5件目 リリアナ嬢との初顔合わせ
「私がかわいいのなんて百も承知よ・・・」
彼女はそんなことを言うと、大きなあくびをし、眠たげに目を擦りこちらを確認した。
すると、彼女の動きが止まった。
そして、目にもとまらぬ早さで勢いよく扉をドンッと閉めた。
その後、扉を少しだけ開き顔を覗かせてきた。
「ちょっと、ミィール。こっちに来て」
なるべく小さい声で扉の隙間からミィールのことを呼んでいた。
呼ばれた本人は、相も変わらず鼻を摘まみながら
「何よ?リリアナ。」
扉の方へと飛んでいった。
扉まであと少しという所まで近づいた瞬間、扉の隙間から色白で細い腕が伸びてきて、ミィールを部屋の中へと引きずり込んでいった。
一瞬ミィールの「うぇっ」という嗚咽する音が聞こえた後バタンと扉は閉められた。
一人廊下に残された自分はどうするべきか迷って、扉の前で腕を組んでしばらく様子をうかがっていた。
部屋の中からガタッゴトッと激しくモノが動かされる音が聞こえ続けること、数分。
ミィールの声で
「津雲!もう入ってきても良いよ!多少匂いもマシになったはずだから!」
ミィールからの入室も許可が出たところで部屋の大きな扉を押して部屋の中に入った。
まず目に入ったのはさっきまでとは大違いの綺麗な部屋。
さっきまではまるで夢でも見てたんじゃないのかと自分の目を疑いたくなるほどに綺麗になっていた。
見たところ、埃一つとしてもこっていなく、机の上まで綺麗に整頓されていた。
よどんだ空気も今はなく、部屋の奥の大きな窓を開け放っており匂いもすっかり無くなっていた。
「はぁ…さっきまでは汚かったのにものの数分でよくこんなに片付けたなぁ…。」
ものの数分でも部屋のビフォーアフター具合につい口からそんな言葉がこぼれてしまった。
あっ、ヤバイ!と思って口をつぐもうとしたら案の定
「貴方、初対面のくせに部屋が汚かったですって!?」
怒らせてしまった。
あくまでもクライアントの娘さんを怒らせてしまったとあれば、今後の生活がヤバイと思い謝ろうとしたのだが、ミィールがリリアナ嬢の言葉を遮る様に目の前で止まった。
すると、その小さい手でリリアナ嬢の口を押さえて、キッとリリアナ嬢の目を見つめて
「いい?リリアナ。貴方の部屋は汚かったの。」
と言い放った。
だが、リリアナも譲らず口を遮る小さな手を丁寧にどかし
「いいえ!汚くなってありません!」
と反抗した。
ソレを聞いたミィールは
「なら、ミィールちゃんが魔法で部屋を戻しても良いよね?」
と表情を一切変えずにそう言うと
「うっ…」とリリアナの口から音が漏れた。
そしてリリアナ嬢ががっくりと首を落とすと
「すみません、汚かった…です。」
とリリアナ嬢本人が負けを認めた。
はぁ・・・とため息を漏らし、直ぐに顔を上げ俺の方をまっすぐに見つめてきた。
俺はどうしたら良いか迷い、ミィールにヘルプを求めるように視線を送った。
そしてリリアナ嬢は俺を観察するように足下から顔にかけて、じろじろと見つめた後、ミィールの方に顔を向け。
「で、そこの人間は一体誰なの?奴隷?」
と言った。
ミィールは、何言ってるの?と言った神妙な顔立ちで
「奴隷な訳ないじゃないのよ、彼は霧生津雲。今日から貴方を更生させる係みたいなモノよ。」
そういわれたリリアナ嬢は信じられないと言ったような顔つきをしていた。
目を見開き、口をぽかんと開け、まるで電池が切れたおもちゃが突然動作を停止したように完全に動きが止まってしまっていた。