3章12 ○× sneak into ×○ ⑤
やっぱ汚いなあ……
リビングに入ってすぐに、改めてそんな感想が浮かぶ。
あー、片付けたい、掃除したい……
ここに来てからずっと「汚い汚い」って文句ばっか言ってるけど、あたしはベツに潔癖ってわけじゃない。
むしろ散らかってるのとか汚れてるのとかには、どちらかといえば慣れている方だ。
みらいの暮らしがだらしないから、ここみたいにあちこちにゴミや物が落ちてたりするのは見慣れてはいる。
あたしん家もボロっちい賃貸の一軒家だから、ちょっとしたことで埃がたつのも慣れている。
でもこの弥堂の家は、条件としてはそれらと合致してる部分があるはずなのに、全く既視感のようなものを覚えない。
同じ掃除しないでも、みらいの部屋は元が高級マンションだし、ロボット掃除機くんが最低限は保ってくれてる。
あたしん家はボロっちいけど、ちっちゃな子もいるからあたしが気を付けて細めに掃除してる。
だから――なんだろうけど。でもやっぱりそれだけでもない違和感がこの部屋にはある。
第一印象でもそう感じたけど、見れば見るほどにその印象が強まる。
こんなに汚してて、こんなに散らかしてるのに、この部屋には何故か生活感を感じないのだ。
意味わかんないけど、そう感じちゃうのよね。
なんというか、暮らしてるってより、廃墟に這入り込んで潜んでるみたいな。
そこまで考えた時に「あっ」と気が付く。
そうだ。
前に潜入した盗賊団のアジト――あれと雰囲気がそっくりなんだ。
一時的に潜んでいるだけで、いつでも逃げられるように。
いつここを出ることになってもかまわない。
だから、この部屋に弥堂自身の愛着のようなものがなんにも表れてないんだ。
人は誰でも、大なり小なり自分の部屋に愛着を持つ。
愛着がわくものに変えるようにする。
例えば好きな物を置いたり、好きな風に飾ったり。
そこを自分の場所として。
多分それは誰でもそう。
プァナちゃんの願いを思い出す。
ほんの僅かな平穏と安寧。
誰でも、当たり前の。
それがこの部屋にあるようには、あたしにはとても見えなかった。
心の中で頭を振って、ノートPCに近づく。
中身のコピーはもう終わっていた。
USBを抜き取る。
愛苗が前にここに居た形跡の確認。
愛苗が今ここに居ないことの確認。
そして、このデータのコピー。
今日ここに来た用事はこれで全部終わり。
あとはこのまま誰にも見つからずに撤収するだけ。
電源を切らずにノートPCを閉じる。
すると、ガムテープなんかで留めてるアホなテーブルの足がガタっと揺れた。
その時――
「ん?」
――PCの近くでカランっと音が鳴る。
それに意識を向けてみると、あったのはコーヒーの空き缶だ。
これ、いつからあんの……?
虫わくからちゃんと捨てなさいよね――って、そういえば。
意外といえば意外だけど。
こんな汚い家なのに意外と虫とか見ないわね。
や、見たくないから全然いいんだけど。
Gさんですらあいつと一緒に生活するのを拒否ってるのかしら。
なんてことを考えた時にもう一つ気が付いた。
「あれ……、これって……」
コーヒーの缶にはペンが一本挿さっている。
それは見覚えのあるペンだった。
あたしが使ってるものと一緒。
何も特別なことのない、モールの100均でまとめ売りされてる安い物。
そのペンにヘアゴムで作られたリボンが付いてる。
見覚えがあるもなにも、そのヘアゴムを付けたのはあたしで、このペンを弥堂にあげたのもあたしだ。
それが缶コーヒーの飲み口に挿さっている。
「てゆーか、このコーヒーも……」
学園の昇降口の自販機で売ってる物で、あたしが前に弥堂にあげたのと同じブラックの缶コーヒーだ。
あいつは受け取りを拒否してたけど、「お礼だから」って押し付けて持って帰らせたやつ。
そしてペンも、「クイズだから」みたいにして持って帰らせた、ちょっと押しつけがましい誕生日プレゼント。
「コーヒー、飲んだんだ……」
あによ。カフェじゃ「何も飲まない」ってさんざんゴネて困らせたくせに。
それに――
「…………」
缶を取ってペンを抜く。
中を覗いてみる。
全部見えたわけじゃないけど、ちゃんと中身は濯いであるみたい。
なによ。洗わなきゃいけないもの、他にいっぱいあるくせに。
ペンを挿してテーブルの上に缶を置き直す。
ペン立て代わりの空き缶なのかな。
でもリボンが付いてるせいで飾りのようにも見える。
無機質な部屋の中の、たった一つの装飾。
「なにこれ。お花の代わり、とか……?」
何気なく口にして、すっごくあいつっぽくないと思った。
だってあいつは必要のないことはしない。
だからこれは、必要のない物で、無くてもいい物だ。
それをこんなとこに置いとく必要だって勿論ない。
やんなくてもいいのに。
なくてもいいのに。
でもそれがあるのが自分の……
ただ自分の好きでやっただけの……
「……なにそれ」
テーブルの上のお花を見てると、何故か胸がドキドキしてきた。
きっとさっきと同じ。
困惑と、不安。
「イミわかんない……」
お花の入った花瓶みたいな感じで、あいつこれをテーブルに飾ってんのかな?
めっちゃ似合わない。
でも、あいつがそんなこと考えてこれを置いてるとこを想像したら――
ちょっとクスってきちゃうし。
なんかちょっとだけ、かわいいって思っちゃう……、思っちゃった……、かも。
ヘアゴムのリボンはきっとあたしが付けた時のまんま。
もう結構日が経ってるから、形は崩れちゃってる。
花瓶に挿したまんまロクにお世話されてないお花みたいに萎れてる。
それはすごくあいつっぽいって思った。
イヤそうにしてたくせに。
「誕おめ」してもメッセ無視したくせに。
なのに。
「こんなのいみわかんない……」
こんなのどう思えばいいの……
どっちもどうせ捨ててんだろうなって、そう思ってたのに。
あんな百円のペンなんてベツに――
「――――ッ⁉」
――そう考えながらペンを見つめていると、突然頭の中に痛みを伴ったような閃きが奔る。
あたしの意思なのか自分でもわからないけど、首がグリンって動いて目線が部屋の隅へ。
そこにあるのはさっきも見たゴミ袋。
理由は自分でもわからない。
何故か突然、あっちが気になった。
わからないけど、でも。
この感覚には覚えがよくある。
いつもの勘が働いた時のものだ。
だけどいつもより……、ううん。
今までにないくらいの、なにか強い確信のようなものがある。
あたしは部屋の隅の方へ移動する。
ゴミ袋をジッと見下ろした。
袋は2つある。
これのどっちか?
その中?
そこに何かあるの?
「…………違う」
一番右のゴミ袋をどかす。
すると、そこには丸まった紙きれがいくつか落ちてた。
「これ……?」
その内の1つを拾い上げる。
だけど、広げて中を見るのは少し恐く感じた。
ゴミ袋を元に戻して、丸まったままの紙を持ってテーブルまで戻る。
手の中の紙を見下ろしてしばらく立ち尽くす。
でも、こうしてても何も意味がない。
「……ふぅ……」
息を吐いて覚悟を決めて、紙を広げてみた。
すると――
「――え……?」
まず大きめの○が書かれてるのに目を引かれた。
雑な線で引かれた歪な○。
その中には、『みなせ まな』と書かれている。
「これって……」
この紙にも見覚えがある。
愛苗がよく使ってたノートと一緒だ。
だけどそれよりも、一番の問題となるのは余白に書かれている文章だ。
――――――――――――
こいつはまほう少女でクラスメイトで
お前のともだちだ
わすれてんじゃねーよ人でなしめ
あくま まもの リバースエンブリオ まほう少女
あとは自分でかってにどうにかしろ
馬鹿女
――――――――――――
「なに、これ……」
愛苗の字じゃない。
漢字が少ない、汚い字。
大体の単語は平仮名ばっかなのに『馬鹿』だけはキッチリ漢字な性格の悪さ。
書いたのは間違いなく弥堂だ。
だけどわかるのはそれくらいで。
文章の内容もそうだけど、何もかも意味がわからなくて頭が回らない。
さっきまで強烈に働いてた勘はもうどっかにいっちゃった。
どう読めばいいのか。
どう考えればいいのか。
どう思えばいいのか。
適当な○の中に、愛苗の名前。
これも愛苗の字じゃない。
愛苗に宛てて弥堂が書いたってこと?
普通に読めば多分そういうことになると思う。
けど――
――――――――――
こいつはまほう少女でクラスメイトで
お前のともだちだ
わすれてんじゃねーよ人でなしめ
――――――――――
文章の前半部分。
これ、どういう意味?
魔法少女の正体が愛苗の友達ってこと?
誰のことを言ってるの?
クラスの女子の顔を順番に浮かべてみるけど、誰にもピンとこない。
それに、後半も――
――――――――――
あくま まもの リバースエンブリオ まほう少女
あとは自分でかってにどうにかしろ
馬鹿女
――――――――――
『悪魔』『魔物』『リバースエンブリオ』『魔法少女』
ダメだ。こっちもわけわかんない。
それに『リバースエンブリオ』は単語としても初めて見るものだ。
なによそれ。
「でも……」
なんか、おかしいな……
内容の意味がわかんないのもそうなんだけど。
それ以前に全体的に何もスッと入ってこないっていうか。
なんだか物凄い違和感を感じる。
多分、今あたしの眉間にはすっごく皺が寄ってると思う。
そんな状態で一番最後の文章を見たら――
『――勝手にしろ。馬鹿女』
――そう口にするあいつの顏が浮かんだ。
あ、これ――ちがう。
これ、あたしだ。
あたしに宛てた手紙というか、メッセージ……?
根拠はないし、みらいに言ったらまたキモイとかってバカにされそうだけど。
それでも何故か、そこだけストンっと腑に落ちた。
でも――
あいつが、あたしに……?
てゆーか、これいつ書いたやつ?
そもそも、なんであたしに……?
そこから先は思考がループしちゃう。
「…………」
ノートPCをもう一度開いて、パイプ椅子を引く。
あたしはそこに座ってみた。
目の前には、あたしと愛苗の写真。
その脇にはヘアゴムのお花の花瓶。
隣には十字架の入ったお菓子の缶。
他はどうでもいい物が散らかってて。
でも椅子に座ったあたしのすぐ手前には少しスペースがある。
そこに拾ってきた手紙を広げてみた。
ピタって、パズルが嵌ったみたいにそこに収まる。
気のせいかもだけど。
想像してみる。
あいつがどういう時にこれを書いたのか。
向かいのバッグが置いてる席には愛苗が座ってたのかな?
ううん。多分ちがう。
愛苗が居ない時だ。
これって、4/25の龍脈の事件の時?
港に向かう前?
そういえばその2日前。
4/23の夜にあいつと通話した時。
これで最期だって言われた時。
あれ、なんでだったっけ……?
すぐに思い出せる。
弥堂はあの時、自分ももうすぐ愛苗のことを忘れちゃうから、だからもう約束を果たせないって……
それを思い出して、もう一回紙に書かれた文章を見る。
これ、同じ意味だ。
4/23に明日には忘れちゃうかもって。
だからもうムリだって言って。
でも、あいつは忘れてなくて。
4/25の大事件に向かう前にこれを。
その間にわかったことを、あたしに報せようとしてくれた……?
昨夜の夢で見た港の映像を思い出す。
視界いっぱいに化け物に囲まれて、あいつはたった一人で戦ってた。
あの地獄のような戦場に行く前に残してくれた、あたしへのメッセージなの……?
――――――――――――
あとは自分でかってにどうにかしろ
馬鹿女
――――――――――――
他のとこの意味はわかんないけど、ここだけはわかる。
『聞かない。これ以上は不毛だ。さっき決めたろ? 不毛な話はしない。だからどうしても聞いて欲しければ、次に会った時にでも聞いてやる。覚えていたらな――じゃあな』
4/23の夜。
そう言われて一方的に通話を切られた。
この最後の文章はあの時の言葉ときっと同じ意味だ。
これで最期だからと――
多分、あいつは港があんな地獄になること――なっていることをわかってた。
わかってて、港に向かった。
愛苗を助けるために。
そんな状況で、あたし宛てにこんなメッセージを残すなんて。
そんなの――
ゾッとする。
体温が一気に冷えたように錯覚した。
これは遺書だ――
あいつは多分自分が死ぬと思って、これを書いたんだ。
きっと、弥堂がいなかったら、美景を離れてたあたしは今よりももっと何も知らなかった。
もしかしたら一人で先に帰ってこようともしなかったかもしれない。
それで、全てが終わった後でノコノコと旅行から帰ってきて、それから一人で喚き出すのだ。
「愛苗がいない!」って――
自分でもそう思うし、そしてあの時の弥堂もきっとそう思ってた。
だから――
愛苗が居なくて、弥堂も居なくて――
手掛かりを求めたあたしがこうやってここに忍び込んで――
――そしてこの手紙に辿り着く。
これはきっと、そういう意図だったものだ。
思い込みも決めつけも過ぎるかもしれなけど。
でも、絶対そうだ。
それはわかった。
最後の文章の意味もわかった。
だけど他のとこは全然わかんない。
今読んでもわかんないってことは、今想像した最悪の状況で読んだら尚更わかんなかったと思う。
こんなのちゃんと説明してくんなきゃわかるわけないじゃない!
あいつは何を考えてたんだろう。
ここに座ってあいつと同じ光景を見れば、少しはあいつの気持ちが想像できるかもって思ったけど、これ以上はわかんない。
でもあいつはそうじゃない。
自分が居なくなって、あたしがここでこれを見て、そしたらあたしが愛苗を助けられる。
きっとそう思ったんだろう。
だけど、そうはならなかった。
あたしがいなくても。
愛苗は助かって、あいつも生き残って――
そして、あたしだけが今頃ここに居て、この手紙を読んでる。
弥堂はこの手紙を捨てようとしてた。
自分が生き残ったから、あたしにこれを報せる必要がなくなった?
でも、そんなのヘンじゃん。
終わったんなら、今教えてくれたっていいじゃん。
全部終わって愛苗が助かったんなら、何があったのか説明してくれればいいじゃんか。
そうすれば――
ずっと役立たずだったのに図々しいけど。
でも、まだなにかあるなら、事情を共有してこれから一緒に頑張ればいいじゃん。
身勝手なあたしは感情的にそう思っちゃうけど。
だけどやっぱり弥堂は違うんだ。
あたしに報せようとしたことが――知らせてもよかったことが、そうじゃなくなった?
そう変わった?
それはなんで?
多分あの事件で愛苗が助かって自分も生き残ったこと――
――これは弥堂にとって想定外のことだったんだ。
だから、一度はこうしてあたしに報せようとしてくれたことを、今は絶対に隠し通そうとしてる。
そして、あいつは愛苗を隠して、事情を隠して、今度はあたしたちと戦おうとしてる。
港やホテルで敵に向けていたあの狂った牙を、今度はあたしに向けようとしてる。
それはどうして?
わからないけど、きっかけは間違いなく4/25の港の出来事だ。
そこであった出来事が、今のこの状況を決定づけたんだと思う。
だけどあたしは――
今ここで動揺する必要なんてない。
迷う必要なんてない。
だってどっちにしろ、それをハッキリさせるために行動してるのが今やってることなんだから。
だから今日ここで何を見ようが、何も変わらないはずだ。
あいつから全部を聞き出すためにこうしようって決めて、あたしも納得して、それでここに来たんだから。
なのに――
「……なんで?」
だけど、あたしの口から出るのはそんな情けない言葉だ。
でもしょうがないじゃん。
こんなの全部わかんないわよ。
あいつがここに書いてくれたことも。
今こうなっちゃってることも。
だけど、やっぱり一番わかんないのは――
あいつが、あたしに、伝えようって、そんな気になったことだ。
だって――
「――あんた、キライじゃん……。あたしのこと……」
――すぐキレてくるし、文句ばっか言ってくるし。
デートの時だって――ウソだけど――ずっとつまんなそうにしてて、態度も悪かったじゃん。
愛苗のことだって憶えてないってウソついて。
なのに、なんで――
そして、なんで、今は。
あたしの勝手な願いを押し付けられて、それであんな酷い目にあったから? それでムカついてるの?
ちがう。
そんな安っぽい理由じゃない。
どれをいくら考えても。
考えれば考えるほど――
――わかんなくなっちゃうじゃん。
「なんなの……」
こっちの気も知らないで……!
あたしがどれだけ――毎日毎日、やんなきゃって、今はやりきらなきゃって……!
何回覚悟を決め直してると思ってんのよ……!
今日だって!
こんなの読んじゃったら――
こんなの見ちゃったら――
こんなことされたら――
また――
「――わかんなくなっちゃうじゃん……」
どうしてくれんのよ……。
どうしたらいいの……?
大体、あんたいつも足りないのよ……!
色々っ!
効率だかなんだか知んないけど適当すぎんのよ!
今日だって、これだって――
言葉が足りない。
説明が足りない。
配慮が足りない。
こんなの読んだって――
これじゃあ――
これだけじゃ――
カっとなって、コーヒーの缶からペンを抜き取る。
それを握って、最後の文章の下に――
『わかんないわよ! ばか!』
――そう殴り書いた瞬間、フッと身体から力が抜けた。
ダメだ。早く帰んなきゃ。
もしも今、あいつが帰ってきちゃったら――
その時は多分、あたしは戦えない。
スキル一つすら使うことも出来ずに、為す術もなくあいつに殺されてしまうだろう。
だから早くここから逃げなきゃ。
そして、もう一回――
ふと、テーブルの上の光景が目に入る。
「…………あぁ、そっか」
もう一個だけ、わかった。
手紙と全然関係ないけど。
テーブルの上には左から――
PCモニター、コーヒーの空き缶、そしてお菓子の缶。
――大した隙間もなくそう並んでいる。
これって、そういうことか。
あいつと同じ席に座って、同じ光景を見ても。
あいつの気持ちは全然わからなかったけど。
それはわかった。
ペン先を閉まって、ペンを空き缶の飲み口に挿し直す。
そしてノートPCを閉じて椅子から立ち上がった。
この椅子って、どういう風に置かれてたっけ?
ベツにもういっか。
『――撤退を。30秒以内』
タイミングよく入った指示に従って、あたしは玄関に向かう。
スリッパからスニーカーに履き替えて、それからドアを開けて外に出た。
手を離したドアが無人となった部屋を閉ざそうとして――止まる。
ドアを掴んで止めてるのは、あたしの手。
あたしはもう一回部屋に入って、今度は土足のままでリビングへと向かった。
テーブルの上に手を伸ばして、もう一回ペンを取る。
それで何かを書くのではなく、ヘアゴムを解いて外す。
キャップを脱いで、ポニーテールにしていた髪を解いた。
手早くヘアゴムを結び直して、ペンをまた花瓶に戻す。
すると、テーブルの上の手紙が目に留まり、思わず苦笑い。
なんでこんなの置いて行こうとしてんのよ。
こんなキモイの見たらさすがのあいつも困惑しちゃうでしょ。
今日のあたしみたいに。
手紙の皺を簡単に伸ばす。
そうすると、気が付いた。
あいつが書いた字と、あたしの書いた字。
太さと濃さが大体一緒だ。
あいつもあのペンでこれ書いたんだ。
筆圧はあいつの方が強いけど。
すっごくどうもいい情報すぎてクスリと笑ってしまう。
手紙をなるべくキレイに折って畳み、ズボンのポケットに仕舞う。
一回は伝えようとした言葉を引っ込めて、隠して、どっかに捨てようとする。
あたしもあいつと一緒だ。
「これで“おあいこ”ね――」
小さく呟くあたしの顏はきっとまた苦笑いに戻っていただろう。
お菓子の缶に手を伸ばす。
被っていた埃を簡単に手で払い――
「――おじゃましました」
――頭を下げてから帽子を被り直して、あたしは今度こそ玄関を出て行く。
外からスキルでカギを掛け直して、これで侵入ミッションは終わった。
無人に帰った部屋。
リビングのテーブルの上。
お菓子の缶とコーヒーの空き缶がピッタリくっついて並べられている。
空き缶に挿さったペンには――
上下と左右に開いた2つのリボンが十字に交差し――
不揃いな色の花が咲いていた。




