。
「と、冬夜さん!?」
「この方があったかいでしょ?」
「あ、ポケットにホッカイロ入ってる」
「そ。長時間冬の北海道で外に居たら凍えちゃうからねえ」
「ぬくぬくですねー」
桜がにこにこ笑った。
桷が冬夜を睨んだ。
「冬夜、何してる」
「何が?」
「その手」
「あ、冬夜さんがはぐれないようにって。
ホッカイロ入っててポケットあったかいんだよ。
桷は何飲んでるの?」
「ホットワインだ」
「へー、良い香り。美味しそう」
「一口飲むか?」
「うん」
甘くて温かいホットワインからはシナモンやクローブなどの香辛料の香りがする。
一口飲んだだけで身体が温まる。
「美味しいね、これ」
「だろ?」
ガラス工芸品店、スパイスオーナメント店、アロマキャンドル店、キャンドルホルダー店、クリスマスカード店、スノードーム店、陶器店、お菓子の家が売っている焼き菓子店にマトリョーシカ店。
「ドイツのミュンヘンクリスマス市なのに、なんでロシアのマトリョーシカが売ってるんだろうな」
「それな。あたしも毎年気になってた」
「なんでだろうね」
「マトリョーシカで思い出したんですけど、前に雑貨屋さんで『まとりょーしにゃん』っていう猫のマトリョーシカが売ってて。
可愛くて思わず衝動買いしちゃいました」
「桜ちゃん、猫派?」
「動物全般好きです。でもしいて言うなら猫派ですかね」
「俺も一緒!ツンデレな所が堪らないよね」
フードコーナーは肉料理中心だ。
立食形式の白く丸いテーブルで料理を食べる。
ドイツ風の本格ソーセージ、ドイツ風おでん・ザワークラウトと粒マスタード添え、ムスタファブケバブ、シュニッツェル。
様々な料理を皆でシェアしながら食べる。
「旨いな、コレ」
「料理めっちゃ冷めるの早い」
「急げ急げ」
「急いで食べないと凍りそうね」
桃花の言葉に皆笑った。
料理を食べ終わるとまた散策し始める。
苺シャーベットに目が止まった。
「苺削り……美味しそうですけど冷えますよね」
「桜、ホットチョコもあるみたいだよ」
「あ、本当だ。それにします」
ホットチョコ片手に甘く香ばしい香りにつられて角を曲がると山のようなアーモンドがうず高く積まれている店があった。
「あ、ローストアーモンドが売ってる!
私、あれ大好物なんです」
味付けはシナモン、ココア、バニラ、チェリー味の四種類。
桜は一番大きいミックスサイズを購入した。
カリカリの飴焼きアーモンドに様々なフレーバーがついている。
「皆で食べましょう?」
「香ばしいわね」
「初めて食べるー。美味しいね」
「あ、俺チェリー味苦手かも」
棗が渋い顔をした。
陶器店の店先で心惹かれる陶器に出会った。
カラフルな色使いで元気の出る絵皿だ。
持ってみると少し重かったが購入することにした。
両親へのお土産にシュトーレンを買い、買い物は終了。
「『宇宙の領域』今年は飾ってないんですね……」
「『宇宙の領域』?」
「黄色味がかった電飾の木みたいなイルミネーションです。
あれ好きだったのになあ」
「あー、あれか。あれってクリスマスツリーじゃなかったんだ」
「ホワイトイルミネーションといえばあの木みたいなイルミネーションだったのにね」
「今年飾ってないのはLEDじゃなくて電球だからかな?」
「マンネリ防止かもしれないわよ」
「確かに毎年似たようなラインナップだからホワイトイルミネーション来なくなってました。
今年は皆で来たからとっても楽しめましたけど」
桜がにっこり笑う。
「来年も皆で来ませんか?」
「来年の話をしたら鬼が笑うわよ」
「もー、別に良いじゃないですか」
桜がむくれる。
「ふふっ、そうね。来年も、その先も皆で沢山思い出作りましょうね」
桃花が色っぽく笑った。
どうかこの先もこの穏やかな日々が続きますように。
そう願いながら、桜はクリスマスカラーにライトアップされたテレビ塔を見上げた。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
ブクマ・感想・評価ありがとうございます♪
とても嬉しかったです。
完結してからこんなに早く番外編を上げる予定は無かったのですが、感想で頂いたその後が気になるというご意見が嬉しくて勢いで書き上げました(笑)
番外編、いかがでしたでしょうか。
4Uの最後の方はやや重めの展開が続いていたので何でもないけど特別な一日を描いてみました。
4Uのメンバーはこんな風に毎日わちゃわちゃ楽しくやってるんだろうなあと思います。
ローストアーモンドは私の好物です。
12月に札幌に来る事があれば是非。
とっても美味しいのでオススメですよ。




