サンタが感謝!
クリスマスから ちょうど一ヶ月前。僕あてに妙なハガキが届いた。それには、こう書かれていた。
『今年のプレゼントは ありません。 ――サンタクロース 』
……何で??
今年10歳になる僕に、衝撃が走った。一体、誰のイタズラだろう。
そして今日は12月23日。イブイブだ。すっかり天気は寒気に走り、いつ雪が降っても おかしくない気候……の、はずが。
今年は異常気象だ。とにかく暑い。
旬の農作物や魚は旬に ならず、農家は悲鳴を上げ、海・プールといったレジャー施設は開きっぱなし。熱中病や食中毒で倒れる人数は日々 増加していき、全国規模で水不足、火災が発生。局所では、雷雨や集中豪雨などによる被害が……。
そんな、12月23日。
僕は、木村しんすけ。
お母さんに頼まれた おつかいを済ませ、片手にスーパーのレジ袋、もう片手には さっき自分の お小遣いで1回だけやったガチャガチャのフィギュアを握り締めて、帰路を急いでいた。早く帰らないと、5時からの『ガキレンジャー』が始まってしまう。今日はクリスマススペシャルなんだ! 見逃すわけにはいかない。
たまに走りながら、僕は曲がり角を曲がった。
……そうしたら、何か柔らかいものに つまずいた。そして転んだ。アスファルトの地面に見事に倒れ込んだ。舌を噛まなくて良かったと思う。
「あいたたた……」僕は起き上がって、一体何につまずいたのかを確かめた。
何と、黒い服の人間。
太った体型の大きな人間が、うつぶせに、ひかれたカエルのように倒れていた。
「あのう……。もしもし?」
すりむいた鼻はヒリヒリしていたけど、どっかに飛んで行ってしまった。今は この人に興味津々だ。
「もしもーーし!」
「うう〜……。ここは……?」
僕の呼びかけに、寝覚めの声で返答した。ムクリと起き上がる。
まるでアンパンのような顔をした、恰幅のよさげな風格をしている男の人。黒い服と言ったけど、上下作業着だ。お兄さんというよりは、おじさんと呼ぼう。
「そうだ……。餓死しようとして、倒れてみたんだっけ。それより、干からびるのが先かなあ……」
そう言う おじさんの顔中、汗が びっちょりと へばりついている。時々、ダラダラと流れている。
えぇ……? お腹が すいて倒れていたの??
「仕方ないなぁ。さっき買ったジュース、あげるよ。おつかいの帰りなんだ。大人なんだから、しっかりしてよ。じゃあね。バイバイ」
僕は家に帰ってから飲もうと思っていたペットボトル飲料を、おじさんにあげた。僕は お母さんに よく言われている。知らない人に ついて行くなとか 物を もらうなとか……物を あげるのは、まぁいいか。
スタスタスタと、僕は おじさんを放って行った。すると おじさんが「キミ! 待ちたまえよ!」と声を かけてきた。
僕が驚いて足を止めると、おじさんが突進して来た。僕は咄嗟にレジ袋から白ネギを取り出して、
「ストップ! ザ・誘拐っ!!」
と、心の中だけで叫んだ。ちなみに僕は学校では上の中くらいの成績だ。
「違う違う。そんな世の中みんな犯罪者みたく見るんじゃない。そうでなくて。お礼を言わせてくれ。ありがとう、少年。それから、今年は 恨 み も込めて子供たちへのプレゼントは無し、と考えていたけれど。キミにだけ、プレゼントを差し上げよう。とはいっても、おじさん無一文だから。今から日払いのアルバイトを探して、キミへのプレゼントを用意する。明日の晩を、楽しみに待っていてくれ」
おじさんは、チンプンカンプンな事を言った。僕が目を白黒させていると、おじさんはニカッと笑って歯を見せた。……歯周病に気をつけた方がいいよ。あと虫歯もね? おじさん。
「まあいいよ。とにかく、明日の晩に届けよう。その次の日の朝を、楽しみにしていてくれたまえよ」
パチッ。
ウインクをした。おじさん、目ヤニが飛んだよ。
おじさんと明るく別れた後、家へ帰ると ちょうど『ガキレンジャー』が始まった所だった。僕は慌てて居間へ。TVの前で体育座りになって、画面に釘付けになった。
今日のガキレンジャーの敵は、黒サンタクロース。温暖化の影響で氷が溶け、北極に住めなくなった黒サンタクロースが人間に復讐しに やって来るのだ。
恨みを込めて……。
ん? 恨み?
僕は何かが頭の中に引っかかったように感じた。でも すぐに気のせいかとTVの世界に戻っていった。
すっかり おじさんの事なんか忘れて、25日の朝。
僕が寝ていたベッドの横に大きな箱が一つ。白い箱に赤いリボン。今年のクリスマスプレゼントだ!
僕は大喜びで箱を開けると、任○堂Wee(ウェー)だった! わあい、これでWeeスポーツやガキレンジャーWeeがゲームプレイできるぞ!! と……。
はしゃいでいた僕の視界に、ドえらいものが飛び込んできた。
僕の勉強机の上。
札 束 が 一 束 ポ ン と 置 い て あ っ た 。
僕の手からWeeが滑り落ちてしまった。
一万円札が百枚という事は百万円……え?
「えええぇぇぇぇえええっっっ!?」
僕の悲鳴が ご近所中に渡り響く。
すると家の一階からパパの明るい笑い声が聞こえて近づいてきた。
「ははははははは! しんすけ、そんなにWeeに びっくりしたか!」
トタトタと、パパが階段を上ってくる足音がする。Weeをくれたのは、パパ。
じゃあ、コレ(札束)はっ!?
……おじさんっ!!
(「今から日払いのアルバイトを……」)
おじさーーーーーーーーーーんっっっ!!!
《END》
【あとがき】
一足お先にクリスマス。
そして世間がクリスマスな頃には、お先に飛んでひなまつる。ピヨ。
本作品は、読者様の ご指摘により加筆・修正をしています。(H19.11.6.)
ありがとうございました。