prolog
目を開けると、私はここにいた。
見慣れない部屋はこれでもかというほど散らかって、そして、散らかった家具の山の中に、血なまぐさい人体が二つ。
私は、何もわからずに、ただその光景を眺めていた。
…何も覚えていない。ここがどこなのか、私が誰なのか、この状況はなんなのか、どうして記憶がないのか。
…どうして何も感じないのか。
壁に寄りかかって座っていた私の手元に、スマホと、小さな紙があった。
スマホの電源をつけると、暗い部屋が、不気味に明るくなる。
スマホの画面は電話発信画面になっていて、そこにはこう表示されていた。
『遺失物相談係 ☓☓☓-☓☓☓☓-☓☓☓☓』
私は無意識に、小さな紙を見た。
『遺失物に関する相談、受け付けます。 遺失物相談係』
変だ、とは思った。しかし、私は知らず知らずのうちに画面をタップし、呼び出し音の鳴るスマホの向こう側に、じっと耳を傾けていた。
プルルルルル…。
プルルルルル…。
プルルル、ガチャ。
ツーツーツー…。
呼び出し音と共に、スマホの電源も切れた。
それと同時に、横の方から、冷たい風が吹いた。
知らぬ間に開いた窓の前に、不思議な男が一人、立っていた。
その男は、高身長で、黒いスーツを纏い、美しく輝く白い髪は整えられていて、顔には真っ黒の布が被さっている。
「…遺失物相談係です」
その声は小さくも大きくもなく、私の中にスッと入ってきた。胸が苦しくなるほど、暖かい声。
冷たい向かい風は吹き続け、私は彼から目が離せなくなっていた。
彼はその場に跪き、布越しにこちらを見つめて、恐らく見つめて、虚無の私に暖かい声をかけた。
「お探し物は、なんですか?」
prologは短めです。
次話からこれより長くなります。