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水の精霊と冷遇令嬢

作者: 月野槐樹

私は、水の精霊。名前? そんなの前世の記憶から適当に「アクア」って呼んでるけど、本当はどうでもいい。だって、私の日常はまるで夢の中みたいなんだもの。


うとうとしながら、ネットサーフィンしてる感覚。画面越しに面白いストーリーをウォッチして、たまにゲームみたいに介入して遊ぶの。現実? そんなの知らないよ。きっとまだベッドで寝ぼけてるだけだわ。



最近のお気に入りは、とある伯爵家の令嬢、エミリア・ローレンツ。 


彼女の人生が、典型的な悪役令嬢ものみたいなんだよね。


8歳で母親を亡くして、父親は王都で仕事三昧。領地にほとんど帰ってこないから、継母のロザリアとその連れ子の義妹、クララに冷遇されまくりなの。


食事は粗末、服はボロボロ、部屋は倉庫みたい。父親は気づかないし、兄のアルフレッドは母親の死で落ち込んで騎士の寄宿学校に行っちゃったから、ほとんど家にいないのよ。




たまに帰ってきても、エミリアは「心配かけたくない」って我慢しちゃうんだよね。健気すぎて、萌えるわー。はぁ。




私、水の精霊だから、水のあるところならどこでも行けるの。井戸、川、雨、涙……エミリアの涙なんて、毎日ウォッチし放題。ゲームの監視カメラみたいで、楽しいんだこれが。




エミリアには婚約者がいるの。隣の領地の次期子爵、ヴィクター・ハンハルト。




幼馴染で、昔は仲良しだったらしい。でも、継母とクララが邪魔しまくり。ヴィクターが訪ねてくると、クララが「エミリアお姉様がいじめてるの!」って泣きついたり、悪口吹き込んだり。


挙句、会わせないように画策するんだよね。ヴィクターもだんだんエミリアから離れて、クララと仲良くなっちゃう。典型的なNTR展開? いや、乙女ゲー風だわ。




ある日、近隣の侯爵夫人、ソフィア・モントレーが子供たちの交流会としてお茶会を開くことになったの。


エミリアも招待状が届いて、ワクワク。なぜって? 小さい頃に会った「お友達かも?」な人が来るらしいんだよね。




公爵家の次男、ルーカス・ジャレット。幼い頃の記憶だけど、優しく遊んでくれたんだって。エミリア、珍しく笑顔で準備してるのを見て、私もテンション上がるわぁ。




でも、当日。クララとヴィクターが馬車を乗っ取って、エスコートごっこでお茶会に出かけちゃったのよ。


エミリア、残されてポツン。馬車がないから行けないって、庭の噴水で泣きじゃくるの。うわー、かわいそう! 何とかしてあげなきゃ!




魔法? まあ、ゲームのコマンドみたいなもんよ。まず、領地の川を操って、クララたちの馬車を泥道で足止め。時間稼ぎ!




そして、使用人用の馬車が買い物から戻ってきたところだったから、美味しい水で馬を誘導したの。


「お願い! 乗せて!」




普段は、我儘とか言わないエミリアだけど、どうしてもお茶会に行きたかったのね。


買い出しから戻ってきた料理人にお願いしたの。


その料理人は、義母の手先とかではなかったみたい。




「こんな馬車でいいんですかい?」




と言いながらエミリアを馬車に乗せてあげてたわ。


偉い!


良い人だから、着ている服を綺麗に洗ってあげるわ。着たまま洗濯ね。人間の魔法だと「クリーン」って言うらしいわ。エミリアのドレスは古い奴だったけど、私の「クリーン(極)」で新品のようにシミひとつない色鮮やかない状態にしてあげたわ。




お茶会会場に着いたエミリア。でも、そこで衝撃の展開があったの。




少し遅れてヴィクターがクララをエスコートして現れて、みんなの前で「エミリア、君との婚約を破棄する!」って宣言したのよ。




理由? 「クララこそが僕の運命の人だ」だって。


クララは、にやにや笑ってるし、継母は後ろで満足げにしてたわ。エミリア、ショックで固まっちゃってたわ。




でも、そこにルーカスが登場! 公爵家の次男で、騎士学校の先輩。エミリアの兄アルフレッドの同級生でもあるのよ。




遅れて登場して最初は状況が把握できてなかったみたいだけど、エミリアの様子とか周囲に様子を聞いたりして、状況を察した模様。




エミリアに優しい手を差し伸べたの。




「久しぶりだね。あちらでお菓子でも食べないかい?」




さりげなく、お茶会会場内ではなく、控え室に誘導。フワフワの甘いお菓子て紅茶で、エミリアの表情が落ち着いた頃に、優しく伝えた。


「エミリア、君は一人じゃないよ。君の兄、アルフレッドも君の事を心配していたよ。それに僕も……。……あの頃もそうだっただろ?」




幼い頃の記憶を振り返って、励ますの。エミリア、ちょっと赤面。いい感じじゃん!


ルーカス! 頑張って!




ヴィクターが婚約破棄宣言なんて、やらかしてたけど、お茶会はまだ続いていた。


その時、突然、侯爵領の森から魔獣が紛れ込んできたの。


あちこちから悲鳴があがったわ。


大パニック!


ヴィクターったら、真っ先に逃げ出したわ。逃げた先に小さい魔獣が出てきて尻餅ついてる。クララが走り出そうとしてドレスを引っ掛けて転倒しちゃったわ。ああ、ドレスが破けちゃったわね。


騒ぎを聞きつけてルーカスが剣を片手に飛び出して行ったわ。


みんな逃げ惑う中、ルーカスが剣を持って立ち向かうけど、魔獣は強くてピンチ。このままではエミリアも巻き込まれそうで、ヤバい!


私の出番かしら!


魔法で水の壁を作って魔獣を包み込み、凍らせて退治よ。


バリバリって音立てて、魔獣は氷の塊に。


みんな「奇跡だ!」って驚くけど、私の仕業だって気づかないわ。ふふ、ステルス介入最高ね!


魔獣騒動のおかげで、エミリアとルーカスはさらに距離が縮まったみたい。

ちなみにヴィクターやクララも無事だったわ。


魔獣騒ぎがあったから、ルーカスがエミリアを屋敷まで送って行こうとしたんだけど、その時に、エミリアが使用人用の馬車に乗せてもらってきた事を知って冷遇の兆しに気づいたみたい。



ルーカスは人を使ってエミリアの家の中の様子を調査させたり、エミリアの兄のアルフレッドに手紙を送ったりしたの。


エミリアの状況を知ってアルフレッド、激怒して領地に帰還。父親も呼び戻されて、詳細調査開始よ。



調査の結果、継母ロザリアとクララの悪事が次々露呈していったわ。


宝石やドレスを買いまくり、領地の金を浪費。エミリアの分を横取りしてたのよ。アルフレッドが家捜しして、証拠発見したわ。でも、私も裏で手伝ったわ。


継母の隠し金庫にたどり着けるように水滴で誘導したりしたの。


結果、継母は離縁されて、継母とクララは領地を追い出されたの。


父親は反省して領地になるべく居るように、いない時もエミリアに目を配るようにする、とエミリアに告げたわ。


ヴィクターはクララに騙されたことに気づくけど、もう遅い。たとえ、騙されていたとしても、婚約破棄宣言して良い訳はないし、言ってしまった言葉は取り戻せないからね。お茶会での婚約破棄宣言が両親にバレて、頭を冷やす為ってことで、騎士訓練ブートキャンプとかってやつに参加させられてたわ。


エミリアはルーカスと新しい縁を紡ぎ始めたみたい。婚約も時間の問題のようね。


ハッピーエンドよ。私、画面越しに拍手!



侯爵領であれこれ動いたせいか、なんか視線を感じるの。木の精霊? 森の奥から、緑の影が私を睨んでるわ。


「何だこいつ、勝手に領地で暴れてるの?」


みたいな。え、怒ってる? でも、なんかドキドキするわね。ゲームの新イベント? 恋の予感? ふふ、次はこっちをウォッチしてみようかしら。

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― 新着の感想 ―
第三者視点で徹頭徹尾進めるとはやりますわね。 まさに映像を楽しみながらつつ時々介入する見えないサポートキャラですわねえ。 とりあえず父と兄はもっとしっかりしてくれないとですわー。 これからはともかく乙…
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