四里目
サキュバスやインキュバスなどの淫魔族に《ドレイン》され続けた者はレベルが下がっていき、やがてはマイナスになるらしい。
そうすると筋肉などがどんどん弱っていき、やがて息を吸うことも心臓を動かすことも出来なくなり死に至る。
淫魔族の《ドレイン》のトリガーは相手を絶頂させることだから相手が死んだ時点で《ドレイン》は出来なくなる。
ここで問題だ。
もし仮に衰弱死した後も《ドレイン》し続けたらどうなるだろうか。
答えは灰になる。
正確に言えば灰ではないだろうが、灰色の粉状になって崩れるのだ。
俺がやったのはそれだ。辺り一帯――木も土も人も何もかもの経験値を根こそぎ吸った結果、目の前の空間は灰の海のようになってしまった。
ということを助けた少女に治癒力を上げるために《ドレイン》で経験値を分けてあげながら教えて上げた。
てゆーかもうコレ《ドレイン》じゃないよな。どちらかというと《経験値操作》ってかんじだ。
「よし、治療終わり。治療っていっても応急処置だから走ったりしちゃダメだよ」
「あ、ありがとうございます」
まだ襲われたときの恐怖が残っているのか顔を青ざめさせている少女が恐る恐るといった様子で口を開いた。
「あの、お名前は?」
『名乗るほどの者ではござらん』って言いたいとこだけどそれだと困るよね。普通に名乗っておくか。普通に。
「私の名前かい?私はインク。自他ともに認める大天才さ」
「インク……?ハッ!インクってもしかして僅か8歳にして単独でレッドドラゴンを倒したあの!?」
「いやー知っていたか。そのことはあまりにも有名すぎるからね。それにしても22年も前のことなのによく知っていたね」
「え、あ、それは、その……そんなことより!《ドレイン》といったら淫魔族の固有魔法のはずですよね?どうして人間のアナタが……?」
「ああ、改造したのさ。自分の体をね」
「かいぞっ!?」
あーリアクションがあると気持ちいなぁ。今の自分は間違いなくドヤ顔になっていることだろう。
「どうしてそこまでして?」
「よくぞ聞いてくれた。私はね、ある目標があるのさ」
「もくひょう……?」
「ああ、サキュバスの性奴隷を作ってそいつで童貞卒業する、というね。」
「え」
ピシり、と少女が固まった。
「私は今ねサキュバスを探す旅をしているんだ。いや、旅を始めたという方が正しいか。」
「へ、へぇー。そ、そうなんですか。すごいですね」
少女がさっきよりもさらに顔色を悪くさせながら言った。目は泳いでいるし、言葉もどもりまくりだ。あからさまに動揺している。
やっぱりこの少女もしかして……
ちょっとカマかけてみるか。
「まぁその旅もすぐ終わりそうだよ。もうサキュバスは見つかったからね」
「さよならっ!」
「まぁ待て」
ガッと逃げようとする少女の肩を掴んでとどまらせる。この反応やっぱり。
「君、サキュバスだったんだな」
「うっせー!話せおっさん!童貞が伝染る!」
「なっ、言うに事欠いておっさんだと?訂正しろ!30歳はおにいさん!ほら復唱しろ」
「するかハーゲ、バーカ、おっさん。誰か助けて~。童貞臭いよ~」
コイツさっきまで猫かぶってやがったな。
とりあえず落ち着こう。こんなガキっぽい悪口に付き合っている暇はない。
ジタバタ暴れている少女がキレ気味に口を叫んだ。
「だいたい、何でわかったんだよ!さっきから《魅了》もかかんないし何なのアンタ!?」
「怪しいと思ったのはさっき《ドレイン》で経験値を渡したときだね。あの時ついでに体内魔力回路も見させてもらってね。あんまりにも人のと違うからもしやと思ったのさ」
「くっ……」
少女の顔が悔しげに歪む。
「それと《魅了》が効かないのはこれのおかげ」
俺は手首に着けたお守りを見せた。
「それは?」
「これは精神保護のお守り。効果は名前の通り精神系の攻撃から身を守ってくれる。」
「はあ!?何でそんなもんを」
「そりゃ何時何処でサキュバスに会えるかわからないしね。どんな時に会っても良いように《魅了》対策と奴隷用首輪1つは常備しとかないと」
「そ、そんなものまで……」
少女はガクッと頭を垂れた
「そう考えるといろいろとおかしかったよね。見た目15、6の君が20年以上前のこと知ってたり、あの黒づくめの人たちにおわれてたりしたのも。あの黒づくめの人たちは何だったの?」
うつむいた少女に問いかける。
少女は何も言わない。
どうしようかなぁ。もう奴隷用首輪着けちゃっていいかなぁ。いやでもコレ1個しかないしなぁ。どうせだったらこの子にサキュバスの里まで案内してもらえれば選り取りみどりだよな。よし、そうしよう。
ねぇ、と話しかけようとしたところで気づいた。
ポタり、ポタりと地面に落ちる雫。
少女は泣いていた。
少女は涙混じりの声で言った。
「あいらは、あの黒づくめは里を襲ってきたんだ。突然。気がついたら里が燃えていて。あたしは命からがら逃げてきて。それで、なんとか助かったと思ったら、こんな、ことって、う、うわぁぁぁん」
「嘘泣きはやめろ」
「チッ」
こんにゃろう。《魅了》が効かなきゃ泣き落としか。いやそれよりも重要なことを言ったぞ。
「な、なぁ。里が襲われたってことは里にいたサキュバスたちはお前以外全滅しちゃったのか?」
「わかんない。もしかしたらわたしみたいに逃げ出せた人や隠れてた人もいたかもしれない。あ、そうだ!お願い!わたしと一緒に里まで来て一緒に生き残りを探さない!?奴隷にする子は他の生き残りを見てからでも遅くないんじゃないかしら!?」
この女わりとクズいな。堂々と身代わりを探しに行こうって言ったようなもんだぞ。
まぁでも利害は一致したし乗るとしよう。俺としてもこんなクズい女よりもうちょっと性格のマシな奴が欲しい。
「いいだろう。その話乗った」
「え、ホント!?」
「ああ、今から俺達は同盟関係だ。ただし、もし逃げ出そうとしたらすぐにコイツをつけるからな」
「う、うん。問題ない……よ」
目が泳いでる。やっぱりコイツあわよくば逃げようとしてたな。
「あ、そういえば名前を聞いて無かったな。お前、名前は?」
「リディアリス。仲間からはリリスって呼ばれてた」
「そうか、じゃあリリス。これからよろしくな」
俺は手を差し出した。リリスはそれをバンと打ち付けるようにとると不機嫌そうに言った。
「よろしく、インク。短い仲になることを祈ってるわ」