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訪問は突然に

気楽に読める作品にするつもりです。

ので、気楽に読んでくださいませー

(サブタイトル修正しました)

 何が起きているかを、まず考えてる必要があった。

 目の前にいるのは、間違いなく母だ、自分を産んでくれた実母だと認識している。問題はその後ろにある。

 見たことのない令嬢が、きょとんとした顔のまま自分を見上げているのだ。恐る恐る、ではなく、明らかに興味津々な顔でもって。


「母上、今日はいったいなんの御用ですか……」

「すぐに追い返そうとしなかったことは褒めてあげるわ」


 美しい金の髪を結い上げた母―――ディラーナ・トゥル・バースティ公爵夫人は他人に向けるものとは違う、親愛の笑顔を向けた。

 ドレスは落ち着いた色目の濃いグリーン。けれど、所々に白いレースが飾りとなり、暗い印象にはならない。また、派手すぎないシンプルなアクセサリーを付けており、その趣味の良さは、王妃からも一目置かれている。

 記憶が確かであれば、すでに齢四十に差し掛かろうとしているはずだが、その美しさは息子から見ても衰えることを知らず、未だに社交界の華と呼ばれていることも納得できる。

 が、今はそんなことはどうでもいい。


「それで、後ろの方はどなたです」

「まぁ!気になるの、気になるのねこのお嬢さんのことが!そりゃあ、この可憐な姿が目の入らないようなことでもあれば、王宮の侍医にでも診てもらわなくては手の施しようもありませんからね。自分からよくぞ聞いてきたわ。ほかに無関心なお前でも、この可愛らしさは思わず目に入ってしまって聞かずにはおれなかった!そうでしょう、そういうことでしょう!」


 一息にまくし立てた我が母を眺め、いつものことだと思いながらも、ため息が漏れた。



 ここはフェルナンデス・トゥル・バースティ公爵嫡男の自宅。つまり俺の屋敷の、俺の居間の、時間は早朝慌ただしい午前7時。つまり、起きて王宮へ出仕するため準備をして朝食後のコーヒーを飲んでいる時に突撃してきたのが、母と見知らぬ娘だった。

 母に常識・非常識という言葉は通じない。

 この人はそういう範疇に生きていないのだ。こんな早朝からの訪問も非常識だが、それはこの母であれば……と納得もできる。わからないのは、今も一言も発さずに黙って母の後ろに控えている少女だった。

 少女の姿は、一般的な訪問用ドレス姿。赤みの強い金の髪は、赤髪と金髪の中間といったところだろう。ギリギリ金髪の部類に入る、という感じだ。未婚のため結い上げず、軽く髪留めで纏めているだけなのだが、より一層小さな顔立ちを際立てていた。瞳は新緑を思わる緑。その瞳が逸らされることなく、自分に向かっていることになぜか戸惑った。薄いブルーと濃いブルーが格子になった白地の生地を使ったドレスは、上品につくりでありながら少女の初々しさを表面化させるのに一役買っていた。この生地のドレスは、さすがの母も着こなせまい。

 しかし、社交界に頻繁に顔を出しているが、この令嬢を見たことがない。それが不思議でしょうがなかった。


「可愛らしいでしょう。この方はね、リリーナ。あのグリットロード伯爵のお嬢様よ」

「グリットロード伯爵令嬢!?」


 その名前を聞いて、思わず母を振り返った。

 ありえない、なんであの噂の令嬢がここにいるんだ!?

 というか、見たことのない令嬢だと思っていたことに合点がいった。


 グリットロード伯爵には子供が5人いるが、上4人が全員男で、5人目は伯爵が40歳を過ぎてから授かった待望の女の子だったのだ。伯爵だけでなく、伯爵夫人も大いに喜び、そして年の離れた兄たちも狂喜乱舞し、誕生の祝賀会が10日間ぶっ通しで行われて、参加者が辟易したというのは「伯爵家の狂乱」として伝説になった。当時8歳だった俺も両親に伴われて参加した記憶があるが、いつもは整然とした伯爵家の屋敷が、ピンク色に塗られていたり、壁に幼稚な花が描かれていたり、伯爵本人が部屋中に花を撒き散らして笑っていた記憶が…………いかん、思い出したら頭が痛くなってきた。

 そう、その伯爵家の至宝の花は、蝶よ花よと育てられ、決して外に出されることはなかった。成人の儀式の一環である、王宮で行われるデビュタントにも出てくるのか微妙だと噂されているほどだった。

 なのに、今この目の前にいる少女がその本人だという。母の虚偽も疑ったが、こんなに堂々としている姿を見てしまうと本当かもしれない……と考えを改めてしまいそうになる。しかし、あの娘を溺愛しているという伯爵が、男の屋敷に訪問させるなどやはり信じられなかった。


「まぁ……その方が伯爵家の噂のご令嬢かどうかは、この際置いておきましょう。とりあえず、ご用件を伺いましょうか」

「フェルは相変わらず疑り深い性格をしているわね。いつからそんな、ひねた性格になってしまったのかしら。小さい頃はそりゃあもう、素直でいい子で、天使なような笑顔でわたくしの後をついて回って来ていたというのに―――」

「母上」


 いつまで続くかわからない母の言葉を思わず遮った。こうでもしないと止まらないということは、我が身を持って学習してきた成果である。ちなみにフェルというのは、言わずもがな、幼い頃からの俺の愛称である。


「母の言葉を遮ってくるなんて、悲しいことだわ」


 よくいう……。


「今日は大目に見ましょう。さぁ本題よ。リリーナはもう少ししたら、王宮へ行儀見習いへ行くことになっています。その予行練習をここでさせてあげてちょうだい」

「はぁ?」


 さらりと告げられた御言葉に、思わず公爵嫡男にふさわしくない聞き返しをしてしまったことを許して欲しい。無意識に口に出た言葉がこれだったのだ。それほどまでに、母のその一言は突拍子もなく、そしてありえない内容だった。


「なにをぽかんとしているの。それでも公爵の獅子と言われたお父上の子ですか。その間抜けな顔を締めなさい」


 こういう時だけは、この母は手厳しいことを口にする。だが、母曰く『間抜けな顔』を披露する原因を作ったのは自分だということは棚上げである。


「どういうことですか。だいたい、行儀見習いの練習など意味がわかりません」


 表情を引き締め、眉根を寄せて言葉を吐き出す。手にしていたコーヒーカップは冷たくなっていた。もちろん、中身も冷めてしまっているだろう。残念だ。


「フェルだって知っているでしょう、リリーナが頻繁に外の世界に触れることができなかったことくらいは。デビュタントすれば、レディとして扱いを受けることになります。けれど、それまでに世間の空気に触れ、気の利いた言葉や仕草。そして感情の押さえ方やかわし方を学ばなければなりません。そのためには、多少でも世慣れしていなくては、王宮になど赴けるはずもないわ」


 母の言うことは尤もだ。世間知らずの娘が、あんな魔窟のような場所に行っても、心無い悪意にさらされた挙句に、悪い男にでも騙されて捨てられるのがオチだ。さらに、この少女は伯爵家の至宝。望む望まざる無関係に、他人の好奇心や悪意にさらされることは間違いない。間違いないだろうけども。


「それで、どうして俺の屋敷へ?」


 一番の謎だ。

 行儀見習いをすることによって、対人関係を築くことは大切だ。そして、世慣れしていない少女に行儀見習いの練習をさせたいという気持ちも分からないでもない。そんなことを実行するなんて、聞いたこともないけれど。

 ただ分からない。その練習場所に自分の屋敷が選ばれた意味が不明だ。


「リリーナの行儀見習いの練習は、すでに我が家で終わってます」

「は?」


 母からの言葉に、俺は再びぽかんとした。

 なんだって?終わってる?だったらどうして、ここに連れてきたんだ。全然意味がわからない。


「終わっているのだけれど、フェルのところで最終試験をしてもらおうと思って」

「は?」


 もう何度目かわからない、間抜けな声が出た。我が母ながら、何が言いたいのかさっぱりだ。

 俺のぽかーんとした顔を見ていた母は、後ろでおとなしく控えていたリリーナの手を取るとぐいぐいと背を押して俺と対面させた。


「わたしはもう、淑女として完璧だと思うのだけれど、男性の目から見た視点というものはまた別物でしょう。あいにく、旦那さまもリリーナには甘くって、全然批評してくれないのよ。その点フェルなら、相手が誰であろうと平然と物を言うし、我が子ながら情けないぐらいに気が利かないし、思わず文句と一緒に平手が出そうになるくらいデリカシーがないでしょ?つまり、一般の殿方よりは5割増に相手に対して厳しいけれど、フェルの嫌味がなくなったら完璧っていうことになると思わなくて?」


 にこにこと無駄に笑顔を振りまきつつ、母がとんでもないことを言ってくる。いくら自分の息子のこととは言え、なんて言い草だこの人は。ちなみに母の言う『旦那さま』とは、当然自分の夫であり、俺の父である公爵閣下のことだ。


「……つまり、女性にも容赦せず手厳しいことを言う俺が、リリーナ嬢にダメ出しをしなくなれば、王宮に行っても恥をかかないレベルになった証拠だと言いたいわけですね」


 頭を抑えながら母の言わんとしていることを自分なりにまとめてみた。それにしてもなんて内容だ。


「そうそう、そういうことよ。さすが、頭の回転と顔だけはいいわね」

「……」


 なにか言い返したい気力は既に尽きた。そしてふと、時計を見てさっと血の気が引いた。


 ―――時間!


 つい母の勢いに押されてうっかりしていたが、王宮へ出仕する時間がせまっている。いつもなら執事のピエールが声をかけてくるのだが、母が来ているために遠慮しているのだろう。遠慮などせず、とっとと声をかけて連れ出してくれればいいものを。いまごろ部屋の外の扉の前でいつ踏み出そうかと足踏みしているに違いない。


「母上、リリーナ嬢。まったくもって、その提案には賛成も同意もしかねますが、そろそろ王宮へいかなくてはならないので、この辺で失礼します。ピエール!」

「はい、旦那さまっ」


 ピエールは俺が独自で雇っている執事だ。俺より10歳は年上のはずだが、童顔のため同年代にしか見えない男である。そして仕事ぶりは優秀だが、気弱な性格が災いして、屋敷にいる女中たちから、存分にからかわれているのを知っている。見ていて楽しいので、放置していることはピエールには内緒だ。


「すぐに馬車の手配を」


 俺の言葉にピエールはすぐに飛び出していった。玄関で外套を準備したり、彼にも色々と仕事がある。


「母上、リリーナ嬢。それでは行ってまいります。昼からは天気が崩れるようですので、それまでにお帰りください。では」


 後ろから母の呼び止める声が聞こえたが、そんな事に構っていられるほど、俺は暇ではないのだ。


不定期更新のため、次回は未定です。

すいませんー

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