そしてゆっくり一歩ずつ
「オスカーのやつぅ——。なにかしら、人のためにその力を使うのはいい。すごくいい。
でも——手を出すなら最後までぇ〜、なんとかしろってんだぁ——!」
一息に飲み干したエールの杯を勢いよくテーブルに置き、カイくんはそんな慟哭のような声をあげた。
「後始末と手柄だけホイっと渡されても、気が咎めるんだよぉ〜——!」
「然り、然り。悪巧みも善行も勝手だが。
せめて最後まで付き合えと言いたい」
髭に手をやりつつ、同じく杯を置いたのはダビ……んー!
さっき聞いたんやけどな。なんやったっけ。ダビデなんとかやったっけ。なんか違う気ぃする。
橙色が照らし出す『妖精亭』の店内は、程よい喧騒に包まれており、彼らの不平不満もその喧騒が覆い隠していく。
「ダビ——さんもあれか、押し付けられとるんか」
店主にエールを追加注文しながら、ウチは苦笑いする。
珍しい取り合わせな3人ともにいい具合に酔いが回ってきており、とりとめのない話はそれぞれの共通の人物、ここには居ないカーくんの話題になってた。
「ダビさん。ふふ。ダビさんか」
「アーニャさん。念のためだが、ダビッド = ローヴィス卿は……」
「いや、いい。存外に、悪くないものだ。ふふ、この私がダビさんか」
何が可笑しいのか、ダビッド——や、本人がなんか満足げやからダビさんでええか。覚えやすいし。ダビさんは口の端を釣り上げて笑う。
「おもろいんやったらもうちょい、楽しそうに笑ろたらええのに。
それこそ、悪巧みしとるみたいやで」
「ふっふ。善処しよう」
運ばれて来たエールを呷り、豆を齧る。そんな姿まで不思議と胡散臭いんやから、筋金入りやと思う。
「まあカーくんに仕事押し付けられるんは難儀やと思うわ。
直近やと、あれか? ラッくん連れて魚釣りに行ったとかいう」
「いいや。皇帝事変のほうだ。というかアーニャさん、君もあのときは一緒にいただろう」
「皇帝事変! いやはや、王都でも数日はてんやわんやになったものだよ。
リーズナル卿の内偵が実を結んで、というふうに聞き及んではいたが。やはり奴か」
「あの規模の組織的な薬物売買、一朝一夕ではなかなか」
こーてーじへんっていうのに覚えはなかったけど、ヤクブツって言われたら思い当たるもんがあった。カーくんとウチのなかでは朝出発してその日の昼過ぎには解決したんやけど、どうもその後が大変やったみたいやな。
工房に来たカイくんが、そのことでカーくんにやいのやいのと絡んで、適当にあしらわれてたんも最近の話やった。
「あの日、実は私の誕生祝いを兼ねた見合いの席だったんだぞぅ。最初から断るつもりではあったけれど」
「あー。そりゃー……素敵なお祝いには、ならんかったんやろなぁ」
「そりゃあもう、なんともひどい幕切れだったとも。
『どうも私が行かねばならないようなんだ』と理解を求めたが、相手方家族にも断るために適当なことを言っていると取られたりね。
当の私がどういうことかをわかっていないのだから、無理もないんだが」
わりとしっかり災難やったらしい。
そういや、その日も『なんかそれなりに大事ななんかの最中やってんぞー』って言ってた気がせんでもない。なんかすまん。
「そんなのは憲兵の仕事でしょう、と詰め寄られたりもした。
それは私もそう思うが! とてもそう思うが!」
ぐいっと呷ったエールの杯は再び空になってしまったようで、さらに3人分の追加をお願いしておく。
「王都にも、私を名指しでなんとも面倒な話ばかりが来るよ。潜入や内偵だけで本来10日から、長いものだと1年は掛かるような案件の、最後の詰めが『王都のダビッド = ローヴィスを頼るよう言われた』と。
こちらとしては寝耳に水でしかないのだが。経緯や背後関係は完全無視で答えだけ提示されたような気分だよ」
複雑な案件の解決は手柄になるのは違いないので、なまじ怒るに怒れないらしい。
おっさんも大変なんやなぁ。
「あそこまでお膳立てされて動かなければ、職務怠慢を疑われる。
傷心の男としてはのんびりしていたいのだけれどね」
ウチ自身の関わってる事件もたぶん中にはあるんやろけど、めっちゃ他人事気分なウチとしては、食事のほうが優先やった。
新たなエールの杯とともに運ばれて来た鳥料理に齧りつくと、じゅわっと脂が口の中に広がって消えていく。
そうやって料理を楽しむウチを、ダビさんはまた口の端をつり上げで笑った。うーん、何が可笑しいんやろ。カーくんがことあるごとに言うように、やっぱ胡散臭いってのはウチも同意見やわ。
「なんやのん、そんな見られてると食べづらいで?」
「ああ、これは失礼。
アーニャくんがとても美味しそうに食べるもので、ついね」
「そりゃまー、美味いかんなぁ」
ウチを眺めてないで、自分も食べたらええのに。
「彼の――オスカーくんの工房はかなり景気が良いと聞くがね。
ちゃんと、食べさせてもらっているか?
不自由していることはないか?」
「心配されんでも、ウチらは大事にされとるよ。よく獣人やってこと忘れそうになるくらいやわ」
「オスカーは、君たちを奴隷扱いどころか獣人扱いも、おそらくほとんどしていないからね。その首輪くらいのものか」
ウチの首元でなめらかな質感に鈍い輝きを放っている首輪を指し、カイくんが言う。
「これなー。無いと面倒なことに巻き込まれるからにゃあ。
オスカーくんがこさえてくれたんやで。
めっちゃ便利やし。それに、キレーやろ」
カチリと小さな音を立てて、首輪が外れる。
片手でぷらーんと吊り下げて、正面から見て。なんとなく、笑みが溢れる。
「――」
「それよか、探りの会話はほどほどにしときや。友達おらんなるで?」
ウチがさも簡単に首輪を外したので、息を飲むダビさんを見返しながら、首輪をパチリと嵌め込む。うん、やっぱし落ち着く。
まるで長年そこに着いているのが当たり前だったみたいな自然さで、首輪は元の場所に嵌まる。
「――残念ながらというべきか、これ幸いというべきか。いなくなるほどの友達が、元からいなくてね」
「それでもや。
一緒に酒飲めばウチらは友達みたいなもんやろ。ウチらに嫌われとうなけりゃほどほどにしときやって話や」
「手厳しいね、まったく」
ウチが言い切ると、ダビさんはまた口の端を曲げて、笑った。
まるで何事か企んでるみたいに見える笑いでも、ダビさんにとってはこれが普通なのかもしれへん。
「わからんでもないで、ウチにも。
あんたが加担して売り捌いた子らへの罪悪感みたいのがあったとして」
「ちょっ――アーニャさん!?」
一瞬で酔いが覚めたかのように、カイくんが狼狽する。
けど、ダビさんは静かにウチを見つめたまま。
黙認と受け取って、続ける。
「でも、少なくともウチらは気にせんでええ。ウチらは幸せに暮らしとる」
「――」
「やから。あんたの――ダビさんの償いの気持ちは、別の子らに分けたりや」
「――まったく」
ダビさんは、再び口を笑みの形にする。まるで、その笑い方しか知らんみたいに。
「まったくもって、手厳しいよ」
ダビさんの見つめるエールの杯は、またしても空になっていた。
もはや何杯目になるかわからない。ウチは、おかわりを頼む。
飲む。
頼む。
飲む。
時折、尻尾のあたりにこそばゆい感覚があるんやけど、何度見ても誰もおらん。
ちょいとばかり、飲み過ぎたやろか。
「っぷぁっ! ふぅ〜。
まあまあ。ほんまに心配いらんて。
ウチらはすっごい大事にしてもろてるよ、」
嫁やからな、と言いかけて、やめる。
「――家族、やそうやからな」
ウチは現状で十分満足してる。
これ以上を望んだら、全て壊しかねない。そんなん、嫌やった。
今日やって、元気のないウチの気分転換のために、わざわざカーくんたちが送り出してくれたってことくらい、わかってる。
「それにしては、元気が、ないようだが」
随分飲んだからやろな。
半ば目も閉じかけ、随分眠そうなカイくんが、それでもウチのことを気にかける。
「んにゃ。そんなことないで」
ただ、思い知らされただけだ。
獣人に対して、世界は優しくないことを。
ただ、思い出しただけだ。
決して、自分たちが人間になったわけではないことを。
ただ、思い違いをしていただけだ。
今以上のシアワセが、もしかしたらあるかもしれない、なんて。
「最初からなかったモンが、より明確んなった。それだけのことや」
「――」
「あにゃ。カイくん寝てもうたかな」
半ば以上にテーブルに突っ伏した姿勢で、彼からの応答はなくなった。
にゃはは、と苦笑い。
そろそろ今日はお開きかなー、飲んだなー。
ぐぐぐーっと伸びをしたところに、ダビさんが静かに口を開く。
「魔力欠乏症」
その、聞き覚えのある単語に、ウチはびくりと固まる。
「当のオスカーくんに、聞かれたのでね。
症例や、対策や、なんやかんやと」
「は、はは――そか」
何の事かわからない、としらばっくれることも、できた。
事実、それなりに酔っぱらっており、ぶっちゃけ適当な受け答えをしていたりもするのだ。不審には思われまい。
でも、このときウチはしっかりがっつり固まってしまって。
ダビさんは、そんなウチを見て、ふーって長い息をつく。多少、酒くさい。
「ただの自分語りだが、聞いてはくれまいか」
「勝手に話すとええやん。
ウチかて勝手に喋らしてもろてるし」
本来、人間の貴族相手に獣人風情が働いてよい態度では、決してないはずだった。
というか、同じ卓を囲む事すら、普通はないだろう。
表立って何を言われたわけでもないが、この『妖精亭』でも、こちらの様子をちらちらと伺う者達が少なくない数いた。
でも、そんな不遜なウチの物言いにも特にダビさんは気分を害した様子もないみたいやった。
なんかウチに甘い気がする、このおっさん。さてはウチに惚れたか!? でもウチ、カーくんのモンやからなぁ〜。
なんて。
シャロちゃんの物言いみたいな甘い考えも、すぐに霧散する。
だって、ウチは。
ウチら獣人は、魔術師の子を産む事はできへんねやから。
「それも、そうか。
私は実は、身分違いの恋を応援するマンだ」
「なんやマンって」
酔っ払って、ちょっとおかしなっとるんやろか。
「まあ聞くがいい。 友の話は聞いておくもの、らしいぞ」
「……まぁええけど」
さっきの意趣返しやろか。
何度目かのにやりとした笑いを浮かべるダビさん。ほんまにこのおっさんは悪巧みみたいな顔しかせーへんな。
「身分違いの恋、おおいに結構。
諦めるのはいつでもできるのだ」
「でも、ウチはもう諦めたんよ」
そもそもの話。カーくんにはシャロちゃんがおる。
無理にウチが支えたろうとせんでも、もっと強くてもっと可愛い子が、嫁として。
それだけやない。
「ウチら獣人は、魔術師の子どもを身籠ったら、育たんと死んでまうらしい」
「――魔力欠乏症の話、だな」
ダビさんの言葉に、こくりとウチは頷いた。
「そんなん、悲しすぎるやん。
そんなん、つらすぎるやん」
つらいのはウチだけやない。
そんなことになったら、あのお人好しの少年は、自身を責め続けるだろう。
「『獣人』って、なんか悪いことしたんかなぁ」
「――」
ウチの脈絡の欠けた独白に、応える声はない。
応えられる者はない。
「なんで、ウチら姉弟は、『獣人』なんかなぁ」
杯を呷る。空だった。
「『獣人』やなかったら、諦めんで、よかったん、かなぁ……」
無意味なたとえ話に、一瞬目が潤む。
だいじょーぶ、だいじょーぶ。まだ。
泣いたって、何か良いことがあるわけやないんやから。
「そんなに『獣人』は、あかん存在なん、かなぁ」
「――『獣人』であろうと、なかろうと。
私は、まだ諦め時ではない、と思うがね」
ウチの、とりとめのない弱音に。
さっきまでの人を食ったような、軽い調子はなりをひそめて、ダビさんは優しく語りかける。
普段からそうやって喋りゃええのに。
「しばらくは、……んー。待つしかないかも、しれないけど」
起きとったんか。
カイくんはもぞもぞと動いて、寝ぼけ声やった。
けど、それでもしっかりと。意見を口にする。
「しばらくって何やねん。
しばらくたったら獣人の境遇はよーなるんか?」
ふわふわ、くらくら。
エールを飲み過ぎたせいかもしれへん。
半分以上寝とるカイくんに食ってかかってもしゃあないのに、ウチの口から言葉が飛び出す。
「いやぁ。そっちじゃなくて、君の話だよ」
「ウチの?」
「そう、こどもがどう、とかの」
ほぼ突っ伏してたはずやのに、聞いてたんか。
「でも。無理やって言われたんやで。
カーくんも、認めてた。
魔術師と、獣人だと、確かに無理やろな、って」
その後の話は、なんかよー覚えてない。
気付いたら普通に寝て、普通に起きて。でも調子は戻らんくって。
カイくんは、そんなウチをみて、にへらっと笑った。
整った顔に、優しげな笑顔も、テーブルにべちゃあってしてたら魅力は全然ないねんなっていうのがよくわかる感じや。それこそ見合い相手にこれ見せたら、相手からお断りされるんちゃうやろか。
「オスカーは、無理だと言われたら、それで諦めるやつだったか?」
「ーーへ?」
一瞬、何を言われたのか飲み込むのに暇かかった。
「私も同意見だな。
あの小僧は、無理だといわれたことを嘲笑うかのように片手間で解決するだろうよ」
「おうとも。僕の友は、やるやつだからね」
男達は、クツクツと笑う。
かつては彼に剣を向けたという、後の友人は笑う。
かつては彼と牽制腹芸を繰り広げ、後に仕事を押し付けられる役人は笑う。
「僕らではなく、他ならぬオスカーのことなら、信じられるのではないかな」
「ぁーー」
それは、なによりも、誰よりも。自分よりも、信じている人のこと。
物事は何も動いてへん。
何が良くなったわけでも、悪くなったわけでも、ない。
それでも、カーくんなら。
カーくんなら、なんとかしてくれるかもしれへん。
そんなふうに思ったら、ただそれだけで、わぁって世界に彩りが戻ったみたいな、そんな感覚を味わった。
突如元気を取り戻したウチの尻尾が、何かをはたいたような気がせんでもないけれど、そっちには何も無い。
「ウチ、諦めへんでええんかなぁ。
好きで、い続けても、ええんかなぁ」
獣人やのに、これ以上を求めても、ええんかなぁ。
「それこそ、少年に聞いてみれば良いだろう」
「それこそ、我が友に聞いてみればいいんじゃないか」
見事に発言を被らせ、笑う。
そうして、飲んだくれたちは解散した。
ーー
ふらつく足取りで、閉店していることを示す看板が掛かっている工房の戸を、そぉっと押し開ける。
1階にはまだ暖炉の灯りが煌々と照っており、そこではもう一人の恩人が、ちくちく、ちくちくと作業をしていた。
「最初はどーなることか思ったけど、なんや形になって来たなぁ」
「ええ、まあ。気付いたら目の数が増えてたりするんですけどね」
「なにそれこわい」
言うてるうちにも、ちくちくと、シャロちゃんは手元の毛玉をくるくる回し、木をちくちくと動かして。
一部、歪んでいたりもするそれを、ことのほか器用に編み上げていく。
「カーくんは?」
「ちょっと魔力を使いすぎていたので、無理矢理ベッドに放り込んできました」
「そか。そのまま襲い掛からんかったんか、珍しい」
「ふふっ」
「えっ、もしかしてもう襲い掛かった後なんこれ!?」
キレーな目をきらっと光らせて、微笑みだけで返すシャロちゃん。
おねーちゃん、アーちゃんラッくんがしっかり寝てたかだけが心配やわ。
「あんな、ちょったけ、聞いてほしいねんけど」
返事も聞かず、シャロちゃんの横に腰を降ろす。
シャロちゃんは、手元に集中していて、ちくちくし続けている。
「諦める必要あるんか、みたいなことを言われてん。
カーくんなら、なんとかするやろって。軽い感じで」
誰が、何を諦めるのか。
何をなんとかしてほしいのか。
それらをさっ引いて。
ただシャロちゃんに聞いてほしくって。
「オスカーさんですもの。私はそもそも心配してませんよ、これっぽっちも」
編み物から目を逸らすこともせず、あっけらかんとシャロちゃんは応えてくれる。
「ウチ、好きでい続けていいんかなぁ」
「私が許すのですから、誰に憚ることでもありませんよ」
誰を好きで、なんで諦めようとしたのか。
シャロちゃんには、言うまでもないようで。
「今、出来なくたって。挫折することがあったって、いいんです。
そのうち、出来るようになったりします。そういうものです」
「ーー羊泥棒やっつけに行って毛玉をもらって帰って来たとき、カーくんのまふらー? 作るって思いついたのはええけど。あまりの出来なさにシャロちゃん半泣きやったもんなぁ」
「記憶にございません」
なんかすっごい、にくそい返し方をされた。
「挑戦し続ければ、出来るようになったりするのです。
望み続ければ、そのための手段を用意してくださったりするのです。
それが、私たちの旦那様。でしょう?」
小首をくりっと傾げ、長い睫毛を瞬かせ。
ウチを見上げるシャロちゃんの目は、完全にカーくんを信じ切っていて。
「ーーうん。挑戦、か」
「まぁ、オスカーさんに受け入れてもらえるかどうかは、私にはわかりません。
そこんとこは、頑張ってください」
編み物に視線を戻したシャロちゃんに、ウチは決意表明をする。
「がんばって、みる」
ーー
頑張ってください、と返す前に。
彼女はどたどたと2階へーーオスカーさんの元へと一直線でした。
すぐに、”結界”が展開されたのを私の魔力センサーが検知します。
「うにゃあ!? なんやこれ! 壁!?
抗魔ぉ、なんで働かんの? なんやおまえサボりかっ」
どうも寝込みを襲おうとして、一瞬で阻まれたようです。2階からはアーニャさんの悲しみの声が漏れ聞こえてきています。
私も通った道だなぁと思うと、なんだかしみじみとしてしまいます。ただ、それは私の芸風なので、アーニャさんにはもうちょっと独自路線を開拓していただきたいものですが。
いい具合に酔っていらっしゃるようなので、あまりにオスカーさんのお邪魔になるようなら物理的に引っ張り降ろしてきましょう、そうしましょう。
そうしたら、ガールズトークの続きをするのも、良いやもしれませんね。
アーニャさんたちには、本心から頑張ってほしいと思っていますから。
もし。万が一。
私が壊れて動かなくなったあとに、あのひとの支えになれるように。
他人のためにしか動けない、あのひとの生きる理由になれるように。
ちくちく、ちくちく。
完成までは、まだもう少し。
これにてひとまず閑章は終了です。
次回からは第三章に突入する予定です。これからもオスカー・シャロンの魔道工房をよろしくお願いします。




