一年越しの想い
半分勢いで書いた小説です。あまりやった事のない試みなので、上手くいった気はしませんが、読んで貰えれば幸いです。
彼女との出会いは一年半前だった。新しいクラスで出会った。
最初は席が近いってだけで、あまり気にはしてなかったけど、ある時彼女の方から話しかけてきてくれた。
「ねえ。堀井クンて陸上だよね?」
きっかけとは些細な物で、その時の俺はその場限りの質問だろうとたかをくくっていた。だけど、彼女はそんなつもりでは無かった。
「あたしテニス部なんだけど、知ってる?」
「見たことはあるけど、全然知らない」
「え〜? ウソだ〜」
それからというもの、俺と彼女は次第に仲良くなって行った。彼女は俺に対して積極的で、何から何まで聞いてきた。俺はあまり口数が多い方じゃないけど、彼女の質問には必要最低限以上の答えをした。
ある日の事だった。彼女はまたいつもの様に、俺に話しかけてきて来た。
「ねえ、堀井クンて好きな人いるの?」
俺は答えに窮した。普段なら即答し、もっと別の話題を振ったりするのだが、この時ばかりは答えられなかった。
当時、俺には彼女以外の人が好きだった。ただ、その人については名前以外全然知らないという感じだったし、第一、自分の意中の人を他人に教えるのには、多かれ少なかれかなりの抵抗があったのだ。
俺が苦笑いのまま固まっていると、彼女からいくつかの選択肢が出された。
「何組のコ? 前のクラスで一緒だった? カワイイ?」
とりあえず場の雰囲気を乱したくなかった俺は、示された選択肢に応じる形で答えていく。そしていつの間にか、その人の名を言ってしまっていた。
「へぇー、二組の武田さんかぁ」
「ああ。だけど、名前以外は全然知らなくて」
「じゃあ、メアド聞きに行きなよ!」
正直な所、かなり驚いた。名前以外知らない人に対して、いきなりそんな事が出来る訳ないだろう。
だが、彼女は立て続けに俺の背中を押してくる。
「じゃあ、あたしが聞いて来てあげようか?」
「いいって。そこまでしなくても」
「じゃあ、聞きに行きなよ」
もう何が何だか。
「待って。じゃあさ、まず最初に前原さんのメアド教えてよ」
自分でも何を言ったのかわからない。ただ、場を打開したかった一心で、そう言ってしまったのは覚えている。
「分かった。じゃあさ、武田さんにもそんな感じで聞きに行けばいいじゃん。ガンバ」
もしかしたら、俺はこの時既に、彼女の事を武田さん以上に気になっていたのかも知れない。
それに、向こうも俺に対してまんざらじゃないのかも知れなかった。地味で目立たない事が特長みたいな俺だ。そんな俺にここまで構ってくるって事は、ひょっとして――
だけど、二人に溝が生まれ始めたのは、そのすぐ後からだった。
多分、いや、絶対、俺はこの時彼女が好きだった。何故なら、家に帰ったら瞬間からメールを送ったからだ。次の日も、その次の日も。
俺はまだこの時、自分の馬鹿さ加減を知らなかった。いくら仲が良いと言っても、毎日の様にメールが来たら、流石に嫌われる。
ある日を境に、彼女は俺の事を忘れたかの様に空々しくなってしまった。
俺は完全に嫌われた。ウザがられた。後々先輩に聞いたのだが、
「用もないのにメールするからだ」
と言われた。
本当に俺は、大馬鹿者だったんだ。
それからしばらくして、武田さんにアドレスを聞いた。だが、彼女は俺に、
「今、メールしたい気分じゃないから」
と言い残し、俺に背中を向け行ってしまった。
それからずっと、俺と彼女の間には溝が出来たままだ。
一時期、
「下の名前で呼ぶ?」
とか、
「カラオケでさ、『瞳を閉じて』歌ってよ」
とまで来た仲だった。
だが、そんな関係も、俺の愚行によってあっさりと崩れ去ってしまったのだった。
一年後、つまり今。運は急に向いた。体育祭の応援ダンスで、あろう事かペアになったのだ。
俺は正直言って凄く嬉しかった。何故なら、今も彼女を好きだったからだ。ただ、一年間心の奥にしまっていた想いが果たして本当なのか、という疑問があった。
俺の気持ちは本当なのか?
一年前の想いを信じて良いのか?
まだ、好きなのか?
答えはおのずと出た。ペアだという事が分かってから数日後、ペアでの練習があったのだ。 練習の最中、何度か彼女と目が合う――
確信した。
好きだ。
それからというもの、俺の最大の関心事はそれだ。何をするにしても、彼女の事が頭をよぎる。笑った顔、俺の名前を呼ぶ声。ちょっと垂れ目な感じや、短目な髪が凄くキュートで可愛らしい。想えば想う度、どんどん好きになっていく。彼女が練習に顔を出すと、俺はとても嬉しい。一緒に練習すれこととあれば、尚更だ。
好き。生まれて初めて、真剣に人を好きになった気がする。 最近、やたら鏡を見る様になったし、風呂の時間も長くなっている。好かれたい一心で、練習の時もやけに張り切ってしまう。
流石に一年も経てば、向こうも俺に対する嫌悪の情も薄れているだろう。きっと今回ばかりは、上手くいきそうな気がする。
だから俺は、自分の背中を自分で押すんだ。視界の真ん中には彼女がいて――
「ずっと、好きだった」
二人の溝。今回ばかりは縮まるはずだ。
読んで頂きありがとうございました。