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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
1章 俺は普通の高校生なので、魔法少女とは出逢わない
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1章19 starting the blooming! ②


「いたいいたいいたい……っ⁉ なんでぇっ⁉」



 背後から水無瀬の頭蓋骨を鷲掴みして力をこめる。



「人間の揉め事に入ってくるなと言っただろうが」


「ごっ、ごめんなさーーーーいっ!」

「このヤローッス! マナはオマエを助けてやろうとしたんだろうがッス! はなせッス!」



 ガジガジと手に噛みついてくるネコ擬きが病気を持っているかもしれないので仕方なく手を離してやる。



 開放された水無瀬は涙目で頭を抑えながらしゃがみこみ、ネコに介抱される。


 チラリと悪の幹部に視線を遣ると、奴は覇気のない目でぼーっとしていた。



「うぅ~、いたかったぁ……、って、あれ? 弥堂くん?」


「……今気付いたのか?」


「うん。こんにちは。えへへ……、お休みの日に会うのは初めてだねっ」


「……そうだな」



 ぺこりと頭を下げてご挨拶してくる水無瀬のせいで、注意していないと今が戦闘状態であることを忘れてしまいそうだ。



「テメー、少年! このやろーッス! いきなり何するんスか!」


「ここで人間に関わるなと昨日約束したばかりだろう」


「少年こそゴミクズーと揉めるなって約束したじゃないッスか!」


「ん? あぁ、そうだったな。じゃあ許してやる」


「な、なんて理不尽なヤツなんスか……」



 ネコに適当に返事をしながら、そういえばそんな約束をしていたなと思い出す。


 守る気などなかったので忘れていたのだ。



「弥堂くん。ケガとかしなかった? ガジガジされてない?」


「ケガはないがガジガジはされたな。どこかの躾のなってない野生動物に」


「それはジブンのことっスかーー! 下賤な野良猫と一緒にするなーッス! ジブンは高貴なる家猫様ッス! 図が高ェーッス!」


「えと、だいじょうぶってことだよね? よかったぁ。私ね誰か襲われてるーって思って慌てて走ってきちゃったの」


「それは構わんが、アレは放っておいてもいいのか?」



 顎でゴミクズーと悪の幹部の方を示してやると、彼女らも鈍重な動きでそちらを見る。


 ボーっとしていた悪の幹部は自身に注目が集まっていることに気が付くと、バッと大きく腕を横に振った。



「ブハハハハハーっ! よく来たなステラ・フィオーレ!」


「あ、はい。ボラフさんこんにちは。お久しぶりです」


「ん? おぉ、こんにちは。いやー、最近他のバイトが忙しくってよ。中々こっちのシフト入れなくて悪いな」



 水無瀬が丁寧にペコリと頭を下げて挨拶をすると、悪の幹部は挨拶を返しつつ、ニコニコとしながら寄ってきた。



 というか、バイト? こいつ今バイトって言ったか?


 悪の幹部とは掛け持ちバイトでやれるものなのか?


 こいつまさか人間なのか?



 まさか、という気持ちで俺はヤツに怪訝な眼を向けるが、ボラフと呼ばれた悪の幹部は俺のことなど気にも留めず水無瀬の前まで歩いてくる。



 するとボラフは、人間の男であればズボンのポケットがある辺りに手を突っこみ、文字通り黒一色の身体の中に手を突っこみ、なにやら弄る。


 そして手に掴んで取り出した物を水無瀬に手渡した。



「ちゃんとご挨拶できてエライな。ほら、甘いぞ」


「わぁ。アメさんだぁ! ありがとうございます!」



 そしてボラフは元の位置に戻っていき、その間に水無瀬は包みを開けて飴玉を取り出すと迷わず口に入れた。



 ほっぺたをモゴモゴと動かしながら口の中で飴玉を転がす水無瀬の顏へ、俺は信じられないと眼を向ける。



 敵に渡された食べ物をそのまま口に入れるだと?


 何考えてんだこいつ……?



 水無瀬と一定の距離を空けてネズミの化け物の隣に立ったボラフはコホンと一つ咳払いをすると――



「ブハハハハハーっ! よく来たなーステラ・フィオーレ!」


「まひのひほにめーわふをはへるのはひゅるひまへんっ!」



 高笑いからリテイクし、水無瀬もそれに勇ましく応えた。


 しかし、口の中の飴玉のせいで若干何を言っているのかわからなかった。



 緊迫感が薄れていくのに反比例して俺の苛立ちが募っていく。



「ふん、だが一歩遅かったようだな! 俺はもう街の人に迷惑をかけてしまったぞ!」


「えぇぇっ⁉」


「こっちの奥を見てみろ!」


「そんな……っ、ひどい……っ!」



 何かが始まったようなので、とりあえず俺も状況を把握するために路地の奥に眼を凝らす。



「……?」



 しかし、そこには特に何もない。


 死体の一つでも転がっているのかと思ったが、ゴミ箱が一つ転がっているだけだ。



「ブハハハハーっ! どうだ! 生ゴミをばら撒いてやったぜ! これでこの辺のネズミたちはよく育つってもんよ!」


「あぁ……たいへんっ! このままじゃ虫さんもいっぱい湧いちゃう……っ! どうしよう!」


「これはマズイッスよ……! 通りがかった人が『うぇっ』ってなっちまうッス! なんてヒキョーな……っ!」


「…………」



 さっきネズミが貪っていたのは生ゴミだったのか。



 きっと今俺が考えるべきことは他にあり、俺も何か言うべきだったのかもしれないが、迂闊に発言をしては俺もこいつらと同じ舞台に上がってしまうのではと、それを危惧して慎重になっていた。



「それだけじゃあねえぜ! そいつを見ろ!」



 ボラフが指を差すのに合わせて全員が俺に視線を向ける。



「そいつな、今は平気なフリしてっけどよ、さっきまでワンワン泣いてたんだぜ? 『ママー!』つってな!」


「えぇっ⁉ そんな、弥堂くんに何をしたんですか⁉」


「ブハハハハー! 決まってんだろ! いっぱい悪口言ってやったんだよおぉぉぉっ! 弥堂くんとは遊んじゃいけませんって母ちゃんに言われてるから、オマエとは遊んでやらねーよってナァっ!」


「ひどい……、ひどいよ……っ! どうしてそんなことができるんですか⁉」


「ちくしょー! テメーの魔力は何色だーッス! ジブン、こんなの許せねえッスよ!」


「…………」



 一頻り義憤を燃やした彼女たちは俺の方へ労わるような目を向けてきた。



「弥堂くん、だいじょうぶ? 私たちと一緒に遊ぼうね? だから泣かないで? よしよししてあげるね?」


「触るな」


「少年、ションベンちびってねぇッスか? 気にすることねえッスよ? ゴミクズーはおっかねえッスからね」


「黙れ」



 背伸びをして俺の頭へ伸ばしてくる水無瀬の手を振り払い、俺の股間周辺を飛び回ってクンクンと鼻を鳴らすクソ猫をぺしっと叩き落とす。



「ブハハハハーっ! どうだ! これがオレたち“闇の秘密結社”のやり方だァー! 世界の環境を守ってやるぜェーっ!」


「だからって! 街の人に迷惑をかけて、弥堂くんのこともイジメるなんて! そんなの許せませんっ!」


「なんだとぉ? じゃあどうするっ⁉」


「戦いますっ!」


「マナっ! 変身っス!」


「うん! メロちゃん!」



 悪の幹部の前に勇ましく立った水無瀬は自身の胸元に手を持っていき、そしてハッとする。



 何かを掴もうとしていた右手は空振り、胸元を見下ろしながら首を傾げて手をグパグパする。



「あ、マナ。“Blue Wish”はリュックの中っス!」


「あ、そっか。そうだったね。よい……しょっと」



 水無瀬は背中に背負っていたリュックサックの紐を腕から抜くと、悪の幹部を前にしてしゃがんでリュックの中をゴソゴソと探る。



 ヤツらにしてみれば攻撃チャンスのはずだが、ボラフもゴミクズーも特に何もせずにボーっとしている。



「あ、あった」



 無事に目的の物を見つけることが出来たらしい水無瀬はペンダントを首に提げてから立ち上がる。


 そしてリュックを胸の前で抱きながら周囲をキョロキョロと見回し、俺と目が合うとにへーっと笑ってこっちに寄ってきた。



「あのね、弥堂くん。ごめんなさい。ちょっとだけリュック持っててもらってもいいかな?」


「…………」



 俺は意図的に自身の知能を著しく低下させていた為、つい受け取ってしまった。



「えへへ。ありがとう! あとね? 危ないからちょっとだけ下がっててね?」


「さぁ、少年! ボーっとしてちゃダメッス! ここはもう戦場っスよ!」



 俺は強い屈辱を感じながら言われたとおりに下がる。



 それを満足げに見守った水無瀬はバッと敵の方へ振り返った。


 それに合わせてボラフもバッと腕を振った。



「ブハハハハハーっ! もっともっと街の住人に迷惑をかけてやるぜェーっ!」


「これ以上はもうさせませんっ!」


「マナっ! 今っス! 変身っス!」


「うんっ!」



 ここはどこだったろうか……。地球か?



 思考を放棄してしまいそうになるのをギリギリのところで堪える俺を置き去りにして状況は進んでいく。

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