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十里目

前回三人称視点で書いたら予想以上に書きやすかったので今回から全部三人称で書きます。ご了承下さい。

ザザザザザザザザザザザザザ!!!


インクを乗せたソリは凄まじい速度で障害物の取り除かれた森を走っていた。背後に灰を巻き上げつつ進むインクは一見順調そうに見えるインクだが、1つだけ誤算があった。


インクは自分が純無属性になったことの意味を忘れていた。


(ヤベー!はえェー!想像の十倍くらいはえェー!速すぎて目ぇあけらんねぇよぉぉぉおおお!!)


魔法はその属性に合った魔力を使うことでその効果を高める。無属性魔法の《高速回転》の効果を三倍ほど上げたつもりだったインクだが、純無属性の魔力を流し込まれた《高速回転》は実に30倍もの効果を叩き出していた。


ジャジャジャジャジャジャジャジャ


ソリが大地との摩擦で凶悪な音をたてる。《高速回転》を修整しようかとも考えたが、もし何かの間違いでソリから落ちたりしたらタダでは済まない。そのことがわかったインクは下手に動くこともできず、必死にソリにしがみつくしかなかった。


だがその誤算のおかげで当初の予定よりだいぶ早くリリスの元までたどり着けそうだ。リリスにつけた《魔力の糸》の感覚ではもうすぐ近くまで……


ザリっ


「え?」


突如として消えた摩擦音。それと同時に生じる浮遊感。


(何だろう……。すごい嫌な予感がする……。)


摩擦音は消えても轟々と唸る風の音が未だ止まないことからソリはまだ凄まじい速度で動いていることがわかる。


目に染みる風の痛みを恐れながらもそれを上回る嫌な予感に突き動かされ、インクはそっと目を開いた。


(……ああ。……空って……こんなに蒼かったんだ……)


インクの体は森を抜けると同時に、絶妙な位置に絶妙な形で落ちていた岩に乗り上げ空へ飛び出していた。


目の前に広がる蒼い空。雲一つ無い快晴はどこまでも透き通っている。このまま吸い込まれてしまうのではないか、そんなことを思ってしまう。


もちろんそんな事は一切なく、インクの体は重力に引かれて放物線を描きながら落下していく。


そのときインクの視界の先――おそらく自分の落下地点になるであろう場所に奇妙なモノが見えた。


周囲が崩壊した集落――おそらくは襲撃を受けた淫魔の里なのであろう――になっている中、開けた広場のような場所。そこに広大な魔法陣が描かれ、光を放っていた。


直径何mになるかわからない大きさの魔法陣。そんなものが今まさに何かの魔法を発動させようとしている。それだけでも驚きに値する光景だが、今はそれよりも衝撃的なものがあった。


不気味に(うごめ)く八本のピンク色の触手。それが地面を逃げ惑う黒ずくめの人々を捕らえては灰に変えている。


「ぎぃやあああああああああああ!!!!」


思わず悲鳴、というより絶叫が飛び出す。

しかもさきほど森の中を走るために視力や動態視力を上げていたのが災いし、そんな恐怖の光景がいつもより鮮明に見える。


だが叫びながらも魔法使いとしての(サガ)か、はたまた天才としての矜持(きょうじ)か。インクの目は魔法陣に書かれた文字を断片的に読み取っていた。


(……属性……増幅……神……召喚……支配……この魔法陣まさか!?ってヤバイ!)


いろいろと衝撃的な光景に気を取られていたが、インクは絶賛落下中だ。このまま行けば地面とキスして死ぬことになる。


ちなみにインクはファーストキスすらまだしていない。最初で最後のキスを地面とするわけにはいかなかったのでインクはかつて無い集中力で魔法陣を完成させて発動させた。


「《トランポリン》!」


インクの落下地点に魔力でできたトランポリンができる。インクはその中心に落下すると、器用にバランスをとると何度かバウンドしてから着地した。


(あ、あっぶねー。マジで死ぬかと思った……俺が天才じゃなかったら間違いなく死んでたわ……)


未だバクバクと騒ぐ心臓を必死になだめていると、広場を見渡せるような高台から魔法による拡声をした声が聞こえてきた。


『おい!シロ殿!コレはどうなっている!あの空から飛んできた男はなんだ!邪魔が入らないようにしてくれていたのではなかったのかね!?』


「問題……ありま……せん……。未来は……既に……確定……しました……。そのまま……儀式を……おすすめ……下さい……」


『貴様ァ、何を企んでいる!?未来が確定したとはどういう意味だ!?』


見れば黒い司祭服に身を包んだ男と全身真っ白の男が揉めているようだった。


仲間割れだろうか。そんなことを思っていると死角から体当たりをされ、地面に押し倒される。

何事かと驚いていると、のしかかってきたそれが喚き出した。


「モガーモガモガモガー!モガガー!」


「わかった!わかった!今助けるからちょっと落ち着け!」


手足を縛られ、口に猿轡を噛まされたリリスだった。よほど怖かったのか目が真っ赤になってウルウルしている。


インクは《ドレイン》でリリスを縛る縄を灰にしてリリスを自由にした。


「ぷはぁ。インクゥ~!ありがと~!もうダメかと思った~。でももう安心よね!さっさとあのすんごい《ドレイン》で触手の化け物と白黒の黒幕コンビをやっつけて!」


「いや、残念だがそれはできない」


「え!?どうして!?」


インクの《ドレイン》さえあれば何とかなると思っていたリリスの顔が驚愕に染まる。

インクは苦々しく思いながら周囲を見渡す。


「俺の《ドレイン》はあらゆる物を経験値に変換して吸収する魔法だが、どうも魔力だけは経験値にならないみたいなんだ。ここは外からは入れるが中からは出られない結界に囲まれてる。外まで俺の《ドレイン》は届かない」


これはさきほど森を平地にするために《ドレイン》を使ったときに気づいた事だ。《魔力の糸》が《ドレイン》に巻き込まれたのにも関わらず《魔力の糸》に変化は見られなかった。


「えぇーー!じゃあどうすんのよ!アイツらあたしのこと贄って言ってたわよ。このままじゃあたしらも黒ずくめみたいにあの触手に食べられちゃうわよ!」


「安心しろ。俺もタダで死ぬつもりは無い。それに……」


インクはそこで1度言葉を切り、地面を――正確に言えば地面に転がる淫魔達の死体を見た。


どのサキュバスもこと切れてなお、美しく魅力的な体つきをしていた。この中の誰かが自分の性奴隷(ヨメ)になったかもしれないと思うと、言葉には言い表せない激情が湧き上がってきた。


インクは元凶と思われる黒司祭と白ずくめをを睨みつけると決意とともに言葉を吐いた。


「俺の大事な未来の性奴隷(ヨメ)候補をぶっ壊してくれたアイツらをぶっ飛ばさなきゃ気がすまねぇ」





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