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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
3章 俺は普通の高校生なので、帰還勇者なんて知らない
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3章14 その瞳に心は、 ➂


 ある程度で雑談を切り上げ、望莱が場を仕切る。



「――では、午前中の個別ミッションの報告をお願いします。まずは弥堂せんぱいのお部屋のことから」


「あ、うん――」



 希咲もそれで心を切り替えて、自分が弥堂の部屋で見たものを2人に伝えていく。



「――まず、なんていうか物がなさすぎるのよ」

「ミニマリスト的な感じですか?」


「そういうのとは違うと思う。あそこって1年くらいしか住んでないのよね?」

「不動産の書類上はそうなっていますね」


「ベツに極端に古い建物ってわけじゃないのに、廃墟感がスゴイのよ。全然掃除してないってのもあるけど。だらしないで収まるレベルじゃないのよ」

「まぁ。七海ちゃんが“おこ”です」



 プリプリと怒るお姉さんを見てみらいさんが癒されていると、希咲の目はジロリと彼女の方に向いた。



「あんたより部屋汚すヤツとか初めてよ」


「そこはかとなくNTRされた感がします」


「言っとくけど、それであんたのだらしなさが許されたわけじゃないから。勘違いしないでよね」



 希咲の目線がチラリと横に移る。


 このリビングの床には“エナ汁”の空き瓶と空き缶が転がっている。


 昨日片づけたばかりなのにと、七海ちゃんは憤慨した。



 その怒りが完全に自分に向けられる前に、みらいさんは先を促す。



「それで、なにか重要アイテムは見つかりましたか?」


「え? あー……っと、まずはPC?」


「はい。頂いたデータは解析中です。男子高校生のPCの中身なんて、なんかドキドキしちゃいますよね」


「悪趣味よ。あたしが言えたことじゃないけど」



 2人の会話を聴きながら蛭子くんは自分の衣服の胸元をキュッと握る。


 なにか身につまされることでもあったのか、心が痛そうだ。



「大したデータ量じゃなかったのでもう大体は終わっていて、現在は過去に削除されたデータの復元などをしています」


「めぼしいものはなかったってこと?」


「そうですね。大抵は探偵事務所の仕事のやりとりでした。都紀子ちゃんとのメールの交換とか。あ、そうそう。都紀子ちゃんといえば、復元したメールに興味深いものがありました」


「え? なんかの証拠とか?」



 希咲の質問に望莱は首を横に振る。



「出てきたのは一枚の写真です」


「仕事のメールで写真って……、浮気の証拠写真のこと?」


「いいえ。それだったらスルーなんですけど、どうにも見逃せないものがありまして」


「な、なにそれ……」


「それは――」



 これはきっと重要なものに違いないと、希咲も蛭子も身構えて次の言葉を待つ。



「――それは、パンチラです」


「は?」

「ん?」



 しかし出てきた言葉に、聞き間違いかなと二人揃って首を傾げた。


 みらいさんはもう一度しっかりと答えを伝える。



京子(みやこ)ちゃんのパンチラ写真です」


「はぁっ⁉」



 ちゃんと聞いても答えは変わらず、希咲はビックリしてしまう。


 その影で蛭子は「ぶっ!」と吹き出していた。



「経緯はわからないんですけど。復元したメールの後に都紀子ちゃんから『10万円振り込んだ』という返信もありました」


「そ、それって……」


「えぇ。都紀子ちゃんは実の妹のパンチラ写真を高額で買い取る変態さんだったということです」


「ちがうでしょ! あのバカが所長を脅してお金巻き上げたってことじゃん!」


「えー?」



 思っていたのとは大分違うが、弥堂の犯罪の証拠となり得るものが発見され希咲は眉をナナメにして怒りを表す。


 みらいさんはとっても楽しそうだ。



「な、なぁ……?」



 そんな望莱に蛭子が恐る恐るといった風に声をかける。



「なんですか? 蛮くん」


「そ、その……、よ? それって、どんな写真だったんだ?」


「ん? どうも盗撮した風なアングルでしたね。多分学園の階段の踊り場あたりだと思うんですけど。京子ちゃんがこう、物憂げな感じの横顔で。でもパンチラしてるってウケますよね?」


「笑いごとじゃないでしょ!」



 望莱がソファの上に立ち上がって写真を再現してみせる。


 完全に面白がっている彼女の態度を希咲は注意するが――



「――で、ど、どんな感じだったんだ……?」


「へ?」

「んん?」



――さらに斬りこんでくる蛭子の様子に2人は首を傾げた。



「だ、だから、なにが写ってたんだよ?」


「なにって。京子ちゃんのパンツですけど?」


「だから……ッ。それは、どんな感じだったんだ……?」


「「は?」」



 生徒会長のスカートの中にまでグイグイと迫るヤンキーに、女子2人は引いた。



「まぁ。蛮くんったら京子ちゃんのパンツに並々ならぬ関心です」


「あんたそんなの聞いてどうしようってのよ?」



 みらいさんはニンマリと笑ったが、希咲からは険しい目を向けられてしまう。


 しかし、蛭子としても退くわけにはいかないのだ。



「いいから答えろよ」


「…………」

「…………」



 尚も真っ直ぐに問いかけてくる彼に、二人はスッと真顔になった。


 蛭子くんはとっても胸の奥が痛んだが、グッと堪えて彼女らから目線を外さない。



「……あー、はいはい。白ですよ白。ちょっと地味めですけど清楚な白パンツですー」

「ちょっと。あんたなんだって言うのよ」


「だって蛮くんの目が血走っててキモイんですもん」

「サイテー」



 二人から軽蔑の眼差しを向けられるが、蛭子はホッと胸を撫で下ろした。


 パンツでよかった――と。



「え? なにそのリアクション」


「うわー。白パンで清楚チェックとかすっごく童貞っぽいです」



 さらに軽蔑されてしまった気がするが、そんなことはどうでもいい。



 本来、由緒正しき郭宮家の当主のパンチラを盗撮だなど、許されることではない。


 時代が時代なら山狩りをしてでも犯人を捕らえ、獄門に処すところだ。


 パンツでさえ斯様に罪が重いというのに、それがオムツとなれば見合った刑罰が存在しない。



 だがこの場合、問題は犯人の処遇よりも世間への体面だ。


 郭宮が間抜けにも盗撮されたなど明確な恥さらしとなる。


 その上、世間にオムツバレなんかしてしまった時には、もはやお家は再興不可能になってしまうことだろう。



 パンツでよかったと、蛭子は心の底から安堵し――


 そしていつの時のことかはわからないが、白パンツを穿いてくれていた京子と、オムツを撮らないでいてくれた弥堂に、心から感謝を捧げた。



 どこかへ向けて二拍手をし、「白パンツでありがとう」と呟いてから一礼をする蛭子を、女子2名はゴミを見るような目で見る。


 そして彼を無視して話の続きに戻った。



「今回のことに役立つようなのは特に見つかってないってことね?」


「ですです。完全な結果は明日までには出せるでしょう。他の発見はありましたか?」


「愛苗の学校バッグがあったわ」



 希咲は弥堂の家で見た愛苗のバッグの中身や状態について望莱に話す。


 一通りを説明し――



「――だから龍脈の暴走後はあそこには帰ってないと思うのよね」


「なるほど。ということは、病院の方にずっといるんですね」



 望莱は希咲の考えに納得し、生徒会長のパンツが白であることを神に感謝する神社の息子の方へ視線を向ける。



「蛮くん。病院の周辺はどうでしたか?」



 弥堂の家の件がまだ途中だったが、先に蛭子の報告を聞くことにした。


 蛭子は祈祷をやめて、二人へ自分の任務の成果を語る。



「やっぱりあったぜ、結界」


「そうですか……」



 予測通りというよりは懸念が当たってしまったという方が近い。


 真面目な顔で思案する望莱へさらに詳細を伝える。



「かなり範囲が広い。病院の敷地の外にまで伸びてやがる」


「どういった種類の結界ですか?」


「認識阻害だな。病院の中で起こる術や魔力の動きなんかを外に漏らさないようにする」


「ふむ。わりとオーソドックスですね」



 希咲はこういった話は専門外なので、交互に話す二人の間で視線を左右に振りながら大人しく聞き手に回っていた。



「だが、あれは人間の魔術とかじゃあねェ」


「人間じゃない……?」



 そして続いた蛭子の不穏な報告に、望莱と目を合わせて眉を顰める。


 望莱はそれから蛭子に視線を戻して慎重に訊ねた。



「と、言いますと?」

「ありゃあ多分悪魔だ。特徴が似てる」


「厄介なものですか?」

「あぁ、かなり厄介だぜ」


「そんなに強力な悪魔を“せんぱい”が使役している……?」



 それはあまり想定していなかった可能性だったので難しい顔になってしまうが――



「――いや、逆だ」


「え?」



――報告者である蛭子からそれは否定されてしまう。



「弱すぎて厄介なんだ」



 その言葉に思わずもう一度希咲と目を合わせてしまった。


 蛭子は二人へさらに詳しく説明していく。



「結界自体は大したモンじゃない。低級悪魔がよく使うヤツだ」


「ねぇ、その悪魔の認識阻害? それってどういうものなの?」



 希咲のその質問には望莱が答えた。



「漫画とかで定番のお話になってしまいますが――町に夫婦が二人で住んでいて、奥さんの方が不治の病になってしまったとします。さらにお医者さんから余命宣告まで受けました。病状が悪化し、痩せ細っていくとともに段々と外出しなくなるので、町の人々は奥さんの姿を見ることがなくなりますよね? このままもう助からないのだろうと誰もが思っていた矢先。ある日、元気にお庭仕事をしている奥さんが目撃されます。以前からは考えられないくらいに顔色もよく健康な様子で。しかし、旦那さんも町の人も何も疑問に思いません」


「悪魔が奥さんに為り変わっているっていうお話?」


「ですです。その際にはその家の周辺を対象にこの認識阻害の結界が張られていることが多いです。リアルでも悪魔の絡んだ事件では結構このパターンがあります」



 確かに物語などでもよくありそうな話で、希咲にも想像が出来る。


 その先は蛭子が引き継いだ。



「んで、オレらの業界でもこういうのを解決しろって仕事がたまにある。この時の悪魔が上級なヤツだと並の術者じゃ中々気付けなかったりする。逆に雑魚悪魔だと大した結界じゃないから楽勝だったりする」


「それが今回ですよね?」



 蛭子は望莱の問いに頷く。



「そうだ。術自体は雑魚悪魔の結界なんだが、妙な点がある。結界の存在を隠す気がねェ。おまけに可能な限り薄めてるみてェなんだ。代わりに有効範囲を拡げてる」


「薄めてるって、効果を弱くしてるってこと?」


「そうとしか見えねェ。そのせいで、ちょっとしたことですぐに結界が壊れちまうくらいに脆くなってるぜ。だが、これは多分わざとやってる」



 続けて蛭子が希咲の質問にも答えたところで、望莱は状況を察した。



「なるほど。割り切ってるんですね」


「どういうこと?」


「使っている結界は認識阻害なんですけど、別の目的に使っているということです。ですよね?」



 望莱は希咲に推測を伝えてから、蛭子に視線で問う。



「オレもそう思う。薄めて伸ばしたせいで酷く脆弱な結界になってやがる。この結界に迂闊に術で干渉したり結界内で術を使ったりすると、即結界がぶっ壊れちまうだろうな」


「えっと……、つまり、結界自体は認識阻害だけどそれで誤魔化す気はなくって。わざと壊れやすくして魔力が使える敵が来て何かをしたら結界が壊れる。そのおかげで侵入者にすぐに気付けるようにしてるってこと?」


「ですです。実質は対侵入者用の防犯結界になっているということですね」



 二人が理解したことを確認してから、蛭子は目元を険しくした。



「これ、ちょっとヘンだぜ」



 次に自身の感じた違和感を伝えていく。



「結界自体は下級悪魔の使うモンでありふれたモンなんだが。これを薄めて伸ばしてこんな風に応用するなんて、相当な技量だぜ。それこそ下級悪魔に出来ることじゃあねェ」


「しかし、もっと上級の悪魔だったら、普通に上等な結界を使えばいい。というか、こんな応用方法は悪魔の発想じゃありませんね」


「あぁ、そうか。確かに。言われてみりゃそうだな……」



 望莱の意見に蛭子は床を見つめて少し考えこむ。


 その隙間にに希咲が疑問を口にした。



「ってことは、悪魔に結界を張らせて。それを別の誰かが改造して運用してるってことなの?」


「ふむ……。可能性は……、いえ、その可能性の方が高いですね」


「でもそんなこと出来る魔術師だか陰陽師だかがいるんならさ。やっぱりその人が最初から自分で結界張った方が早いとかってならないの?」


「うーん……。それも確かにそうなんですよねぇ……」



 望莱が困ったように眉を下げると、蛭子が視線だけ上げて会話に戻ってくる。



「それにしたって並大抵の術者じゃねェぞ? というか、かなりの高等テクだ。少なくともオレには出来ねェ」


「弱者のような割り切った手段なのに……、どこか歪ですね……」


「いっそ京子のヤツを連れてけばよかったぜ。アイツなら解析できるはずだ」


「それが“せんぱい”にバレたら、京子ちゃんも戦いに巻き込んじゃいますよ?」


「クソ……ッ! 弥堂のヤロウ、ウゼェな……」



 結界の詳細についてはこれ以上考えてもわからなそうだったので、3人は一旦話を進めることにした。



「では、蛮くん。この結界があるものとして。実際にあの病院を攻めるとしたらどうですか?」



 蛭子は一拍思考してから望莱の質問に答える。



「……一切バレずに、あそこから水無瀬を拉致ってくるんだよな?」


「はい」



 その言い方はやめて欲しいなと七海ちゃんは思ったが、二人の邪魔をしてはいけないとお口にチャックをした。



「じゃあ――七海か真刀錵だ」



 蛭子は人選に対する見解を述べる。



「つか、それ以外のメンツはオレも含めてアウト。何するにも魔力が絡んじまうからよ」


「まぁ、そうなりますよね」



 望莱もそれには異論はなかった。


 だが、問題もある。



「どうせ真刀錵のヤツは聖人から離れねェし。それを抜きにしたって、そもそもアイツは隠密ミッションには向かねェ」


「性能的にはバッチリなんですけど、本人がすぐに決闘しちゃいますからね」


「アホだからな」



 そうなると当初の予定通り――



「――やはり七海ちゃんの単独ミッションになりますか」


「だな。下手に誰か付けても七海のジャマになる。つか、そうなると残り全員で弥堂をやるのか? オーバーキルじゃね?」


「何をしてくるかわからない相手ですよ。それこそさっきの京子ちゃんのパンチラをネットにバラまくぞーとかって、脅迫してくるかもです」


「……それ、やられたら実際ヤバくね? オレら御影にシメられるぞ?」


「鬼の首をとったかのように陰陽府も大喜びですね」



 冗談のような話だが事実洒落にならない。


 郭宮の名誉は軽くないのだ。



「なので、当日は京子ちゃん印の特級結界に“せんぱい”を閉じ込めた上で、周辺地域の電波をジャミングします」


「大妖怪でも相手にするみてェだな」


「大妖怪の方が可愛いかもしれませんね。戦闘の解析とプランは用意しておきますので、それを全員頭に叩き込んだ上で実行しますよ」


「マジかよ……」


「可能なら、仮に七海ちゃんの侵入がバレちゃった時のために、真刀錵ちゃんともう一人くらいをバックアッパーに回したいんですが……。そんな余裕はないかもしれませんね」


「…………」



 自信家の望莱のこの慎重な態度と、京子から聞いた話。


 元々蛭子にとって今回の件は、希咲や望莱の持ってきた揉め事への助っ人くらいの気持ちで、どうとでもなる喧嘩だと考えていた。



 しかし蛭子自身にも、美景の地や郭宮を絡めた上で弥堂と関わる理由が出来てしまった。


 弥堂に対しての警戒心や真剣味をここで改めた。


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― 新着の感想 ―
京子の尊严を守るために変態の汚名を被るとは……蛮、お前はなんて漢なんだ! もし後で京子が、女子メンバーの誰かから事の次第を聞かされたら、「私の下着をそんなに気にかけてくれたんだ」って逆に喜んじゃって、…
そもそも、主人公本人の無知さからして、おむつと生理用ナプキンを完全に見間違えるなんてことがあり得るのでしょうか?それとも、いくらなんでも異性との経験がある身として、そこまで無知であるはずがないのでしょ…
そいうえばなんですが加護の力を使う時って魔力を使って使うんですよね?
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