2話・バクーフ王の娘スズカ姫が現れました
「さぁ、アヤカ。悪役令嬢として私に仕えるのよ。バクーフ王の娘であるスズカにね」
「やはりバクーフ王の娘のスズカ姫様でしたか。私をイージージョブのウィザードではなく、イレギュラーなオンリージョブらしい、クエストクラスの悪役令嬢にしたのは何故です? これが貴女の言う呪いなのですか?」
「知りたい? 知りたい〜?」
成人式の儀式が終わり、子供ジョブから悪役令嬢ジョブにクラスチェンジした私の前に、バクーフ王の娘のスズカ姫様が現れたの。
今は夜の森の中であるし、スズカ姫様の護衛はいない。しかも私に「呪い」をかけて意図的に悪役令嬢にしたような事を話していてわけがわからなかった。
「ぽよ? いない?」
瞬きをすると瞬間移動したように、スズカ姫様が目の前から消えた。背後に、甘い吐息が感じられて耳元で囁かれた。
「まだ流石に私の魔力反応まではわからないのね。背中がガラ空きじゃない」
いきなり背後に現れ、スズカ姫様は私の黒い魔女服の襟を掴んで背中を覗いた。それだけは許さないと思いスズカ姫様の手を弾いた。
「背中に触れないで?」
「あら怖い顔。それでこそ悪役令嬢の顔よ。それを忘れないで。因みに、その背中には羽根でも生えてるのかしら?」
「私はドラゴン族じゃないわ。オッパイは見せても背中だけは無理。絶対に見せない。勇者様以外はね。それより、何故、私が悪役令嬢になったか教えて下さいスズカ姫様」
背中は見られるわけにはいかない。
この背中は家族にも見せたくは無い。
何故なら「勇者烙印」が刻まれているから――。
勇者様に助けられた烙印なんだから、勇者様しか見せるわけにはいかないのよ。すると、スズカ姫様は美少女の歪んだ傲慢さを見せて来たの。さっきまで以上にね。
「貴方を悪役令嬢にした理由? それはアヤカが特別な存在だからよ。特別な存在だからこそ、「呪い」をかけてオンリージョブの悪役令嬢を授けた。悪役令嬢はウィザードクラスでのチートなの。どんなクエストクラスが現れても勝てるわよ……だから悪役令嬢はバクーフ王国の王室に仕える存在なのよ。つまり、姫である私の奴隷としてね」
「答えになってませんよ? そもそも、いきなり成人式の子供からのクラスチェンジで、支配者級のクエストクラスになるなんて聞いた事も無いです。月の満ち欠けによる月齢的な異変で、マスタークラスになるイレギュラーは一年で数件は起こるのは有名ですが、私のクエストクラスというのは理解不能です」
「喜んでた癖に今更不審がってどうするのよ? アヤカはもうチートの悪役令嬢なのよ? 10代のゴールデンエイジ期間を超えてしまうと、地道にジョブマスターを目指してバクーフ騎士団の一人になり、腕を磨くしかないわ。その期間を飛ばしてチートになれば、アヤカの憧れの勇者様にも近付けるんじゃないの?」
「スズカ姫様。何故それを……」
「スズカでいいよスズカで。だって私とアヤカはこれから仲良くするんだから」
どうやらスズカ姫様は色々と私の事を知ってるようなの。ハッキリ言ってムカつくわ。悪役令嬢のチートパワーで倒してやりたいほどにね……。
「あらどうしたのアヤカ。まさか悪役令嬢の力を王族殺しに使うつもり? でも、それをしたら勇者様は貴女を殺す事になるわよ? アヤカの愛が届かなくなってしまうわよ……?」
「勇者様に嫌われたくはないのでそんな事はしません。私はもうクエストクラスなので王室に仕える身ならば、これから私が何をするか教えて欲しいですスズカ姫様」
「……いいレーザー魔法ね。次はここを狙いなさい」
スズカ姫様は自分の心臓をトントンと叩いてたの。そして、私はスズカ姫様にレーザー魔法で顔の真横ギリギリを狙い放っていた。その主君に対する攻撃でもスズカ姫様は動じないの。
狂っているわこのお姫様は……。
金色の瞳は私を何故、悪役令嬢にしたのか答えもせず呪っているような目で気持ち悪い。だんだん、呪いとは何なのか怖くなって来たわ……。
「とりあえず今日はここでお開きにしましょう。呪いの件も、悪役令嬢としての働き方も、明日私がレクチャーしてあげるから。それと、あまり無意味に魔法を使わないようにね。あそこのスライムとかビビってるわよ」
「あ! スライムを撃つつもりじゃ無かったのよ。ゴメンね」
「ハ、ハヒ!」
と言いスライムは森の奥へ逃げて行った。
会話が出来るとなると誰かのペットのようね。すると、目の前にキスをしようと唇を突き出すスズカ姫様がいた!
「ぽよ? ……何さらしとんじゃボケーーーッ!」
バチコーン! とビンタをかました!
やってまった!
スズカ姫様は美しく吹っ飛び、草の上を転がった……。
「あー……やってまった。王室仕えになったかと思いきや、一日も経たずにクビ? あぁ……勇者様助けて」
「いいわよぉ……今のビンタは凄く良い。濡れちゃうわよ私。それでこそ悪役令嬢。そのビンタでヒロインを婚約破棄させまくってね」
「はぁ、ふざけた事ぬかしてるんじゃないわよゴミ虫姫が!」
かーなーり! 上から目線でスズカ様を踏みつけながら言ってしまった!
ここで、私の悪役令嬢ジョブが発動していたの。
心の奥で思った事をそのまま告げてしまっていた……。
素早く私は後ろに下がる。
それを見たスズカ姫様は微笑み、立ち上がりながら言う。
「そのゴミ虫を見るような蔑んだ目、愚物を扱う足、黒い言葉を吐く甘美な口元。そして、絶対的な悪役令嬢オーラ。素晴らしい……私の選んだ悪役令嬢に間違いは無かった。最高のガールズラブが出来そうだわ」
「いや、ガールズラブは却下します。婚約破棄するなんて、スズカ姫様は他国に嫁ぐのが嫌なだけなのですか?」
「私は王の十番目の娘であり、姫が他国に嫁ぐ必要があるのは必要な事。でも個人的には魔法研究や世界の謎を探索しているの。「自由」になりたいのよ。勇者のように自由に世界を旅したいの」
「……勇者様のように自由に旅を?」
「それじゃ、明日。さっきも言ったけどスズカでいいわよ」
と言って、スズカ姫様は王宮へ帰って行った。
ペタン……と座り込む私は、とんでもない事が明日から起こると確信していた。
「スズカ姫様……スズカ姫様は間違いなくドMでドS。しかも私がスズカ姫様の婚約破棄をしまくる? わけわからない……それが悪役令嬢の役目なの? あぁ……勇者様助けて……」
金髪イケメンの私の憧れの勇者様に助けを求めた。
けど、勇者様は今はどこにいるかもわからないので助けには来ない。すると、一人の金髪の青年が森の奥から現れたの。
「大丈夫かい君。一時、山火事があったけど今は鎮火したようだね。僕はバクーフ森のニートジョブのニートだ。ヨロシク」
「私は……悪役令嬢のアヤカです。クエストクラスの力もあります。成人式を迎えたばかりです。ヨロシク」
「クエストクラスか……それは凄いね。悪役令嬢ジョブもオンリージョブで凄いじゃないか。でも疲れてるようだから家まで送ろう。こちらは相棒のスライムだ」
「ヨロシクですアヤカさん!」
スライムも挨拶してくれたわ。
人間の礼儀作法があるスライムなのね。
「ありがとうございます。ニートさん。スライム君」
スライムから騒ぎを聞きつけて小屋から出てきた、バクーフ森に住んでる金髪イケメンのニートさん。彼が疲弊した私を助けてくれて、ニートさんの古い小屋で食事を頂いて私は自宅へ帰りました。そのバクーフ街の自宅への帰り道で思っていたの。
(ニートさんは金髪で青い瞳で、背も高くてかなりのイケメンだわ。少し記憶の中の勇者様の面影もある……。って、ダメよアヤカ! 私には勇者様がいるし、働いて無いニートジョブの人はダメ! 家族に怒られる!)
かなりのイケメンだけど、ニートではダメです。
でも、スズカ姫様に仕えるのはもっとダメな気がするわ。
世の中とは不公平です。
頑張れ私!




