いつもと違う場所
見慣れた日常が、ほんの数秒で悪夢へと塗り替えられる瞬間があります。
お盆休みの終わり、いつもの帰り道、いつもの渋滞。誰もが「早く家に帰りたい」とだけ考えていたその場所で、異常は静かに、そして圧倒的なスピードで始まりました。
視界を奪うほどの濃霧、ラジオから流れる不可解な警告、そして霧の奥でうごめく「それ」。
もしあなたが今、車のハンドルを握っているなら――どうかバックミラーを覗かないでください。これは、どこにでもある高速道路で起きた、決して語られてはならない惨劇の記録です。
俺は夏の暑さをきり裂くような速さで、首都高を爆走していた。お盆中だから車通りは少なかったから、こんなスピードを出せるのだ。
━━ひゃっほー!
スピード狂にとっての最大の快楽がこの瞬間だ。メーターの針は 120km/時越えを示していた。アラートが絶え間なく警告音を鳴らしてくる。
ふと景色を見た。
その時、俺はようやく気づいた。
『お盆休みの最終日、関東地方の天候は急速に崩れる見込みです。特に首都高速周辺では、先ほどから急速に猛烈な濃霧が発生し始めています。視界は数十センチ先すら遮られ、前方を走る車両の存在を視認することは不可能です。ドライバーの皆さんは、ただちに速度を落としてください。その霧の中に、決して存在してはならないものが紛れ込んでいます――』
【了】
日常のすぐ隣にある異常と、逃げ場のない高速道路の絶望感を描いた一作です。
「もし自分の身に起きたら……」と、夜の運転中にふと思い出していただけたら最高に光栄です。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。どうか、お帰りの際はお気をつけくださいね。




