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十二里目

「よし、わかった」


リリスに抱えてもらいながらじっくり胸の感触と魔法陣に書かれた魔法文字を見ていたインクが言った。


「へーさすが早いわね。それでどうだったの?」


インクとしては胸の感触を楽しむためにいつもよりかなり時間をかけたつもりだった。これだったらもっと時間をかけるべきだったと思いながら質問に答える。


「この魔法陣はいくつかの魔法を同時に発動させる複合型魔法陣だ。まず一つ、この俺達を閉じ込めてる結界の効果は『内側から外側に出られない』と『神を退ける』だ。」


『神を退ける?』


「ああ要するに神はこの結界に近づけないし、中になにがあるかもわからない。だからあの触手は俺達や淫魔の死体を襲わずに結界の外にいる黒ずくめばっかり襲ってたんだな」


リリスがホッと息を付く。どうやら今すぐ触手に襲われる心配は無いとわかり安心したようだ。


「もう一つ結界があるな。あの黒ずくめを広場に閉じ込めてるやつだ。あれは単純に『中からは外に出られない』だけの結界だ。そして問題の召喚の魔法陣だが……」


インクはそこで1度言葉を切ると首を傾げた。


「おかしいな。《魂魄召喚》のはずなのにどこにもそれらしき魔法文字が見あたらない」


「……やっぱりあの推理間違ってたんじゃないの?よく考えたら前提条件からおかしかったし」


リリスは既にかなり数を減らしている黒ずくめを見ながら言った。悲鳴を上げながら逃げ惑う黒ずくめの姿を見ていると、どうしてもあの触手がインクが言うようなエロエロしい生物には見えなかった。


「てゆーかあの触手なんか最初より大きくなってない?あの触手黒ずくめ食べて成長してない?」


リリスが不安気にインクに問いかける。だがインクは聞こえていないかのように考え事に没頭している。


「いやそんなはずは……そもそもこんなサイズの生物を召喚できるほどの大きさのゲートを開くなんて人の魔力量じゃどう足掻いたって……あの黒ずくめ全員が全ての魔力を出したとしても遠く及ばないはず……ならいったいどうやって」


「おーい?インクー?戻ってこーい」


リリスがインクをガクガクと揺さぶる。インクはむにゅむにゅと背中で潰れる胸の感触によって正気に戻った。


「あ、ああごめん。残りの魔法についてだな。後はさっきいったとおり何とか属性を増幅とか何だが、一つやばいのがあるな」


「え、なに?」


「ここらへんは古代魔法文字が多くて読めないが『支配』って書いてある」


「え、それって……」


「ああ、アイツら恐れ多くも神を支配しようとしてやがる」


その言葉にリリスが固まる。


「そ、そんなこと!人間程度ができるわけが!」


「俺も信じられん。だがアイツらはどうやら大真面目らしいぞ。……にしてもアイツらどうやってこんなにたくさんの古代魔法文字を……アイツら古代魔法文字に関しちゃこの天才より詳しいぞ」


「知らないわよ!そもそもなんで読めないところがあるわけ!?アンタ古代魔法文字解読したんじゃないの!?」


「ちょっ耳元で叫ぶなって。俺みたいな天才だって何でも出来るわけじゃないんだ。5年じゃあ必要最低限のところしか解読できなかったんだよ。それよりこの後どうするかだ。もうちょっと結界に近づいてくれ」


リリスが言われた通りに近づくとインクは結界の見えない壁をペタペタ触り出した。


「……何やってんの?」


「何って結界に使われてる魔力の属性を調べてるんだよ。《結界抜け》の魔法は使われてる属性によって微妙に変えないと効率が悪いからなって何だこれ?」


インクが結界を調べながら妙な声を上げた。なおもわからないのかさらに激しく壁をペタペタする。


「えっえっなに?どうかしたの?」


「何だこの属性は……?俺の知らない希少属性?まさかこれが……?」


「ねえどうかしたの!?なんかヤバイの?」


「あ、ごめん。ちょっと知識欲が刺激されてな。ただ参ったな。この結界に使われてる魔力の属性は見た事がない。ちょっと時間がかかるかもしれん」


「ええ!どうするの?」


「まぁとりあえず総当りで試していくしか……ってあれ?いけたな」


インクが適当な《結界抜け》を発動させて結界に手を伸ばすとスルリとあっけなく抜けてしまった。


(どういうことだ?手応えが弱すぎる。最適の《結界抜け》じゃないにも関わらずこの弱さ。この妙な属性のせいか?なにか、なにかが引っかかる。)


だがそんなインクの思考はリリスの嬉しそうな声に遮られた。


「やったわね!インク!結界抜けられたじゃない!これであの白黒に《ドレイン》できるわね!」


「いやまだだ。アイツらがいるのは二つ目の結界の外だ。《ドレイン》を届かせるためにはあの触手を避けて結界の外まで行く必要がある」


「ええーなにそれ。あたしここで待ってていい?触手怖いし」


「……まあいいけど。じゃあ俺が出る方向と反対の方に淫魔の死体とか投げて触手をひきつけといてくれ。《結界抜け》の魔法はかけとくから」


そう言うとインクはいくつかの淫魔の死体に《結界抜け》をかけ出した。リリスは同胞の死体を囮に使えというインクの作戦に不服そうだったが自分の命の方に天秤が傾いたのか深いため息をついて頷いた。


「アンタってあたしがサキュバスだって忘れてないかしら……。まぁやるけどさ。」


「よし、じゃあ1、2個ほど投げてくれ。それから出る」


「わかったわ。じゃあ行くわよ。ほいほい。」


リリスがポーイとなるべく遠くに行くようにサキュバスの死体を投げいれた。インクとしてはこの作戦は気休め程度というか、全て自分に任せようとするリリスに何か仕事を与えてやろう、ぐらいの考えしかなかった。


だがリリスの投げたサキュバスの死体に触手は劇的な反応を示した。


ポーンと放物線を描くサキュバスの死体。すると触手は文字どおり目にも止まらぬ速度で反応し、八本の触手はその全てがサキュバスの死体に殺到して一瞬で灰に変えてしまった。その後も飛び散った血でも舐めているのか、はたまた近くに同じものが落ちていないか探しているのか辺りを探った後、元のとおり手近にいる黒ずくめをゆったりと襲い始めた。


明らかに今までとは違う反応だった。


「……サキュバスが好物なのかな……?」


思わず結界から出るのも忘れてその様子をみていたインクは何とかその言葉を捻り出した。


見るとリリスがガタガタとそこだけ地震でも起きてるかのように震えている。サキュバスの死体を自分と重ねてしまったのだろうか。


「あーそのなんだ。とりあえず囮作戦は有効だってわかったし、囮投げ頼んだぞ」


リリスは涙目でコクコクと頷いた。どうやらインクが失敗したら自分の命は無いと理解したらしい。

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