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人間牧場

 はたして何故地球に多種多様の生物が誕生して繁栄を極めていたのか?

 遠い昔の話をしよう。

 35億年前の地球の状態を考えてみよう。

 地球表面を覆っているドロドロのマグマが濃硫酸の雨に冷やされて固まった後の話だ。

 地球上に初めて有機物が誕生した時代の話だ。

 単細胞の多様性の無い生物達が地球にもたらした恩恵が何だったのか?

 地球に生まれたバクテリア類の仕事は、海中の炭酸ガスを自らの体内に閉じ込めて命尽き、それが少しずつ海底に堆積して地中に閉じ込められて、やがて石油となった。

 一方、陸上では、セコイヤ杉の類の大木が繁栄する悠久の森林が創世された。

 陸上で、大木は、大気中の炭酸ガスを吸収して酸素を供給する。

 大木は、千年を生きて、やがて死ぬ。 枯れ果てて倒木になり、やがて石炭となった。

 大気中の酸素の20パーセントは、海から供給されている。

 海中で、シアノバクテリアが海水に酸素を供給して海中に多様な生物が生まれた。

 森林が大気中に酸素を供給して海中の生物が陸上に上がるチャンスを与えた。

 そうやって原子生物達が炭酸ガスを地中に閉じ込めて地球上に生物の多様性が生まれた。

 今はどうだろうか?

 地球上の、ありとあらゆる生物は、与えられた環境の中で生息できる数以上に繁殖しないように個体数の均衡をとる。

 それが種の保存のために有効だからだ。

 人間の場合、固体数の抑制手段は、ウィルスと戦争であるが、この両方を人間は、科学技術の進歩と倫理感の向上により克服した。

 ところが人間に克服できないものがあった。

 それは傲慢である。

 人間は、その傲慢さ故に地球上で果てしなく増殖を続けた。


 21世紀

 この時既に地球上で人間の個体数は、限界に達していた。

 地球上で度重なる地震が発生した。

 地質学者達は、陸上の地熱変化ばかりに注目して研究を続けた。

 海底の地熱変化の研究は、海洋学者が行なっていた。

 気象学者は、大気の温度変化ばかりに気を取られて地中の温度変化に目を向けなかった。

 そして、そこに大きな落し穴があることに気が付いていなかった。

 地表は、陸上だけではないのだ。

 その時起きている自然現象を見つけるためには、全ての分野の学者達が共同で研究しなければならなかったのに、それができなかった。

 北極の分厚い氷の底

 5,000メートルの氷の底で劇的な環境変化が起きていた。

 地殻変動により北極の氷の底の地表にマグマが吹き出した。

 吹き出したマグマは、極めて短時間の内に北極の氷を全て溶かした。

 この時に人類が予測するような海面上昇は、起きなかった。

 北極の氷の体積に比較して、地球全体の海の表面積は、遥かに大きいのだ。

 しかも、北極の氷の殆どは、海面より低い位置に沈んでいる。

 さらに、同じ質量の氷と水の体積を比較すれば、水の体積が少ないのだ。

 こんな小学生にも分かる常識さえも無視して、世界中の都市が水没するなどと脅迫してまでも先進国がゴリ押ししたいものは、何であるか?

 環境ビジネスである。

 政府や企業が推進する環境保護活動が、いったいどれほどまやかしであるか…

 私達一人一人が、今一度、考え直してみることが大事だ。

 世の中の常識に照らして考えれば、殆どのことは答えが出るだろう。

 ペットボトルを洗浄して、裁断して、溶解して、ペレットに加工する。

 これがエコなのか?

 人間の傲慢は、エコの概念さえも、ねじ曲げてしまった。

 北極の氷が溶けても水位は上がらない。

 それでは何が起きたのか?

 その時起きたのは、地球規模の食料不足だ。


 食料不足が起きた経緯を説明しよう。

 北極の氷は真水である。

 北極が氷で覆われていた頃の北極圏の海は、水産資源の宝庫だった。

 マグマが噴き出ると北極の氷が一気に溶けて、北極圏一体の海水の塩分濃度が下がった。

 海の塩分濃度が下がると、まず始めに植物プランクトンが死滅した。

 次に植物プランクトンを餌とする動物プランクトンが死滅した。

 こうなると生態系のバランスが一気に崩れて、北極圏一体の魚が死滅した。

 北極の氷が溶けた真水は、海全体の海水と混ざり合おうとして海流に変化が生まれた。

 海鳥は魚の移動に合わせて海を渡り、豊富な餌のある場所に巣を作り、雛を育てる。

 過去何千万年も続けてきた習慣だ。

 ところが今回に限っては、魚が来ない。

 海流の変化が魚の行く先を変えていたからだ。

 こうして地球上の殆どの海鳥が死滅した。

 それからは、まるでドミノ倒しのように、関連し合う動植物が次々と死滅して地球規模の食料不足が訪れた。

 地球全体の生態系のバランスが崩れた瞬間である。


 西暦2,042年

 地球では、環境破壊が深刻な状況だった。

 このまま更に環境破壊が進行すれば、地球上のバクテリア類や一部の昆虫類を除いた動植物は、死滅する予測であった。

 しかし人間達は、地球の未来を楽観視していた。

 技術の進歩により地球環境の崩壊を逃れるつもりであった。

 しかし技術の進歩を遥かに超えるスピードで地球環境は崩壊した。

 数年の間に地球環境は激変して、大型哺乳類が生息できる自然は無くなった。

 人間もまた大型哺乳類の一種である。

 深刻な食料不足により地球人類の総数は、1億人を下回った。

 今や人類は、死滅の一歩手前である。

 ウィルスにも戦争にもやれなかった人類の個体数抑制をやってのけたのは地球だった。

 結局人間も宇宙全体からみれば数ある生物の中の一つに過ぎないのだ。


 地球人が考えた地球人類文明永続の方法は、次の通りである。

 ありとあらゆる哺乳類のDNAと人間のDNAを交配した生物を誕生させる。

 ウサギ人間、ライオン人間、その他の草食人間や肉食人間が誕生した。

 それぞれを種類別に30人単位で別々の宇宙船に乗せて火星に飛ばす。

 自分達、純粋人間は、300年の時間差を置いて火星に到着する。

 その時間差300年の間に火星の環境を純粋人間が適応できるように合成人間が整備する。

 ありとあらゆる哺乳類の合成人間であれば、火星環境の整備が完了する前の超過酷な生活条件下でも、どれか一種類が生き延びて環境整備を完了させればいい計算だった。

 純粋人間の一方的な都合から人間の尊厳を認められない合成人間は、火星に飛ばされた。

 宇宙船に器材と食料と環境整備に必要な植物の種子や微生物や昆虫などを積んで遠い空へと飛んで行った。


 今思えば、どうして合成人間をあそこまで信用したのだろうか。

 答えは簡単である。

 動物と人間の合いの子の合成人間は、人間から見れば、ペットか家畜のようなものだった。

 ペットや家畜が人間の言うことを聞くのは、当たり前だからである。

 それに300年かけて生態系が形成される頃には、草食人間は、草を食べて、肉食人間は、草食人間を食べるようになると思った。

 やがて合成人間は、野性化して、火星に於いても純粋人間が生態系の頂点に君臨する計算だ。


 西暦2,342年

 地球人は、宇宙船に乗って火星に向かった。

 船の数は100隻、乗員は総数3,000名。

 火星移住の先遣隊として一般から公募されて集まった人達だ。

 目的は、火星に文明人と呼べる先住民がいた場合、それに接触すること。

 火星に着いたら先住民と話をつけて、地球に残った住民を火星に呼び寄せるのが先遣隊の仕事だ。

 そして自分達がこの星に移住する権利を得ることであった。


 火星に到着した。

 各船の30名の乗員からクジ引きにより15名が選ばれた。

 15名は、先住民の集落を探して旅に出た。

 その中の一人アレックスは、父に手を引かれて宇宙船を降りた。

 火星は、純粋人間の思惑通りに見事に地球化していた。

 本質的に環境の均衡を保つ野性動物から進化した合成人間は、ものの見事に火星の地球化を遣り遂げた。

 300年の時間をかけて。

 ただし決定的に思惑通りにならなかった事が一つあった。

 合成人間は、野性化していなかった。 地球化した火星の先住民として定着していた。


 人間牧場は、ライオン人間やトラ人間などの肉食人間が安定して草食人間の肉を食べられることを目的として運営されている。

 運営機関は、肉食人間と草食人間の共同運営だ。

 肉食用の人間は、牧場で生産された合成人間に限定される。

 人間牧場のお陰で非肉食人間は、安全な市民生活を送ることが可能になる。

 同じ種族の草食人間の一部を人間牧場に閉じ込めて、牧場の外にいる自分達が生き残るやり方である。

 これもまた種の保存のためである。

 肉食人間もまた同じ合成人間である草食人間を牧場の外で捕食することに抵抗を感じた。

 半分人間である肉食人間は、血なまぐさい狩りを好まなかった。

 草食人間と肉食人間の調和を保つための苦汁の選択が人間牧場であった。

 ただしそれは、純粋人間が火星に来るまでの話である。

 今では、純粋人間が人間牧場で生産されている。

 どうにか牧場に入らないで済んだ純粋人間は、第二級市民として合成人間の奴隷にされた。


 深夜のバーカウンタで肉食人間達がビールを飲んで談笑している。

 第二級市民のアレックスがカウンタの空瓶を片付けようとしている。

 アレックス「お客様 お済みのビンを お片付けいたします」

 ライオン人間「ガルルルルル まだ残ってるじゃねーか ふざけたまねすると頭噛るぞ!!」

 ライオン人間が大きな牙を見せて威嚇する。

 アレックスは、しゃれにならない恐怖で体がすくんだ。


 アレックスは、生命の危機を感じて街から逃げて来た。

 アレックスは、歩き続けた。

 広陵たる岩の大地に巨大な裂け目を見つける。

 幅数キロ深さ1,000メートルの谷底に、ドーム型の宇宙船を見つけた。

 宇宙船の大きさは、長さ400メートル幅300メートル。

 形は、料理に使うボールを逆さまにした状態。

 色は、全体がイエローにシルバーと乳白色を掛け合わせたようだ。

 窓は無い。

 アレックスは、巨大なクレバスの淵に立って底を見下ろす。

 垂直に切り立った岸壁に亀裂が走っているのを見つけた。

 亀裂を慎重に下って宇宙船に近づく。


 宇宙船の中では、15名の地球人達が共同生活を営んでいた。

 無事に帰還したアレックスを見て、15名全員が驚いている様子である。

 アレックスは、船内を移動しながら遠い記憶から幼い頃の宇宙旅行を思い出していた。

 居住区画の壁に設置された500インチモニタに在りし日の地球が投影されている。

 モニタには、ライオンがオグロヌーを捕食している様子が映し出されている。

 300年以上前の地球には、野性動物が生息できる自然が残っていた。

 アレックスがモニタに映るアフリカのサバンナを見ている。

 モニタには、ハンターがアフリカ象に向かってライフル銃を構えている様子が投影されている。

 家畜を襲ったライオンが罠にはまって檻に閉じ込められている。

 この星の今の現実とは、まったく異なった世界である。

 アレックスは、いったい何が常識なのか頭が混乱して、くらくらと目眩がした。

 はたして地球の常識が正常だったのか?

 今となっては、過去の常識は、ただの偶然の積み重ねにすぎなかったのだとアレックスは考えざるを得なかった。


 地球規模の食料危機に対応するために人類が取った行動は、農作物、および畜産物の完全工業化と魚類の完全養殖化の増大である。

 そのために、残り少ない化石燃料を際限無く燃やし続けた。

 今思えば、人類のエネルギーに対する考えは、19世紀の産業革命以来何一つ進歩が無かったのだ。

 蒸気機関が発明されたら石炭を掘り返して燃やし尽くす。

 内燃機関が発明されたら石油を汲み上げて燃やし尽くす。

 化石燃料が枯渇したら原子力に頼ればいいのだ。

 幸いなことに、ウラニウムは、枯渇していなかった。

 進歩したのは、エネルギーを消費する方法だけだった。

 人類は、安心して化石燃料を燃やし続けた。

 やがて化石燃料が枯渇した。 

 

 人類の悲劇は、これで終わりでは無かった。

 大気中に炭酸ガスが放出された結果、大気温が急上昇した。

 そして極地の永久凍土が溶けた。

 さらに、海水の温度が2度上昇した。

 既に魚類は死滅していたから生物への影響を心配する必要は無い。

 人類は、物事を単純に考える癖があるのだろうか?

 人類が神様から授かった一番の宝物は、本質的な単純性かも知れない。

 単純さ故に悩まず増殖した。

 化石燃料を燃やし尽くした挙げ句の果てに、地球温暖化のスピードは急加速した。

 極地の永久凍土の下に眠っていた物。

 深い海の底に眠っていた物。

 メタンハイドレートとはマイナス20度以下の低温で尚且つ地中や深海のように高圧な環境でのみ存在できるメタンガスの結晶である。

 化石燃料を燃やし尽くした挙げ句の果てに、人類が迎えた最悪のシナリオは、メタンハイドレートの融解である。

 メタンハイドレートが融解して、大気中に極めて大量のメタンガスが放出された。

 そして地球は、35億年前の大気の状態に逆戻りした。

 そうして地球上の生物の96%が絶滅した。

 もはや地球上には、単細胞生物しか存在していない。

 35億年かけた地球の仕事を人類は、たった500年で台無しにした訳だ。

 地球は、これからまた数十億年の歳月をかけて多種多様な生物の繁栄する星へと再生されるのか?

 宇宙全体から見れば、些細な出来事である。

 例えるなら全知全能の神様の目に埃が入って、瞬きをしたような出来事である。

 

 人類は、未だかつて生命誕生の謎を明かしていない。

 はたして生命は、この地球で誕生したのだろうか?

 地球外から来た可能性について考えてみよう。

 宇宙全体の大きさは、観測技術の進歩によって解明されている。

 宇宙全体の大きさを計算する時は、天体望遠鏡で地道に観測したデータを基に、我々常人には理解できない計算式を使って算出する。

 宇宙全体の大きさは、概ね半径137億光年だそうだ。

 そして地球外に、知的生命体の活動を観測していない。

 さらに、偶然にも宇宙全体から見た地球の位置は、宇宙全体の中心にあるというのだ。

 なんだか都合のいい話だと思わないか?

 ここで一つの仮説を立ててみよう。

 宇宙全体の大きさは、地球人類が観測できる限界の遥か外に広がっている。

 地球が宇宙全体の中心にあるなんてことは、地球人類の思い込みである。

 有史以来の哲学者の言葉を紹介しよう。

 「人間は、絶対に、宇宙の外がどうなっているか想像することが出来ない」

 私は、それに、もう少し付け加えたい。

 「人間は、その傲慢さ故に、宇宙全体の外がどうなっているか想像出来ない。

 そして、地球人類以外の知的生命体の存在を認めた時に、初めて既知の宇宙の外にも未知の宇宙が広がることを知る」 

 宇宙全体の中心に地球が位置するはずがない。

 宇宙全体に地球人類以外の知的生命体が存在しないはずがない。

 地球人類は、自分達から見えている世界が全てであると思い込んでいる。

 しかし、相手からは、見えている。

 地球人類のテクノロジーでは、知り得ない世界が外にあるのだから。

 相手は、待っているのだ。

 地球人類のテクノロジーが自分達のテクノロジーのレベルに達する時を。

 理由は、簡単だ。

 争いを避けるためだ。

 お互いのテクノロジーのレベルに違いがある状態で接触した場合は、地球人類の恐怖心から必ず争いに発展するだろう。

 争いに敗れるのは、地球人類だ。

 では、どうしたら相手のレベルのテクノロジーに近付けるのか?

 地球上で争いを止めることだ。

 国と国の争い。

 地域の争い。

 人種の争い。

 民族の争い。

 宗教の争い。

 地球が地球らしく存続する方法は、ただ一つ。

 争いを止めてテクノロジーの向上を図るのだ。

 高度に発達したテクノロジーを所有する地球外知的生命体は、自分達の経験から知っていた。

 地球人類が争いを止めて共存共栄して、テクノロジーを発達させることにより、地球外知的生命体と接触した場合にも共存共栄できる。

 その時を待っている。

 地球人類から見えない場所で待っている。

 35億年前に、地球に数種類のバクテリアを添加した時から。

 何故?

 地球に生命体を持ち込んだのか?

 淋しかったからからではない。

 生物が命を繋ぎ続けるためには、多様性が必要不可欠だからである。

 組み合わせを代えることにより多様性を確保して、刻々と変わり行く環境に適応するのだ。

 生物の多様性を続けるためには、果てしない拡散を続けるしか選択肢が無い。

 果てしない拡散を続けるために地球に生命体を持ち込んだのだ。

 それ以来35億年間、相手から地球生命は、観察を続けられている。

 地球生命もまた生物の多様性を続けるために地球外へと拡散する。


 完

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― 新着の感想 ―
[一言] 温暖化が嘘と書いたエッセイがないかと探したらここに来ました。 凄いと思いました(小並感) 私は煽りつつ温暖化のエッセイ書くかもしれません(多分書かない)
2016/12/14 20:44 退会済み
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