三里目
せっかくいいところだったのに!
今の悲鳴は森のほうから聞こえた。ちょうど目的地としていた森のほうだ。下半身に経験値をまわして脚力を強化してから悲鳴が聞こえた方向に走り出した。
って速い!魔法使いだから稼いだ経験値がほとんど頭脳の方にいってあんまり身体能力は上がんなかったんだよな。そんなにたくさんまわした訳でもないのにこんなに上がるとは。やはり俺は天才だ。
自分の魔法と頭脳と身体能力の高さに酔っていると誰かが倒れているのを見つけた。夜目は利く方だし、目と頭に経験値の大部分をまわしているから月明かりでも充分見える。
「おい、大丈夫か!」
倒れている人に近づき助け起こす。可愛らしい少女だ。歳は15、6だろうか。少女から大人への過渡期といった具合だ。胸だけは一足先に大人になっているが。
「う、うぅん」
少女が呻きながら目を薄く開いた。よく見れば全身傷だらけだ。服もボロボロ。腕には矢が刺さっており、ピンク色の髪はところどころ赤く染まっていた。
少女の小さな口が言葉を紡ぐ。
「た、助けて。わたし、変な人たちに、追われてて」
うーん、どうしようかなぁ。正直助けてあげたいけど、今はお尋ね者だし助けたところで匿える場所もない。自分が明日の朝日を拝めるかわかんないのに可愛いとはいえ赤の他人を助ける余裕はないよなぁ。そもそも事情もわからないし、本当はこの少女の方に非があるという可能性もあるしなぁ。ここまで駆けつけといて何だけど今回は御縁がなかったということで……。
抱き起こした少女をそっと下ろそうとすると、見捨てられそうな雰囲気を察してかヒシッと服を俺の服を掴み涙ながらに少女が言った。
「お願いです。もう私にはあなたしかいないんです。おにいさん」
「任せろ」
何を迷うことがあっただろうか。女の子が俺に助けを求めているんだ。このおにいさんに。おにいさんに!
30歳は断じておっさんではない。おにいさんだ。この少女はそれがわかっている。ならば悪い子ではない。
俺は少女を岩陰に運んだ。
「君はここで待っていなさい。私がその変な人達というのを懲らしめてこよう」
「あ、ありが、とう」
そう言うと少女はフット微笑んで瞳を閉じた。
よーし。テンション上がってきたぁああ!今『少女を颯爽と助けるヒーロー』の気分だ。
『何奴っ!名を名乗れ!』
『フッ。貴様らに名乗る名はない』
『何っ!?ぐわぁぁあ!』
『旅のお方どうかお礼を』
『フッ。これしきのこと、例には及ばぬ』
『素敵!抱いて!』
みたいな展開希望。
ああ、屋敷にはニホンノ=マンガカー氏が書いたお気に入りのエロマンガが沢山あったのにアレをもう読めないのは残念だ。一冊でも持ってこれたらよかったのに。
まぁ素敵抱いて展開になるにももう一度エロマンガを読むにもまずはここを切り抜けなければ。
「なぁ、変な人たちよ」
森の中から黒づくめの男達が出てきた。目以外の全てが闇に紛れるような漆黒の衣装を着た男か女かもわからないような人が8人ほど。
その中の一人が口を開いた。
「そこをどけ。我らの邪魔をするなら貴様も斬るぞ」
「フッ。貴様らに名乗る名などない」
「……誰もそんなことは聞いていない」
しまった。妄想とまじってしまった。恥ずかしい。
まぁいい。このまま突き通そう。
「悪しき賊め。今宵の私は手加減できぬぞ!」
「チッ。話が通じん。誑かされたか。もういい。やるぞ」
黒づくめが襲いかかってくる。もう後には退けないな。
まさか試運転の前に実戦に使うことになるとは。さっき試運転する直前で来ちゃったからどんな威力になるもんだかわからないしな。かといって手加減して撃ってコッチが殺されたら目も当てられない。全力で撃つとしよう。
俺は手を前にかざした。
別にする必要はないけど気分で。
くらえ。俺の《ドレイン》を超えた《ドレイン》。
その名も
ウルトラスーパーデラックスハイパワージェノサイドブラックホールデリシャスブースターネオアームストロングサイクロンジェットアームストロングぅ……
「《ドレイン》!!!」
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「う、うーん。ここは?」
「あ、よかった。気がついたんだね」
岩を背に気絶していた少女が目を覚ました。俺は白衣を裂いて作った即興の包帯で少女の傷を覆いながら安堵の息を吐いた。
「ハッ!あいつらは!?って痛っ」
「ああ! まだ動いちゃダメだよ。大丈夫。全員倒したから 」
「えっアンt……アナタがですか?」
俺が全員倒したことをしると少女はとても驚いたようだった。まあ無理もない。俺は魔法使いだから腕とかパッと見細いし。レベルはそこそこ高いからこう見えて力もそこそこあるんだけどな。
まぁ自分でもちょっとだけ驚いていたりする。
「いったいどうやっ……て……?」
岩陰から後ろを――戦いの跡を見た少女が固まった。
いや、それにしても本当に驚いた。
「なにが……起きたの……?」
まさか一面灰になるほどの威力が出るなんてなぁ。