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ある奇跡の話 その幕開け

 ……まあ、どちらにしても……。


 懐かしい食べ物に関する妄想でひとしきり楽しんだアドニアだったが、大きく息を吸い、目を瞑るころにはすべてを仕事に注ぎ込むいつものアドニアに戻っていた。


 ……あれがアリスト王子のペテンではなく、額面通り革新的な耕地再生方法が開発され、また、突然変異的にあらたな穀物が生まれたことによる増産であったとしても、それはあくまで一時的なもの。

 ……結局はそこで働く者がいなければじり貧状態へと進む。

 ……そう。根本的な問題を解決しないかぎり、延命はできても、救命はできないのだ。


 ……つまり、このまま王族や上級貴族の領地を除外した徴兵制度を続けていたらブリターニャの農業は数年のうちに崩壊する。


 ……ん?


 そこまで進めたところでアドニアの思考はブリターニャに関するある数字で止まる。


 ……ですが、そうなると……。


 ……米食が急増し、小麦の需要が以前に比べて減っているにもかかわらず、ブリターニャの小麦輸入量は変わらず、それどころか増えているという事実。これはブリターニャ自身そのことを理解している。つまり、密かに備蓄計画を立てているということになりませんか。

 ……まあ、事実はどうなのかはわかりませんが……。


 ……そうなると、もっとも危ないのは、私が想定していたブリターニャではなく、ノルディアということになります。


 ……もちろんノルディアには魔族との戦闘を停止したという大きな利点があります。

 ……すなわち、各国の課題である農民を農地に返す。それができるのです。

 ……ですが、この国にはアリターナやフランベーニュにはない根本的な問題があります。

 ……そう。もともと農地が少なく、国内の小麦の生産量では必要とするものを賄うことができないということです。


 ……もちろんこれまでは足りない分は輸入によって賄うことができた。

 ……そして、アリターナやフランベーニュは、ノルディアやブリターニャ、それから我がアグリニオンが購入することを前提で多くの穀物をつくってきました。

 ……ですが、アリターナやフランベーニュも小麦不足に陥るという状況になれば話は別のものとなります。


 ……さらに、それよりも前。アリターナの小麦輸出停止から始まる小麦争奪戦によって起こる小麦価格の大幅に値上がり。

 ……果たしてノルディアはこれに耐えられることができるのでしょうか?


 ……おそらく無理。


 ……なぜなら、ノルディアは捕虜返還にあたって国が傾くほどの身代金を支払っており、そのおかげで国庫がカラになっているという。

 ……そして、この情報はおそらく正しい。

 ……つまりノルディアはその時点で必要な量の小麦を手に入れられなくなる。


 ……そうなれば……。


 商人国家らしく他国に関する多くの情報を手に入れていたアドニアのこの推測はおそらく正しい。

 本来であれば、彼女の推測どおりにことは進み、ノルディアの崩壊はこの翌年から始まっていたことだろう。

 しかも、この年ノルディアでは小麦の記録的な不作が起こっている。

 そう。

 起こってはいけないことが起こってはいけないときに起こった。


 崩壊への決定的な一撃のように。


 だが、ここで奇跡が起こる。


 いや。

 彼らは自身の行動によってそれを手に入れることができたのだから、窮鼠猫を噛む的発想の転換と、様々な事情が複雑に絡まった結果起こった成功。

 そう表現したほうがいいのかもしれない。

 まあ、表現を何にするにしても、彼らの悪あがきによってありえないことが起こったことは間違いない。


 そして、そのありえない出来事から歴史はまた一歩動き出すことになるのである。

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