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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
3章 俺は普通の高校生なので、帰還勇者なんて知らない
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3章11 5月11日 ➂


 ガラッと教室の戸を開ける。


 いつも通り左から右へと視線を流そうとして、すぐに止まる。



 弥堂の眼が留まったのは、教室の出入り口に一番近い席。


 そこに座っているのは――紅月 聖人(あかつき まさと)だ。


 彼もまた弥堂を見ている。


 どうやらようやく登校をしてきたようだ。



 聖人の視線は真っ直ぐにこちらを向いており、これまでのように話しかけるかどうかを悩んで彷徨うことはない。


 彼の隣に座るマリア=リィーゼも弥堂を睨みつけていた。



 そこにはハッキリとした敵意があり、弥堂は思わず口の端を持ち上げそうになる。


 期待していた反応だ。



(だがまだ、足りないな)



 視界に映すなり襲い掛かってくるくらいが最も望ましい。


 最低でも罵詈雑言を喚き散らしてきてもらわねば困る。


 それが弥堂の思う、自身と他人との正常な関係性だ。



 弥堂は聖人へ目線を固定したままで足を踏み出す。


 挑発するためにわざとゆっくりと彼の席の前を通った。



(ほら、さっさと因縁をつけてこい)



 頭の中でそう念じた時、聖人の口が開きかける。


 だが、隣の席からスッと手が伸びてきて、彼の腕に触れた。


 マリア=リィーゼだ。



 彼女が目を伏せて顏を横に振ると、聖人は歯を噛むようにして口を噤んだ。



 弥堂は小さく舌打ちをする。


 すると、マリア=リィーゼの後ろの席の天津 真刀錵(あまつ まどか)と目が合った。



 彼女はいつも通り静かで鋭い目をしている。


 しかしそこには別段強い敵意は感じない。


 どうやら仲間内でも弥堂に対しての温度差があるようだった。



「ふん、悠長なことだな」


「……ッ!」



 何気なく口を吐いただけの言葉だったが、聖人には挑発に聴こえたようだ。



「――聖人、よせ」


「……くっ」



 思わず席を立ちかけた聖人を今度は天津が諫める。


 聖人は悔しげな顔で椅子に腰を付け直した。



 弥堂はもう一度鼻を鳴らして彼の前を完全に通り過ぎる。


 歩調はゆっくりなまま、あえて背中を晒す。


 かかってこい――と。



 すると――




「――待て弥堂……ッ!」




――鋭い声で弥堂は呼び止められた。



 それに対して弥堂は足を止め、「しめた」と――


――はならずに、胡乱な瞳になる。




 弥堂の前方に3名の男子生徒が立ちはだかっている。


 須藤くんをセンターに、両サイドには鮫島くんと小鳥遊くんだ。


 声をかけてきたのは彼らのようである。



 弥堂は思わず顔だけで背後を振り返る。


 そこには椅子から腰を少し浮かし、口を半開きにした間抜け顔の聖人だ。


 どうやら彼も弥堂を呼び止めようとしたようだが、アホ3人に出鼻を挫かれてしまったらしい。



 弥堂はうんざりとしながら顔を前に向け直す。



「待ってたぜェ……、弥堂……ッ!」



 須藤くんがビシっと指を指してくる。


 彼は何故か安っぽく見えるバスローブのような物を羽織っている。


 向かって右側に立つ鮫島くんは――多分教室の清掃用具入れから持って来たのであろう――何故かバケツを持っていた。



「…………」



 弥堂が無言で彼らを視ていると、一人手ぶらだった小鳥遊くんが須藤くんのバスローブを脱がせて回収する。


 もしかしたら入場時のボクシング選手とセコンド気取りなのかもしれない。


 弥堂はちょうどイライラしてきたので、彼らをぶん殴ろうと思った。


 目の前でケンカでもすれば、もしかしたら聖人が絡んでくるかもしれない。



 そうと決めたらと、足を踏み出そうとしてやめる。


 怪訝な顔で須藤くんを視た。



 バスローブを脱いだ彼の姿に様子のおかしさを感じたのだ。


 彼の服装は制服でもなければ上半身裸でもない。


 やたらとサイズの大きいブカブカの半袖Tシャツを着ている。



 そして最も不審な箇所が彼の胸周りだ。


 不自然かつ、はちきれんばかりに膨らんでいる。



 これは武器か爆発物の類を服の中に隠し持っているに違いないと、弥堂は魔眼に流れる魔力を強めた。


 蒼銀の瞳から放たれる鋭い視線が男子高校生の胸部に突き刺さる。


 だが、【根源を覗く魔眼(ルートヴィジョン)】にそういった物を見破るような能力はないため、特に何かを看破するようなことはなかった。



「ヘッ、そんなギラついた目で見んじゃねェよ……。お楽しみはこれからだぜ?」



 弥堂のその視線をどう受け取ったのかは不明だが、須藤くんはニヤリと不敵に笑ってTシャツの裾を両手でガッと掴む。


 そしてそのままガバッと豪快に捲り上げた。



「……はいッ!」



 気合いの声とともに、その布地に隠されていた素肌が露わになる。


 そして教室の時は止まった。



「…………」



 歴戦の猛者である弥堂ですら咄嗟に反応することは出来なかった。


 棒立ちのままでただ瞠目する。



 固まってしまったのは弥堂だけではない。


 誰もが一緒だ。


 天津 真刀錵も紅月 聖人も。



 教室中の誰もが目を見開いて、半裸の須藤くんの姿に視線を釘付けにされた。



 Tシャツを捲った下は当然裸だ。


 しかしTシャツを全部は脱いでおらず、首に引っ掛けたままで頭に被るようにしている。


 両手で引っ張っているために布地が顔に張り付いていた。



 そして捲ったその裏地には、ちょっと濃い目の顔をした金髪美女の顔がプリントされている。


 謎の金髪美女のマスクを被った半裸の須藤くんがそこに居た。



「あ、あれは……っ、まさかJ・P・P……ッ⁉」



 戦慄の声を上げたのは教室の丁度対角の位置。


 窓際の男子列の最後方に座る男子生徒だ。



「はぁ?」



 その隣の席の黒ギャル結音 樹里(ゆいね じゅり)が怪訝そうに眉を顰める。


 すると彼はメガネをクイっとさせた。



「彼女は世界的なポルノスターであるジョディ・パゥワーさん 26歳 Pカップだ。あれは“edge”に先月の28日に投稿された、グァムのビーチで撮影した水着写真のコピーで間違いないだろう」


「日付まで覚えてるとか……」

「……キッショ」


「フッ」



 嫌悪感丸出しの顔で、結音と隣に立つ白ギャルの寝室 香奈(ねむろ かな)が侮蔑を露わにする。


 しかし彼はニヒルに笑ってメガネをクイっとさせた。


 ギャルからの罵倒など愛撫でしかないと。



 彼は出席番号25番 間宮 理人(まみや りひと)くんだ。


 黙っていれば物静かで知的な印象を受けるメガネボーイである。


 しかし彼は無類のエロ好きだった。



 学園や教室のどこかで誰かが下ネタを話している時、高確率で間宮くんがその背景の端っこの方でメガネをクイクイさせているシーンが見受けられる。


 そういう妖精や妖怪の一種なのではと、他の生徒たちに認知されている存在だ。



 間宮くんが丁寧な解説をしてくれたが、それは他の生徒の耳にはあまり入ってこなかった。


 生徒たちの視線が集中しているのは須藤くんのマスクではない。


 それよりも彼の胸部に注目が集まっていた。


 何故なら――



「――クッ……! デケェな……ッ」

「あぁ……。ハンパねェぜ……」



――今度の戦慄の声は鮫島くんと小鳥遊くんだ。


 須藤くんに今日何をするのかを聞かされてセコンドについた彼らでさえ驚きを隠せなかった。


 畏怖の目で須藤くんのお胸を見る。



 そこにあるのは巨大なおっぱいだ――



 といっても、ホンモノのおっぱいではない。


 ごっついブラにパンパンの風船を詰め込んだ爆乳を須藤くんは装着していた。


 総レースの黒いブラのサイズはもちろんPカップである。



 一体どういうつもりなのかと、弥堂が彼の出方を見定めていると、金髪美女のマスクを被った偽爆乳野郎が動き出す。



「HEY! Mr.ビトー! F✕✕k! F✕✕k me! F✕✕k me,please!」



 須藤くんは、どんなに英語が苦手な日本人にも必ず通じる卑猥な言葉を叫びながら、激しく腰をクネクネさせて弥堂を誘惑した。


 教室中のほとんどの生徒さんがゴーンっと白目を剥く。



「どうだ! 見たか!」

「これが須藤の十八番“パイモノマネ”だ!」


「フッ」



 セコンドの2名が得意げに叫び、エロの妖怪がメガネをクイっとさせる。


 他の生徒はみんな脳の電源が落ちてしまった。


 弥堂も聖人も、金髪美女のマスクを被った変態の不思議な踊りの前には何も出来なかった。



「オラァッ! こいよ! こいよ弥堂ッ! 揉んでみろよォッ!」



 調子づいた須藤くんがさらに弥堂を煽る。



「な、なにやってんのこれ……」



 僅かに正気を取り戻した聖人がそう呟いた時、ユラァっと弥堂が動く。



 弥堂はズカズカと須藤くんに近寄ると両手を伸ばし、彼の双方の爆乳を無造作にガッと掴んだ。



『えッ⁉ 揉むのッッ⁉』



 生徒さんたちの心が驚愕の声で一つになる。



 しかしそんなわけはなく、弥堂は【身体強化ドライヴド・リィンフォース】の刻印に魔力を注ぎ込んだ。


 怒りのままに須藤くんの双丘に指を埋める。



 すると、須藤くんの左のパイがパァーンっと割れて、右のパイがゴワァっと燃え上がった。


 どうやら弾みで【燃え尽きぬ怨嗟レイジ・ザ・スカーレット】が漏れてしまったようだ。



「ギャアァァァーーッ⁉」


「「す、すどうーーッ!」」



 風船のショックと一瞬だけ現れた蒼い焔に驚いて須藤くんが床に倒れる。



「ち、乳がァ! オレの片乳が燃えたァ……⁉ ごぶぅッ⁉」



 弥堂はゴロゴロと床をのたうつ須藤くんの腹に蹴りをぶちこむと、近くにいた鮫島くんの手からバケツを奪い取る。



「へぶぅッ⁉」



 そしてそれを鮫島くんの頭に被せてから横っ面にビンタをお見舞いした。


 ついでに小鳥遊くんのケツも蹴っておく。



「…………」



 弥堂はなんとなく背後を振り返ってみた。



「…………」

「…………」

「…………」



 そこでは聖人たち3人が口をあんぐり開けたまま固まっていた。



「…………」



 弥堂も彼らと同じ気分だったのだが、そのことでやる気がなくなってしまう。


 ここからどうしたものかと悩んだ時――



「ね、ねぇ……」



――早乙女 ののかが声をあげた。


 彼女の視線は若干焦げた須藤くんのブラに向いている。



「そのブラ、どうしたの……?」



 恐る恐る彼女が問うと、須藤くんはスッと立ち上がってTシャツを完全に脱ぎ去った。


 ブラを隠すのではなく、むしろ見せつけるように。



「オレのブラがどうした?」


「え? だって……」



 須藤くんがキリっとした顔で早乙女に聞き返す。


 そのあまりに堂々とした態度に早乙女は不安になって、隣にいる日下部 真帆(くさかべ まほ)にヒソヒソと耳打ちをした。


 日下部さんは一瞬イヤそうな顔をしてから、早乙女の代わりに渋々発言する。



「あのさ、須藤。そのブラってお母さんとかお姉さんの?」


「いや、違うぜ? これはオレが自分で買ったものだ」


「そ、そう……。つか、それってさ、結構高いんじゃない?」



 日下部さんはやたらと高級感のある須藤くんのブラに不審な目を向けた。


 須藤君は何憚ることなく首肯する。



「そうだな。バイトして買ったしな」


「へ、へぇ? で、でもさ、それ通販じゃないよね? そんなサイズって適当に探してもなかなかないんじゃ……」



 日下部さんのその指摘に全女子がハッとする。


 まさかと、須藤くんに恐ろしげな目を向けた。



「もちろん店に行って買ったぜ。このオレ自らな。そしてこれは、オーダーメイドだ――」



 須藤くんの答えに教室にまた激震が奔る。


 だがその渦中にいながら、彼自身は少しも動じなかった。



「オイオイ、何を驚いていやがる? 忘れたのか? オレはオッパイ星人だ」


「だ、だから……?」



 日下部さんが侮蔑の表情で相槌を打つと、須藤くんはブラの上から自身の胸をパァンっと叩く。



「爆乳好きたる者、マイブラを持っていて当然だろ? そんなの常識だろうが!」


「フッ」



 須藤くんのその宣言に間宮くんはメガネをクイっとさせるが、全女子とほとんどの男子はドン引きした。


 教室中がザワザワとするが、須藤くんは何も気にすることなく仲間の2人を助け起こした。



 弥堂はなんかもうどうでもよくなってしまい、無言で自席へと向かって歩き出す。


 すると背後で――



「――あっ……」



――同じく色々とタイミングを見失ってしまった聖人の声が漏れる。


 遠ざかる弥堂の背に思わず手を伸ばしてしまう。



「もうよせ、聖人」

「あぁ……、うん……」



 もう一度天津に窘められると聖人はその手を下ろした。


 今のテンションではとても弥堂に話しかけられなかった。



「勝手に始めるとナナミに怒られてしまいますわよ?」

「そうだねリィゼ……って、なにしてるの?」



 聖人はマリア=リィーゼの手の中のスマホを見て、小首を傾げる。



「HR開始前におメッセをするようにミライに頼まれていたんですの」

「あ、そうなんだ」



 しかし大した話ではなさそうだったので、それ以上の興味を持たなかった。




「いってェ、なんでオレらまで……」

「オレのおっぱい……」



 自席へ向かう弥堂の背後では、鮫島くんたちの声が聴こえてくる。


 それなりの力で彼らを殴ったのだが、割とピンピンしているようだ。



「しかし須藤よ。どうやらオマエも失敗だったようだな」

「あぁ。どっちかってぇとオレの時の方がいい感じだったんじゃねぇか?」



 そして前回と同じく勝手な品評を始めている。



「なに言ってんだ小鳥遊。どう見てもオレの勝ちだろ?」


「なに?」

「なに?」

(なに?)



 須藤の勝利宣言に彼の仲間たちが驚きを浮かべる。


 弥堂もビックリした。



「だってアイツよ、オレの乳を揉んだぜ」


「「たしかに」」



 弥堂は思わず拳を握る。



「乳が破裂するほどの力が入ってるってことは興奮してたんだよ」


(勝手なことを)



 須藤くんはさらに調子づく。



「それに片乳は燃えたろ? あれはよ、目にも留まらない速さでオレの爆乳を擦ってたんだ。その摩擦熱で火が出たんだよ」


「マジかよ。サカりすぎだろ」

「つか、なんで乳を擦るんだ?」


「あ? それはあれだよ。多分オレの爆乳の乳首探してたんだよ。あの野郎、このオレを乳首でイカせようとしてたに違いねェ」


「クッ、アイツは爆乳好きだってのか?」

「まだだ。明日はオレの気合を見せてやる。アイツを脚フェチにしてやるよ」



 アホ3人の会話に弥堂のコメカミがピキっと引き攣り、思わず足を止める。


 もう自席の前まで辿り着いていたが、引き返して今度は全員に零衝をぶちこんでやろうかと考えるが――



(いや、落ち着け……)



 だが、そんな自分を強く戒めた。


 さっきはうっかり身体強化の魔術どころか【燃え尽きぬ怨嗟レイジ・ザ・スカーレット】まで出してしまった。


 戦いの前に、これ以上手の内を聖人たちに晒すわけにはいかない。



 弥堂は鋼のメンタルで殺意を押さえ込み、椅子に座る。


 すると、前方の席でこちらをチラチラと見ながら、早乙女と日下部さんがなにやらヒソヒソと話しているのが見えた。


 反射的にバンっと机を叩くと、彼女らはサッと前を向く。



(クソが……! なんなんだこれは……!)



 何故自分があんなバカなガキどもにこのような屈辱を味わわせられねばならないと憤る。



(これはまさか――)



 その時弥堂はハッとした。



(これが、イジリなのか……?)



 以前に廻夜部長が言っていた。


 最初は「ぷにぷに」とか「ぽっちゃり」とかそういう軽い言葉によるイジリから始まるそうだ。


 それを女子たちがクスクス、ヒソヒソと揶揄い、そしてそんな女子たちのウケを狙った男子たちがどんどんとエスカレートしていくと。


 その先にあるものは決まっている。



(俺はイジメられている……?)



 しかしクラス全体でのイジメとなると組織的な犯行だ。


 必ずそれを主導する者がいるはず。



 弥堂はそこでまたハッとした。


 教室の入口の方をキッと睨む。



(おのれ、紅月 聖人……っ!)



 主導者といえばクラスカーストのトップだ。


 そのトップといえば間違いなく紅月 聖人である。


 弥堂は既に敵の術中に嵌っていたことを自覚した。



(ヤツめ。俺をイジメて自殺に追い込むつもりだな? ナメやがって……!)



 自分がそうするから相手も同じことをするはずと、秒で決めつけて思い込む。


 この程度で自分を殺せると思うなよと憎しみを燃やした。



(今に見ていろ。必ず貴様を妊娠させて、その自慢のクラスカーストのどん底に叩き落としてやる……!)



 弥堂はクラスカーストへの反逆を強く決意した。


 その憎しみの視線の先で、聖人が悪寒を感じてブルリと震える。


 弥堂はそっと視線を外して、自席の机の天板を見つめる。



(だが冷静に進めねばならない)



 久しぶりに見た彼らの様子を踏まえて、現状を分析する。



 聖人の方もかなり焦れてはいるようだが、まだ形振り構わずというところまではきていない。


 思っていたよりもまだ余裕が彼にはあった。



 戦いの後の事後処理を考えれば、あちらに先に手を出させる必要がある。


 先手を打たせた方が有利になる。


 相手もそれをわかっているようだ。



 だが――



(――いつまで我慢できるかな)



 佐藤は意外に弥堂のことを彼らに伝えていなかったようだが、しかしそれでも全く何も言っていないわけではないだろう。



(アムリタ事件における俺の所業を知れば、紅月はもう大人しくはしていられないはずだ)



 そう仕向けるためのカードは用意している。


 今日にもエアリスが準備を整えているはずだ。


 それさえ使えば一気に開戦に持ち込める。



 そのカードは聖人にとってとても魅力的なものに見えるだろう。



(ヤツがヤツであるために……)



 そこでは弥堂は、彼の望む理想的な悪になっているはずだ。



 放課後にそのあたりの段取りのためにエアリスに会いに行くことを決め、弥堂はジッと教室で息を潜める。


 少しして、HR開始の時間を告げる鐘が鳴り響いた。









 同じ時間頃――



「――配置、つきました」



 住宅街の路地の中、希咲 七海(きさき ななみ)は声を潜める。



『了解――』



 耳に嵌めたイヤホンから短い返事が返ってくると、希咲は壁に肩をつけて待機した。


 チラリと、先の方へ目を向ける。



 その先にあるもの。


 彼女の瞳に映るのは、弥堂の住むアパートだ。


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― 新着の感想 ―
傑作コメディでした。美景台には……もう「人間」と呼べる奴は残っていないのですか? 以前の記憶の断片で、シャロが弥堂のことを「足フェチ」だとからかっていましたが、そう考えると鮫島さんは最初から勝ち確のポ…
弥堂くんや聖人くんたちを抜きにしでも、このクラスでやべぇやつ結構いるね、日下部さんのような一般人本当にかわいそう。
さすが龍脈の上の学校、人材が本当に多いですね
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