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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
3章 俺は普通の高校生なので、帰還勇者なんて知らない
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3章10 1-away ➁


 水無瀬 愛苗の現在の居場所。



 予測、予想、見当ではなく――


――断定と断言。



 そんな希咲の言葉に望莱は「ふむ」と慎重に頷いた。



「それはまた、一気に進みましたね。というか、ゴールでしょうか」

「そうね。でもここはゴールじゃない。愛苗がいるってだけ」


「…………七海ちゃん。ではゴールになるのはどこですか?」

「え? ゴール? どこって……」


「いえ、今ゴールが違うっておっしゃったので……」

「あたし? そんなこと言ってた? ゴメン、興奮して言葉間違ったかも」


「……なるほど。大丈夫ですよ」



 望莱は微笑んで流す。



「では、水無瀬先輩が今どこにいるのかがわかったとのことですが。すみません。その前に少し確認をさせてください」

「え、うん。いーけど」


「七海ちゃんの今の体調について。今回は真面目に訊きたいです」

「さっきのは真面目じゃなかったってこと?」


「もう、揚げ足をとるのはやめてください。ぷんぷんです」

「こんにゃろ……」



 わざとらしく“ぷんぷん”としてみせる望莱に希咲はジト目を向けた。


 望莱はすぐに表情を改める。



「先程、倒れた時。その時のことを覚えていますか?」

「あー、そっか。あたし倒れたんだっけ……」


「直前のこととか、記憶に残っていますか?」

「直前……」



 希咲は考えこもうとする。


 望莱はすぐに口を挟んだ。



「思い出さなくていいです。もしかしたら、それをすることによってまた体調を急変させるかもしれません」


「え? なにそれ……。あたしどうなってたの?」


「それを確かめます。これからわたしが言うことを、『憶えている』か『憶えていないか』で答えてください。憶えているなら憶えている。憶えていないなら憶えていない。これの即答だけで結構です。憶えていないことの内容を思い出そうとしないでください」


「う、うん。わかった……」



 希咲は不安を覚える。


 そもそも体調不良だったわけでもないのに急に倒れるというだけでも非常事態だ。


 さらにそのことが何も記憶にない。



 夢で見た愛苗の情報の方に気が向いていて実感がなかったが、望莱のこの言い様からようやく事の深刻さを受け止め始めた。



「まず、『魔法少女のお話』――」

「――憶えてる」


「『弥堂せんぱいのご両親のお話』――」

「――それも憶えてる」


「『傭兵さんたちとの飲み会』――」

「――だいじょぶ」


「『駄々っ子女児ちゃん』――」

「――ん、憶えてる」


「では――」



 望莱は無意識に間を空けてしまいそうになるのを押さえて、テンポが変わらぬように次の質問を繋いだ。



「『せんぱいのホテルでの戦闘』――」


「――ん……」



 希咲の返答はテンポから外れる。


 肯定とも否定ともとれない返事。


 望莱の瞼がピクリと反応した。



 希咲は少しだけ考えて質問を返す。



「ゴメン。それって爆破とか色んな人相手に暴れてたとかってのじゃなくって、昨日の夢で見たことって意味よね?」


「はい。そうです。パっと出ないなら無理に思い――」


「――あー、うん。それなら憶えてる」


「え……?」



 予想外の答えだと、望莱の目が驚きに見開かれる。



「どっかのお部屋に獣人の傭兵が飛び込んできて、それを罠とか使って撃退したヤツよね?」


「…………」


「みらい……? あれ? ちがった?」


「あ、いえ。大丈夫です。それで合っています」


「そ。よかった。ちょっとビビった。あはは」



 望莱は慌てて取り繕う。


 だが、希咲のあっけらかんとした様子に、倒れる直前の時とはまた違った意味でゾッとした。


 口を開くのを少し躊躇いながら、続きを訊ねる。



「では、そのシーンで。何か気になるものとかありませんでしたか?」


「へ? あー……、アレか。なんかよくわかんないキモいの」


「……キモいの?」



 探るような目で望莱は肝心な部分を促す。



「えっと、アレって目潰しだったんだと思うけど……。順番でいくと、敵が入ってくる。弥堂がスイッチ押す。超音波発生装置? 獣人さんビックリ。そしたらカメラのフラッシュの超強烈版みたいなのが一斉にめっちゃ光る、って感じ?」


「なるほど……。それで?」


「んで、あのバカってば、自分でやったくせに自分も目が眩んでるのよ。視界真っ白で何にも見えなくって。だけど、全部消えちゃったはずなのに、なんかキモいのだけが『世界』に残ってんの」


「それってなんだかわかりますか?」


「え? なんだろ? もしかしたらアレがあいつが視てるっていう魂的なヤツ? それじゃない? 知らんけど」


「…………」


「だから、あれは多分獣人さんの魂っぽいヤツだったんだと思うの。フツーの視界はダメでも、それだけはずっと視えたまんまで。だからそれを目印にして。蹴っ飛ばしてホテルから落とした。そういうことだと思う」


「それ、だけですか……?」


「え? んー、その後なんか銃とか撃ってたっぽいけど、そのシーンはそこで終わっちゃった」


「そう、ですか……」


「ん? つーか、あの傭兵にあたしが襲われたのって多分この後よね。あいつが適当に落っことしたせいじゃん。なんかあたしが後始末押し付けられたみたいじゃない? 戦えない人だっていたってのに。マジムカつくんだけど……」



 ブツブツと希咲がまだ何か言っているが、望莱はそれに相槌を打つことも出来ない。



(なんですか、これ……)



 希咲の様子に大きな違和感を持っていた。



 今話した内容は彼女が倒れた時にしていた話だ。


 この話を思い出そうとして希咲は急に苦しみ出し、様子がおかしくなった。


 なのに、今はとても軽い調子で話しきった。


 この軽さに望莱は違和感を覚える。



 軽いと言っても、事態を甘く見ているだとか、適当な受け答えをしているという意味ではない。


 希咲はただ、『当たり前のこと』を当たり前に話しているだけ。


 そんな調子だ。



 この『当たり前』に、望莱は大きなズレを感じる。


 自分と彼女とで、『当たり前』に大きなズレがある。


 前からあったズレではない。


 彼女が倒れて、起きたら、そこから存在していた。


 まるで当たり前のように。



 先程の『ゴール』という言葉もそうだ。


 あれは希咲がおかしくなった時に何度か口走っていた言葉。


 それをここでやはり『当たり前』のように口にして。


 だけど本人にその自覚がない。



(あれで全部終わったとは考えない方がいいですね……)



 見る限り体調には問題はないように思える。


 しかし、あの様子がおかしかった時の“ナニか”は、今も彼女の中に残っている。


 もしくは、彼女の中の一部を“ナニか”違うものに変えてしまった。


 そんな感覚がする。



(まぁ、どうなろうと七海ちゃんは七海ちゃんなのでそれは別にいいんですが。それよりも――)



 実際それがなんなのかを、この場でもっと確かめるべきかどうか。



(やめとくのが無難ですかね)



 何がトリガーになってまたあの状態になってしまうかわからない。


 少なくとも“アレ”がどういう現象なのかを調べるまでは、迂闊なことはしない方がいいだろう。


 次もまた戻れるとは限らないのだ。



 もう少し話してみて、希咲が日常生活を送るのに問題がないようだと判断出来るなら、しばらくはこのまま様子を見ることに決める。



「ちなみに、その後はなんの話をしたのか憶えていますか?」


「え? あーっと……、あれ……?」



 今度は予想どおり、希咲はここで首を傾げてしまう。



「どうやらそこからは記憶にないようですね」

「……あ、もしかしてあたしってそこで?」


「はい。この後倒れてしまいました」

「へ、ウソ……。でも、マジでこの後の記憶ってベッドで起きた時っていうか、夢の中っていうか……。うわ、なにこれ。やば」



 希咲もそこで記憶がないということに気味の悪さを覚えたのか、体験したことのない感覚に顔色を悪くする。



「ねぇ、結局あたしってなんで倒れたの? 喋ってたらいきなりバタンってこと?」


「んー?」



 自分に覚えがない以上はそれを見ていた者に訊くしかない。


 望莱は軽い調子で答えた。



「たぶん貧血とかですかね? 顔色真っ青になって汗もすごくって。苦しそうでした」

「うわー。それすら覚えてないわ。こんなことあんのね」


「譫言みたいに何か言っていたんですけど、わたし上手く聴き取れなくって。自分で何を言っていたか憶えてますか?」

「や。ゴメン。さっぱりだわ」


「なるほど。一応わたしの診察では問題はないです。多分もう大丈夫だと思うんですが、もしもまた不調を感じることがあったらすぐに言ってください。ウチの医療チームに準備はさせているので」

「う、うん……」



 希咲はコクコクと頷く。


 望莱は安心させるようにニッコリと微笑みながら考える。



(なんですこれ? まるで一瞬だけ何かの能力が目覚めたような……)



 それも確認しておくべきかと決める。



「七海ちゃん。つかぬことをお聞きしますが」

「ん? なに?」


「なにか新しいスキルが生えてたりとかします?」

「へ? スキル? なんで?」


「ちょっと確かめてみてもらえますか?」

「別にいーけど。ん……」



 別の話に変わったのかしらと内心首を傾げつつ、希咲は望莱の要望に従う。


 虚空へと手を伸ばし指で何かに触れた。



 何もない空間で彼女の視線が上から下へ滑り、たまに左右へ動く。


 望莱はその行動を当たり前のように受け止め、しばし待つ。


 やがて――



「……なんもないみたい?」

「……そうですか」


「つか、なんで?」

「いえ、七海ちゃんがあんな風に倒れることなんて今までなかったもので。もしかしてなにかスキルが悪さしてたりとか――そういう可能性を考えてみたんです」


「あー、なるほど? てか、あたしもビックリよ。あんたとフツーに話してたとこから急に飛んでんだもん。でもステはだいじょぶみたいよ」

「それならよかったです」



 望莱はそれ以上は追及しないようにして終わらせた。



(まさか“ギフト”……? でもその場合、自分のステータスになにも表示されないものなんでしょうか……?)



 考えてみるがわからない。


 なにせ事例のないことだ。


 恐らく歴史上で。



(理想をいうなら――今回は何かの間違いとかバグで、これっきりってなることなんですけど……)



 それも今すぐにわかることではない。



「七海ちゃん、今の体調はどうです? 少し気持ち悪いとか、ちょっとクラクラするとか。なにかありますか?」


「や。なんともないわよ? むしろ倒れる前よりちょっと調子いい? 昼寝したからとか? つか、別に元々睡眠不足とかじゃないってゆーか、逆に寝すぎってゆーか?」


「ふむ。なら、一旦オッケーとしましょうか。少し様子を見ていきましょう」


「ん。色々ありがと。心配もかけてゴメン」


「いえいえ」



 お互いにそこで切り替えることにした。


 いよいよ本題に入っていく。



「では、聞かせてください。水無瀬先輩の現在の居場所ですね?」


「ん」


「それはどこですか?」



 希咲は一度息を吐いて、目に力をこめる。



「病院。病室のベッドに愛苗が座ってて、ナースさんと話してた。それを弥堂が見てる。あ、あと、メロもいた」



 望莱は早速眉を顰める。



「病室にネコ、ですか?」


「あ。そういえばそれってヘンよね。非常識の権化も同じ場所にいたから、そこんとこ気付かなかったわ」


「うふふ。おそらく、そんな非常識を通せる環境をそこに作り上げているんでしょうね。それなりの期間使う拠点として」


「あー、ね。ナースさんと愛苗のお喋りの感じがそんな感じだった。あの子初対面の人とか相手だと緊張ってわけじゃないんだけど、ちゃんとしようとしてハリキリすぎちゃうのよ。そういうんじゃなくって“ぽやぽや”してたから、ある程度仲良くなってるし、慣れてる感じ?」


「なるほど。では、ある程度の期間その病室に居ると見ていいでしょう」



 望莱はこれから訊くべきことを一瞬で整理して、希咲へ問いかける。



「七海ちゃんに2つ質問があります」

「ん」


「まず、どうして今もそこに居ると思いましたか? 次に、それがどこの病院かわかりますか?」

「おけ」



 希咲は小気味よく返事をして、自分のスマホを取り出す。



「1個めは、コレよ――」


「これって……」



 希咲が向けた画面に映っていたのは望莱にも見覚えのある動画ページ。


 その動画のタイトルは――



「『✗'s MARIA(イズマリア)』――Laylaの新曲」


「これが?」



 希咲は一つ頷く。



「愛苗が同じ曲を流してたの」


「なるほど。でもこれだけじゃ今もそこに居るとは……、あ、もしかして――」


「――ん」



 希咲は動画の概要欄を開き、そこに書かれた日付を指差す。



「これがアップされたのが5月5日ってわけ」



 希咲は自信のこもった瞳でニヤリと笑う。


 彼女の言いたいことを望莱はすぐに理解した。



「今日が10日。大分近いですね……」


「んで、愛苗が言ってたの。『こないだアップしたばかり』って」


「ははーん。これがアップ当日なら『今日』、翌日なら『昨日』と言いますね。『こないだ』ということは、少なくとも5月7日以降の出来事となります」


「だからこれはここ数日内の記憶。入院してベッドに入ってたから……」


「今もまだそこに居る可能性は極めて高い」


「うん。あたしもそう思った」


「なるほど。よくわかりました。わたしもそう思います」



 望莱は納得し同意する。


 それから――



「――いや、これはちょっとすごいですよ。大当たりです」


「でしょ? これ引けたのはラッキーよね」



 望莱の明るい声に希咲も少しはしゃぐように喜びを表す。


 だが、望莱はパタパタと手を横に振った。



「やだもぅ。ちがいますよ」

「へ?」


「運がいいとかって意味で言ったんじゃなくって。七海ちゃんスゲェって言ったんです。“さすなな”ですよ」

「んん? なんで?」


「だって言ってたじゃないですか。ここに水無瀬先輩がいるかもしれないって」

「……あ」



 望莱は希咲の持つスマホの画面を指差して微笑む。



「すごい勘ですよ。冴えまくりです」

「や、でもこれは勘っていうか……」


「メンヘラ的閃きです」

「メンヘラじゃないし。つか、でもここからこんな風に愛苗に繋がるとは思ってなかったし」


「そこはほら。昨日言った“キーワード”ですよ」

「キーワード?」


「見たいものを意識してみてってやつです。この歌手さんか曲がキーワードになって、この記憶を“せんぱい”から引っ張り出したんですよ」

「でもさ、愛苗もこの曲聴いてたのはやっぱたまたまだし。それをあいつに聴かせてたのも。そもそもあたしこの曲を意識して寝たわけじゃないし……」



 望莱の褒めちぎりに少し照れながら希咲は答える。


 それでも望莱は首を横に振った。



「実はですね。七海ちゃんをベッドに寝かせてから、枕元にスマホを置いたんです。この曲をかけて」

「え……」


「だからきっと、それで繋がったんでしょうね」

「あはは。そう考えるとちょっとステキね」


「なので、これは“さすなな”ポイント高いですよ。“さすななハイパーマックス”です」

「なんかちょっとバカっぽくない?」


「あ、でもでも。曲をかけたのはわたしのお手柄なので、これは“さすコラボ”ですね。“さすななハイパーマックス feat.Future”です」

「わけわかんなくなってんじゃん。つか、『望莱』の『みらい』は『未来』じゃないでしょ」


「えー?」



 コロコロと嬉しそうに笑う望莱に、希咲もクスクスと笑う。



「あ、でも。やっぱたまたまラッキーもあるわよ?」

「はい?」


「あたし倒れて寝ちゃったわけだから、あいつに睡眠誘導かけてない。憶えてないけど、してないと思う。今のスキル段階だとやってもあんま効果ないっぽいし」

「ふむ、せんぱいもたまたまあの時間にお昼寝してたってことですか?」


「え、なんかヤなんだけどそれ。寝る時間合わせてくるとかキモくない? つーか、なに優雅にお昼寝なんかしてやがんだあんのやろ……。くそぅ、ヨユーこきやがって……」

「うふふ」



 プリプリと怒りだす幼馴染のお姉さんに望莱さんは癒された。


 希咲の元気な様子に、ようやく望莱の方も心が安心してくる。



「よくわかりました。ここは謙虚に判定しなきゃいけませんね」

「なんのよ?」


「せんぱいの『ラッキーお昼寝』の分を差し引いて、“さすななハイパーマックス feat.Future”から、“さすfeat.Future”とします」

「それって、なんかあんただけエライってことになってない?」


「じゃあ、“なな”で」

「それただのあたしじゃん」


「えー?」



 惚けたことを言う望莱に希咲はジト目を向ける。


 その視線を受けて上機嫌に笑ってから望莱は表情を改めた。



「では、2つめの質問にいきましょうか」


「ん。どこの病院かってことよね」


「わかりますか?」


「わかるわ」



 場所まで特定したと希咲は断言する。



「美景台総合病院よ――」



 その名前を聞いて望莱は僅かに眉を動かす。



「ふむ……」



 どうするべきかと、数秒ほど思考をした。


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― 新着の感想 ―
日本でのSNS上のマナーを存じ上げず、無意識のうちに失礼な振る舞いをしてしまったかもしれません。ご指摘をいただき、ようやく自分の至らなさに気づきました。本当に失礼いたしました。 Laylaの曲が記憶…
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