親愛なる異端者に幸あれ 二章 不幸少年とアメノムラクモ #1
サウナのように蒸し暑い部屋のカーテンの隙間から光が差し込み、少年の顔を照らす。眩しさから寝返りをうち、光の射程から顔を背ける。
ここは帝都学生区のとある学生寮の一室。学生寮と言っても団地のようなもので、五階建てのコンクリート棟がここら一帯に碁盤のように等間隔に建てられていた。
住人は皆学生で、棟ごとに所属校で分けられている。そんなここ学生寮五階の角部屋に近衛大和は住んでいた。
灼熱の空気に包まれながらカーペットの上で寝ている。近衛は暑さで寝たくても寝られない苦しい状態に置かれていた。クーラーをつければ万事解決なのだが万年金欠学生の近衛にとっては暑さに負けてクーラーをつけるのは死活問題でもあり、言葉では表せないプライドが許さなかった。
そんな暑さでうねっている近衛の額に何か冷たいものが当たる。
(あぁ・・・・・・気持ちいぃ〜)
これでやっと安眠出来ると思ったがその冷たいものは近衛の額から離れ、また苦しい状態に戻る。やがてまた冷たいものが額に触れたかと思えば、また離れ、触れては離れ、近衛は天国と地獄を反復横跳びしている感覚に陥った。
「あぁ〜!もうなんだよ!」
ついに我慢できなくなり、勢いよく身を起こして起きる。が、身が起き上がらない。何か腹の辺りに重みがあったからだ。
ぼやける目を擦りながら目を凝らすと腹の上に何かが馬乗りになっていた。
白髪で褐色肌、ケモ耳が着いた黒いフード付きのパーカーにショートパンツの服装、黄金の稲穂のような金色の目で目の下には刺青のような黒点が目を囲うように等間隔であり、身長が一メートルも満たないぐらいの少女がその小さな手をぺちぺち近衛の額に当てていた。
近衛が起きたことに気づいて少女は口を開く。
「妾は腹が減った。何か持て」