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レイニィウスの泪 序章

 ここは一つの神殿、レイニィウス。

 今、神殿の最奥にある極めて重要な祭壇の前に、三人の神官が膝をついている。三人の神官の額にはそれぞれ大粒の汗がにじみ出ていたが、しかし三人は流れ落ちる汗を気にも留めずに、ただひたすら目を閉じて両手を胸の前で組んで祈りを捧げていた。

 祈りを籠めている祭壇には何も載ってはおらず、けれど捧げている祈りには、ひどく真摯な表情が見て取れる。三人のこの祈りは既に丸一日が費やされており、その間は何人たりとも祭壇の間へ近づいてはならぬと厳命されていた。そう命令されている下の者達は、何のための祈りなのか誰も知っている者はいないが、神殿の最高位である三人の神官の行いの為、ただ従って近づかなかった。盲目的に疑わない下の信者達。それはここではごく当たり前のことだ。

「アイニィ」

 三人の内の一人に、腰まで流れるエメラルドグリーンの艶やかな髪をもち、その長い髪から出ている長耳に、金の耳飾を左耳に付けているたいそう見目麗しい男がいた。祈りを捧げている中で、一番想いを強くしているためか、言葉が漏れてしまう。

 漏れ出てた言葉にも並々ならぬ想いが籠められているのだろうか、声はかすれていてひどく切なげだ。それを隣で聞いていたドワーフの神官の耳がぴくりと動いた。だが、祈りの最中であるためか、それについて言及するつもりはないらしい。そのまま祈りは続けられる。

 そして一刻が過ぎた頃、祭壇に変化が見られた。

 輝かしい清浄で柔らかな光が、祭壇の平らな面から噴き出したのだ。そこで長かった祈りは終わる。一様に顔を上げて三人はその光に見入り、やがて弱くなっていく光が完全に消えると、達成感に満ちた顔でやり遂げたことに安堵したのかほっと息をついた。

「これでいいのだ」

 年季の入った皺が刻まれている顔を持つドワーフの神官が言う。

「今度こそもってくれるといいのですが」

 その隣で背中に漆黒の翼を有している、肌の青い魔族の神官が続いて口を開く。

「……失礼する」

 二人の言葉に同意すこともなく、祈りの最中に言葉を漏らしてしまったエルフの神官は、退出することを伝えると、二人に背を向けて祭壇の間から出て行ってしまった。

 そんなエルフの神官をとくに責めることもなく、逆に心配な表情で見送った二人。しばらくその場に無言で留まっていたが、溜息を吐くと二人は顔を合わせ頷き袖口でしたたる汗を拭い、エルフの神官が出て行った祭壇の間の入り口へと歩いて行く。二人もそれぞれの場所へと戻るのだ。

 二人が出て行った後、誰も居なくなった祭壇の間に、何人たりとも侵してはならぬというしんとした雰囲気が辺りを覆い始める。これでこの祭壇の間は、再び祈りが必要になるまで封鎖されるのだ。またいつまでになるかは分からぬが、しばらく静謐に包まれることとなる。

 一時役割を終えた祭壇の間には、誰も近づくことなどないのだから。


「アイニィ」

 神殿にある一室のバルコニーから夜に浮かぶ青月を見上げて、エルフの神官がまた一言呟いた。



 

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