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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
3章 俺は普通の高校生なので、帰還勇者なんて知らない
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3章13 Beyond the Veil ➂


 生徒会長室。



 普段この部屋にいるメンバーとしては、生徒会長の郭宮 京子(くるわみや みやこ)、ちびメイドの“まきえ”と“うきこ”、それからメイド長でありこの学園の理事長でもある御影――


――この4人のメンバーが常だ。



(そういえば出張だとか言っていたか)



 G.Wの連休が始まる前にこの部屋に来た時に御影とは電話で話したが、その時に御影自身がそう言っていた。


 京都で足止めをされていて帰れないという話だったと思い出す。


 今もその状態が継続しているのかは弥堂にはわからないが、連休が終わった今も少なくともこの部屋には彼女は居ない。


 その代わりに居るのが――



「ハァーイ、弥堂さん。お久しぶりですね~」



――この女だ。



 普段なら御影が立っている場所――女王の傍に控える執政官のような立ち位置には、今日は御影とは違う女が居る。



 歳の頃は大学生ほど。


 顔立ちは“まきえ”や“うきこ”が成長したらこうなるのだろうなというもの。


 青みの強い黒髪をアップにし、メイド服を着用している。



 そんな女が馴れ馴れしい口調で弥堂に挨拶をしてきた。



「…………」



 弥堂はフイっと女から目を逸らし、机に座る生徒会長へ目線を遣る。



「何の用だ?」



 そして端的に用件を訊ねた。


 会長はピクリと肩を動かして、すぐに弥堂と目線を合わせぬように目を伏せた。



 すると、横合いからカラカラと音を鳴らしながら、“まきえ”がキャスター付きのパーテーションを押してくる。


 それを弥堂の視線から会長を隠せる位置に置くと、“まきえ”は弥堂に向かって「べぇ~」っと舌を出し、それから所定の位置へと戻って行った。



「チッ」



 徹底して下賤な者とは目も合わせない――そんな意思表示に、弥堂はわざと大袈裟に音を立てて舌打ちをする。


 無礼な振舞いではあるが、ここに居る者たちも最早慣れたもの。


 誰も相手にせずに沈黙を守った。



(そういえば……)



 以前までだったら、ギリギリ向こう側が透けるくらいの薄布を部屋の端から端まで垂らしていたのだが、今回からはこの移動式パーテーションに変わったようである。


 布製の衝立で、使われている布は薄く透けた素材ではあるが、保健室のベッドとベッドを区切っているものと形状は似通っていた。


 以前の物にはまだ高貴な者との謁見をするような雰囲気があったのだが、現在のこれはどこか安っぽい。


 たまにテレビなどである、元闇ブローカーの男を隠す時の曇りガラスのような雰囲気に成り下がってしまっていた。



 尤も、そう感じるのは弥堂ではなく、どちらかというと衝立を挟んで弥堂と反対側にいる彼女らのようで。


 上記のように感じたのかどうかはわからないが、“まきえ”がどこかビミョーな顔でお口をモゴモゴとさせた。



「アハハハッ。相変わらずキレのいいシカトですね~」



 一連の弥堂の振舞いを気にした風もなく、また皮肉でもなく、メイド女は心底可笑しそうに笑う。



「“あね”。“ふーきいん”はビビってる」



 その軽口に便乗して“うきこ”がバカにするようなことを言うと、メイド女は目をキョトンとさせた。



「そんな殊勝な人じゃないですよね~?」


「“ふーきいん”はコミュ障。知らないひととはコワくてお話できない」


「え? ワタシ知らない人じゃないですけど~?」


「ふぅ、“あね”は“ふーきいん”のことなんにもわかってない」



 “うきこ”はマウントでもとるようにヤレヤレと首を振った。



「“ふーきいん”はバカだから人の顔をすぐに忘れる。抱いた女のことも三日で忘れる」


「うわぁー、サイテー男じゃないですかー」


「ふふ、そう。“ふーきいん”は底辺。私がお世話してあげないと何もできない」



 “うきこ”がどこか自慢げにむふーっと鼻息を漏らすと、メイド女はまた「キャハハ」と笑う。



「オイ、好き放題言われてるぞ?」



 やる気のなさそうな顔で“まきえ”が言ってくるが、弥堂は適当に肩を竦めてスルーした。



「冗談はこれくらいにして……、え? 冗談ですよね? ワタシのことホンキで忘れてないですよね? 弥堂さん?」



 言いながら不安になったのか、メイド女が少しだけ真面目な顔になって問いかけてくる。



「さあ? 初対面の人にそう言われても反応に困るな」


「ちょっとーっ!」



 弥堂が適当にしらばっくれると女は大袈裟に叫んだ。



「何回も会ってるじゃないですかー! 初対面は弥堂さんと御影様の初絡みの時ですよ~?」



 その『初絡み』とは皐月組に紹介された案件で、御影と一緒に外人街で暴れた時のことだ。この街に来てまだそう時間の経っていなかった頃の話である。



「ワタシはもうインパクトありすぎて、第一印象からバッチリアナタのことが頭に刻まれちゃいましたよぉ~」



 女は頬に手を当ててどこかうっとりとした顔で当時のことを思い出す。


 その事件の顛末としては、外人街の連中と御影が取引をしている間に弥堂がそのビルごと燃やして全員を始末しようとしたといったものだ。


 御影は焼け落ちるビルからギリギリ脱出して生き延びたのだが、弥堂はその後彼女にこっ酷く怒られてしまった。



「あの御影様が現場の戦闘で焦ったり顔色を変えたりしたのって、それまで一回も見たことなかったんですよね~。あんな風にキレ散らかしてたところも~。ワタシもうあれが面白すぎて……」


「なんのことかわからないな。早く用件に移ってくれないか」



 弥堂はまた適当にスルーする。


 シラを切りたいというよりは、彼女の相手をまともにしたくないのだ。


 この女の絡み方が鬱陶しいのと、語尾を間延びさせる喋り方にイライラするなど、色々な点で苦手なのだ。



「今日もツレナイですね~。ワタシは氷上 桜樹女(ひかみ さきめ)ですよぉ~? 今度こそ忘れないでくださいね~?」



 それがわかっているかのように、氷上は露骨に語尾を伸ばしてみせる。


 彼女は決して天然さんなのではなく、こうして人を揶揄うことが好きなのだ。


 ちなみにこの学園の清掃員などのスタッフさんがメイド服を着用することになったのも、彼女の悪戯から始まったものだった。



「さて。本日お呼び立てしたのは、実はお嬢さまではなくワタシなのです」


「どうでもいい。用件は?」


「はい。用件はですね~。ちょっとお訊きしたいことが何点かありまして」


「聴取のようなものなら何度も受けた。俺にはもう答えられることがないな」


「まぁまぁ。そう言わずに少しだけお付き合いくださいよ~」



 弥堂はいつも通りの態度で突っぱねるが、この相手にはそれが通用しない。


 空気が読めていない風に、構わずに友好的な態度で話を続けてくる。



「御影様の代わりに、訊いておかなきゃいけないんですよ~」


「代わり、ね……」



 その言い様からすると、やはり御影はまだ帰ってきていないようだ。


 それは弥堂にとっては都合がいい。


 紅月グループと戦う際に、御影も同時に相手にするようなことになれば一気に勝ち目が減る。


 逆に言うなら、御影が帰ってくる前に決着をつける必要がある――そうとも言い換えられた。



 氷上はあざとい仕草で小首を傾げて、自身の唇に指を当てる。


 そして弥堂に流し目を送ってきた。



「というか、むしろ呼び出してすぐに来てくれたのが意外っていうか~?」


「あ?」


「なんか~? いつもは呼んでも無視して来ないって、この子たちが言ってましたよ~」


「それは誤解だ。たまたま行き違いになっただけだ」


「もしかして~? 放送の声でワタシに気付いて会いに来てくれたとか~?」


「それは勘違いだ。精神科の受診をお薦めする」


「え~? “うきこ”~? こんなこと言ってますけど~?」



 弥堂が真剣な顔でそう主張すると、氷上は“うきこ”に水を向ける。


 “うきこ”は醒めた顔で答えた。



「“ふーきいん”はうそつき」


「ですって~?」



 そして氷上はまたクスクスと笑いながら、弥堂へ面白げな目を向けてくる。



「いいから訊きたいこととやらをさっさと言え」



 それが鬱陶しくて、弥堂は仕方なく相手の要求に応えることにした。


 有益な情報も得られたことだし、少しくらいは構わないかという気になったのもある。



「“ふーきいん”は女好き。新しい女と、たまに会う女には甘い」


「そのような事実はない」



 あらぬ疑いの方は否定するが、『何故素直に呼び出しに応じたのか』という点についてはそうではない。


 そこには明確な目的があった。



 あのまま進めば紅月 聖人とやりあうことになっていた。


 それを邪魔するような呼び出し放送。


 しかもタイミングが良すぎる。



 以上のことから、弥堂は疑いを持ったのだ。


 学園の運営陣が、紅月たちに与しているのではないかと。



 彼女らが、自分と紅月たちとの争いをどれだけ把握していて、そしてそれに対してどういうスタンスなのか。


 それを探るために今回は呼び出しに応じてここにやってきたのだった。



「で?」


「はい。訊きたいこととは謂っても、特殊な案件はそれほどないんですけど~……」



 弥堂が促すと氷上は軽い調子で切り出す。



(よく言うぜ)



 弥堂はそれを内心で鼻で嘲笑いつつ、続きの言葉を待った。



「え~と、まずは先日の木曜日のことなんですけど~……」


(ん?)



 しかし、思っていたこととは違う話のようで弥堂は心中で訝しむ。


 弥堂がここに呼び出されるとすれば、心当たりがあるのは『魔法少女事件の日のこと』か『紅月たちとの抗争』についてだ。


 つい数日前のことには、彼女らに咎められるようなことは何も思い当たることがない。



「5/7の木曜日の放課後のことです。正門近くで騒ぎを起こしましたね~?」


「ちょっと覚えがないな。人違いだろう」


「生徒会や風紀委員の方に何件か通報がきてるんですよ~」


「そんなことを言われても俺には意味がわからないな」


「なんでも~? 弥堂さんが女子生徒を妊娠させて、公衆の面前で堕胎を強要していたとか~?」


「…………」


「ほら~。ウチってこんなんでも一応は高校ですし~? そういう通報がきたらちゃんと当人に話を訊かないといけませんよね~?」



 どうやら異能の業界での事件や争いのことではなく、ただ普通に呼び出しをくらっただけのようだった。


 しかもそこはかとなく覚えもある話だ。



 一転して、弥堂は普通の高校生として普通のピンチに陥ってしまった。


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― 新着の感想 ―
ついに序章含めて千話ですね…!いつも面白く読ませてもらっています。紅月達との対決が近付いてるけど、ここから丸く収まる未来は果たして存在するのだろうか…? 尖った学園ものかと思ってた4年前では想像できな…
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