12話・ニートさんの畑へ三人で向かいます
今夜は昨日のアイヅ王国王子歓迎パーティーのように、他の貴族令嬢も交えて会食をする事になっているの。
アイヅ王子は基本的にスズカを狙っているけど、他の令嬢でも婚約は許されるの。でも、他国にメリットがあるのは姫であるスズカだから他の令嬢が選ばれる可能性はかーなーり低いけどね。
そこをかすめ取るのが悪役令嬢。
つまり、王子を婚約破棄させるなら、王子を私の虜にさせてしまえばいいのよ!
オホホのホ!
そして、トイレの前での約束通り、アイヅ王子はバクーフ王国の十番目の娘スズカ姫を紹介してくれた。向こうもヒロインモードにはなってるけど、私を知らないわけじゃない。ただ、ほとんどの自我が消えて王子様に尽くす「呪い」がかけられているだけだから。
私もアイヅ王子をゲットするライバルとして接しないとならない。アイヅ王子は爽やかな笑みを浮かべ話し出す。
「スズカ姫にも紹介したい友達がいてね。昔、君も友達が欲しいと言っていたから僕から是非このアヤカを紹介するよ。魔法が得意な貴族令嬢の子だ」
「初めましてスズカ姫。私は貴族令嬢のアヤカと申します」
スッと黒いスカートの左右をつまんでお辞儀する。ニッコリと微笑んでいるスズカは、あくまで初対面の姿勢を崩さず私と同じ動作で返した。
「初めましてアヤカさん。私も同年代の友達が欲しかったから嬉しいですわ。よろしくお願いします」
こうして、アイヅ王子に私とスズカが友人という事を認識させた。これで堂々とスズカとも話せる。後はもう一つ楔を打つ必要があるわ。すると、予想通り貴族令嬢達がこちらに来出した。
(来たわね。下心がスケルトンで丸見えのモブモブのブタ共が押し寄せてる間に私は一度消えないと)
アイヅ王子は他の貴族令嬢からも、スズカ姫と友達になりたいなどと言われて困惑していた。そうして、スズカが貴族令嬢達と話している隙をついて、私は明日の事を話しておく。
「アイヅ王子に言っておきます。明日の異世界畑調査の畑の持ち主のニートさんって、スズカ姫好みのイケメンらしいですよ? ニートだけど、金髪で青い瞳でかなりモテるようです」
「え? 無職のニートが好きなのかスズカは……」
「それではアイヅ王子様。明日の畑調査を楽しみにしていますわ」
黒いスカートの左右をつまんでお辞儀し、私は会食会場を後にする。アイヅ王子は呆気に取られたまま、貴族令嬢達に囲まれ出していた。
(困惑してる、困惑してる。これで打てる手札は打ったはず。後は明日のニートさんの異世界畑調査で、攻め倒してあげるわアイヅ王子)
こうして私達は翌日に、ニートさんの畑へ向かう事になったの。
※
翌日になり、私とスズカ。そしてアイヅ王国の王子はバクーフ王国東地区の先にあるバクーフ森の中を行く。
今日のタロット占いはデスの逆位置。終わりにしたいのに出来ない関係。腐れ縁のようなもの。つまり、幼馴染であるスズカとアイヅ王子の関係……。
これは危険な占い結果ね。
このタロットを出したスララの奴も連れてくれば良かったかしら?
(スララも連れて歩くのが一番だけど、お留守番も必要な仕事だからね。悪役令嬢はこの国の矛と盾であるクエストクラス。その名誉ある存在の侍従としての働きに慣れる必要もある。国との連絡役も大事な仕事)
森の中を歩く私達の後方にはアイヅ王国の家臣団もおり、付かず離れずの距離を保っているわ。
この森に関しては、私がモンスター達をビビらせてるから襲ってくる事はまず無い。森の中に果物などのエサも多いし、わざわざ人間を襲うまでの餓えにはならないの。
普段と違いヒロインモードでは活発的なスズカは、アイヅ王子の手を取って駆け出した。
「見て王子様! この花はバクフのクローバーと言って、本当は三つの花弁なんだけど四つあるのを見つけると恋が叶うお花なの!」
「ほう、バクフのクローバーか。……? これは四つ花弁が有るじゃないか? とすると……」
「恋が叶うという事です!」
というスズカの満面の笑みにアイヅ王子はノックアウトされてるわ。幼馴染とこんな感じになってたら勝てないわね。嫌がらせしてやろっと。
「このバクフのクローバーは花言葉だと四つの心という意味があるの。本来なら勇気、努力、愛、友情。貴族令嬢達の最近の話だと、四つの浮気心という言葉もあるんですよスズカ姫」
「あら、そうなんですか? 私は一般的な事しか知りませんでした。教えてありがとうございますアヤカさん」
「ごめんなさい。スズカ姫にはわからない話ですよね。王族はそんな下世話な話をしませんもんね」
フフフと互いに笑い合う。けど、どちらも笑ってなどいないのが女同士ならわかる。それは顔が笑っててても、目がまるで笑っていないから。
(バクフのクローバーの四枚葉はレアでもないでしょ? 嘘つきお姫様。花言葉の噂も知らないでよく言うわよ)
微妙な会話が続いた事で、アイヅ王子の心を揺さぶっているわ。でも、王子だからヘコタレはしないよう。
「まぁ、僕は占いとか迷信みたいのは信じないタイプだから気にしないでいいよスズカ姫。それでは異世界畑へ進もうじゃないか」
「もう! 私の事は昔みたいにスズカでいいんですよ王子?」
ムキーーーッ!
クソのような上目遣いでアイヅ王子を落とそうとしてるわね!
それに、王子には私のタロット占い好きも否定された感じだわ! 花の事なんでどうでもいいけどね。
そして、私達はバクーフ森をズンズン進む。
「ジュテーム! 森の中はやけに静かだね。モンスターもいない感じだ。僕はこの森が気に入ったよ!」
「それは姫である私も知ってますわ。最近、バクーフ王国の新しいクエストクラスが誕生したので、その魔女のような恐ろしい化け物のような怪物女がこの森のモンスターをビビらせたようです」
「なるほど。クエストクラスは戦争においても強力だし、戦争を起こさせない切り札にもなる。我が国は一人しかいないけど、バクーフは大国だから数名いるようだね?」
「クエストクラスと言っても、ずっと魔法研究してたり、王宮の魔法学園での講師をしてたりして普通に暮らしてますけどね。特に最近のクエストクラスの女については、危険人物なので近寄らないのが懸命ですわ王子様」
何か私、メチャクチャ言われてるわね?
魔女? 化け物? 怪物?
上等だクソ姫カス姫が!
負けてられないわ。
ここは、上手くアイヅ王子の気を引かないとならない。
「いや、アイヅ王子。モンスターを管理出来るのも素晴らしいと思います。本来モンスターを管理するのは難しいですからね。それが出来る人はジュテームです」
「おぉ! 我が国の方言を使ってくれたかアヤカ。確かにその意見もあるね。ジュテームな意見だよ」
すると、わざとらしくスズカがアイヅ王子に抱き着きながら割り込んで来る。
「でも、モンスターがビビる女というのは、余程の化け物女というのは確実でしょう。怖いですわ王子様」
わざわざアイヅ王子の腕につかまるなんて、ナメた事してくれてるわねスズカ。
そして、私達はニートさんの小屋に着いたの。私が小屋の扉をノックすると、金髪の青い瞳のイケメンが小屋から出てきたわ……全裸で!
『!?』
慌ててニートさんに着替えてもらい、今度は本当にニートさんが登場したの。互いに挨拶したけど、どこかアイヅ王子はさっきと違う様子だわ。「スズカ好みのイケメン」と言っておいたのが効いてるわね。アイヅ王子も方言を言うのが止まってる。
心の乱しとしてはオッケーだわ。
さて、ニートさんも上手く使って婚約破棄までのトラップを仕掛けないとね!




