婚約破棄された私の新たな婚約者は金魚人でした
「お父様、今度の婚約者は獣人とおっしゃっていませんでしたか? この絵姿はどう見ても魚人なんですけど! しかも赤!」
「隣の獣人国では魚人も虫人も鳥人も全て獣人の扱いなんだ。学院で習っているだろう、メアリ」
「確かに授業で習った覚えはあります。でも婚約者をそんな大雑把なくくりで娘に紹介しないでください! それに初顔合わせの店に着く直前の馬車の中で絵姿を見せますか!?」
結婚式の日に相手に初めて会う人に比べれば婚約前に顔合わせができるだけ恵まれているとは思う。特に私のような婚約破棄をされた娘ならなおさらだ。
私は公爵家の嫡男と婚約していたが相手は真実の愛を見つけたとかで、学院のパーティーで婚約破棄をされた。真実の相手をいじめていたと言いがかりをつけられたが、友人たちの協力もあって向こうが捏造したことだと証明された。
元婚約者は学院を休んでいる。あんな醜態をさらせば人前に出たくないのは分かるが自業自得だ。だが、私はまだ婚約者のいない男性に恐れられ敬遠されてしまった。これで恐れるなんて浮気を考えているとしか思えない。でも父はそのせいで隣国で公爵家嫡男を探さなければいけなかったと恩着せがましい。
私にも父に面倒をかけている自覚はある。格下の家と婚姻を結べば何を言われるか分からないのだから。獣人国は広くて豊かな強い国だ。そこの公爵家なら問題ない。でも婚約者をちゃんと教えてくれないのは問題だと思う。
深呼吸で心を落ち着かせ初顔合わせに臨む。
「ではあとは二人で……」
と言われて私と婚約者となったマーク様と二人でお店の庭園を歩く。彼は話題も豊富で話しているととても楽しかった。話が途切れた時に彼は真面目な顔で言った。
「僕は金魚人ですが、メアリ様は本当によろしいのですか」
え、金魚人。赤い魚人ではなく。彼の言葉を聞いて考える。少なくとも元婚約者とはこんなに楽しい時間を過ごしたことはなかった。元婚約者は自分の話を聞いて欲しい人で、私がその話に興味があってもなくても一人で話していた。私の話を聞く気などない人だった。
それを考えると金魚人だろうが何人だろうが彼の方がずっと良かった。元婚約者と比べるのが失礼だと思うくらいに。
話がまとまったため帰りの馬車ではお父様の機嫌が良かった。私も空を眺め浮かんでいる雲が金魚に見えるくらい機嫌が良かった。マーク様も雲を見て私を思い出して欲しいと願うくらい、彼に恋したようだ。単純すぎ?