辛い煙は制御不能でした
まえに、エッセイ「唐辛子じゃハラは膨れねえんだぜ」で、売ってお金にしてどうこう……というような試みは失敗したことを話したと思う。どう頑張ったとて、ご家庭でそんなに唐辛子はつかわないのだ。
で、今回はそこから続きなのだが、その時のコメントに面白いアイデアをいただいた。
唐辛子入りくん煙剤である。
コレがなにか?というと、害獣が嫌がって逃げる臭いを含んだ煙花火のようなものだ。最も一般的なのはモグラとネズミを燻し出して追い払うもので、他にもサル、クマ、シカなど、野生動物に対して使用する。すると、臭いを嫌がって寄り付かなくなると。そういうことである。
もしも自前でそれを作れるなら大変に素晴らしいことだし、もしそのくん煙剤を売ることができて、商売としても軌道に乗るなら、10年後の未来、私の副業にとても素敵な仕事が仲間入りしているかもしれない。お金の気配に心が躍るのを感じた。
というわけで。あり余る唐辛子を持って、私は稲刈り後の田んぼへ向かったのである。
「煙なんだからあんまり強く燃えても良くないのか……?」
火のないところに何とやらということで、焚き火の準備を進める。
ウメの剪定枝に、枝豆の豆がら、この2つは火がつくと勢いよく燃えるため、あまり結構ではないかもしれない。じゃあということでもみ殻。こっちはもうゆっくり燃えるくん煙剤としては申し分ない。炎を上げて燃えることはないがゆっくり煙を出しながら長時間静かにくすぶっている。それからちょっと離れた場所にある杉の木の下、今年は雨にうたれてびっしょり濡れた杉の葉がある。これも乾いているとあっという間に燃えてしまうが、濡れていると燻った状態になって長く燃える。まあこの辺が有力候補かな?初の唐辛子入りくん煙剤の実験はスタートした。
火は最初、豆がらとウメの枝で強めに起こす。地面が乾いてきて、燃える枝が炎と別に炭火のような、真っ赤に熾こしてある状態になったら、まずはそこにそのまま唐辛子を粗く切って投入する。
「うわっ!?ゲホッ……ゲホッ、やべ、これ、だめだ」
目と喉と鼻に、食べてもいない唐辛子が突き刺さる。効果はてきめん……いや、これは間違いなくやりすぎだった。カプサイシンが煙に混じって一気に飛散する。うっかりちょっと吸い込んでしまい肺まで痛痒くなるような錯覚を起こした。こんなんヒトの居住地で使ったら新手のテロ行為である。こわい。暇庭はテロリストになるつもりはないのだ。
「ゲッホゲホ、ひゅーはー……もうちょっと……優しいやつにしよう」
鼻をかみ涙も拭いて、今度は、燃えている火にもみ殻をすぽっとかぶせる。しめて45リットル。もみ殻に火がうつるとそこからはゆっくり燃える。45リットルだとおおよそ3時間くらいか。しばし待つと、もみ殻が燃えるときの独特のにおいになってきた。
ぶっちゃけコレが1番の有力候補である。派手に見えないすぐ消えない。さあどうか。棒で1番熱い部分を探り、そっと唐辛子を数本分投入する。
「あーっ目が……ゲッホ、ダメだ、強すぎる」
煙が目に突き刺さる。早くも結論が出た。畑でこれを焚いたら村までこの辛い煙が届いてしまう。野焼き畑焼きの煙はまあいいか……と構わず無視できるが、こんな粘膜を焼いてくるような煙は人家から最低でも200メートルは離して発生させないと他人様の生活を破壊してしまう。家から一番近い畑まで10メートルくらいしかない暇庭家では、ちょっと使えなかろう。
よいアイディアだったし、人里から離れてということであれば大いに活用したかったが、普段使いは出来そうにないなと思った。乱暴に言えばアレだ。戦略兵器だ。野生動物と牽制しあっている段階で使用たらジュネーブが黙ってないということだ。……何を言ってるんだろう暇庭は。
とまあ、そんなこんなで、試作くん煙試験は暇庭の目と喉を焼いて終わりを告げたのだった。
ただ、これをダウンサイジングして、かつある程度の制御を自分で出来るならそれは悪くない道具になると思う。線香のように固形になっていたらなおよいだろう。ううむ……これを書きながらも暇庭は、害獣よけくん煙剤(仮称)についてあれこれと考えている。
唐辛子を販売しようかというところから始まって妙な方向へ走り出した気がしないでもない。まあ、ぶっちゃけ金を突っ込んで本気で開発とかでなければ道楽の一種なのであんまり気負わないことにする。クマよけに日常的に使えればいいなあというのが暇庭の現在の目標である。




