鬱生産機と異名高い漫画の世界に転生したけど、死にたくない一心で頑張ったら何故か幹部になっていた。首にして欲しい
『邪気』と呼ばれる人を襲う存在と『神人』と呼ばれる人間が戦う漫画の世界に転生したとライカが気付いたのは目の前で両親が邪気に殺された時だった。
急に前世の記憶が蘇った混乱と両親の死、そして目の前にいる邪気が自分を襲おうとしてきた事に混乱したライカは、逃げようとして足元に散らばった薪に足を取られて背中から地面に転がる。
ライカの両親を殺した様に彼を殺そうとした邪気の鋭い爪は彼が体勢を崩した事で狙いからズレ、彼の右目を切り裂く事となり右目を熱さと勘違いする程の強い痛みに襲われたライカは目を手で押さえながら地面でのたうち回った。
「うわあああぁぁぁぁ!!」
「ははははは!良いぞ!良い悲鳴だ!成りたてだから神気も濃……ぐっ?!」
そんなライカの様子をにや付きやがら眺めて彼の右目を傷付けたその鋭い爪に付いた血をこれ見よがしに舐めた邪気は何故かもがき苦しみ始め、そのまま黒い塵となる。
「七つまでは神の内」
それは比喩ではなく本当の事で、この世界では七歳までの子供は神の身内として神聖な存在であり、完全にではないがある程度の病や災いを遠ざける。
八歳になった直ぐの時はまだ神気を残しており、成長するにつれてそれは薄れて行くのだが、その残った神気を取り込んで喰らう事で邪気は強くなる。
だが逆に八歳に満たない子供は邪気にとっては途轍もない毒になる。
それこそ血を一口舐めただけで死に至る程に。
ライカは明日が八歳の誕生日であり、邪気は日付を一日勘違いして自爆した。
ある程度神気を取り込んだ邪気は知能が上がり言葉を介する様になるのだが、今回はその知能が逆に仇となり日付を勘違いした邪気は自滅に至ったのだがそんな事は露知らずライカは目の前で塵になった邪気に唖然とする。
「ええ?なにぃ?」
あまりの事に最初は何が起こったのか分からなかったが、目の前に居た人ならざる存在が見覚えのある黒い塵になった事でやはりここは間違いなくあの漫画の世界なのだなとライカは悟る。
『邪滅の刃』と言う少年誌で掲載されていたダークファンタジーの世界を基盤にした世界感で、七つを超えても何故か神力を失わなかった少年を主人公とした物語だ。
この世界では邪気は人を襲う存在で特に八歳から十二歳程の子供が襲われやすいとされている。
漫画ではとにかくモブが大量に死ぬし何なら主要人物も容赦なく死ぬ。
余りにも容赦なく死ぬ事から別名『鬱生産機』とまで呼ばれていた。
漫画の設定では一度邪気に襲われた人間は邪気を呼び寄せる気で侵されており、身の内に宿した神気が完全になくなるまで邪気に襲われ易くなる。
このままだとモブの一人として死ぬ可能性が高い事に気付いたライカは戦慄した。
今世の両親には悪いが自分の命が一番がモットーなのでどうにか出来ないかと死への恐怖でガタガタ震えていると家の中に漫画で見覚えのある制服を着た見知らぬ誰かが飛び込んできた。
「大丈夫か?!」
血の流れる右目を抑え、両親の血の海の中でガタガタ震えているライカとその目の前に積もっている塵の塊に状況を把握したその人は自分の服が血で汚れるのも厭わずに膝を吐き、ライカを抱きしめた。
「間に合わなくてすまない、俺がもっと早く来ていれば助けられたかもしれなかったのに……」
そう言って涙する後の師匠となるナギリと出会ったのはライカが八歳になる前日の事だった。
✻✻✻
ナギリの到着に安堵してあの後直ぐに気絶してしまったライカは目を覚ますと手当をされ、村長の家の客間で横になっていた。
八歳になって直ぐの時はその子供を喰らおうとする邪気を払うのと邪気除けを施す為に『邪気払い機関』に所属する神人と呼ばれる七歳を超えても神気を失わなかった特殊な力を持つ者がその子供がいる村へと派遣されるのだが、肝心の邪気が日付を勘違いをして早く襲ってくる事など早々無い事であったのと、連日続いた雨で村への道が土砂崩れで塞がっていた事が重なった為に今回は神人の到着が遅れてしまった。
そう語り丁寧に謝罪をするナギリにライカは慌てる。
「土砂崩れなら仕方が無いですよ、それに言葉を用いる知能を持った邪気がまさか日付を勘違いするヘマをする何て誰も思わないですし」
「あれは言葉を用いていたのか?であれば君がその怪我で済んだのは奇跡だ」
驚くナギリが言葉を用いるレベルの邪気は時に村を壊滅させ、神人を打ち倒す事もある程の強敵なのだと説明をし、その話にライカの看病の為に近くにいた村長があったかも知れない未来に恐れ戦く。
「邪気に襲われるのは仕方が無いとは言え、あの二人は運が悪かったんじゃ」
邪気が人を襲い、人が邪気に喰われるのは仕方が無いのだと語る村長にライカは眉を顰める。
この世界ではその認識が常識なのは知っているが前世の記憶を思い出してしまったライカにはどうしてもそれが受け入れられない。
いっそ何も思い出さずに呑気に暮らしていたかったと布団の端を固く握るライカにナギリが一つの提案をする。
「ライカ、君はご両親を亡くし身寄りが無いと聞いた。どうだろう、一度邪気に侵された者は神気を失うまで邪気に襲われ易くなる、身を守る為にも俺の弟子にならないか?」
ナギリの誘いにライカは考える。
ライカの読んだ漫画にはこのナギリと言う人は登場していなかったし、勿論ライカと言う名前のキャラも登場していない。
であれば漫画での『邪気竜討伐編』や『邪神顕現編』等の主要キャラが死ぬストーリーに参加せずに一介のモブとして存在を消して生き延びれるのでは?
(この世界で無事に寿命を全うするには邪気から身を守れる力が必要だし、漫画の知識としてだけじゃなく技術として邪気を狩る術を知る事は大事だよなぁ)
この結論に至ったライカはナギリの提案を受け入れ、弟子入りする事になった。
そんなこんなでライカは師匠になったナギリと共に生まれ育った村を後にして次の任務地の村へと向かう旅を続けながら死にたくない一心で必死に修行に励んだ。
傷が塞がり包帯が取れた右目は幸運にも視力は失われなかったが大きな傷跡が残った。
そして何故か右目は元の黒い色から金色に変化しており、偶に少しだけ未来の出来事が見える様になっていた。
ナギリが言うには邪気に侵された影響だろうとの事で、オッドアイと言うモブにあるまじきキャラ付けにライカは頭を抱える。
しかもこの目、自分の意思で未来を見る事が出来ないのだ。
偶に唐突に見せられる右目の映像と現実の左目の出来事に混乱して修行中にナギリから吹っ飛ばされたり、右目を過信してこっ酷い目に合ったりと散々な目にあった。
だが、右目のお陰で命拾いをした事もあり、なってしまった物は仕方が無いとライカは受け入れ、右目の未来予知は偶にくるボーナスタイム扱いに落ち着いた。
そうして修行を積みながらナギリと共に旅をしている内に消えるはずだった神気だが消えるどころか強くなっている事が分かり、神人である事が判明したライカは絶望に膝を落とす。
(そんな……神気が消えるまでの我慢だと思ってたのに!!)
オイオイと涙するライカの肩をそっと叩き、ナギリは「ようこそ邪気払い機関へ」と親指を上げた。
その親指を逆サイドに折ろうとしてヘッドロックを掛けられたのは良い思い出である。
正式に邪気払い機関へ所属する事になったライカは心機一転して一人称を俺に変え、それまで以上に修行に精を出した。
全ては本編が始まってしまう前に死と生の境を高速で反復横跳びし続ける労働環境から一刻も早く離脱する為。
その為に少しでも早く自分の身を守る力を得れる様に一心不乱に修行をし、ナギリにくっ付いて必死で任務を熟す。
ナギリから一人前だと独り立ちを勧められた時は泣いて縋ったし、それでも放り出された初の単独任務で普通に怖い目に合った上に死にかけたライカは任務後は同じく一人だと不安だと言う仲間をかき集めた。
死にたくないし、今後の人生を考えると四肢の欠損なんてもっての外なので「ガンガン行こうぜ!」ではなく「みんなで袋叩きにしようぜ!」戦法でライカは徒党を組んで邪気の討伐任務に当たる事にした。
袋叩き戦法は人数が増える分、任務の報酬は薄利になるがその代わりに比較的安全だし怪我も少ないので高スパンで任務を熟す事が出来る。
薄利とは言っても普通に働くよりは給金が良いので、辞めた後に暫くは働かなくてもある程度ゆとりのある生活が出来る位には給金を貯める為に本編が始まる少し前までは邪気払いとして働いて主人公が来る頃にスパッと辞めよう。
そう考えていたのにライカは何故かいつの間にか最高位の一角を担う立場である十二神人に推薦され、その着任の賛否を決める会議に参加させられる事になっていた。
(何故?!何で?!俺は円満に退職したいだけなのになんで階級上がっちゃってんの??)
危険な任務を当てられたくないし、ライカ的には基本給が上がる以外に得をしないので階級を上げない為に手柄は出来るだけどうぞどうぞと他人に譲って来た。
それなのに何故かライカの階級が本人が思った以上に上がっており、十二神人に推薦される事態に陥っていた。
ライカが読んでいた原作の十二神人にライカなんて名前の人物は存在していない事から十二神人になったら直ぐに死んで代替わりする可能性が高い事に思い至ったライカは脂汗が止まらなかった。
それにライカが知っている十二神人達は腸を裂かれようが邪気を倒す為に動き続ける様なタフネスのある頭の可笑しい奴らだ。
そんな気概はとてもではないがライカには無かった。
(出来るだけ目立たず、人の陰に隠れたり紛れたりしてひっそりと過ごして来たのに何で俺はここにいるんだよ?)
頭を抱えたくなるライカを余所に会議は進んでいく。
「ライカ君の考案した戦法のお陰で隊員の死亡率は50%減り、怪我人の発生率も同様に減少しております。更には本人も戦法を伝え広める事に意欲旺盛で後進の教育にも貢献しており、己の手柄を誇示しない謙虚さは正に十二神人に相応しい素晴らしい功績と人柄かと」
何かの資料を手にそう話す十二神人の一人、ミヤビの言葉にライカは固まった。
ライカの知る邪気払い機関はそれぞれが一人で何体もの邪気を払い続ける孤高の集団で『邪気竜討伐編』や『邪神顕現編』に入るまでは集団戦なんぞ無かった。
将来的にはやるんだし別にええじゃろスタイルで白い目で見られようが臆病者と謗られようが「死にたくないと願って何が悪い?」と開き直って袋叩き戦法を続けて来たのだが、まさかの袋叩き戦法が組織で高評価されていた。
(俺はそんな素晴らしい人間じゃないんだ。ただ、死にたくなくて、他人から恨まれたくなくて、必死に周囲に良い顔をして生きてきただけの男なのに……そうだ!いつも俺を毛嫌いして俺の作戦に反対ばかりしているあいつ!あいつが俺の昇進に反対してくれればそこから辞退する流れに持っていける!)
希望はそこにしかないと縋る想いで部屋へと視線を走らせると目的の人物が居た。
十二神人の一人、レッカである。
幹部の人間から嫌われていれば円満に退職出来るだろうと知り合いに頼まれて代打で予算会議に出た時に喧嘩を売りつけ、それからは会う度に意見の衝突を繰り返してきたあの男であれば「ライカの様な軟弱者は十二神人には相応しくない」なんだの言ってくれるだろう。
いつもは「反対ばかりしやがってこの野郎」と思っていたが今日ばかりは後光が差して見える。
(さあ、今こそ存分に普段の様に毒を吐いて俺をこき下ろすんだ!)
期待を込めた目で見つめるが、レッカは何故か腕を組みながら頷いている。
(いや、なんだその「アイツならば仕方が無い」みたいな顔。何してんだ、今欲しいのはその顔じゃねえ、その顔は予算会議の時に見せてくれよ!)
十二神人の長を務めているカガリがレッカに声を掛ける。
「おや、今回は反対しないんだね。レッカ」
「……そいつの実力であれば妥当かと。普段は甘ったれた事を言って出来る事をしないから言っているだけですのでそいつを認めていない訳ではありませんから」
(やめろーーーーー!!なんでそう言う事言うんだ!!嫌がらせか!!?)
心の中でそう叫び、想像でレッカの首元を掴んで揺さぶるが現実ではそう言う訳にはいかない。
ライカはそっと片手を上げて自己主張をする。
「どうされました、ライカ君」
「あのー、俺に十二神人の座は荷が重いので辞退したく」
「あ゛あ゛?!」
レッカが凄まじい形相でライカを睨む。
恐ろしすぎてそちらに視線を向けられないし言った言葉を撤回したくなるが、それ以上にライカは死ぬのが恐ろしい。
十二神人は特に危険度の高い任務に向かわされる事も多いのでライカとしては十二神人になるなんてとんでもない。
絶対にお断りだ。
レッカは実力がどうこうと言っていたがライカ自身は自分が十二神人の座に付ける様な強さを持っていないと胸を張って言える。
先程のミヤビの話からこの人事は腕っぷしでは無く、戦略的な面で評価された結果の抜擢なのだろうとライカは考えた。
十二神人は戦闘力がずば抜けた十二人で構成されるので腕っぷしがある訳では無いライカは功績を上げたから抜擢されただけで辞退すれば無理して十二神人の座に態々付けようとしないだろう。
ある程度の功績を上げた人間に相応しい報酬を与えなければ組織で働く他の人間の意欲が落ちるのはライカにも理解できるので、こうすれば給料の引き上げで手を打って貰えるだろうと打算しての辞退でもある。
「なるほど、その辞退は却下です」
「え?!」
ただ、ライカにとって計算外だったのは彼の想定よりも彼の評価が遥かに高かった事だ。
個人主義だった組織に集団戦の概念を入れ、個人ではAランクに相当する任務の等級を集団戦でCランクまで下げる事に成功。
更に隊員の死亡及び負傷率を下げる事で人的損耗を減らし、死亡率を下げる事で経験を積み重ねた隊員が増えて組織全体の戦闘力が上がった。
それによりこれまでよりも多くの邪気を短時間で効率良く狩る事に繋がり、邪気による被害者を近年で劇的に減らす事が出来た。
ライカ本人に自覚は無いが彼が死にたくないからと一心不乱に修行する姿はストイックに己を磨き続ける努力家に、積極的に袋叩き仲間を集める姿は実力の低い仲間を守る事に邁進している様に見えており同僚や後輩からの人望は厚く。
更には偶に見える右目での未来予知により最適なタイミングで邪気を袋叩きする事で人語を発するレベルの邪気の討伐を死傷者0での討伐に成功していた事から神がかった知略の持ち主と言う評価も得ている事に本人だけが気付いていなかった。
「では、決を取ります。ライカ君が十二神人に相応しいと思う方」
そうしてライカは満場一致で新たな十二神人に就任する事に決定した。
辞めようと考えていたのにそれどころか幹部に昇進してしまった現実にライカは放心する。
敗因は金に目が眩んで退職する時期を逃した事だろう。
こうして本編開始前に逃げるどころか十二神人としてバリバリに後に登場する主人公と絡む事になるのだが右目はそんな未来を教えてはくれず、ライカは十二神人を首になるべく無駄な努力に邁進する事になるのだった。
本編抜粋
初めての単独任務編
ライカは泣きそうになるのを我慢し必死で走る。
その背をは大きなカマキリの様な姿をした邪気が追いかけており、時折刃を振るい鎌鼬の様な物を発生させてライカを後ろから狙ってくる。
(泣いたら駄目だ、視界が悪くなるし呼吸が乱れる)
背後からの攻撃を何とかかわしながらライカはそう必死で自分に言い聞かせて邪気を人気の無い場所へと誘導する。
ナギリと共に任務に当たってきた時には師匠がいると言う絶対の安心を感じていたが初の単独任務で自分がどれ程ナギリの存在に頼っていたかをヒシヒシと感じていた。
(あ、まずっ)
転身が遅れ、腿裏を鎌鼬が容赦なく切り裂きライカの血が舞う。
機動力を落とされたライカは戦う事を余儀なくされ、腹を括って武器を手に邪気へと対峙する。
✻✻✻
右目ボーナスタイム発生!袋叩きラッシュ中
「次、右側に発生!左は叩け!」
ライカの声に右側に居た仲間が左へ移動すると同時に先程までいた場所に黒い球体が現れ、音もなく消える。
「次、足元!後衛は叩け!」
その言葉に仲間達は飛びずさり、それと同時に地面に先程と同じ黒い球体が現れては消える。
原理や理屈はサッパリ分からないがこの黒い球体に僅かでも触れるとそのまま取り込まれて強力な力で圧死させられる様だ。
まるでブラックホールだなと前世の知識でライカは分析する。
この球体を発生させているのは今ライカが仲間達と共に挑んでいる邪気で、思う様に邪気払いを倒す事が出来ずに苛立ち吠える。
「何故だ!?何故避けられる?!」
「見えるからだ!連撃!」
ライカの攻撃を合図に仲間達がタイミングを合わせて息を吐く間も無い質量の攻撃を当てていく。
自身の攻撃は通じず、相手の攻撃は絶え間なく襲ってくる状況に邪気は焦るが攻撃に転じようにもその僅かな隙も見つけられない。
邪気はもはやこれまでとせめて憎き邪気払いを一人でも多く道連れにするべく残った全ての力を使って自爆を決めた。
ライカの右目が邪気がいくつもの球体を自分の体に出現させ、ここら一帯をクレーターに変える大規模な攻撃を行う未来を映す。
「!!全員緊急退避!ハジキ!目を、」
撃てと言うか言わないかの速さで後方からタタンッ!と音がし、邪気の両目が弾丸で貫かれた。
その結果を確認するのも後にしてライカも仲間達の背を追って退避し、背後で黒い光が弾けるのを感じ取りながらも必死に足を動かす。
先に行った仲間達が立ち止まりライカの背後を唖然と見つけている。
その隣まで駆けてから漸くライカも自身の背後を振り返った。
「はあー、やっば……」
邪気が立っていた場所の20m程の距離を円形にクレータが出来ていた。
自爆技を発動させきる前に邪気を払う事が出来たのか右目で見えた一帯の壊滅した未来よりも遥かに少ない被害に収まっており、ライカは安堵する。
ハジキの攻撃が間に合わなければここにいた人間はおろか近くの村も全滅していた。
流石未来の十二神人だ。
仲間達も大小の怪我は有れど命に係わる程ではなく、無事な討伐成功にライカはホッと息を吐いた。
✻✻✻
十二神人自主退職チャレンジ
「俺さやっぱり十二神人の座には相応しく無いと思うんだよ、覚醒もしていないし。やっぱりここはハジキが座るべきだと思うから推薦しておくね。辞表も用意したんだ、ホラ!」
「アホな事言うてへんで仕事してや」
「アホとはなんだ!俺はめちゃくちゃ本気だぞ?!アー?!なんで破く?!」
用意した辞表をハジキに破り捨てられたライカは床に倒れ込む。
やだー!ハジキになって欲しいー!俺より強いじゃん!と床で駄々をこねる上司の姿にハジキは溜息を吐く。
ハジキの上司であるライカは確かに戦闘面で言えばハジキに劣る。
だが、逆に言えば彼が劣っているのはそれだけだ。
実績、人望、人柄、そしてなんと言ってもその知略に関しては他に類を見ないまさに鬼才と呼ぶに相応しい才を持つライカを差し置いて十二神人の座に座ろう等と思わない。
(うちの覚醒にしてもそうや)
ハジキはあの時の事を思い返す。
邪気が大量発生し特別討伐任務が振り分けられた際にハジキはこのポジションな!とライカに言われた場所に到着するとまるで計ったかの様なタイミングで邪気に遭遇し、戦闘になった。
ハジキは七歳の子供の血を込めた特製の弾丸を使用した長銃での遠距離攻撃を主軸とした戦いを得意としているのだが、代わりに近接戦闘に弱かった。
いつもはチームを組んで仲間が近接で敵と戦い足止めをしている間にハジキが援護をしたり止めを刺す戦法をしているのだが、この時は一人でありしかも敵は直ぐ近くに居た。
距離を取ろうにも相手は言葉を発する高レベルの邪気で知能が高く、それを許さない。
覚醒とは極限状態で武器と己の神気が強く共鳴する事で新たな力に目覚める事だ。
追い詰められ、絶体絶命の危機に陥った時にハジキは覚醒に成功し長銃から短銃への任意の変更、曲がる弾丸、そして弾丸への特殊効果の付与能力に目覚めた。
何とか邪気を払い気を失ったハジキは目が覚めると医務室で寝ており、目覚めたハジキを見て「お、覚醒成功おめでとう!」と開口一番に言い放ったライカにハジキがあの場所で邪気に遭遇する事も追い詰められて覚醒する事も計算されていたと理解し、この人にはかなんわとその知略の鬼才を真の意味で味わったのだった。
純粋に原作知識でそろそろ覚醒する頃だなとしか考えていなかったライカは別にそこに邪気が現れる事も知らず本当に偶々指示したポジションで起きた偶然の出来事であったのだが、そんな壮大な勘違いが発生している事を露知らず原作で十二神人の座に付いていたハジキを本来の地位に戻すべく今日もライカは辞表をしたためる。
✻✻✻
原作開始、原作主人公目線
「では、その邪気は人を襲わないから一緒に機関に所属させろと、そう言うんだね君は?」
「はい!」
「認められっかよ!」
僕が十二神人の長であるカガリ様の言葉に同意すると同じく十二神人のレッカ様がそう怒鳴った。
その剣幕にひるみそうになるけれども、むんっと気合を入れて僕は親友である邪気、セージは幼少の頃から僕と一緒に居て今まで誰も襲っていない事を主張する。
それどころか僕を他の邪気から守ってくれさえしたのだ、そんなセージを邪気だからと殺される訳にはいかない。
「今までは偶々でこれから先に未来でもそうとは限らねぇだろうが!」
「今までの実績があるのにセージが人を襲うとも限らないじゃないですか!」
むむむっとレッカ様と睨み合っているとパンパンとミヤビ様が手を打ち鳴らした。
「はいはい、水掛け論はそこまでにしてくださいな。ライカ君はどう思いますか?」
「え、俺ぇ?」
意見を求められたライカ様へと視線が集まり、ライカ様は薄ら笑いを浮かべて僕を見た。
ここに来るまで案内してくれた人がライカ様のファンなのらしく彼について熱く語ってくれた。
なんでも、強さで決まる役職である十二神人の座に戦闘力ではなくその鬼才と呼ばれる知略と人望の厚さから抜擢された異例の人物で彼の一言で邪気払い機関の行動が決まる事もあるらしい。
彼の話す事によってセージの処遇が決まる可能性もある。
僕の緊張で乾く喉がごくりと鳴った。
「記録を見る限りでは確かにセージ君は今まで人を襲っていないけれど、君はどうしてこれからも彼が人を襲わないと断言出来るんだい?」
「小さい頃からずっと一緒に居て僕が八歳になってもセージは僕を襲わなかったし、転んで怪我をしても血を欲しがったりしなかったからです!それに何より僕は親友であるセージを信じているからです!」
「なるほどなるほどぉ」
「へらへらしてんじゃねぇぞ、ライカ!」
「まあ、そうカッカしないでよ」
うんうんと頷くライカ様にレッカ様が噛み付くがライカ様はそれを笑顔でいなす。
「時間は何よりも貴重だ、その証拠にいくら金を払っても失った時間は買い戻せない。起こってもいない事、起こるかどうかも分からない事をここで延々と議論しても時間の無駄だし取り敢えずセージ君も機関に所属させて動向を観察って感じでどうでしょう?勿論、セージ君は単独行動禁止で彼の行動は制限させてもらいますし、いざという時は人を襲う前に殺せる様に彼らは上級者の者達とチームを組ませましょう。何かあった際には俺が責任を取って辞職します。いかがでしょうか?」
十二神人の地位を賭けてまでセージを守ろうとしてくれるライカ様の提案に僕はこの人が多くの人に慕われる理由の一端を垣間見た。
こうして僕とセージはライカ様の部隊預かりとなり、正式に邪気払い機関に所属する事になった。
ライカ様の顔に泥を塗らない様に頑張るぞー!!
一方、ライカサイド
(うわぁ、主人公来ちゃったよ、不味いよ完璧に本編始まっちゃってんじゃん!くっそぅ、このままでは俺の死亡フラグが立って死んでしまう!!何とかして早期退職しないと!!原作ではこのポジションにはハジキが居たのにハジキは頑なに推薦拒むし俺の辞表は受理されないしマジでどうしよう?!え?!ミヤビさん俺に意見求めるの?一生懸命、息を潜ませて存在感消している俺に?ええ、何言えば良いの?取り敢えずハジキのセリフを言うか。みんなの気持ちは分かるけど俺は原作読んでたからセージが人を襲わない事は知ってるし……そうだ!ここに俺の願望である辞職を混ぜれば良い感じの事言ってる風になるわ。あわよくば辞職させて欲しい。え?俺の部隊に主人公達を所属させる?イヤッイヤッイヤッ!接点が増えればそれだけ死亡フラグも増えるじゃない!アタシ死にたくないわ!)
心の中で荒ぶっていた。




