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閑話 - 私と水遊び そのいち

ちょっと時間戻ってゴコ村での一幕です。

閑話では、オスカーくん視点とは限らずちょいちょいっとした小話をやるつもりです。

 オスカーさんに直してもらった脚の調子は今日も絶好調。

 ぴょいぴょいっと岩の上で飛び跳ねてもへっちゃらです。

 

「そんなにはしゃいでいると、転んで怪我するぞ」


「はい。気をつけます」


 私の姿勢制御やマニピュレータも絶好調なので、何かしらの外的要因がない限りは転ぶということはないのです。

 でも、オスカーさんに心配をかけてしまってはいけません。


 私は岩場からぴょんと飛びのいて、オスカーさんの隣に戻ります。

 ここはもっぱら私の定位置です。えへへ、オスカーさんらぶ。


「なかなか水の勢いがあるな。岩もごろごろあって結構危ない。

 僕の指示とはいえ、シャロンはよくこんなところに飛び込んだな……」


 私がエリナさんを救出したときのことを仰っているのでしょう。

 村のすぐそばを流れる川を見に来たオスカーさんは、何やら思案を巡らせているようです。


 たしかに、ヒトであれば高い確率で大怪我を負いかねません。

 実際にエリナさんも瀕死の重症を負っていました。

 しかし、こと私に限って、オスカーさんからせっかくいただいた指令を違えることなどないのです。

 魔導機兵として、いえ良妻たらんものとして、それは譲るわけにはいかないのです。


「僕の言ったことでも、理不尽なこととか危ないとシャロンが判断したことには従わなくてもいいんだぞ?」


 これにはさすがのシャロンちゃんも苦笑いです。


 私がオスカーさんにいただいた指令に従わないことなど、魔導機兵として定められている禁則に関することくらいしかないのです。

 でもでも、これもオスカーさんによる指令だと解釈すれば、もうちょっといろいろできるかもしれません。ぐふふ。頬が緩んでしまいます。


「はい。では必要な場合は私の判断を優先させることもやむなし、と考えて良いのですか」


「そう……んん。ちょっとまて、シャロン。

 具体的にどういう場面を考えて言ったんだ、今」


「はい。たとえば夜這いをかけたときに理不尽にもオスカーさんから追い返されそうになった場合は抵抗させていただこうかとーー」


「そういうことだろうと思ったし、そういう意味で言ったんじゃないよ!」


 むぅ。良い案だと思いましたのに。


 私にはオスカーさんのようにヒトの機微を察する能力はありませんが、最近のオスカーさんの態度ですとあと一押しな手応えを感じるのです。私の知識にインプットされている少女漫画的思考が唸りをあげます。

 少年誌的アプローチではあまり靡かれないというか、煮え切らないハーレム系主人公のごとき反応を返されてしまうことを私は学びました。エリナさんもガンガンとアプローチをかけてらっしゃいますが、それすら寄せ付けないオスカーさんの防衛力は確かなものです。


 しかし! しかしです! 私はその例外でなくてはならないのです。

 具体的には、一刻もはやくオスカーさんに受け入れてもらわねばなりません。


 オスカーさんはこんな私を対等なパートナーとして見てくださっています。それには絶対にお応えしなければなりません。

 私も、落ちこぼれとはいえ魔導機兵としての矜持があります。持てる全ての力を使い、オスカーさんを満足させてみせるのです。

 早くお役に立ちたいな。



 ぷらぷらと並んで川のそばを歩いていたオスカーさんと私でしたが、村が途切れ森に差し掛かったあたりで、オスカーさんは足を止められました。


「あらかたこの辺の地形はわかったし、一旦戻ろうか」


「はい。この後はどうされますか?」


「そうだなぁ。木材の切り出しと加工はひと段落したことだし。

 シャロンは家屋の建設にまわってもらえないか?」


 焼失(もえ)てしまった村の人たちのおうちを建てるのは、たしかに急務でありましょう。


 私たちが間借りしている村長さんのおうちから一刻も早くそれぞれのおうちにおかえりいただかないと、オスカーさんが周りを気にしてしまって、私に手を出してくださる可能性がさらに下がってしまいます。

 初日こそ弱みにつけこませていただいてーーげふんげふん、お疲れのオスカーさんに膝枕を提供できましたものの、そういう嬉し恥ずかしイベントはそう何度も続くものではなかったですし。


 テコ入れが必要なのです。どうにかして環境を変えねばならないのです。


「はい。お任せ下さい。

 幸い、建築の知識もある程度はあります。

 その間、オスカーさんは働く私を視姦していてくださいますか?」


「パートナー働かせて何やってんだ、最悪な奴じゃないか!」


「いいえ。基本的に何をされていてもオスカーさんは最高ですよ」


「せめて見守るとかそういう言葉選びをしよう、シャロン。

 可愛い女の子が言うべき言葉ではない」


 あなたの可愛い女の子たるこの私、シャロンは絶対忠実です。

 視姦はだめ、見守るに置き換える。


「はい。わかりました。この命に代えましても」


「重いよ!

 それに、僕は僕でやろうと思うことがあるんだ」


 自家発電的なことでしょうか、ぜひお手伝いを、とは言いません。

 以前に言って怒られたからです。

 あなたの可愛い女の子たるこの私、シャロンは言いつけを覚えて守れる良い子です。


 それに、いまのオスカーさんは何か閃いた顔をしてらっしゃいます。

 こういう、何かに夢中になっているオスカーさんも私は好きです。オスカーさんらぶ。


「準備ができたら、シャロンにも手伝ってもらえるかな。

 たぶん僕ひとりでやると時間がかかる」


「はい。もちろんです。

 手を離したら家が倒壊するような状況であっても、私はオスカーさんのご用事を優先させます」


「それはやめて」


 止められてしまいました。

 さささっと家を作って、オスカーさんの元に戻ってくるといたしましょう。


「今度は、何を作るのですか?」


 私の問いかけに、オスカーさんはとびきりのいたずらを思いついた子どものように、ニッと笑って言うのです。


「うん。実は、水車を作ってみようと思うんだ」



 ーー



 私が建設業の真似事をしていると、見物人がぞろぞろと集まって来ます。


 手の空いている村の人たちをどんどんと徴用し、彼らのおうちの完成を急ぎます。

 ちっちゃい子は危ないから、下がっていてね。


 ちっちゃい子は可愛いです。

 なんか丸くてぷにぷにしています。

 でも可愛さではオスカーさんのほうに軍配が上がります。

 気持ち良さそうに私の膝の上でおやすみになられていたことを、おとといのように思い出せます。実際にもおとといのことなのですけれど。


 ああ、でもオスカーさんの子どもとなると、もう可愛いなんてものじゃないんだろうなぁとも思います。

 オスカーさん素敵語録No.8にも『シャロンにはじめて会ったとき、僕は君のことを天使だと思ったんだよ』とありますが、そんなオスカーさんと私との子どもであれば、大天使すら凌駕する可愛さとなりましょう。


 神継研究所のあの有様では、現存する孵卵器の入手は絶望的な感じでした。私も一時はとてもとても残念でなりませんでした。

 でもでも、オスカーさんのお力をもってすれば、いずれ作り上げてくれるのではないでしょうか、という期待ーーいいえ、これは確信ですね。オスカーさんに作れないものはないのです。私のマスターですから。孵卵器どころか子どもだって余裕で作ってくださるはずです。500人くらい。


 それまでに、オスカーさんと既成事実を作るのは確実として、子どもを養えるだけの財力を得ねばなりません。良妻たるもの、家計を任されても完璧にこなさなくてはなりませんから。


「シャロンちゃん、ちょっと休憩しないで大丈夫かい?

 さっきからすごい笑顔で、すごい速度で動きまわっているけど、疲れちまわないかい」


 一緒に作業をしているメイソンさんが、気遣ってくださいます。

 この方に限らず、村の人たちは私をよく気にかけてくださいます。

 彼ら全員をまとめたよりも、私やオスカーさんのほうが強いのですけれども。


「はい。問題ありません。

 どんどん進めて、オスカーさんのお手伝いに向かわねばなりませんから」


「健気な娘だなぁ……」


 どこかぼうっとした感じで、メイソンさんが褒めてくださいます。


 この方は、私がペイルベアから救出したときも、オスカーさんから怪我を治されたあとも、私たちにあまり恐れというものを抱いていないようです。

 ヒトは、自身より強いものに対しては恐れを抱いたり、排斥しようとするという知識が私の中にはありますが、長い時を経た結果、その知識は古いものとなったのかもしれません。


 オスカーさんにいただいた、大事な大事なこの『シャロン』という名を可愛いと言ってくださいましたので、メイソンさんのことは、わりと好ましい人物だと評価しています。


 話をしながらも、ばしばしと基礎を組み上げ、都合6棟分の家屋の骨組みが出来上がりました。

 もうすこしで骨組みは終わりなので、外壁の準備もしましょう。



  とんてん かんてん

 かん かん かん

  ゴスッ



 各棟に屋根を取り付けている間に、そろそろお昼時といった時分です。


 村の人たちは入れ替わり立ち代わり休憩をしていますが、ずっと動いている私のことを、そろそろ不安そうにオロオロと見守る人が増えてきてしまいました。

 うーん。私はさっさとこれを片付けてしまって、オスカーさんの元へと行きたいのですけれど。


 とかなんとかオスカーさんのことを考えていると、当のオスカーさんからのお声が掛かります。これって運命的ではないでしょうか。

 基本的に私はずっとオスカーさんのことを考えているので、運命すら操作する女、シャロンとして名を馳せていきたいです。


「おーい、シャロン。そろそろ一旦休憩にしよう!」


「はい! いますぐにでも!」


 腰を落とし、屋根からひらりと跳躍、オスカーさんのもとに文字通り跳んで行きますと、私の周りを突如優しい風が包みます。

 着地の衝撃を殺すまでもなく、オスカーさんの魔術(あいのちから)によって、私を優しく抱きとめてくださったのでした。オスカーさんらぶ。


「こら。

 村の子が真似しても危ないし、なによりシャロンが怪我をするかもしれないのが僕は嫌だ。

 すぐ来てくれようとするのは嬉しいけど、そういう危ないのはなるべくだめだ」


 優しく叱ってくれるオスカーさん。

 叱られているのでしゅんとした顔をしないといけないのですが、オスカーさんの愛を感じるのでどうしても頬が緩んでしまいます。

 でも、きちんとお返事はします。


「はい。気をつけます。

 それではお昼休憩としましょう。

 私とご飯にしますか? それとも私とお風呂にしますか? それともーー」


「ご飯にしよう。今日は何がいいかな」


 即答です。

 しっかりご自身の意見を表明できるオスカーさんも素敵です。


「それにしても、すごいな。

 もうだいたい家が組み上がってるじゃないか」


 私がいままで組み上げていた家々の様子を見て、オスカーさんが褒めてくださいます。


「はい。頑張りました」


 オスカーさんのところに早く行きたかったので。


「そうか。ありがとう。えらいぞ」


 オスカーさんはわしわしと、私の髪を撫でてくださいます。


 私がオスカーさんを結界の中からお助けすることができなかったあの時から、成長されてより男らしさを増した逞しい指先で、私の髪を梳いてくださいます。

 もっと触れてほしくって、頭から頬から、オスカーさんの手に擦り付けます。この期を逃してはならないのです。オスカーさんの貴重なデレシーンです。


 お昼ご飯を食べながら休憩するまでもなく、私はお昼から働く活力も充填したのでした。

今回の閑話は次回で終わりです。

次々回からは、また本編の時系列に戻ります。

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