棒付きキャンディ
「人生経験積んだおっさん・じいさんはかっこいいもんだよ。
委員長は安田善次郎知ってる?」
「…たっ、たしか旧安田財閥の創業者で、日本の銀行王って呼ばれた人、かな?」
「おっ、さすが委員長!俺さ、その人の
『五十、六十はなたれ小僧
男盛りは八、九十』って言葉好きでさ。生涯現役って感じがグッとくるんだ」
その自信に満ちたニヤッとした笑いが、生意気なんだけれど、やっぱりかっこいいなあと思ってしまう椿であった。
ぽけーと見てたら聖は
「ん?」
と不思議な顔をし、何を早合点したのか、
「委員長もコレ好きなのか?」
とさっきまで自分で口に咥えていた棒付きキャンディを差し出してきた。
ルビーのような真っ赤な色味が、校舎のベランダに差し込む日の光にキラキラと輝いていて。
まだ舐め始めたばかりなのか、原形は結構残っている。
(でも、それって、間接キス…‼︎)
片想いがバレてしまった今でも、椿には耐えられない。
顔を真っ赤にしながら
「いっ要らないよ!」と
両手をわたわたと動かし必死で否定の意思を伝えようとした矢先。
チュッ
閉じた唇に、濡れた物が触れるのを感じた。
聖が真顔で差し出した、棒付きキャンディの球体。
「よしっ、これで間接キス完了っと」
「…なっなんで」
「委員長が俺と公認の仲ということに、自覚と自信を持っていただきたく」
「…へっ⁉︎」
「多分気付いてないと思うけど、
俺委員長のこと大好きだよ」
突然の衝撃的告白に寸分挟まず、
聖は先にキャンディで触れた唇に、優しく食らいついた。
頭の後ろを大きな手で抱え込み、もう逃げようもない状態で。
(うっ、わっ、あぁ)
目をギュッとつむってしまう。
言い表せないような感動が胸の底から溢れ出し理性を押し流していってしまうのを、椿はなされるがままになりながらも感じ取った。
決して叶わないと思い込んでも、何度も夢に見てしまうシチュエーション。
途中
「メガネ邪魔」
と裸眼でディープキスを迫られても、主導権を取り返そうとはこれっぽっちも思いつかなかった。
くもぐったような、あられもない声をあげてしまう椿を、聖は愛おしそうな眼差しで見つめていた。