3章12 ○× sneak into ×○ ①
「――配置、つきました」
無線に声を通してあたしは道の端に寄る。
『了解――』
耳に付けたイヤホンから豪田さんの返事が聴こえてきた。
あたしは帽子の鍔を下げて、目標地点の方を見る。
今日のあたしは“ウェアキャットモード”だ。
だから別に帽子を下げなくてもスキル効果で顔は隠れてんだけど、これからすることを思うと自然にそうしたくなっちゃう。
現在時刻は午前9時前。
教室では今頃はHRが行われていることだろう。
なのにも関わらず、あたしは住宅街の一角でボーっと突っ立っている。
ここは駅前商店街である“はなまる通り”の少し手前を脇道に入った場所。
一人暮らし用のアパートなどが多い区画だ。
出勤ラッシュはもう30分前くらいに終わっており、現在の人通りは少なくなっている。
元々そんなに人通りが多い場所じゃないらしいけど。
あたしが今日も今日とてガッコをサボって、朝っぱらからなんでこんな場所で正体を隠してプラプラしてるのかというと、ヒミツの任務があるからだ。
視線の先には一つのアパート。
あそこに用があるのだ。
そしてあの建物の中には、現在登校中であるはずの弥堂 優輝の部屋がある。
そう、あたしに与えられた任務とは――
「――はぁ……」
あたしは溜め息を吐いてなんとなく空を見上げる。
ママ。
パパ。
七海はこれから空き巣に入ります……
や。パパの顏なんか覚えてないし、ママもママで不良だったから万引きとかしてたらしいけど。
だからって何にも気が楽にはならない。
だけど仕方ない。
やるしかないの。
これが望莱に頼まれたあたしの任務だった。
蛮は蛮で今頃病院周辺を徘徊する不審者になってるはず。
うぅ……、がんばろうね蛮。
『――対象の登校を確認。現在HR終了。作戦開始まであと10分』
「あ、はい」
すいません豪田さん。朝からこんなことに付き合わせて。
ちゃんとやります。
作戦というのは簡単。
1限目の授業が開始してあいつが出席しているのを確認したら、その間にあいつの部屋に不法侵入して必要な情報を回収してくること。
そして同時刻に蛮は美景台総合病院の結界の有無の確認。あるならそれの分析を行うことになっている。
「はぁ……」
もう一度溜め息。
やっぱり気が重い。
望莱の指示でやっているとはいえ、蛮はただの不審者で済むけど、あたしの方は明確に犯罪だ。
とはいえ、こういった任務を今までにやったことがないわけではない。
というか、基本的にこういうのがあたしの係だ。
でも今までは、犯罪者だとわかりきった相手のアジトに忍び込むとか、怪しい権力者の悪事の証拠を掴むとか、そういうことをやってきた。
それが今回は、顔見知りというか、クラスメイトの家に侵入することになる。
そうなると、途端に罪悪感が湧く。やってることは同じなのにね。
ヘンなのって思ったところで、さらに「ん?」と首を傾げてしまう。
つーか、相手は弥堂だ。
あいつってば、なんならこれまでに相手してきた悪いヤツらよりもっと犯罪的よね?
じゃあよくない?
って、なるか!
落ち着け七海。
それは弥堂式の屁理屈よ。
何をどう言い訳したって空き巣は空き巣なんだから。
あいつに毒されちゃダメ。
ここんとこ連日夢であいつの過去のアタオカ発言を聞かされてるせいで、ヤバイ睡眠学習しちゃってるのかも。
あんにゃろぅ、負けてたまるか。
そうは言ったものの、結局やるんだけどね。
あたしも大概だ。
愛苗を助けるって目的のためには、どっちみちやらなきゃいけないんだし。
本当なら悩むだけムダなんだけどね。
「はぁ……」
なのに、あたしがまたこうして溜息を吐いちゃうのは、今になってもあいつのことをどう思えばいいのかがわかんないからだ。
アムリタ事件の最後の時。
あいつにマーキングを打ち込んで逃げ出した後からなんにも変わってない。
あいつと愛苗の関係。
実際あいつが愛苗を守ってくれてたとしても。
何故かあたしたちに隠そうとして。
あいつは人を殺して。
戦えない関係ない人も巻き込んで。
多分、昔からずっとそうで。
でも、それは戦争だったから。
そんなことをずっとグルグル考えちゃう。
だけど、ガッコサボって空き巣に入るあたしが、あいつのことを人殺しだなんて言えないわよね。
それで“おあいこ”だって?
冗談じゃない。
多分、愛苗のことも、あいつのことも――
ちゃんとわかるようになるまでには、後何回かはこういうことを重ねなきゃいけないんだろう。
それももうわかってたことで……
あぁーっ! もう! やめやめっ!
またいつものよくない思考ループに入っちゃう。
こんなんだからメンヘラだとかってバカにされるんだ。
望莱にも。
あいつにも。
切り替えるために別のこと考えよ。
そうなると頭に浮かぶのは、やっぱり昨夜の夢だ。
今回の夢はかなり深い情報が得られたと思う。
魔法少女のことと、弥堂のこと。
主に戦闘能力について。
まずは魔法少女について――
「――あははぁ……」
――考えるのが楽なことから思いを巡らせようとしたんだけど、あたしは思わず乾いた笑いを漏らす。
その理由はわかりきってる。
あの魔法少女さ?
ヤバくない?
プリメロじゃんあれ。
望莱はホンモノの魔法少女はいないって言ってたけどさ、あれテレビのまんまよね?
だって、必殺技おんなじだったし。
フローラルバスター! って言ってたし。
え? マジなの?
や。プリメロかどうかは別に問題じゃないか。
なんだっけ? フィオーレ?
そう呼ばれて応援されてたわよね?
ヤンキーとギャングに。
うぅ、イミわかんないよぅ……
でも、それよりも問題にするべきことがある。
それはもちろん――戦闘能力だ。
え? あれ強すぎん?
ヤバない?
なんかすっごいビームとか撃ちまくって、学園壊してたし。
あの子が犯人か!
つーかさ、あたしアレと戦って勝てる気しないんだけど?
火力もヤバイけど防御もおかしいわよね?
でっかい妖のビームとか止めてたし。
それになんかコミカルに見えてたから気付かなかったけど、物理も効かない系?
物理無効で魔法耐性も激高とかだったりしたら、ちょっとあたしじゃ打つ手なしだ。
つーか、聖人をぶつけないと戦いにもならないんじゃないの?
目の当たりにしたわけじゃないから、実際の肌感とかはわかんないけど。
それでもあの魔法少女は次元の違う存在のように思えた。
よかったぁ、夢で先に見といて。
あの強さを知らないままで病院に突入して出くわしたら、あたしとか一撃で消し炭になってたかも。
あれ本当に聖人なら勝てるんだろうか。
勝てる、よね……?
あと、もう一個気になったことがある。
あの子と弥堂ってホントに仲間なのかな?
映像が飛ぶ回数が多かったからいまいちわかんないけど。
でも、魔法少女についてたくさん知れたのはよかった。
今までがなんだったのってくらい纏めて情報が出てきたけど。
キーワードをちゃんと意識出来てたからってことなのかな。
こんなに違うもんなんだ。
出来れば今度は弥堂とやりとりしてるとことか見たいな。
そして次は弥堂について――
――なんだけど、その前に触れなきゃいけない人が居る。
なんか新キャラ出てきた。
なにあのタキシードの人。
執事なんだか貴族なんだかわかんないけど、なんかそんな雰囲気のイケメンさん。
イケメンっていうか、キレイすぎる男の人?
天使の美貌を見た時みたいな、ゾッとする感じ。
その後マッチョになってたから中和されたけど。
あれ、敵よね?
弥堂とも魔法少女とも戦ってた。
しかもあの人も多分めちゃくちゃ強い。
魔法少女はパワー!って感じだったけど、あの銀髪さんは魔法が上手いって感じ。
そして、門だ。
弥堂と銀髪さんの戦いは2つあった。
マッチョ化の前と後。
場所は多分同じで、あれは港の開発区域だと思う。
先に見た映像では大量のゾンビが居ただけ。
でも後の方ではなんかキモイ怪物だらけになってた。
そして意味わかんないくらい大きな樹と、石造りの門。
樹の方はわかんないけど、あの門は島にあったものだ。
間違いない。
前に見た時と同じだった。
あれが4/25の龍脈暴走事件のど真ん中?
島の湖に封じたはずの門が美景に移動してきていて、あの大量のキモイ人たちはもしかして悪魔?
じゃあ、あの銀髪さんってそれを止めにきた天使?
でも、あたしが出遭った天使と全然違う。
翼がないとかもあるけど、それより感情というか人格みたいなのが銀髪さんにはしっかりとあった。
ともかく。
あの時港はあんな風に地獄になっていて。
そして弥堂はそれと一人で戦ってた?
でも愛苗は?
多分すごい情報を見たんだと思う。
だけどまだ本当に真相と呼べるとこまでは全然足りてない。
これも今度の夢で核心に迫りたい。
んで、ここからようやく弥堂の能力についてだ。
運よくというか都合がよく?
銀髪さんがわざわざ解説してくれてるシーンがヒットした。
銀髪さんはあいつの3つの力についてピックアップしてた。
➀姿を消す能力
➁異常な治癒能力
➂光るナイフ
この3つだ。
必殺変態ぱんちはなかった。
まず➀――姿を消す能力。
これはあたしと戦ってる時にも使ったやつだ。
銀髪さんはこれを瞬間移動とかじゃなくって、数秒間誰からも認知されないようにする能力だって言ってた。
なんじゃそりゃって思ったけど、あたしはあいつの視界を通してその能力を疑似体験した。
多分銀髪さんが言ったことは半分だけ当たりって感じかも。
あたしはそう思った。
認知されないようにしているわけじゃない。
結果的にそうなってるんだと思うの。
あたしには【深層の隠者】っていうスキルがある。
これは銀髪さんが言ったように、他人に認識されづらくするスキル。
透明人間になるような感じのイメージをしてもらえばわかりやすいかも。
だけど、弥堂のは違う。
説明が難しいけど、自分が居る『世界』をズラす?
や、ちがうか。
自分だけ『世界』からズレる?
そんな感じ。
居る『世界』がみんなとは違うから、だから誰にも認知されない。
あの真っ白な線の世界が元の『世界』とは違うんなら、あいつだけ『世界』から一瞬居なくなるって言った方が合ってるのかな?
この『世界』に存在しない人を誰も認識できるわけないみたいな。
てゆーか、それって愛苗がみんなに忘れられてるアレと似てる感じしない?
実際の仕組みとかはわかんないけど、そういう感覚なんだと思う。
瞬間移動とか、時間を止めるだとか、透明人間とかとも全部違う。
ファル……エロとか、なんか言ってたけど、あれがスキル名とか呪文なのかな?
つか、あれって覗きとかに使えそうじゃない?
え? エロってそういうこと?
ファール、エロ……。反則的なエロいこと……?
あんのやろう……!
新たな疑いが発生したけど、これ以上はあたしじゃわかんないから➀はここまで。
次に➁、の前に➂にしよう。
あの光ってるナイフ。
あれ相当ヤバイ武器だ。
よく切れるとかそういうレベルじゃない。
多分あたしたちの武器とかと一緒で、なんか権能がある。
【切断】とかって唱えると、ナイフが触れてるものを問答無用でバラバラにするとか、多分そういう能力だ。
あの記憶の映像の中にいたキモイ化け物がもしも悪魔なんだとしたら、それを一撃でバラバラに出来るくらいの権能。
それって、あたしが持ってる装備と同じかそれ以上のランクよね。
何が厄介って、あの消える能力と組み合わせるとマジで極悪だと思う。
消えて現れてナイフで触れるだけ。
刺す必要も切る必要もない。
たったのそれだけで相手を殺せる即死攻撃だ。
あの権能があたしたちにも徹るんだとしたら、めちゃくちゃヤバイ。
聖人や蛮の防御を抜けるかどうかはやってみないとわかんないけど、ダメだったら即死するってのはちょっと試す気にはならないわね。
多分、あれに一番対応出来るのはあたしだ。
一回だけなら確実に無効化出来る。
消えるやつには30秒から1分のCTがあるって話だから、そこでキメられるかって勝負には持ち込めると思う。
でも、あたしにせよ、聖人にせよ。
あいつには複数人で挑んだらダメな気がしてきた。
すっごくイヤな絵が浮かぶ。
あと、わからないことがある。
あいつはアムリタ事件の時にあのナイフを使ってなかった。
ホテル内での獣人との戦いで、あいつは結構苦戦したはず。
でも、あのナイフ使ってたら多分楽勝よね?
使ったけど獣人には通用しなかった?
そうだったらあたしたちも楽なんだけど。
んじゃ、ようやく➁だ。
異常な治癒能力。
これは最初ピンとこなかった。
でもすぐにあの港の戦いの前に見た学園襲撃事件の時の映像を思い出した。
銀髪さんはその異常な治癒能力とやらのことを“生き返り”だとも言った。
弥堂は学園の時計塔から飛び降りて重傷を負った。
骨折した骨が外に飛び出るなんて目を背けたくなるような傷もあったし、たくさん血も吐いて流してた。
映像が飛んだから途中は曖昧だけど、歩くのもやっとって感じで学園から脱出してた。
そしてついに限界を迎えた時に、あいつは路地に入って倒れた。
問題はその後だ。
数秒くらいかな。
映像が途切れたようになって。
でも、すぐにまったく同じ場所で目を醒ましたかのように続いた。
気絶して記憶に残ってないからってこと?
なんかすごく気持ちの悪い違和感があった。
それに、目を醒ましたらあいつはケガなんかなかったみたいに普通に歩き出した。
銀髪さんが言ってたことって、多分あれよね?
まさか本当に死んで生き返ったなんてことはないだろうし、もしかして望莱と同じくらいの回復スキルってこと?
望莱ならきっとあの重傷状態からでも一瞬で全快させられる。
あいつにもそれが出来るってことよね?
なんかすっごくヤな感じ。
港の戦いの最後は悪魔に食べられて殺される間際みたいだった。
それにホテルの屋上にあいつが向かった時に、一瞬だけあたしのマーキングが外れたこと。
うーん。
ともかく、ちょっとダメージ与えただけじゃあいつを倒せないってことよね。
一気に気絶させるくらいのことしないと。
幸い、ヒントは銀髪さんが色々とくれた。
あれを参考にしよっと。
門のことと、弥堂と魔法少女のチカラ。
今回得られたものは多い。
あとで望莱に相談してみよ。
昨夜見たものはそれくらいだ。
だけど――
「…………」
――うーん……。やっぱスルーするのはムリがあるわよね。
一番最後に見たもの。
あれは一体なんだったんだろう。
キレイで可愛い女の子の夢。
プァナちゃんだっけ。
あれって本当にあいつの記憶?
それとも普通の夢をあたしが見ただけ?
でも夢にしては色々とリアルだし、記憶にしてはわけがわかんない。
仮にあの子が実在した子で、あれが実際にあった記憶だとしても、それでも意味がわかんない。
プァナちゃんの言うことがホントだとしたら――
『これはお兄ちゃんの記憶には残るんですけど、本人は思い出せないようになっています』
――ってことらしい。
なにそれって感じだけど、でも愛苗がもっと“なにそれ”って状態になっちゃってるし、それを思うと弥堂一人に思い出せなくさせるくらいはアリなのかなって思っちゃう。
ということは、あの言葉たちは弥堂は思い出せないのだろう。
それに、あの子は弥堂に話しかけてたわけじゃない。
あたしに向かって言っていた。
といっても、多分あたしじゃなくてもよかったんだと思う。
プァナちゃんの口ぶりだと、あれを見えてるなら誰でもいいって感じだった。
そうだとしても意味がわからない。
あたしとあたしの【夢の懸け橋】を知ってて、だからあたしに言ってたって方がまだ納得できそう。
でも別にそうじゃなくって、何らかの方法で弥堂自身も思い出せないあいつの記憶を覗ける誰かに喋りかけてたってことよね?
あたしの【夢の懸け橋】だってユニークスキルだ。
あたし以外にこのスキルを持ってる人は存在しない。
他に他人の記憶を覗ける方法があるってことなの?
でも、多分そういうことじゃないんだろうな。
あのプァナちゃんの雰囲気はとてもヤなものだった。
あ、といっても、プァナちゃん自身のことをそう言ってるわけじゃないからね。
あの悲愴感っていうか、諦めた感じ。
どうにもならなくって藁にも縋る思いで、あのメッセージを残したんだと思う。
もしも、誰かに届けばって。
とても見てられなかった。
あの子は何者で、弥堂の何なんだろう。
プァナちゃんの耳ってさ、あれエルフよね?
てことは多分エルフィーネさんも。
エルフィさんの耳はプァナちゃんよりは短い。
だからそういう特徴なのかなくらいで流してた。
でもプァナちゃんの耳はもっと明らかに長い。
誤魔化せないくらいに。
どういうこと?
騎士やゴブリンに魔法少女がいるならエルフもいるってことでいいの?
望莱には爆笑されちゃったけど、これってやっぱり……
てゆーか、ダメだ。
プァナちゃんの話から、こっちの方向を考えちゃダメ。
あいつを暴くために――あれを情報として使っちゃダメだ。
それに、やっぱりそもそも。
あれは見ちゃダメなやつだった。
だけど、無視もしちゃダメなやつだ。
見てしまった以上は。
だって、あの子はきっともう――
だけど、あたしにどうしろと言うの。
『すっごく順風満帆とかじゃなくってもいいです。今より、ほんのちょっとだけ、平穏で、安寧が、僅かでも、あるなら……』
プァナちゃんの願いはたったのそれだけのことだ。
なのに、あたしはその僅かなあいつの平穏や安寧を、きっと脅かしている側なのだ。
でも、あたしだって愛苗のそれを望んで、今ここに立っているの。
『このひとと、なんでもいいから、関係してあげてください……っ! お兄さんをひとりぼっちにさせないで……っ。おねがいします……っ!』
それはあたしの役割じゃないの。
弥堂は一体どういう生き方をしてきたんだろう。
あんな幼気な少女にあんなことを願われるだなんて。
それに、何よりあたしが罪悪感を覚えるのは――
――あたしのスキルのせいで、あれを弥堂に見せてしまったかもしれないことだ。
プァナちゃんはあれをナイショだと言っていたのに。
これをどう贖えばいいんだろう。
今やってることを全部丸く収めて、その後で弥堂に謝ればそれで終わることなんだろうか。
絶対にそうじゃない。
プァナちゃんにとって大事なのはきっとその先のことなのだ。
多分あのシーンは、弥堂の空白な時の――
その旅路の終わりに近い時のことだ。
世界中を敵に回しているようなことを言っていた。
それをどう決着つけたんだろう。
それがダメで日本に逃げてきて、隠れてたの?
プァナちゃんは『もう誰も残ってない』って言ってた。
でもエルフィさんは? ルビアさんは?
元気いっぱいに一緒に悪いことしてたじゃんか。
そんなわけないと思うけど。
でもあたしもホテルで、弥堂に『こいつにはもう何も残ってないんだ』って感じた。
もう全部わかんない……っ!
自分の親友のことすらロクに助けられてないあたしに、他の人のことまで抱えられるわけがないじゃない。
どうしろってのよ!
あ、そういえば、プァナちゃんが最後に言ってたこと。
通話中にスマホの電源がなくなったみたいに途中で切れちゃったけど。
なんかあいつに関してのアドバイスとか、注意点とか。
あれってなんだったんだろう。
めっちゃ気になる。
つーか、今回すっごく大きなことが色々わかったけど、どれも肝心なとこが足りてないのよね。
あぁーっ! もう! イライラするーーっ!
ちっくしょう、弥堂め。
あんないい子に心配かけやがって。
許さないんだから。
失敗した。
これから空き巣に入ろうって時に考えることじゃ……
あぁ、そっか……
あたし、これから空き巣するんだ……
うぅ……、ゴメンねプァナちゃん。
お姉さんはこれからお兄さんのお家に泥棒に入るの。
許して……、くれるわけないわよね……
はぁ……
『1時限目開始。対象の出席を確認。準備を――』
おっと、豪田さんからの通信だ。
『15秒後に目標地点周辺の人通りが完全に途切れます。23秒以内に侵入を――』
「了解です――」
ふぅーっと息を吐いて切り替える。
あいつのことはわかんない。
あいつの気持ちもわかんない。
だけど、なんにせよ行くしかない。
あの謎めいていて秘密主義で怪しい男のことなんか、いくら考えたってわかるわけない。
無理矢理暴いてみせて、お互い開き直って話すくらいじゃないと、ダメなのかもしれない。
「【深層の隠者】――」
スキルを使って自分の姿を隠すと同時に、イヤホンから5カウントが聴こえてくる。
出来ればあれはあたしが見た、ありふれた悪い夢であって欲しい。
だけどそれでも足を止めてていい理由にはならない。
なんにもわかんなくても自分の右足と左足くらいはわかる。
それを交互に動かすことくらいは出来る。
そうすれば、せめて此処ではない何処かへは着く。
ルビアさんの言葉だ。
あたしはこれが気に入った。
少なくとも、この先に進まない限り、誰も何も救われない。
『作戦開始――』
あたしは弥堂のアパートへと走り出した。




