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山中にて ~人を超えし~

大戦の跡を抜け、己の足でも相当に歩いたと言える距離を行き、山中を更に行く。

常ならばそれまでの距離を歩くまでに、ひとつかふたつ、依頼を受けていくものだが、此度の依頼は珍しく、己から求めたものでもあった。

老若どちらとも言えぬ己でも、仙人というものを、見たことがなかった。

多くの人間が非とする行動を取ってはいるが、自分は人間だ。人でありながら人ではないものに、少し興味があったのは確かだ。

だからやや失望した。仙人とはいえ、人なのだと知って。

つまらないばかりだ。




「何年生きた?」


男が三人入ることは適わぬであろう風穴を見つけ、その奥でうずくまっていた骨と皮ばかりのモノに、まず、そんなことを訊いた。


「何年だろうと関係ない。私は死にたくない…」


仙人と呼ばれるこの死にかけの男は、そんなことを言った。

山に籠り、俗世に浸ることのないモノ。

それが仙人というものだと聞いていたが、目の前のこの男は、俗世から逃げ、飢えに瀕して弱り切り、死を待つだけのただの人間だった。

一時に興味が冷めた。早く仕事に入るとしよう。


「もう保たない。遺言を聞いてやる」

「助けてくれ。まだ私は生きていたい。死ぬのは怖い」


常世に身を置く人間よりは永く生きているだろうに、何故に死を恐れるのか。

単純に連ねた言の葉の裏にあるのは、子供のように透明で膨大な恐怖か。生の執着は、時に怨念と己で意識したものよりも怨に近い。依頼人が避けんとしたのも、そのためだろう。


「怖いか。だが、一人で怯えるよりも、誰かと話していたほうが気が紛れるが。その話の種に、遺言を聞こうと言っている。このまま怯えていたいというなら、構わぬ」

「お前が助ければ、怯えずに済む…。遺し言を聞く者は、それを聞くよりも人を助くことに重きを置けば、人一人救うことも難くはあるまい」

「確かにな。だがそれは己の業ではない」


男の顔に僅か、朱が差した。


「見返りがあれば、私を救うと?」

「さぁな」


すでに仙人の物言いではないと、内心さらにつまらなくなった。高徳なる者、法力を持つ者、世俗を離れた者…。事実と謂れの違いを、珍しくも疑わなかった自分に気付いて呆れる。


「この命が助かれば、礼は必ずする。他家から盗もうとも、望みを叶えて見せよう。だから、だから助けてくれ…」

「いいだろう。命の代償、期待するぞ」


風穴から出ると、そこここから血臭漂う屍に近寄り、ひとつひとつ魂の欠片を集める。このような物が辺りに散らばっているのは、男がなんとしても生きようとした証なのだろう。

だが、屍の様子からして、捌くことはできなかったようだ。飢えに瀕していても食することができないとは、もう、そうするだけの生命力がないということだ。

哀れ、老衰以外で死んだ物には、無理矢理魂を叩き出された痕として、欠片が残る。それらを数十個回収し、男の元に戻った。

死にかけとはいえ、あれだけ助けろ助けろと言える口があるのだ。数十もあれば十分だろう。

心の臓のように鼓動し、血色をした光を放つそれを、男の口の中に押し込んだ。


「飲め」


今にも吐き出しそうな酷い形相になったが、男はどうにか飲み下した。


「ああ…すごい…生きている…。私は、生きているぞ…!」


みるみるうちに血色を取り戻し、骨と皮ばかりの体に活力が行き渡る。

男はふらふらと立ち上がり、そのまま歩いて行きそうになった。


「代償はどうした?」


訊く前から、答えの分かっている問いだった。

振り返ったその顔は、俗世への執着に塗れた、ひどく醜悪な表情を浮かべていた。


「あぁ、そうだったな。だが折角だ、先程の施術も教えてくれないか?そうしたら、礼はその時まとめてしよう。さ、教えてくれ」


浅ましい奴だ。本当につまらない。


「死ね」

「え?あ…」


男の目には、自身の身体を横に両断した、己と自分の姿が映った筈だ。無論、己は右腕が上がらないので斬りつけることもできない。実際は幻なのだが。


「うぁああっ、ああああああぁぁ…」


元より助けるつもりは全くなかった。生きた物から採取した魂の欠片なら蘇生になるが、死んだ物から採取したものは、寿命を縮め、死を決定的にする。施術の副作用で、生命力が刹那に戻っただけなのだ。

この男が理解に達していなかった点は、もうひとつある。

遺し言を聞く者、即ち死を導き従う存在であるということ。


やはり、この仕事の対象は、女であるほうが面白いようだ。

依頼人に、報酬だけもらって行くとしよう。

ねむねむ……奈々月です。

小説を書いていると、夜半を過ぎていることなんてよくあったりしますが、ここ最近、気付くと1時や2時をゆうに過ぎていて、びっくりします。

そういえば、学生時代も黒板から一番近い席に座って、とことん小説を書いていたっけ……と懐かしく思ってみたり。

え、勉強ですか? 板書を写しておけば大丈夫ですよ!(注:教科による)

教卓のすぐ近くの席は、先生の目が意外と届かないようで、実はベストスポットでした。……1年も経てば、さすがにバレましたけどね。

よい子はこんな大人になってはいけません。


それでは、おやすみなさいませ……。

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