五里目
「えっ。インク《ドレイン》以外の魔法使えないの!? 」
「失敬な。他にも使えるのはあるぞ。《魔弾》とか《魔弾》とか《魔弾》とか」
「《魔弾》しか無いじゃない!」
とりあえず野宿をすることになった。ここら辺の森は灰になってしまっているから場所は移動だ。
しかしいざ木を集めて焚き火をしようという段になって問題が発生した。どちらも火おこしの魔法が使えなかったのだ。
「だってイテルノ王国の天才児インクって言ったら六属性の魔法を自在に操る大魔法使いってことで有名だったじゃない」
「だから言っただろ?自分の体を改造したって。それで《ドレイン》を覚える代わりに六属性魔法の適性を失ったんだよ」
ちなみに六属性とは火水土風光闇のことだ。後はこの六つから派生した派生属性とどれにも属さない希少属性がある。
「……その改造っていったい何したの?」
「全身に古代魔法文字を刻んで魔力属性と体内魔力回路をねじ曲げた」
「具体的には?」
「実験で調べた『理論上もっとも効率良く《ドレイン》が撃てる体』になるようにして……全ての魔力属性を極限まで0にして完全な無属性になりました」
はぁ、とリリスが溜息をついた。
「バッカじゃないの?《ドレイン》を覚えたのはわたし達淫魔族と交わっても経験値を吸い殺されないようにするためなんでしょ?だったらそこまでやんなくても、『一般的な《ドレイン》が撃てる体』で我慢しとけば良かったじゃない。何考えてんの?」
「プライドだよ。天才としての、な」
「はぁ?」
「俺がこれを志したのは10歳のころだ。とある経緯で手に入れた本に心動かされてな。それ以来決めたんだ。初体験はサキュバスだってな。」
「……」
リリスがなんか死にかけのゴブリンを見るような目をしてるが構わず語り続ける。
「……本当は長くても5年で終わると思ってたんだ。今まで数多の魔法使いが挑んで敗れ去ってきた固有魔法の後天的習得。でも俺なら、天才の名を欲しいままにしてきた俺ならできるって。」
「……」
リリスは爪をいじっている。聞いてんのかコイツ。
「……気づいたら15年もたっていた。その頃には全てのデータが揃っていた。正直言って淫魔族が使う普通の《ドレイン》なら現代魔法文字でも事足りたんだ。でも予定の3倍の時間かけて目標達成しました、なんて言えるわけねぇだろ。外野がどんなに褒め称えたとしても、この俺が、俺の天才としてのプライドが許さねえ。俺のプライドを治めるためには時間にみあった天才的成果を出さないとならなかった。そのために王宮に忍び込んで古代魔道書まで取ってきたんだ。結局古代魔法文字の解読が終る頃には更に5年たっていたが、今はわりと満足している」
「ふぁーあ。呆れた。そこまでして守る価値のあるものなの?プライドとやらは」
あくびをしながらリリスが問いかける。案外話は聞いていたらしい。
「ああ、あるね。男はな、股間の芯と心の芯が折れた瞬間に男じゃなくなるのさ」
「あっそ」
リリスは興味なさげに吐き捨てた。
今かっこいいこと言ったのに流された。ちくしょう。
「そんなことより火種どうすんの?このままじゃウサギ狩ったってたべれないわよ」
「いや、てゆーかなんでリリスは出来ないんだ?その髪色、明らかに少しは火族性持ってるだろ?」
俺はリリスのピンク色の髪を指さしながら言った。
生物の持つ属性は、その個体の最も高い属性が体のどこかに色として表れる。最も高い属性が複数ある場合はそのいろが混ざった状態で表れる。人や淫魔族の場合は体毛だ。
リリスの鮮やかなピンクの髪は火属性の赤と光属性の黄色が混じっているのかとおもったが違ったか?
「あ、あたしは、その、あれだから」
「あ!もしかして魔法陣忘れたとか?だったら俺が教えてやるよ。込める魔力によって火力の変わる万能火魔法陣」
「いや、違うから。ほら、あたし魔力の扱い下手だから、そんなの使わせたらまたここら辺が灰の海になっちゃうよ?」
「なんだ、だったらストッパー機能つけてやるよ。どんなに魔力込めても一定以上の魔力は切り捨てるようになってるから魔力の扱いが苦手な脳筋戦士も安心して使えるって評判のやつ」
「あ、あたし綺麗に魔法陣かけないから!」
「だったら俺に任せてくれ。こんぐらいの魔法陣なら足で書いたってそこんじょそこらの魔法使いより上手く書ける自信あるから」
「ぐ、くうぅぅぅ。まいり……ました」
「え?何が?」