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誕生日のはなし - 幸せのピクニック

オスシャロを投稿し始めてから2回目のシャロンちゃんの誕生日をリアル日付で迎えましたので、誕生日特別編をお送りします。

第四章に入ってからは時系列が大変なことになってしまうので、第四章直前に差し込み投稿を行なっています。

 良く晴れた昼下がり、ハウレル家一同は揃ってガムレル東門の前にやって来ていた。


 すでに冒険者や商人が出発するには遅い時間なので、門から外に出る人の流れはまばらだが、それとは反対に町に入るのを待つ人たちの長蛇の列が形成されている。

 怪しい積荷の検査や、通行税の徴収などが必要なので、門をくぐるにはそれなりに時間が掛かる。列を形成する中の、ある者は旅人だろうか、歩いて疲れきった顔を隠すことなく気怠げに列が消化されるのを待ち、またある者は通行税が少しでも負からないかと問答している商人のようだ。


「いつ来ても、人がぎょーさんおるなぁ」

「そうですね。夕方はもっと多いです」

「門番さん、いつもお疲れ様なの」


 列を見やりながらアーニャがのんびりと伸びをすると、シャロンがそれに応じる。アーシャがぺこりとお辞儀をすると、強面(こわもて)の門番がデレッと相貌を崩し、対応されていた商人が態度の豹変にぎょっと目を剥いた。


「おねえちゃんたち、にんきもの?」

「ピェッピ、ピェピェ」

「そうだなー。これも、いつものことといえばいつものことだな」


 こてん、と首を傾げて疑問顔なラシュと、()()が急に傾いたせいでズリ落ち掛けて、抗議の声をあげるらっぴー。

 彼らのそんな様子にほっこりしつつ、僕はふたたび門の外の列へと視線を投げ、肩を竦めて答えた。


 順番待ちに飽き飽きしていた人々は、あわや列を逸脱しかねないほどに『おねえちゃんたち』に視線が釘付けとなっている。

 シャロンやアーシャがこちらに振り向いて笑顔を振りまくたびに「ほぅ」とうっとりした溜息がそこかしこから漏れ、アーニャが「あふぅ」と欠伸をこぼすたびにごくりと生唾を飲む者や、わざとらしく咳払いをしたり、連れの女性に小突かれたりする者が続出している。


 シャロンはお気に入りのワンピースに水色のリボンを結んで腰回りをきゅっと引き締めており、美しいくびれのラインを強調していた。素足に軽靴(サンダル)をつっかけて、足取りも軽やかに僕の隣を歩いたり、ぴょんぴょんと数歩先に進んでは、えへへと楽しそうな微笑みを向けてくれる。

 アーニャは蒲葡(えびぞめ)のシャツに、羽織った男物の――というか僕の――上着は袖だけを通して肩や胸元が覗いているラフな格好で、短いズボンとシャツとの間からは時おりお(へそ)が見え隠れしている。のびーんと両手を掲げたりして朗らかな日差しを満喫している様子は、姿勢によってただでさえ豊満な胸をいっそ凶暴なまでに強調している。健全な男性諸氏には大いに目の毒だろう。

 そんな姉とは対照的に、アーシャは袖口やスカートの要所要所に装飾(フリル)やレースがあしらわれた白藍(しらあい)の短めなワンピースに、膝上くらいのゆったりとしたズボンを合わせた可愛らしい姿で、ふんふんと鼻唄をしていたりする。


 それに対して僕とラシュはどうだ。適当に手を伸ばした先にあった服を着ただけという、ありていに言っていつも通りである。


「ピェッフ」


 そんな僕らの装いを哀れんでか、それとも小馬鹿にしてか、なんとも判断の付かない鳴き声がラシュの頭の上で鎮座するらっぴーから放たれる。うるせぇ、お前は全裸じゃねぇか。

 一方のラシュは全く気にしたそぶりもなく、頭上のらっぴーを指先でこちょこちょとくすぐった。


 そんなこんなで行列に並ぶ人々の視線を受けつつ東門に到着すると、見知った顔があった。


「アルノーさん、こんにちは」

「おう、こんにちは。どしたい、揃いで」


 アーシャがぺこりと一礼して朗らかに挨拶すると、東門の憲兵であり僕らの工房の常連でもある壮年の男が応じる。


「みんなで、ピクニックなの!」


 アーシャは僕とシャロンの間にてててーっと入り込んで僕らの腕を取り、満面の笑顔を向けた。きらっきらの笑顔を被弾したらしい隊員たちが胸を抑えたり顔面を両手で覆いながら「うぐぅ」とか「ぐはぁ」とか呻いている。


「隊長、自分今日休み取っていいすか」

「いいわけあるかバカ。さて俺はヤボ用を思い出したからちょっくら出てくる」

「隊長だけ抜け駆けする気だっ!?」

「アーシャたん踏んでください!」

「どさくさに紛れてうちのアーシャを変な目で見るんじゃねぇ。角膜剥がすぞ」


 憲兵隊には、アルノーさんの他にも工房の常連が多数在籍している。

 荒事も少なくない仕事なので、安価かつ味もいい回復薬茶がその目当て――だったのも最初の頃の話で、今ではもっぱら看板娘になっているアーシャの茶菓子と雑談目当てのようなものだ。男たちの話をにこにこと聞き、ときに驚き、ときに素直に尊敬するアーシャのファンは多い。

 変なことを要求する輩には僕やシャロンがきっちりと『お話』するが。


「ピクニックっつったか。まぁ、カー坊がいるなら滅多なことはないと思うが、運河上流のほうに見たことない魔物がいるって報告もある。気をつけろよ」

「ああ、ありがとう」


 門番としての忠告を投げてくるアルノーさんに応じて、僕らは悠々と東門から町の外へと踏み出したのだった。


 本来は町から出るのにも通行税を払う必要がある。町から商品を外に出すにも外から運び入れるにも税を課すことで町の産業を守りつつ、財政も潤うという仕組みだ。

 とはいえ、リーズナル家へ直接多額の寄付をしている僕らの工房には通行手形が与えられており、ガムレルの出入りは実質自由だ。もはや通行手形の確認すらなく、いわゆる顔パス状態になっている。


 町に入るための行列に並んでいる人たちの横をすり抜けつつ僕らが目指すのは、町からほど近い運河のほとりだった。


「とーちゃくー」

「とーちゃく、なのっ!」


 川辺に青々と広がる草地を、”大切断”でほどほどの長さに切り揃え、”倉庫”から取り出した敷物をひろげると、それだけで遊び場の完成だ。

 いきなり草が刈り取られ、慌ててぴょんと逃げ出すエムハオを追いかけて、自らも同じくぴょんぴょんと飛び跳ねるアーシャとラシュ。そんなラシュにしがみついてぶんぶん振り回されるらっぴー。

 僕が敷物によいせと腰を下ろすと、左右にシャロンとアーニャがそれぞれ腰を落ち着けた。


「平和だなぁ」


 運河に浮かべられた小舟が向かい岸に人を渡すのをのんびりと眺めていると、船の難破に巻き込まれて未知の魔物相手に攻略戦を繰り広げたのが随分前のことに感じられる。


「たまにはこうして羽を伸ばすことも必要ですよ」

「そうやでぇ、ほっといたらカーくんてばいつまでも道具いじりしてんねんもん」

「それにオスカーさんってばすぐに無茶なさいますし。心配でなりません」

「ほんまほんま。見守るしかないってのも、けっこうきついもんなんやで?」

「面目ない……」


 左右から交互に咎められ、日頃の行い的に思い当たる節しかない僕は、ふたりの間で小さくなった。

 そんな僕の左腕を、むくれたふりをしたシャロンがぷくぅと頬を膨らせて抱きかかえ、同じようにアーニャが上目遣いに僕の右腕をむにっと胸に挟み込む。


「まったく。こうまで頻繁に心配を掛けられては、いかに丈夫なシャロンちゃんと言えども傷つきます。これはオスカーさんに責任持って癒してもらわねばなりません。デートを所望します」

「あっ、シャロちゃんズルい、ウチも! ウチもデート求む!」

「アーニャさんはこの間おめかししてデートをしてらっしゃったじゃないですかっ」

「シャロちゃんはこないだもカーくんと遠出したやん! ウチはお留守番やったのに!」

「あれはデートじゃないので別カウントですぅー!」


 ぐいぐいむぎゅっと引っ張られ、体を押し付けられる僕は、さぞ困り顔なことだろう。そんな僕の反応まで含めて彼女たちの玩具になっているらしい。


 文字通り僕を間に挟んで繰り広げられるふたりのじゃれあいは、いつもであれば苦虫を百匹くらい口に詰めた表情の男性客やら、『視線で人が殺せたら!!』とばかりに、いっそ血涙を流しそうな形相の男たちによって横槍が入ったりする。


 しかしこの青空の下では特に邪魔する者もいないため、シャロンとアーニャは存分にじゃれあいを楽しんでいるようだった。もっとも、僕は運河をゆく小舟から妬ましさを煮詰めた視線が複数突き刺さっていることを感じ取っていたのだけれど。


「分身の術というか、増える魔術って無いんですか? オスカーさん」

「おー、それええな。カーくんが3人おったら楽しそうやわ」

「はい。そうすれば、内訳は私のオスカーさん、私のオスカーさん、私のオスカーさんでいい感じになるかと」

「そうそう。みんなシャロちゃんので――ってなんでやねんな! 増えた意味は!」

「私がオスカーさんを堪能できます」

「いけず言わんとウチにも分けてぇな〜!?」


 ようやく両腕が解放されたと思ったら、今度は背中に抱きついて、のべーんと垂れ下がる『たれシャロ』と、膝の上でごろごろと喉を鳴らす『ごろアーニャ』の出来上がりだ。ふたりをそれぞれ片手であやしながら、僕は首を捻る。

 たしかに体が増やせれば便利かもしれない。魔道具もたくさん作れるだろうし、誰かを守れる範囲も広がるだろう。

 そのへんどうなの、と"全知"に尋ねてみる。が。


「うーん。どうも駄目みたいだ。そういう魔法とか神名があるにはあるらしいけど」

「取ってきたらええのに」

「そんな『今晩のご飯に魚を取ってきたらいいのに』くらいの軽いノリで取得できるもんじゃないと思う」

「あにゃー。だめかー」

「ニンジャにはありがちなスキルなんですけどね。残念です」


 元からあまり期待していたわけでもないが、そうそう美味い話はないということだ。

 ぐでーっと肩にまでもたれ掛かってくるシャロンの金の髪が僕の首筋を通り抜けて、膝でくつろぐアーニャの頬をくすぐった。


「分身ができなくても、工房の留守番はアーシャたちと、あとはアルノーさんとかカイマンあたりに護衛を頼んでおけば、半日くらいなら三人で遊びに出るのも悪くないだろ」

「心配性やなぁ、カーくんは」

「工房に襲撃があった実例があるから、やっぱり、な。魔道罠に結界魔道具、首輪(チョーカー)にも捕縛術式を追加したし、なんなら”倉庫”との通信が途絶したら非魔力で稼働する火薬式炸裂弾とかも配備してあるけど、心配なものは心配だし」

(おも)とった以上にすごいことになっとんねんな!? アーちゃんたちももうしっかりしたもんやし、そう簡単に連れ去られたりはせぇへんよ」


 いつまでも守られ続けるばかりの妹たちじゃない、とアーニャはあっけらかんとした笑顔だ。

 つい半年ほど前に初めて出会ったときに、半狂乱になりながらも必死にアーシャたちの手掛かりを追い求めていた彼女がそう言うのだ、たしかに少しくらい気を緩めてもいいくらいにはしっかりしたのだろう。実際、襲撃があったときにもアーシャとラシュはふたりで闖入者に毅然と立ち向かっていたし。


 そんな、しっかりした彼女らの現在の様子はと振り返ると、


「んむんぅ〜」

「あっ。咥えちゃメッなの。ペッてするの」

「もご、むごご。んんぅー」

「何言ってるかわかんないのっ……!」


 ラシュの口からでろりんとはみ出ている、白くて小さいもふもふとした毛玉は、先ほどまで彼らにぴょんぴょんと追い回されていたエムハオのものと思われる。


 アーシャに諭されたラシュは不満顔を全面に貼り付けながらも口からエムハオを引きずり出した。涎まみれでヨレヨレになり「もうどうにでもしてくれ」みたいな感じでぐったりしていたエムハオは、突如訪れた生還のチャンスに小さな手足をバタつかせ、一目散に巣穴へと逃げ込んで行く。


「にげた……」

「ピェ……」

「お弁当あるから、へんなの食べたらメッなの」


 ……。見なかったことにした。

 ちょっと工房を留守にするには不安な光景だったような気がするけれど、きっと僕らがすぐ近くにいるから、気が緩んでいるのだろう。うん。


「シャロちゃんとウチとまとめてデートするんやったら、何するんがええんかな」

「そうですね。ナニがいいですかね。この三人でとなると、ははぁ。なるほどです。オスカーさんは私とアーニャさん二人掛かりでのご奉仕をご所望なんです、きっと。新境地です」

「ごごご、ご奉仕っ……! ごくり。ウチ、はじめてやのに三人でとか、大丈夫やろか。緊張するわ」

「大丈夫です、きっとオスカーさんがリードしてくださいます」

「こっちはこっちで、ちょっと放っといただけなのに変な方向に話が進もうとしてるし!」


 このまま放っておいてはどんなアブノーマルなことになるかと、僕はたまらず待ったを掛けた。うふふふ、にゃははと笑うシャロンたちは実に楽しそうだ。しかしこれでは突っ込むほうの身がもたない。


「でも、そうやって律儀に突っ込んでくださるオスカーさんも好きですよ」

「ナチュラルに思考読むのやめてくれない……?」

「ナニとは言いませんが物理的につっこんでくださるオスカーさんも大好きですよ」

「そのままの流れで思考が一瞬でおっさん化するのもやめてくれない……?」


 僕の背中でぐにぐにと形を変える、シャロンの柔らかな弾力のほうがよほど『誘い』としては雄弁だと思うのだが、当人的にはどうもそういう認識ではないらしく、出会いから今までシャロンは定期的に内面がおっさん化する。もうちょっと恥じらいを持ってくれたほうがシャロンの望む通りに格段にエロくなると思うのだけれど、それを習得されてしまっては僕に太刀打ちできる術がなくなってしまう気がするので、胸の内に秘めたままにしている。


「にゃはははは! あー。なんかええなぁ、こういうの」

「え、アーニャはおっさん状態のシャロンのほうがいいのか?」

「『おっさん状態』というステータスは、ちょっと可愛くないです……」


 突然笑い出したアーニャにびっくりした僕が問いかけると、シャロンにしては珍しく口籠もった。『熊殺しの女神』という二つ名も、彼女にとっては微妙に不評なようだったので、いちおう可愛さは意識しているところらしい。残念なことに、ガムレル近郊地域では『熊殺しの女神』の名は結構な広まりを見せているようだけれど。


「ちゃうちゃう。おっさんやのうてな。なんて言うんやろにゃあ。幸せやなぁって思ってん。カーくんとシャロちゃんと()うてから、ウチらにとってはめっちゃいろんなことがあった。そんで、毎日(まいんち)幸せやなぁって。今日も、幸せやなぁって思ってな」

「アーニャ……」

「あー。うまく言われへんからなんかしんみりしてもうたな! すまんすまん! ただまぁ、ウチらは『幸せ』なんてコトバすら知らんでこれまで生きとったからにゃー。いろんなコトバも文字も覚えて、町の人間とも多少は打ち解けて。こーやって、大好きな人たちとのーんびりできる。ウチが欲しかったもん、ぜんぶここにあるんやなぁーって」


 アーニャは僕の膝の上で一度伸びをすると、その反動で起き上がり、照れ臭そうにそっぽを向いた。


「さぁて、アーちゃんの作ってくれたお弁当は何かなー……ってラッくん何咥えとんの!?」

「えっ、あっ! また捕まえたの!? ペッてするの!」

「んむぇー? んぐんごぐ」

「ピェ、ピピェ」

「うわ、めっちゃでろんでろんになってるやん! 何やってんの、もー!」


 アーニャのしなやかな足音が遠ざかっていく。

 僕はそれを聞きながら、直前のアーニャの独白を反芻していた。


「幸せ、か」


 僕もアーニャと出会ってから、いや、それ以前にシャロンと出会ってから、生活は激変した。

 シャロンとの出会いは、両親との死別も意味する。シャロンと出会えて良かったというのは僕の偽らざる本心だが、両親に生きていてほしかったというのも、また事実だ。故郷の村が燃えてしまったことだって、ずっと心の深いところで棘のように引っかかり続けている。


 では今の生活は幸せではないのか?

 それもまた、違うと思う。アーニャのようにあけすけに言葉にすることは出来なくても、僕にとっての新しい幸せの形がここにあるというのは、きっとアーニャたちと同じだと思う。


 僕は両親を残して蛮族から逃げたときに、己の無力を呪った。力が欲しいと渇望した。その呪いはきっと、今もこの身に残っている。彼らを見捨てた自分だけが幸せになっていいのか、と僕は僕自身を苛み続けている。


 孤独に死を待つばかりだと思っていた僕は、シャロンと出会って、僕は孤独ではなくなった。

 フリージアと出会って、渇望していた『力』を手に入れた。

 アーニャと出会って、誰かを助けるために『力』を振るうことを覚えた。

 その途上で、仇となる蛮族を、僕にとっての理不尽の化身を打倒した。黒幕まで辿って、叩きのめした。


 そのあとは――手にした『力』を、持て余した。


 何のために力を使えばいいかもわからず、道具をたくさん作ってみたり、困っている人のために躍起になってみたり、『力』を託してくれた恩人を助けようと足掻いてみたり――結局、助けられなかったり。


「なあ、シャロン」

「はい」

「――いや、ごめん。なんでもない」


 なんでもないと言ったものの、シャロンにはまたぞろ僕が何か小難しく考えすぎていることくらいお見通しなのだろう。背中からぎゅっと抱きしめてくれる温もりに安堵する。


 なんとなく呼んでしまった愛しい者の名。


 そう、変わったと言えば僕には愛する者が出来た。家族という大切な絆を、再び手に入れた。

 知らない誰かは、僕らのことを『ごっこ遊び』だと(わら)った。また別の誰かは『獣人趣味』だと嘲笑した。


 それでも僕は。今この時が、きっと幸せだった。

 だから。

 手にした『力』は、この幸せを守るためにこそ使おう。改めて、そう決めた。


「ぜったい、この幸せを守りましょうね、オスカーさん」

「だからナチュラルに思考を……いや。そうだな、うん。守っていこう」

「はい。オスカーさんと私のふたりなら、最強です」

「こないだ負けたけどな」

「それは言わないお約束です!」


 ぷぅ、と頬を膨らせるシャロンと笑いあって、僕らは『幸せ』を満喫するために、はしゃぐ姉弟たちのほうへと振り向いた。





 ――なぜか、エムハオを咥えるアーニャと目が合った。アーニャは若干気まずそうにすぐに目を逸らしたが、口からはみ出た白い足がうごうごしている。すぐそばで呆れた顔で姉を見やるアーシャがなんとも物悲しい。

 やがてアーニャは弁解するかのように、口を開く。


「んがぐぐ、うぐぐ?」

「何言ってるか全然わかんねぇ!」


 ――まぁ、たまにはこういう『幸せ』の形も、アリだろう。

挿絵(By みてみん)

市民、あなたは幸福ですか。

読者さんたちが読んでくださるおかげで今年もシャロンちゃんの誕生日を祝うことができたので、作者的には大満足です。ありがとうございます、ありがとうございます。


エムハオは、巣穴に棒でも突っ込んでやると簡単に釣り上げることができます。

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