閑話 - アーシャと天使様
予約投稿仕掛けるの失敗して、一瞬だけ公開されちゃっていました。
ちらっと見ちゃった読者の方がもしいらっしゃったらご容赦ください。そこから加筆していますので、ぜひ読んでいただきたいです。
今回はちょっと短いですが、アーニャの妹、アーシャのお話です。
なんだか、全部が夢のなかみたい。
ベッドはふかふか。
お服はすべすべ。
お腹はまんぷく。
髪もおねえちゃんに洗ってもらってふわふわになって、いつもの通りに二つ括りに戻ったの。
隣には、おねえちゃんと、お腹を出して寝こけてるラシュ。
こんなに幸せで、いいのかな。
ぜんぜん寝ていないのに、なんだか眠れないの。
寝たら、この幸せな夢から覚めちゃいそうな気がするの。
だから、おねえちゃんとお話するの。
ちっちゃいときみたいに、耳を撫でてくれてるおねえちゃん。
おねえちゃんも、無事で本当によかったの。
「おねえちゃん、あのね。アーシャ、シャロンさまに会ったとき、天使様だとおもったの」
天使様のおはなしは、ちっちゃいときに、おねえちゃんが教えてくれたの。
綺麗で、強くって、優しいの。
「んー。シャロちゃん綺麗やもんなー。えげつないほど強いし。
ただ、めっちゃおっぱい揉んでくるんやけどな」
「アーシャ、揉まれなかったの」
ぺたぺた。
アーシャ、おっぱいないの……。
ううん、なくはないのっ。おねえちゃんがおっきすぎるだけなのっ。
「なんやなんや、なに暴れとんねんな。
おねーちゃんやぞー、よしよし」
むにむにと押し付けられるのが、ちょっとだけにくらしいの。
でもそれも、アーシャの隣で寝こけているラシュをみると、はにゃっとどっかにいっちゃうような。そんな気分なの。
「おねえちゃん。アーシャたち、助かったんだね」
やっぱり。まるで、夢みたいなの。
なんでもがうまくいって。おねえちゃんも、ラシュも、こうして皆無事なんて。
ほんとうに、夢だったらどうしよう。それは困るの。とっても困るの。
「大丈夫やでー。
怖かってんな、そりゃな。
大事なときに、おねーちゃんがおらんでごめんな」
もう。またおねえちゃんは謝るの。
「そういうのはなしってさっきも言ったのっ!
オスカーさまも言ってたのっ!」
「すまんすまん」
オスカーさまも、シャロンさまも、アーシャたちを助けてくれたひとたちは、とってもとっても優しかったの。
シャロンさまは、アーシャを連れ出してくれたの。連れてこられたときにいた、すっごいこわい魔物は、シャロンさまがやっつけちゃったの。すごいの。
オスカーさまは、お肉くれたの。ラシュにもあげてたの。オスカーさまの分がほとんどなかったの。優しいの。
オスカーさまとシャロンさまが、おねえちゃんを助けて、アーシャとラシュを探しにきてくれたってところまでは聞いたの。いまはお二人とも、お部屋から出ていっちゃったけど。ちょっとヤボヨウって言ってたの。
助けに来てくれるのが、あともうちょっとおそかったら、アーシャもラシュも、魔物のごはんになってたの……。
ぶるっと尻尾が震えるの。そしたら、おねえちゃんが耳の間をなでなでしてくれた。
アーシャ、これとっても好きなの。
「あのね、おねえちゃん」
「ん?」
「アーシャね。ラシュもね。がんばったの」
「うん。よー頑張った」
「ラシュね、アーシャにしがみついて離れなかったの。
ごはんも、食べなかったの。毒入ってたの」
「……そっか。ほんまに、よーがんばったなぁ」
おねえちゃんが鼻声なの。
「こわい男のひとたちが、アーシャとラシュを、おっきいおうちに運んだの。
こわい魔物のいるところを通って、お部屋にいって。そこにもおっきなベッドがあったの」
こーんなにおっきな! って腕を広げたら、ラシュにぶつかったの。ごめんなの。
ラシュ寝ながらうなってるの。ごめんなの。
「こわいおじさんと、こわいでぶがきて、ラシュをつれてったの。
アーシャがおとなしくすれば、ラシュは食べないって言ったの。
アーシャ食べられちゃうって思って怖かったけど、ラシュのおねえちゃんだから」
にんげんこわいの。おねえちゃんの言った通りだったの。
でも、オスカーさまも、シャロンさまもこわくないの。不思議なの。
「こわいでぶ」
「こわいでぶなの」
「それはこわいにゃ……」
「こわかったの」
こわいでぶはこわかったの。鼻息荒かったの。ぎょろぎょろしてたの。
きっと、アーシャたちのなかまを食べて、こわいでぶになったの。こわいの。
「でもね。
アーシャが食べられちゃう前にね、すぐにこわいおじさんが戻ってきたの。
こわいでぶはとても怒ってたの。こわかったの。
それで、こわいでぶもいなくなって、ひとりぼっちになったの」
おなかぺこぺこだったし、何日も寝てないし、ラシュも連れていかれちゃったし、とってもとっても心細かったの。
お部屋は窓もなくって、扉も開かなくって、もし開いてもこわい魔物がいたの。ぴんちってやつだったの。
「こわくって、机の下に入ってみたり、扉の裏側にいてみたり、うろうろしてたの。
そしたら、ばーんって音がして。どーんって音がして。
アーシャ、おとなしくしてなかったから魔物が怒ったと思ったの……」
「ウチ、その魔物は見てへんなー。地下におったんか。
ラシュを着せ変え人形にしようとしてた変な魔術師には会うたけど。
そうか、あれラシュ食われそうやったんか……危ないとこやった」
アーシャ、にんげんの前ではおとなしくしてたのに。
約束守らないにんげん、やっぱりこわいの。
「土の、おっきな、おっきな、こーんな――あ。ラシュごめん、寝てていいの。ごめんなの。
おっきな魔物、こわいでぶが何か言わないと暴れるって言ってたの」
とっても、とっても不安だったの。
ひとりぼっちで、お部屋で震えてたの。
思い出しただけで、涙が出てくるの。
「ふぇ、……うぇ。うぇぇ」
「だいじょーぶ、ウチもラシュもおる。
ねえちゃんは強いやろ、それよりもっともっと、カーくんとシャロちゃんは強いんやからな。
すっごいおっきな、お山のてっぺんをな。こーんな――あ。ラシュすまん」
「うぇぇ。おね、おねえぢゃぁあ」
悲しくなんてないのに。
もう怖いのも終わったはずなのに。
「頑張ったな。ほんまに、よう頑張ったよ。
よしよし。べっぴんさんがだいなしやで」
「うぅ。アーシャがんばったの」
いっぱいいっぱい、がんばったの。
「ほらもー、鼻かみな」
「えぅぅ」
いつまでもちっちゃい子扱いはやめてもらいたいのっ、っていつもなら言うんだけど、今日は泣いちゃったから仕方ないの。
今まで泣かなかったんだから、がんばったのっ。
「えっとね……それでね、それでね。
どかーんって、扉がね、なったの。
アーシャ、びっくりしちゃって。机に頭ぶつけたの」
「ここ?」
「んーん。このへん」
身長縮むかと思ったの。
「ていうかまた机の下入っとってんな」
「それからすぐ出たのっ!
それでね、次にどーんってなって、静かになったなぁって思ったら、扉があいたの」
アーシャ、またびっくりしちゃったの。
だって、あんまりに奇麗なひとだったから。
「アーシャ、シャロンさまに会ったとき、天使様だとおもったの」
「シャロちゃんはなんか言ってたん?」
シャロンさまは、アーシャには『もう大丈夫ですよ』って、一言だけ。でも、そのひとことで、アーシャは救われたの。
ああ、もう大丈夫なんだ、って。なんにも終わってなんかないのに、とっても安心しちゃったの。
はじめて会ったのに。とっても不思議な、あったかい声だったの。
あとは、オスカーさまやおねえちゃんたちの方に、連絡するんだって板にお話したりして。
それで、おねえちゃんや、ラシュともう一度会えたの。とっても、とっても嬉しいの。
「んー」
「なあ、シャロちゃんなんて言うたんよ?」
「ひみつ、なのっ!」
ぜんぜん特別なことなんてないやりとりかもしれないけど、アーシャが天使さまと、はじめておはなししたことなの。なんとなく、しっかり覚えて大事にしまっておくの。
「えへへ、なの」
おねえちゃんが、耳のうら側をこしょこしょしてくれるのが、気持ちいいけどちょっとくすぐったくって。
なんだか、お話をしてたら眠くなってきちゃったの。
もっともっと、おねえちゃんとお話したいこと、あったんだけど。今日のところは、おねえちゃんと、ふかふかなベッドに挟まって、贅沢に寝るの。
ふぁぁ――。
「おやすみ、おねえちゃん」
「ん。おやすみ、アーシャ」
4日ぶりの、おねえちゃんのおやすみは、優しさに溢れていたの。
シャロンさまも好きだけど、やっぱりおねえちゃんが、大好きなの。
「――おねーちゃんがおらんなっても、ラシュと仲良く暮らすんやで」
最後に、おねえちゃんが寂しそうになにか呟いた気がしたんだけど、ふあぁ――なんだったのかな。
おやすみ、またあした、なの。
書いてて『の』がゲシュタルト崩壊しました。




