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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
3章 俺は普通の高校生なので、帰還勇者なんて知らない
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3章10 1-away ④


「――おそらく、そう遠くない内に佐藤さんは、“せんぱい”に霊害の対応を1件依頼するでしょう。そんなに難しくないものを」



 望莱がスラスラと予測を述べると、希咲は怪訝そうに眉を寄せた。



「あいつそんなの受ける? ただでさえ人の言うこと聞かないのに。今なんて特にじゃん」



 愛苗の件で自分たちと揉めている最中に、街を守るための他の依頼を受けるとは希咲には思えなかった。


 だが望莱は言い切る。



「受けます。というか受けざるをえません」

「なんで?」


「これがテストも兼ねているからです。通常の街での霊害の対応に、“せんぱい”が実際どれだけ使えるのかという。これは断れないですし、佐藤さんも断れないようにするでしょう」

「それも、そっか。実際に清祓課と組むんなら、これが出来ないと話になんないのね」


「ですです。ここで“せんぱい”は自分の価値を示さなければなりません。使えないとハンコを押されてしまったら、シッポ切りされてわたしたちに差し出されてしまうかもしれませんからね」

「佐藤さんがそこまでする?」


「しないかもしれません。ですが、せんぱいの立場ではそう考えるしかないものです。だから絶対にこれは受けます」

「ってことは……、あー、そっか。そこにわざとバッティングすんのね?」


「いえす! さすななっ!」



 バチコンっとみらいさんがウィンクするが、七海ちゃんはドン引きだ。



「うわぁ……」

「目には目をっ! ヤクザにはヤクザを! です!」


「えぇ、そんなんでいいの?」

「結局のところ世の中は、相手より先に、相手よりデッカイ声でイチャモンつければ大体勝つんです」


「そんな世の中やだよぅ……」



 か弱きJKは社会の恐ろしさに怯えた。



「オドレぇワシらのシマでなに勝手なシノギしとんねん、ミカジメだせやぁーって」

「マジでヤクザじゃん。そんな雑なのでイケるの?」


「イケたらラッキーくらいですかね。でも、せんぱいも気が短そうですし。実際出くわしたら後はノリでイケちゃいそうです」

「うーん……?」


「ふっふっふっ、お忘れですか? 七海ちゃん。このわたしが誰であるかを」

「は?」



 唐突にどや顔をキメる望莱に希咲は胡乱な瞳を向けた。



「せんぱいも嫌がらせの天才のようですが、わたしとて紅月の女。せんぱいにウザ絡みして見事にキレさせてみせましょう」


「あー……、ね」



 そういえば、弥堂も弥堂だが、この子もこの子で人を怒らせる天才だったと希咲は思い出す。


 すぐに手を出す弥堂が望莱のウザ絡みに耐えられるとは思えなかった。



 七海ちゃんは、地面に埋まった地雷の上に逆さまにした地雷を落として両方のスイッチが入る絵を想像する。


 それはそれとして紅月の女への風評被害だけはやめてあげて欲しいなと思った。


 少なくとも紅月ママは気弱で大人しい人だ。



「まぁ、別に失敗してもいいんです。でもそれを何度も繰り返します。苛立ちは必ず募り、そして“せんぱい”もその内気付くでしょう。外部と完全に遮断された結界が張られていることに」


「まさか……」


「この結界の中なら。今なら殺してもバレない。苛立ちとその欲との間で揺さぶられることになります。彼はそこで我慢をする人ではありません」


「それが上手くいったとしてさ。その場合って正当性ってのはどうなるの? 清祓課に怒られない?」


「それも問題ありません」



 望莱は強く首肯する。



「先に街の見廻りを頼まれたのはこっちです。頼んできたのは清祓課です。だから清祓課には、『聞いてないぞ』って逆ギレします」

「マジさいあく」


「実際聞いてませんし。それに。わたしたちが清祓課のお仕事に協力する時は、基本的にはわたしたちのチームだけで当たる。これが基本的な約束になっています」

「そだっけ? あー、でも、そっか。あんた一人で怪しいことしてる時はあるけど、街で妖退治する時は一人じゃないっけか」


「これはどちらかというと、わたし以外の誰かに直接コンタクトをとることを防ぐ。それがメインです。だけど、もう一つ理由があります」



 望莱は指を一本立てて、説明する。



「他のエクソシストに手の内を明かしたくないからです。なので余所モンとはツルみませんよってことにしてます」


「あー、はいはい。あたしたちのチカラがバレないようにってことね」


「ですです。あくまで、わたしたちは普通の陰陽師なので! って感じです」


「ん。でもそれならさ、逆に佐藤さんから連絡来ちゃわない? この日は弥堂がバイトしてるぞーって」


「その可能性はありますね」



 希咲の言う懸念を認めた上で、望莱は続ける。



「そうなったらその日は諦めるしかないです。でも、こないですよ連絡。絶対に」


「なんで?」


「だって、そんな情報漏らしたら今度は“せんぱい”がキレるじゃないですか」


「あー……」



 絶対にそうなると希咲も確信した。


 あの疑心暗鬼の塊が自分に不都合なことをされて黙っているわけがない。



「なんか、ちょっと佐藤さんに同情……」

「まぁ、あの人もあの人で自業自得ですし」


「そーね。あれぇ? なんかちょっとイケる気がしてきたんだけど……」

「わたしは実際イケると思ってます」



 望莱はこの方向性に確信を持っている。



「あの人とっても疑り深いですけど、それは戦いが始まる前までです。実際に敵と遭遇しちゃったら判断は速いです。決して我慢強くはない」


「それは、うん……」


「『今なら殺せる』と思ったら、実際にやるかやらかないかを考える前に身体が動いてると思います。あの人はそういう人です」


「……そうかも。ホテルでも……」


「そうですね。それに……」



 その先は言葉にはしなかった。


 続く言葉は――



(――倉庫でも、そうでした)



――それはミラーを殺害した時のことだ。



 殺す理由が出来て――


 殺せるタイミングがあるなら――


――それを即実行する。



 思考よりも速く。


 それがもう身体に染み付いている。



 これまでに得た様々な情報を分析した結果、彼はそういうタイプの人間であると望莱は読み取っていた。


 そして、それは実際に間違っていない。



「遭遇した時に“せんぱい”のやる気がなかったら、その時は『あら失礼オホホ』って退散すればいいですし」


「むぅ……」


「ちなみに七海ちゃんは別動隊担当です。水無瀬先輩を攫う係ですね。部隊といっても多分一人になると思いますけど」


「え? なんで? あいつのこと一番知ってるあたしが戦った方がよくない?」


「いいえ。単純に能力的に向いているというのと、わたしたちの誰かじゃ水無瀬先輩と会っても」


「あー、そっか。確かにそりゃそうよね」



 元々あまり親交がないので、病院から急いで連れ出すにも相手の説得が難しくなる。


 その点、希咲は最適だ。


 彼女自身も本音では救出の方に回りたかったので文句などなかった。



「あとは、戦いの決着がつかなかった場合の保険で、七海ちゃんは関与していなかったという逃げ道も欲しいんです。そうすれば仮に失敗しても後の可能性を残せます」


「失敗……」


「あ、あくまでも保険ですよ? わたしはほぼ成功すると思ってますので。それでも失敗した時のことは考えておくべきってだけの話です。それを全く考えないのは“せんぱい”くらいのものです」


「あはは……」



 何となく愛想笑いをしてみたものの、全く楽しくはなかった。


 ふと、弥堂の心境を考えてしまったのだ。



 失敗は許されない。


 失敗をしたら終わり。


 多分一人で戦っている。



(なんで……)



 病室での愛苗の様子を見る限り、学園で弥堂と接していた時と何も変わっていない。


 むしろより親密になっていたように見えた。


 彼が愛苗を保護しているのは多分本当なのだろう。


 なのに――



(なんで……)



 自分を遠ざけるのだろう。


 愛苗を忘れたと言い張って、事情を明かさない。


 そして全てを敵に回して一人で戦っている。


 それは一体どんな気持ちなのだろう。



(言ってくんなきゃわかんないじゃん……、ばか……っ!)



 だから、自分たちがこれからする戦いというのは――


 少なくとも――



(あたしが戦うのは……)



――彼が本当のことを話してくれるようにする。


 そういう戦いなのだ。



(こんなスキルで先に全部見えちゃう前に……)



 彼から、そして愛苗から、直接話を聞きたいと。


 希咲はそう思った。



 希咲は俯けていた顔をあげて望莱の顔を見る。


 そこまで待ってから、望莱は先を続けた。



「気を付けるべきは、戦いの場に行くまでにケンカにならないことです。病院はもちろん学園でも。理想はどっかの路地裏とか、河川敷とか、人気のない場所ですね」


「あ、そういえばそれさ」


「はい?」


「それっていうかこれか。この話って昨日みんないる時にしなくてよかったの?」


「はい。というか、言えませんでした」


「どして?」



 望莱は少し瞼を細める。



「兄さんに余計な情報を与えたくなかったんです」


「あー、聖人が勝手に病院行っちゃうかもってこと?」


「です。それもあるんですが。他に、病院のことを教えなくても兄さんが病院を嗅ぎつけるかどうか――それを試してもいました」


「ん? どういうこと?」



 意味がわからないと眉を寄せる希咲に、望莱は少し慎重な目を向けた。



「……七海ちゃんの勘と、兄さんの直感って、似ているようでちょっと違うじゃないですか?」

「んー、それよく言われるけど自分じゃわかんないのよね」


「兄さんの直感は、倒すべき人と、その戦いが起こる場所を嗅ぎつける。全部じゃないんですけど、そういう傾向があります」

「倒す人と、戦いの場……」


「それって言い換えると、ほっとくと一番被害が出る場所を嗅ぎつけるってことになりません?」

「んんぅ……? なるほど?」


「だからその兄さんが何の情報もなしに病院を嗅ぎつけるかどうか、その様子を見たかったんですよ」

「えぇっと、嗅ぎつけたら……、そっか。病院でやりあうことになってマジで爆破されるかもって?」


「可能性が高まりますよね。変な先入観を持たせると、弥堂せんぱいと水無瀬先輩がいるからって先に病院に固執されちゃって、それが直感なのかどうかがわからなくなっても困りますし」

「あー、聖人のそれにだけ頼るのもあれだけど、もしも他にどこかを嗅ぎつけたら……」


「そこが決戦の場ってことになりますよね」

「ふむ……?」



 希咲が理解をしようとしている隙に、望莱も考える。



(二人の勘と直感は似ているようで違う……)



 聖人のそれは希咲のものに比べて、どこか血生臭いのだ。


 それに、先程希咲の様子がおかしくなった時に彼女が口走っていたこと。



(ゴールと言いました……)



 望莱自身もよく『ゴールを決めるのは七海ちゃん』と表現する。


 そしてそこまでの道を作るのは自分だと。


 もしもそれと同じ意味のゴールなのだとしたら、やはり聖人のものは少し――だが決定的に違うように思えた。



 小さなころから、この二人にはこの特長があったように思える。


 今となっては周囲の自分たちが、二人のこの感覚に一定の信頼を置くほどに。



 だが、二人には『勘』だの『直感』だの――


 またこれらに類するようなスキルはない。



 だけど――


 それならばそんなものは存在しないと――


 望莱はそんな風に斬り捨てる気にはとてもならない。



(無視はしない。けれど縋りもしない。わたしはわたしで、答えを解く……)



 それが彼女の決めていることだ。



「ということで、兄さんが気にしていないなら病院は戦う場所ではないのでしょう。まだわかりませんが」


「その前に余計なこと教えて、じゃあ調べてみようって気を起こされたくないのね?」


「ですです。戦いの場を兄さんに決めて欲しいってわけではないので、第一は勝手に近づいて欲しくないになります。マジでシャレにならんので」


「聖人が病院に行って、偶然弥堂と出くわして、なんやかんや揉めてケンカになって……」


「それで病院爆破。これ、わたしたちには既視感のあるパターンですよね?」



 ここまでの危険に大勢の一般人を巻き込むことはなかったという点くらいしか、希咲は否定の材料を思い浮かべることが出来なかった。



「病院の爆破。これが一番の最悪で、絶対に起こしてはいけないことです」


「そうね。当たり前だけど」


「これが起きたら、清祓課もこんなことの責任は負えないので、ぜんぶこっちに押し付けられちゃいます」


「押し付けられるっていうか、実際そうなったらあたしたちのせいか」


「です。正当性を得るというのは、自分たちが負う責任を出来るかぎり少なくした上で、相手にどれだけ多くの責任を負わせることが出来るかというゲームです」


「はぁ……、バトルとかケンカに勝った負けただけじゃなくって、いつかはこうなるって思ってたけど。なんか一気に複雑なとこまで来ちゃったわね……」


「うふふ。大体せんぱいのせいです」



 げんなりとする希咲に、望莱は余裕そうに笑った。



「というわけで、作戦決行前に病院を調べる必要があります。最低でも結界の類が張られていないか。魔術的な手段で爆破する仕掛けがないか。可能なら建物に爆発物等が仕掛けられていないかも」


「でも、調べるのもアウトなのよね」


「とはいえ、バレなきゃオッケーってことでもあります」


「んー、実際どうするの?」


「はい。そこで、七海ちゃんが持ってる“姿と気配を隠すアイテム”を貸してください」


「ダメよ」


「…………」


「…………」



 テンポよく会話していた二人だったがそこで無言になり、真顔でジッと見つめ合った。


 みらいさんはニコっと邪気のない笑顔を作る。



「七海ちゃんがわたしから没収したアレをください」


「ストーカーしたからダメ」



 七海ちゃんもニコっとパーフェクトスマイルだ。



「…………」


「…………」



 そのまままたしばし無言で見つめ合い――



「今回使うのはわたしじゃないので貸してください」


「あんた前もそう言って持ってったじゃんか……」



 結局希咲の方が折れて指輪からアイテムを取り出す。


 出てきたのは黒い腕輪のようなもの。


 渋々といった風にそれを望莱へ渡した。



「絶対悪用しちゃダメよ」

「そもそも悪用するために存在しているとしか思えないアイテムなんですが」


「あんたが『悪用目的ではないので』とかってあたしを騙して造らせたんじゃん」

「まぁまぁ。ちゃんと蛮くんに言っておきますから」


「蛮? あぁ……、そゆことね」



 蛭子の名前が出たことで、望莱が何をするつもりなのかを希咲は察した。



「はい。明日から登校再開ですが、蛮くんは一人だけまだ停学中で日中お暇でしょうし。お金持ちであるこのわたしが仕事をくれてやります」

「ちゃんと『お願い』って言いなさいよ。ただでさえ島で一番働いてたの蛮なんだし。あたしたちと一緒じゃない時って完全に休めるチャンスなんだろうからさ」


「いいえ。これはマネージメントであり構成員の体調管理の一環です」

「はぁ?」


「することがなくなった男子高校生がナニをするかなんて考えるまでもありません。いざ決戦となった時に蛮くんが賢者タイムになっていたら困ります」

「あーあー、わかんなーい」



 みらいさんは幼馴染のお兄さんである蛭子くんに事あるごとにセクハラをする癖がある。


 希咲は耳を塞いでスッとぼけた。



「決戦までに抑えておくポイントは2つ。1つは、せんぱいの仲間の存在。もう1つは、病院の魔術的な仕掛けの有無」

「病院の方は蛮、仲間の方はあたしが担当ね」


「ですです。最低でもここを把握しておかないと仕掛けられません。いざ病院に突入したら“せんぱい”より強いお仲間さんが何人もいたなんてことになったら、目も当てられませんし」

「やる時って実際どうなるの?」


「あくまで今の予定では――」



 望莱は作戦決行時に概要を話す。



「さっきも言った通り、霊害に対応している最中の“せんぱい”を狙って周辺に結界を展開。外部と隔離します。通信が途切れることになるので、もしも仲間がいた場合せんぱいと連絡がとれなくなったことに遅からず気が付くでしょう。しかし、それだけですぐに病院を爆破したりはしないでしょう」


「向こうが事態を把握する前に勝負をキメるわけね」


「です。戦闘開始してわたしたちで“せんぱい”を押さえている間に、七海ちゃんが“ちょっぱや”で水無瀬先輩を攫ってバックレます」


「なんか……、うん。言い方が……」



 自分が悪いことをするようで希咲はどこか納得がいかなかった。



「水無瀬先輩と一緒に病院の敷地から出てしまえば、最早あそこを爆破する意味もなくなります。目標の確保を確認後、せんぱいを無力化。念のため病院にはウチの爆弾処理班を突入させます」


「あんたんとこのスタッフさんって何でも出来るわけ?」


「悪いことは大体できます」


「悪の組織じゃん」


「いいえ。何故ならわたしは光属性の美少女。ともかく、せんぱいのお仲間さんが居た場合はまた対応が変わるので、その辺の調整は情報収集後ですね。ただ、どのみち――」


「――スピード勝負ってわけね」



 理解の光と意思の力。


 それらが希咲の瞳にこもると、望莱も強く頷く。



「だから突入には七海ちゃんが適任です。水無瀬先輩をこちらが押さえた状況でなら、弥堂せんぱいから事情の説明を聞くことも出来ると思います。それに水無瀬先輩自身からも個別にお話を聞けますし」


「うん。そうね。愛苗本人から何があったのかを教えてもらえさえすれば……」


「せんぱいの処遇を決めるのは、そこで聞ける話次第ではあります。ですが、別に美景やわたしたちに害のあることをしているわけではないのなら。事情を聞いて、内容によってはこちらも協力出来るかもしれませんし」


「そうなってくれるのが一番丸いわよね……」


「まぁ、こちらの協力を受け入れさせる状況にするという意味もこの作戦にはあります」


「なんかもっとスッキリいければいいのになあ……。あいつは勿論だけど、あたしたちもなんかどっちもどっちよねぇ……」



 ここまでしないと話し合いの場すら作れないことに、希咲は苦笑いをしてしまう。


 望莱は何も言わなかったが、しかし同じような顔をした。



「というか、七海ちゃんだけだったら、もしかしたらそれが可能だったかもしれないです。わたしたちの業界が絡んだことで余計にややこしくなり、きっと“せんぱい”もより頑なにならざるをえなかったのでしょう」


「……でも、全員がモロにその業界の人になっちゃってるわけじゃん? あたしや弥堂だけじゃなくって、たぶん愛苗も……」


「これはわたしたちも課題に向きあう時がきたということでしょう。実生活と裏稼業、これらの中でどう過ごしていくのか。普通で当たり前のことです」


「それがたまたま愛苗と弥堂がきっかけになったってことね」


「見ず知らずの赤の他人と揉めて拗れてそれをなんとかする――ってよりはやる気出ますよね」


「そう考えた方がポジティブね。採用」



 どんな形にせよ、いつかは向き合うべき問題だった。



 普通の高校生としてだけでは過ごせない。


 異能力持ちとして隠れ続けられもしない。


 いつかは二つ世界が混じり合い同居している場所に立つ。



 それがきっと今なのだ。


 だから起こるべくして起こった仕方のないことでもある。


 それを口に出して確かめ合って、二人はやっぱり苦笑いをしあった。



「決行はおそらく今週中のどこかになるでしょう」

「うん」


「そろそろ美景の霊害調査の情報がまとまってくる頃です。ミッドウィークくらいには佐藤さんが“せんぱい”に依頼を出すでしょう。もっと早まる可能性もあります」

「こっちとしてもあんま時間ないってことね」


「です。まず最初のタイムリミットは?」

「あいつに依頼が行く前に、あたしと蛮が仕事を終わらせる」


「その通りです。決行時は兄さんと真刀錵ちゃんがメインに。同行はしますが、わたしはリィゼちゃんをあやしてます」

「あぁ、うん……」



 あの子調子にのって弥堂に人質にされたりしないかなと、希咲は第一王女さまが心配になった。



「というわけでスケジュールはタイトになりますが、さっきも言ったとおり今はチャンスです。勝利の2つ手前、チェックメイトの1つ手前、それが今です」


「さっきはリーチって言ってなかった?」


「はい。わたしはお嬢さまなので、麻雀よりチェスの方がセレブっぽいかなって」


「あそ」



 希咲が興味なさそうに流すとみらいさんはキリっとしたお顔でゴリ押しする。



「これより本作戦は『OP:J・S・K』と呼称します!」

「なにそれ?」


「『オペレーション:JK・攫って・脅迫』です」

「犯罪者の人じゃんか」


「作戦は全部で三段階。第一段階は、仲間と結界の調査。第二段階は、襲撃ならびにターゲットの確保。第三段階は、その後の交渉。これら全てのクリアを以て、本作戦の成功とします」

「おけ。じゃあ、あたしはまずスキルで仲間が今も近くにいるのかを調べればいいのね」



 望莱によってタスクが整理され、希咲もやるべきことがクリアになる。



「最有力は魔法少女と赤髪お姉さんですかね」


「う~ん……」



 希咲は返答を躊躇う。



 魔法少女については異論はない。


 だがもう一人の緋色の髪の女性については疑問があった。



(ていうか……)



 目覚めてからこっち、愛苗の居場所を見つけたことにばかり気が向いていた。


 ここでようやく、同じ夢の中で見た他のシーンについても考えが巡る。



 それは今話にあがった緋色の髪の女性と、弥堂との関りだ。


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― 新着の感想 ―
七海がついに弥堂の心境を慮るようになりましたね……。ただ、弥堂の過去が不明確な現状では、彼に触れるのはまだ難しそうです。それでも、スキルで過去を暴いてしまう前に、彼自身の口から語らせようという決意を固…
弥堂はチェス中に殴りかかかるやつだからなあ。それに今何やってるか全く分からんのがやばい。
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