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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
1章 俺は普通の高校生なので、魔法少女とは出逢わない
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1章19 starting the blooming! ④


「なぁ。オマエ好きな子とかいるのか?」


「恥ずかしがることないッスよ。ほらほらぁ、言っちゃいなよぉーッス」



 周囲からは物が壊れる破滅的な音が響いている。



「人を好きになることは恥ずかしいことじゃねえだろ。そういうのよくねえぜ。胸を張れよニンゲン」


「あっ……、もしかしてぇ~、少年って童貞ッスか? んもぉ~ぅ、それこそ恥ずかしがらないでいいッスよ? ジブン的に童貞はポイント高いッス」


「なんだよ、オマエ童貞なのかよ。じゃあ溜まってんだろ? 近頃の男子高校生はどんなのでヌくんだ? なぁ、教えてくれよ」


「それはジブンも興味あるッスね。少年、最近ヌイたのはいつッスか?」



 そんな中で弥堂は、ネコ妖精と悪の幹部の2体の人外から執拗なセクハラを受けていた。



 余りにお遊戯会的な空気に嫌気がさしてもう暫く前に弥堂は思考を放棄していたのだが、全ての会話を聞き流しているのにも拘わらず人外どもはお構いなしで、ベラベラと引っ切り無しに話しかけ続けてくる。



 そうしていると一際大きな破砕音が鳴った。



「ギィっ⁉ ギィィィィっ!」



 ハッと正気にかえった弥堂がそちらに眼を向けると、ビルの壁面がほぼ倒壊し、ゴミクズーは頭上から降り注ぐその破片に飲まれた。


 化けネズミは瓦礫の下で必死に這い出ようと藻掻く。


 しかしそれは叶わず、無慈悲な光が落ちる。



「いまっ! Seminare(セミナーレ)っ!」



 身動きのとれない的を目掛けて放たれた光球は瓦礫を粉砕しながら進み、ついにネズミに直撃した。


 昨日と同様、魔法攻撃を受けたゴミクズーは崩れるようにして塵となった。



(ようやく終わったか……)



 一体何発撃ったんだと記録を探る。


 白目を剥いて現実逃避をしていても、その間も周囲の光景を視界に入れてさえいればその映像は記憶に記録される。



 それを数えてみると水無瀬が魔法を放ったのは合計で47発だ。


 そんじょそこらのSSRよりも当たらない攻撃で、闇の秘密結社から街の平和を守っている魔法少女という存在に弥堂は戦慄した。



 なにはともあれ、一応は敵の片割れを処理出来たのだ。それ自体は何も問題はない。


 そうなると次は――と、隣に眼を向けると、さっきまでネコ妖精と下らない世間話をしていた悪の幹部が居なくなっていた。



「バッ、バカなあぁぁーーーっ! ゴミクズーがやられただとぉっ⁉」



 声のした方向を視るといつの間にかボラフは所定の位置へ戻って、わざとらしく狼狽したフリをしていた。



 ヤツが移動したことに全く気付かなかったことから、態度は巫山戯ていて真剣味はないがそのスペックの高さが窺い知れる。



「くそっ! 仕方ねえ、今日のところはこれで――って、うおぉっ⁉」



 何やら捨て台詞を吐こうとしていたボラフの足元に光球が着弾する。



「あ、危ねえなっ! なにすんだ!」


「弥堂くんに悪口言って泣かせたこと許せませんっ! お仕置きです!」


「ちょ――っ⁉ うおっ⁉ やめ、まてっ! オマエのそれどこに飛ぶかわかんねえから避けづらいんだよ!」



 言葉通りヨタヨタと不細工なステップ踏んで回避をするボラフへ向けて、水無瀬は次々と魔法を放ち路面を抉っていく。



(まだ撃てるのか)



 その光景を眺めながら弥堂は感心する。



 命中率はゴミカスだが、あれだけ外してもまだまだ魔法を撃てるようだ。彼女の表情には苦は視えない。


 こいつもボラフと同じく、ポンコツではあるがスペックだけは高いのだなと評価する。


 そして、慌てた様子で必死に回避にまわるくらいだから、悪の幹部にとっても魔法少女の魔法は脅威であるということなのだろう。



 弥堂が魔法少女とゴミクズーと悪の幹部の戦闘データを記録している間に、ボラフは追い詰められていき――



「ち、ちくしょーーーっ! 覚えてろよーーーっ!」



 今度こそ極めてテンプレな捨て台詞を叫びながら路地の奥へと背中を向けて走っていった。



 水無瀬もそれ以上は追うつもりはないようで、弥堂たちの居る方へ降りてくる。



 そして例によって飛行魔法の制御を誤り、バランスを崩して地面に落下した。



「ふぎゃっ――⁉」



(……追わないのではなく、追えないのか)



 墜落率100%を誇るようなフライト技術なら飛ばない方がマシなのではないかと、地面に貼り付く魔法少女を見下す。



「えへへ……、また転んじゃった」



 やはり変身をしている間はダメージを受けないようで、どこか痛めた様子もなく照れ臭そうに起き上がる。



「追わなくていいのか?」


「え? うん。ボラフさんも反省してると思うし」


「……ここで仕留めておくべきじゃないのか?」


「しとめる……?」


「いや、いい……忘れてくれ」



 聞いたことのない言葉を初めて聞いたかのように首を傾げてお目めをパチパチさせる彼女の顔を見て、弥堂は諦めた。



「あの、ごめんね? 私どんくさくって、言われたことすぐに理解できないこと多くて……。ちゃんとお話聞くからよかったら教えてくれる?」


「いや、いい。気にするな」


「えと……、弥堂くん、なんか怒ってる……?」


「怒っていない」


「マナ。先に変身解いたらどうッスか?」


「あ、そうだねメロちゃん」



 相棒に促され、昨日と同じように水無瀬がペンダント――今はステッキか――に何かを願うと光に包まれた後に魔法少女からいつもの姿に戻る。


 弥堂はその様子をじっと視ていた。



「弥堂くん、ごめんね。リュック持っててくれてありがとう」


「あぁ」


「Blue Wish仕舞わせてもらってもいい?」


「……あぁ」



『先にリュックを回収してから仕舞えよ』と言いたくなったが、彼女には悪気はないので今しばらく持っててやることにした。


 一つ我慢したせいか、もたもたとペンダントを首から外してリュックのチャックを開ける水無瀬につい小言を言いたくなる。



「……なんで最初から首にかけておかないんだ?」


「え?」


「その……なんだ。変身するためのペンダントのことだ。最初から着けておいた方が効率がいいだろう」


「え、でも……、派手なアクセサリー付けるのは校則違反だし……」


「……なんだと?」


「少年。オマエ風紀委員だろ? 休みの日でも高校生らしい服装をしましょうって生徒手帳に書いてあるじゃないッスか。ジブンも読んだッス」


「…………そうか」



 優先順位について言及したかったが、このコンビに通じるとは到底思えず弥堂は渋々納得することにした。



「だがそれなら、最初から変身しておけばいいのではないのか? 何故いちいち敵に遭遇してから目の前で無防備に変身をするんだ?」


「え? でも……私、魔法少女だし……」


「? ……? どういうことだ?」


「少年。オマエまだそんなこと言ってんスか? 魔法少女なんだから変身バンクは必須に決まってんじゃねえッスか」


「それに……、魔法少女の衣装って派手じゃない? やっぱり校則違反になっちゃうと思うの……」


「…………だが、初めから変身して家を出て、変身したまま帰宅すれば正体がバレるリスクも減るんじゃないのか? というか、そもそも何でお前ら当たり前みたいに敵に正体バレてんだよ。自宅を襲撃されたりしないのか?」


「え? なんで?」


「そんなわけないじゃないッスか。自宅はプライベートだし、それはプライバシーの侵害になるッスよ」



(ダメだ……っ、同じ言語で会話している気にならない……っ)



 コミュニケーションの難易度に絶望的な気分になるが、それ以上にあまりに戦いをナメているぽんこつコンビに苛立ちが加速する。


 そして一つ疑問が浮かぶ。



「……お前らもしかしてあのボラフって奴とは友達で、実はただ遊んでいるだけなのか?」


「ううん、違うよ。でも……、私はおともだちになれたらいいなぁって……。そうしたら街の人に迷惑かけるのやめてくれるかもしれないし」


「はぁ? なに言ってんスかオマエ。これは戦いなんスよ。甘い考えは捨てるッス」



 弥堂は思わず手が出そうになったが拳を強く握りギリギリ堪える。



「……わかった。校則とプライバシーを守りながら街も守っていることは、とりあえずわかった。受け入れよう。だが、それなら公序良俗にも配慮するべきじゃないか?」


「こうじょ……?」

「りょうじょく……ッス?」


「『りょうぞく』だ。それでは逆の意味になるだろうが、ケダモノめ」


「なんスか? ジブンはネコさんなんスからあんま難しいこと言わねーで欲しいッス」


「要は街中で裸になるな、と言っているんだ」


「……? でも、メロちゃんはネコさんだし。お洋服着せるのもカワイイと思うけど、無理やり着せるのは可哀想かなって……」


「お前のことを言っているんだ」


「へ? 私……?」



 水無瀬はぱちぱちとお目めを瞬かせてから、両腕を広げて身体をクリンクリン捻りながら自身の身なりをチェックする。



「ちゃんとお洋服着てるよ? あ、そうだ! ねぇねぇ弥堂くん! 聞いて聞いてっ、このスカートね、七海ちゃんが選んでくれたんだよ? 先週一緒にお買い物に行ってね――」


「――わかった。それは実に興味深い話だ。ぜひ今度時間のある時にゆっくりと聞かせてもらおう。だが、今は俺の話を聞いて欲しい。いいな?」


「うんっ、いいよー! 私も弥堂くんのお話聞きたいっ!」


「うむ。では何故お前は変身する時にいちいち服を脱ぐんだ? 裸にならないと魔法少女にはなれないのか?」


「え? 裸? なってないよ?」


「なってただろうが」


「でもでもっ。ピカーってなってシュルシュルってなるから大丈夫なんだよ? 一瞬だけだし」


「……思い切り視えていたがな」


「えぇっ⁉」



 クラスで隣の席の男の子に『キミの着替えを見た』と堂々と告白をされ、びっくり仰天した愛苗ちゃんのおさげがみょーんっと跳ね上がる。


 動揺してオロオロとした彼女は相棒のネコの方を見た。


 ネコ妖精は沈痛そうに首を振る。



「なんか、そいつ見えるらしいんスよ。圧倒的な性欲で魔法のガードを突破してくるんス」


「人聞きの悪いことを言うな。勝手に見せてきたんだろうが」


「えぇぇぇっ⁉ み、見えちゃったんだ……、あの、ごめんなさい……、お恥ずかしいものを……」


「ほう」



 顔を赤らめながらも申し訳なさそうにペコリと頭を下げる水無瀬に、思わず感心の声を漏らす。



「なんの感心っスか。このドスケベめ! おっぱいか⁉ マナのおっぱいに感服したんスか⁉」


「そんなわけがないだろう。同じ女子高生で友達同士でも、希咲とは随分と違うんだなと思っただけだ」


「やっぱりおっぱいじゃねえッスか! 確かに同い歳でも大分サイズが違うッスが、ナナミはあれがカワイイんスよ! どっちだ⁉ オマエはおっぱい派か⁉ それともちっぱい派かーーッス⁉」


「大きさの話じゃない。反応の話をしているんだ」


「反応っ⁉ 感度ッスか? 確かに感度は重要――待つッス。オマエ、ナナミの感度を知ってるんスか? あれ? てことはマナも? マ、マナっ! 学校で乳揉まれたりしてるんスか⁉ なんでジブンも呼んでくれないんスか⁉」


「んと、学校ではあんまりないかなぁ? いつもはお風呂でだよ?」


「お風呂っ⁉ そ、そんな……っ! 最近の学校はお風呂の授業があるんスか⁉ そんなの私立ドスケベ学園じゃないッスか!」


「え? お風呂はお泊り会の時だよ?」


「これは惜しいことをしたッス……、今度ジブンも学校に潜入せねばッス……」



 目を血走らせて興奮した発情ネコには水無瀬の訂正は聴こえていなかった。



「くぅぅっ! このエロガキめ! 知ったな! マナのお乳を知ったな! 大きさ、形、柔らかさに留まらず乳輪の全容まで知ってしまったな!」


「近寄るな。鬱陶しい」


「ちなみにナナミのはどうだったんスか? ジブンそこまでは見たことないんス。どうせ比べたんだろ? このゲス野郎めッス! 言えっ! ナナミの乳輪がどうだったか言えーッス!」


「知るか」


「も、もったいぶらないで教えてくれよぉ……。なぁなぁ、クラスの女子の乳輪を知ってしまうと男子高生はどんな感じになるんスか? それも二人もッスよ? 少年はどっちの乳輪が好みなんスか?」


「そんなこと考えたこともないが、乳輪はデカければデカいほどいいと聞いたな」


「デカっ⁉ そんな……、ナナミのやつお乳は慎ましいのに乳輪はデカいだなんて…………。ちくしょうっ! そんなのドスケベすぎるじゃねえッスか! やっべぇ、興奮してきたッス! 色はっ⁉ 色はどうだったんスか⁉」


「知るわけねえだろ」


「メロちゃん。七海ちゃんのは別におっきくないよ? 私よりちっちゃくてキレイだからいいなぁーっていつも見せて貰ってるの」


「……お前ら会話をしてくれないか」



 弥堂は軌道修正を申し出たが、興奮した獣の昂りは止まる様子が見えなかった。



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