4件目 小さな王様の残念娘
何とかしてくれとは流石に内容がおおざっぱすぎる。
まぁ、そこを置いておくにしてもだ、何も情報が無いとどうしようもない。
初仕事なのだから念には念を入れて、気合い十分で取り組むべきだ。
「わかりました。やってみます、ところでその娘さんと言うのはどういった・・・?」
どれだけその娘さんが肉親にどうにかしてくれと言われるだけの人材(?)なのか・・・
「その、言いにくいんだがな・・・。」
なんだかばつの悪そうな顔をして、しばらく黙り込んだ。
そして、本人の中で決心が付いたのか”よし”と小さくつぶやくとまるでダムが決壊したような勢いで娘に対する思いを口にした。
「娘はかわいいんだ。確かにかわいいんだが、残念でな。そもそも我々エルフという者は、ダークエルフにせよ原種たるエルフにせよ魔力が他の魔法生物に比べ、飛び抜けて高く魔法技術もあるモノなのだ。それなのに娘と言ったらな、魔力は魔法生物としてあり得ないぐらいに感じられない上に魔法も使えないと来た。エルフなのにだぞ?かつてはそのようなエルフもいたと言われているが一種の神話のようなモノなんだよ。さすがに娘が同じなわけがない。ただ精神的に病んでいると魔力の扱いがうまくいかないこともあるからメリッサにも見てもらったんだがな特に異常はなかったらしい。魔法の扱いに関するのはそれぐらいだ。あとはだな、字の書きが壊滅的でな。下手なんだ。読めない。どこでそんな文字の書き方を習ったのか分からないが読みづらいんだよ。辛うじて部分部分としてはよめるのだが・・・。文字に関しては、津雲君には覚えてもらうついででお願いしたい。あとはだな、とにかくモノの扱いが乱雑なんだよ。俺が買い与えたモノはモノの数日で粉々にしてしまうし、出しっ放しに使いっぱなし。王族としてどうなのかと思うのだ。俺も多少整理整頓は苦手なのだがそれでも娘ほどではない。まぁまぁ、そんな娘だ。他に質問は?」
今まで溜まりに溜まっていた物を吐き出しきったのかスッキリしたような顔をしていた。
憑き物が落ちたというかなんというか。
それにてっきり話の言い出しからして褒めに褒めまくるのかと思ったが褒めていたのは”かわいい”と言うことだけであってその他はダメな部分だった。
そうだ、肝心なことを聞いていない。
名前、それに容姿だ。
かわいいと聞いたら勿論その容姿に興味がある。
勿論、名前も大事なのだが。
「娘さんの名前と、容姿を教えて欲しいです。」
「名は、リリアナ・マガタ・ラムセス。俺と同じく金髪で、俺とは違いちゃんと身長もある。」
ちゃんと身長もあると言われて少しほっとした。
よく言う胸をなで下ろすような感覚とはこれなのか。
「今身長の話をしてほっとしたな?気がついてるからな・・・まぁお願いするよ。娘は、部屋にいるからミィールについて行ってくれ。じゃあ俺は仕事があるから道を空けてくれ。」
そう言われてハッとした。
そうだった、ずっと渡り廊下の扉の前で話していた。
フェイルに道を譲った。
一人で仕事に向かっていくフェイルの背中がえらく小さく見えた。
文字通り小さいからだ。
他意は無い。
「んじゃあいこうか!ついてきて!」
ミィールのフェイルよりも小さい背中について行った。
その時に初めて気がついたんだが、ミィールの通った後には薄く緑に光った粉のような軌跡があった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
長い長い廊下にある扉、その中でも特に豪華そうな扉の前でミィールが止まった。
そして、ミィールがノックすらせずに扉を開けた。
このちっちゃな体のどこにそんな力があるのか分からないが”ドーン”という擬音が浮かんで見えるような勢いで押し開けた。
少し甘い香り、香水か何かあるのだろうか。
これが女の子という物なのだろうか・・・。
俺には縁のないものだと思っていた。
思わず目を閉じて匂いに気を取られる。
はぁ、確かにいい香r・・・
ん?まて、この匂い・・・。
「消臭剤か・・・」
落ち着いて、この部屋の元々の匂いを確かめるためにさらに匂いをかぐ。
「ねぇ、なんだか変態みたいだよ・・・?」
ミィールが少し引いているような気もするがそんなの知るか。
嗅覚に意識を集中する。
・・・・・・。
・・・・・・。
臭い・・・。
扉を開け放っていることで消臭剤の匂いが逃げた性なのか、うまくかぎ分けられたのかは分からないが生臭い匂いが漂っていた。
「待って、ミィールちゃんが前に来たときよりも匂いが酷く・・・うっ・・・」
ミィールが匂いに負けて後ろに引いてきた。
その顔には大量の汗をかいていた。
「リ"ィ"ーリ"ィ"ーア"ーナ"ー!部屋の掃除ぐらいちゃんとしてっていったよね!」
匂いから逃れるように俺の後ろにひょっこりと隠れたミィールが部屋の中にいるであろうリリアナ嬢にそう言った。
すると明かりすら付いていない部屋の中心にある大きな天蓋付きのベットからのっそりと何かが起き上がった。
金色の長い髪が顔を隠すようにだらりと前に垂れ、両腕も力なくだらりとしたソレが自分たちの方へ近づいてくる。
まるでリ○グの幽霊みたいにずるずると近づいてくる。
おもわずちょっと怖いと思ってしまった。
自分の目の前までくるとソレは
「誰・・・?ミィールは・・・?」
その見た目からは予想出来なかった透き通った声。
眠そうな声からもそれがよく分かる。
ずっと聞いていたい。
そう思わせる声だった。
「ここに居るわ。」
と、鼻を摘まみながら背中の後ろからミィールが出てきた。
ミィールの声の方向にリリアナ嬢の顔が動くと、左手で自らの髪をかき上げた。
寝起きで目が少し赤いとは言え透き通った蒼い目。
大きい目に小さい鼻、小さい顔。
整った顔立ち。
まさに美少女。
それにうっかり俺は、口にしてしまった。
「かわいい…」